投稿者: meLAB CMS

  • 「50%減る」という数字を、どう受け取るか

    「50%減る」という数字を、どう受け取るか

    「リスクが50%減る」と書かれていても、何が半分になったのかは書かれていません。100人に2人が1人になったのかもしれない。同じ結果の、別の読み方を整理します。

    この一文は、大きな効果があるように読めます。半分になると書いてあるのですから当然です。ただ、何が半分になったのかは書かれていません。100人に2人が1人になったのか、1万人に2人が1人になったのか。どちらも「50%減」です。

    同じ研究結果を別の言い方にしただけで、人の判断は変わります。それは検証されていて、実際に社会を動かしてしまった例も残っています。

    同じ結果を、三通りに書く

    ひとつの結果は、少なくとも三通りの言い方で書けます。

    1,000人のうち4人が3人に減る様子を点で示し、その1人分の差が25%減・0.1ポイント減・1,000人に1人の三通りに書けることを示す図
    ある対策で、病気で亡くなる人が1,000人あたり4人から3人に減ったとします。「25%減」は元の4人を基準にした言い方で、3つとも同じ結果を指しています。

    「25%減」「0.1ポイント減」「1,000人に1人」。どれも同じ1人分の変化を指しています。広告や見出しで選ばれやすいのは最初の言い方です。いちばん大きく見えるからです。

    この例は架空のものではありません。ギゲレンツァーらは、乳がん検診について「マンモグラフィ検診は乳がんで死亡するリスクを25%下げる」という表現が、実際には「1,000人のうち1人が乳がんで死亡せずにすむ」ことを意味すると指摘しています1。

    表現の違いは、受け手の判断を変える

    「見え方が違うだけで、分かる人には同じでしょう」。これも検証されています。

    世界中の研究を集めて評価している国際組織コクランのレビューが、この点を調べています。同じ結果を違う書き方で見せた研究35件、83の比較を集めた分析です。理解度は、相対的な書き方でも絶対的な書き方でも変わりませんでした。変わったのは受け取り方で、相対的な書き方のほうが効果が大きいと感じられ、説得的だと評価されました2。

    理解しているかどうかとは別に、印象と説得力が動きます。表現の選択は中立ではありません。

    1995年、イギリスで起きたこと

    この構造が現実に何を引き起こしうるかを示した出来事があります。

    1995年10月、英国の医薬品安全性委員会が、ある種の経口避妊薬について警告を出しました。対象は「第三世代」と呼ばれる、当時より新しく開発された種類のものです。脚や肺に血の塊ができるリスクが2倍、すなわち100%高まるという内容でした。この情報は19万人の一般医、薬剤師、公衆衛生担当者へ文書で伝えられ、報道機関にも緊急発表されています1。

    では、その100%とは何だったのか。警告の根拠となった研究が示していたのは、従来の第二世代の薬を服用した女性7,000人のうちおよそ1人に血栓が生じ、第三世代ではそれが2人になった、ということでした。絶対的な増加は7,000人に1人。相対的な増加は、確かに100%です1。

    報道を受けて多くの女性が服用を中止しました。ギゲレンツァーらによれば、その翌年、イングランドとウェールズで中絶がおよそ13,000件増えたと推計されています。増えた中絶1件につき出生も1件増え、16歳未満の妊娠は約800件増加。中絶にかかる国民保健サービスの費用増は約4,600万ポンドと見積もられました1。

    そして最も皮肉な点ですが、妊娠と中絶自体が血栓のリスクを高め、そのリスクは第三世代の薬によるものを上回ります1。血栓を避けるための警告が、より大きな血栓リスクを生む行動を引き起こした可能性があります。

    この出来事は、統計の表現が正確でありながら不透明でありうることを示しています。「2倍」は嘘ではありません。それでも、7,000人に1人が2人になる、と伝えられていれば、多くの女性は服用をやめなかったでしょう。

    「元がどれくらいか」で意味が変わる

    相対的な数字が誤解を生みやすいのは、元の頻度(ベースライン)が示されないときです。

    もともと10人に1人が経験することが20人に1人になれば、50%減という表現は実感に近いものになります。10人のうち1人分の変化が実際に起きているからです。では10万人に2人が10万人に1人になった場合はどうか。これもやはり50%減ですが、10万人が対策をとって1人分が減る計算になります。

    どちらが意味のある変化かは、状況によって違います。まれだが重い病気であれば、10万人に1人の差にも価値があります。判断するために必要なのは、相対的な割合と元の頻度の両方であって、片方だけでは決められません。

    実際に、商品に書かれた「体にいい」の根拠を辿るときも、最初に探すのはこの元の頻度になります。

    健診の場面でも同じです。LDLコレステロールの管理目標値が一律でない理由は、まさにここにあります。

    ここから、数字を見たときの実務的な手順が出てきます。「何%」という表現に出会ったら、元の頻度を探す。書かれていなければ、その数字だけでは効果の大きさは判断できない、と保留してかまいません。

    NNTという伝え方

    絶対リスク減少の逆数が治療必要数(NNT)です。先の例なら、1,000人あたり1人の減少ですからNNTは1,000。「1,000人が受けて、そのうち1人が結果を変えられる」という言い方になります。

    この表現は、恩恵を受けるのが全員ではないことをはっきりさせます。裏を返せば、999人にとっては結果が変わらないことも同時に伝えています。効果を小さく見せる表現だと受け取られることもありますが、実際に起きることを最もそのまま述べているのはこの形です。

    先のコクラン・レビューは、NNTが理解のしやすさでは相対リスク減少に劣るという結果も報告しています2。正確さと分かりやすさは自動的には両立しません。だからこそ、複数の表現を並べて見ることに意味があります。

    絶対リスクだけ書けばよい、とも言えない

    どの形式で伝えるべきかについて、決着した答えはありません。絶対リスクを併記すべきだという主張は広く支持されていますが、では常に絶対リスクだけを示せばよいかというと、そう単純ではありません。まれな出来事では絶対的な差が非常に小さくなり、意味のある効果まで軽視される可能性があります。

    また、平均的な絶対リスク減少は、リスクの高い人と低い人で大きく異なります。もともとリスクが高い人にとっては同じ相対的な減少がより大きな絶対的利益になり、リスクが低い人にとってはわずかになります。集団の平均値を個人に当てはめる際の限界は、ここにも現れます。

    研究デザインの読み方はエビデンスという言葉を整理した記事にまとめました。そして、どこまでのリスクを受け入れるかは統計では決まりません。1,000人に1人の違いを重く見るかどうかは、その人が何を大切にしているかによります。ここは誰かに決めてもらえる部分ではありません。

    数字の前で、立ち止まれる場所

    同じことが、「体に入ってくるもの」の数字にも当てはまります。

    「農薬が検出された」「カドミウムが検出された」は、それだけでは大きさが分かりません。分母が要ります。公的な調査は、そこを比で出しています。

    分母を置いたときの、実際の位置
    物質 上限に対する割合
    残留農薬(48農薬等) 一日摂取許容量の0.000〜2.954%
    食品添加物 最も高いもので17.2%
    カドミウム 耐容週間摂取量の平均35%、95パーセンタイルで67%
    アルミニウム(小児1-6歳) 暫定耐容週間摂取量の平均43%、95パーセンタイル以上で100%超

    並べると、「検出された」という同じ言葉の下に、桁の違う距離があることが見えます。上限まで0.02%の物質と、67%の物質を、同じ強さで心配する理由はありません。

    同じ食品について、国によって結論が分かれた例もあります。2004年、英国はヒジキを食べないよう勧告し、日本は摂取量から計算して「極端に多く摂らなければリスクは高まらない」としました。分けたのは、量を計算に入れたかどうかでした。

    そして分母そのものが存在しない物質もあります。そこでは比が作れないので、遠いとも近いとも言えません。

    効果を示す数字に出会ったとき、その場で確かめられることがいくつかあります。

    まず、その数字が出た研究が「関連を見たのか、原因を確かめたのか」。ここでも意味は変わります。この違いは別の記事で扱いました。

    厚生労働省eJIMは「情報を見極めるための10か条」で「数字のトリックに注意しよう」「出来事の『分母』を意識しよう」を挙げています3。分母を意識するとは、「何人中何人か」を探すことです。効果を示す数字に出会ったとき、確かめられることは多くありません。それでも次の三つは、たいていの記事から探せます。

    その数字は割合か、実数か。元の頻度はどれくらいか。そして、何人が受けたとき何人分の違いが生まれるのか。この三つが埋まると、同じ「50%」がまったく違う大きさに見えてきます。埋まらないときは、判断を保留してかまいません。情報が足りないのは読み手の理解力の問題ではなく、伝え方の問題です。

    1995年の警告は、正しい数字によって引き起こされました。正確であることと、伝わることは別のものでした。

    確かめ方は1つです。「◯%減る」という数字を見たら、元が何人中何人だったかを探します。

    書かれていれば、実際に減る人数が出ます。1,000人に4人が3人なら、減るのは1人です。書かれていなければ、その時点で判断材料が足りていません。書かれていないことに気づけるかどうかが、この記事で持ち帰れるところです。

    参考文献・参考資料

    1. Gigerenzer G, Gaissmaier W, Kurz-Milcke E, Schwartz LM, Woloshin S. Helping Doctors and Patients Make Sense of Health Statistics. Psychological Science in the Public Interest. 2007;8(2):53-96. doi:10.1111/j.1539-6053.2008.00033.x https://journals.sagepub.com/doi/10.1111/j.1539-6053.2008.00033.x
    2. Akl EA, Oxman AD, Herrin J, et al. Using alternative statistical formats for presenting risks and risk reductions. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2011;(3):CD006776. doi:10.1002/14651858.CD006776.pub2 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21412897/
    3. 厚生労働省『「統合医療」に係る情報発信等推進事業』(eJIM)「情報を見極めるための10か条」https://www.ejim.mhlw.go.jp/public/hint/index.html

    本記事は統計表現の読み方を整理したものであり、特定の医薬品・検診・治療の推奨や中止を促すものではありません。個別の診断・治療に代わるものでもありません。服薬や検診について、この記事を理由に自己判断で変更しないでください。

  • 「〇〇にいい」という研究を、どこまで信じるか

    「〇〇にいい」という研究を、どこまで信じるか

    観察で良さそうに見えたものが、試験で逆になった例が残っています。「よく歩く人は認知症になりにくい」は、歩けば予防できるという意味ではありません。

    健康に関する報道では、この種の一文をよく見かけます。読んだ側は自然に「では歩けば予防できるのか」と受け取ります。けれど元になった研究が示しているのは、多くの場合「そういう傾向が観察された」というところまでで、「歩いたから減った」までは示していません。

    「関連がある」と聞けば「なら効果があるのだろう」と読みます。研究者も同じように考えて、確かめにいきました。その結果、期待とは逆のことが起きた例がいくつも残っています。

    関連が観察される、四つの道筋

    AとBが一緒に動いているように見えるとき、その裏にありうる事情は一つではありません。

    二番目と三番目は、思っているより見分けがつきません。運動量の少ない人に認知症が多いという観察は、認知症の初期変化が活動量を下げている可能性と区別しにくいものです。よく歩く人は喫煙率が低く、収入や教育年数も違い、健診も受けています。効いているのは歩くことではなく、歩ける生活を成り立たせている条件のほうかもしれません。

    観察研究では、この三番目——AとBの両方に影響する別の要因があるという場合(交絡と呼びます)——を統計的に調整しようとします。腸内細菌と健康の関係のように、この問題が特に集中する領域もあります。ただし調整できるのは測定した項目だけで、測っていない要因、そもそも測りようのない要因は残ります。ここが観察研究の構造的な限界です。

    観察で見えていたものが、試験で消えた例

    期待された方向とは逆の結果が出た例が、実際にいくつもあります。どちらも、観察の段階では関連がはっきり見えていたものです。

    β-カロテンと肺がん

    カロテノイドを多く含む野菜や果物をとる人、血中のβ-カロテン濃度が高い人は肺がんが少ない。この観察が積み重なり、では補って摂ればどうかという試験が組まれました。

    男性喫煙者29,133人を無作為に分けて、β-カロテンを5〜8年にわたって投与した試験です。結果は、受けた群のほうが肺がんの罹患が18%高いというものでした2。

    米国の別の試験(対象18,314人)も同じ方向でした。肺がんも全死因死亡も増えたため、予定より21か月早く中止されています3。

    いずれも喫煙歴のある集団を対象にした試験であり、この結果を喫煙しない人にそのまま当てはめることはできません。それでも、「血中濃度が高い人は病気が少ない」から「その成分を補えば病気が減る」への飛躍が成り立たない場合があると示した影響は、大きなものでした。

    ホルモン補充療法と心疾患

    閉経後のホルモン補充療法についても、観察研究では心疾患が少ないという報告が重ねられていました。試験で確かめると、逆でした。

    健康な閉経後女性を対象に、エストロゲンとプロゲスチンの併用とプラセボを比較した結果、平均5.2年の追跡で冠動脈疾患のハザード比は1.29(95%信頼区間 1.02〜1.63、286例)、脳卒中は1.41(同 1.07〜1.85、212例)、浸潤性乳がんは1.26(同 1.00〜1.59、290例)でした。試験は乳がんの発生が中止基準を超えたため途中で打ち切られています4。

    注目したいのは、この論文が相対的な指標だけでなく絶対的な差も併記していることです。この二つがどう違うのかは別の記事で詳しく扱っています。1万人年あたりの超過リスクは冠動脈疾患が7件、脳卒中が8件、肺塞栓が8件、浸潤性乳がんが8件。大腸がんは6件、大腿骨近位部骨折は5件少なくなっていました4。「1.29倍」という数字と「1万人年あたり7件」という数字は同じ事実の別の表現ですが、受ける印象はかなり違います。

    「善玉コレステロール」で起きたこと

    HDLコレステロールは「善玉」と呼ばれ、高いほうが心筋梗塞が少ないことが繰り返し観察されてきました。関連はかなり強いものでした。

    ところが、HDLが生まれつき高くなる体質の人を調べると、心筋梗塞が少なくなっていませんでした5。

    使われたのは、メンデルランダム化という方法です。ある物質の血中濃度を高くする遺伝的な体質は、受精の時点でほぼランダムに割り振られます。生活習慣や収入では決まりません。だとすれば、その体質を持つ人と持たない人を比べることは、自然が行った無作為割り付けを使った比較に近づきます。

    観察でHDLと心筋梗塞のあいだに見えていた関連が本当に因果なら、その体質を持つ人ではリスクが13%下がっているはずでした。実際には、差が見当たりませんでした5。HDLだけに関わる14の遺伝子多型を組み合わせたスコアでも、同じでした5。

    この結果が効いてくるのは、同じ手法がLDLコレステロールでは因果を検出しているからです5。この方法自体は因果を捉えられます。LDLでは捉え、HDLでは捉えなかった。だからこそ「HDLが高いことは、心筋梗塞が少ないことの原因ではないかもしれない」という読み方が出てきます。

    ここから持ち帰れるのは、関連が強いことは、原因である証拠にならないということです。強さではなく、どう確かめたのかを問う必要があります。

    論文の結論も慎重で、「血漿HDLコレステロールを上げる遺伝的機構のいくつかは、心筋梗塞リスクを下げないようにみえる」と書かれています5。すべてのHDLの働きを否定したわけではない、という含みが残されています。

    では、観察研究は当てにならないのか

    それでも、観察研究でなければ分からないことがあります。喫煙と肺がんの関係は、人を無作為に喫煙群と非喫煙群に割り付ける試験なしに確立しました。そんな試験は倫理的に不可能だからです。研究がないことと、効果がないことは別です。

    1965年、オースティン・ブラッドフォード・ヒルはまさに「環境と疾病 — 関連か、因果か」と題した講演で、観察された関連から因果を判断するために考慮すべき九つの観点を示しました。強さ、一貫性、特異性、時間的先行、量反応関係、生物学的妥当性、整合性、実験、類似性です1。

    どれも単独では決め手になりませんが、揃うほど因果の説明は有力になります。曝露が結果より先に起きているか。量が増えるほど結果も増えるか。別の集団、別の方法でも同じ傾向が出るか。仕組みの説明がつくか。観察研究であっても、これらが積み重なれば因果の推論は強くなります。逆に、たった一つの観察研究で関連が見つかっただけの段階は、この積み重ねのごく入り口にすぎません。

    もっとも、メンデルランダム化も万能ではありません。この方法は、使う遺伝子変異が目的の物質だけに影響し、他の経路を通じて結果に影響しないという前提に立っています。ひとつの遺伝子が複数の働きを持つことは珍しくなく、この前提が成り立つかどうかの検証自体が研究上の課題になっています。遺伝的な違いは生涯続くものなので、大人になってから短期間だけ介入した場合と同じ効果を意味するとも限りません。

    無作為化比較試験にも別の限界があります。参加できる人は限られ、期間も限られます。ATBC試験の結果を非喫煙者に広げられないのはその一例です。厳密な条件下で確かめられたことと、実際の生活の中で起きることのあいだには、常に隙間が残ります。

    ひとつの研究デザインで因果が決まることは、ほとんどありません。観察研究、無作為化試験、遺伝情報を使った解析。別々の方法が同じ方向を指したとき、確からしさは一段上がります。

    記事を読むときに確かめられる、三つのこと

    厚生労働省eJIMは「情報を見極めるための10か条」の中で、「因果関係を見定めよう」「比較されていることを確かめよう」という観点を挙げています6。専門的な吟味は難しくても、次の三点は多くの記事から読み取れます。

    ひとつめは、比較があるかどうか。「Aを実践している人の◯%が改善」だけでは、実践していない人がどうだったのかが分かりません。ふたつめは、時間の順序。曝露が結果より先に起きたことが確かめられているのか、同じ時点で測っただけなのか。みっつめは、使われている動詞です。「関連していた」「傾向がみられた」と書かれているのか、「効果があった」「予防する」と書かれているのか。研究者が慎重に選んだ動詞が、記事の見出しで別の言葉に置き換わっていることは少なくありません。

    「原因」を探したくなるとき

    最後に、相関の手前にあるものを1つ挙げておきます。「症状の一覧に当てはまった」は、相関ですらありません。

    相関は、2つの変数を多数の人で測って、一緒に動いているかを見たものです。症状のリストに当てはまるかどうかは、比較対象のない1人分の観察です。

    しかも比較対象を置くと、当てはまりの意味が変わります。一般の人1,000人の調査では、過去7日間に症状がまったくなかった人は10.6%で、経験した症状の数は中央値5個でした。つまり9割の人が当てはまります。

    「当てはまった」→「相関がある」→「原因である」。最初の矢印から、すでに飛んでいます。

    体調が思わしくないとき、人は原因を一つに絞りたくなります。あの食べ物か、あのストレスか、あの習慣か。原因が特定できれば、対処もはっきりするからです。

    けれど、ここまで見てきた研究者たちの苦労は、その特定がいかに難しいかを示しています。何万人を何年も追いかけ、遺伝子まで動員しても、関連と因果を分けるのは容易ではありません。そもそも「エビデンスがある」という言葉が何を指しているのかについてはこちらにまとめました。自分ひとりの体調について、思い当たった一つの要因を原因だと決めるのは、それよりずっと不確かな作業になります。

    この構造は、サプリメントを足すかどうかを決めるときにそのまま効いてきます。観察で良さそうに見えたものが、試験で覆った例は、判断の順番を考える材料になります。

    参考文献・参考資料

    1. Hill AB. The Environment and Disease: Association or Causation? Proceedings of the Royal Society of Medicine. 1965;58(5):295-300. doi:10.1177/003591576505800503 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1898525/
    2. The Alpha-Tocopherol, Beta Carotene Cancer Prevention Study Group. The effect of vitamin E and beta carotene on the incidence of lung cancer and other cancers in male smokers. New England Journal of Medicine. 1994;330(15):1029-1035. doi:10.1056/NEJM199404143301501 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8127329/
    3. Omenn GS, Goodman GE, Thornquist MD, et al. Effects of a combination of beta carotene and vitamin A on lung cancer and cardiovascular disease. New England Journal of Medicine. 1996;334(18):1150-1155. doi:10.1056/NEJM199605023341802 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8602180/
    4. Writing Group for the Women’s Health Initiative Investigators. Risks and benefits of estrogen plus progestin in healthy postmenopausal women: principal results from the Women’s Health Initiative randomized controlled trial. JAMA. 2002;288(3):321-333. doi:10.1001/jama.288.3.321 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12117397/
    5. Voight BF, Peloso GM, Orho-Melander M, et al. Plasma HDL cholesterol and risk of myocardial infarction: a mendelian randomisation study. Lancet. 2012;380(9841):572-580. doi:10.1016/S0140-6736(12)60312-2 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22607825/
    6. 厚生労働省『「統合医療」に係る情報発信等推進事業』(eJIM)「情報を見極めるための10か条」https://www.ejim.mhlw.go.jp/public/hint/index.html

    本記事は研究結果の読み方を整理したものであり、特定の治療法・製品の推奨や中止を促すものではありません。また、個別の診断・治療に代わるものではありません。治療中の方は、この記事を理由に自己判断で変更しないでください。

  • 「エビデンスがある」を、三つの質問で見分ける

    「エビデンスがある」を、三つの質問で見分ける

    同じ「エビデンスがある」でも、数千人を対象にした比較試験を指すこともあれば、試験管の中で細胞が反応した段階を指すこともあります。

    健康や食事の情報を調べていると、この一文によく出会います。サプリメントの説明にも、施術の紹介にも、テレビの解説にも出てきます。

    この言葉だけでは、どちらなのか分かりません。

    その場で確かめられる、三つのこと

    先に結論から書きます。「エビデンスがある」と書かれた一文を見たとき、確かめられるのは次の三点です。

    「エビデンスがある」と書かれていたら
    確かめること 分かれ目
    誰を対象にした研究か 動物か、人か。人なら、自分と近い状態の人か
    何と比べているか 何もしない場合か、別の方法か、そもそも比較がないのか
    どれくらいの差なのか 相対的な割合(50%減)か、実際の頻度の差(100人中2人が1人)か

    この三つが書かれていないことは、よくあります。書かれていないと気づいた時点で、その情報の確からしさは一段下がります。

    以下は、その理由です。

    「エビデンスがある」は、ひとつの意味ではない

    厚生労働省が運営する「統合医療」情報発信サイト(eJIM)は、医学・医療の分野におけるエビデンスを「ある治療法がある病気に対して、安全で効果のあるものなのかどうかを確率的な情報として示す検証結果」と説明しています5。

    ここで見落とされやすいのが「確率的な情報として」という部分です。エビデンスは、ある集団を観察したときに平均としてどうだったかを示します。目の前の一人にそのまま当てはまるとは限らない、という前提が最初から含まれています。

    「エビデンスがある/ない」は本来、白か黒かの二択ではありません。どんな研究が、どれくらいの人数で、何と比べて、どの程度の確からしさで示したのか。その中身を抜きにすると、この言葉はほとんど情報量を持ちません。

    研究デザインによって、言えることの範囲が変わる

    「研究で示された」と言うとき、その研究がどう組まれていたかで、読み取れる内容は大きく変わります。

    研究デザインごとに言えることと、言えないことのおおまかな整理
    研究デザイン 言えること 言いにくいこと
    ランダム化比較試験(RCT) 介入と結果のあいだの因果関係を検討できる 長期の影響、まれな有害事象、実生活での再現
    コホート研究などの観察研究 要因と結果の関連の有無と方向 因果の断定(背景要因の影響を除ききれない)
    症例報告・症例集積 そういう例があったという事実 どれくらいの頻度で起きるか
    動物研究 作用の仕組みについての仮説 ヒトで同じことが起きるかどうか
    試験管内(in vitro)研究 細胞や分子のレベルでの反応 生体の中での挙動、経口摂取後の到達性
    システマティックレビュー・メタ解析 複数研究をまとめた全体像 元になった研究の質を超えた結論

    観察研究の行に「因果の断定」を挙げたのは、関連が見つかることと原因だと分かることのあいだに距離があるからで、この距離については別の記事で扱っています。健康情報でとくに混乱が起きやすいのは、下の二段と上の段が同じ「研究で示された」という言葉でまとめられてしまうときです。細胞に振りかけたら変化が見られた、という結果は、その物質を口から摂った人に同じことが起きる根拠にはなりません。消化され、吸収され、代謝され、標的の組織に届く、という過程がまるごと検証されていないからです。

    ただし「RCTが常に上」ではない

    研究デザインを階段状に並べた図はよく使われますが、この見方にも限界があります。落下傘の有効性をRCTで確かめることはできませんし、まれな副作用や数十年単位の影響は観察研究のほうが捉えやすい。いま使われている評価方法も、デザインの種類だけで序列を決めてはいません。

    「根拠の強さ」は、4段階で評価されている

    「エビデンスがある/ない」は二択に見えますが、実務では段階が付けられています。診療ガイドラインの作成で国際的に使われているGRADEという方法は、確実性を高・中・低・非常に低いの4段階で評価します2。

    GRADEにおける確実性の4段階。ランダム化比較試験は高から、観察研究は低から出発し、5つの理由で格下げ、3つの理由で格上げされることを示した図
    GRADEでは、研究の限界・結果の不一致・対象や設定のずれ・推定の不正確さ・報告の偏りという5つの理由で格下げされ、効果が非常に大きい・用量反応関係がある・想定されるバイアスが効果を小さく見せているはずだ、という3つの理由で格上げされます2。

    ここで言う「高」の定義も踏み込んでいます。「今後の研究によって効果の推定が変わる可能性は非常に低い」という意味であって、「絶対に正しい」という意味ではありません2。最上位でさえ、更新される余地を残した表現になっています。

    確実性とは別に、数字の見せ方にも注意がいります。この点は独立した記事で扱ったので、ここでは要点だけ。10人に1人が発症する状況が20人に1人になっても、1万人に2人が1人になっても、どちらも「50%減」と書けます。同じ言葉が指す規模はまったく違います。何と何を比べた割合なのか、元の頻度はどれくらいなのかまで確かめないと、効果の大きさは判断できません。

    それでも、エビデンスは揺らぐ

    一つひとつを正しく読み取っても、公表されている研究の集まり自体が偏っていることがあります。

    報告されない研究がある

    2008年に New England Journal of Medicine に掲載された研究は、この問題を具体的な数字で示しました。米国FDAに登録された抗うつ薬の臨床試験73件を、公表された論文と照合したところ、論文だけを読むと94%が肯定的な結果に見えたのに対し、FDAの評価では肯定的とされたのは51%でした。効果量の見かけの大きさは、薬剤によって11〜69%、全体では32%大きく見積もられていました3。

    これは特定の薬の話にとどまりません。芳しくない結果が公表されにくいという構造は、あらゆる分野で起こりえます。「肯定的な研究がいくつもある」という事実だけでは、否定的な研究が存在しないことの証明にはなりません。

    再現できないことがある

    2015年に Science で報告された大規模な検証では、心理学の主要3誌に載った100件の研究を、元の材料を使い、差があれば見つけられるだけの人数を確保して追試しました。元の研究では97%が統計的に有意だったのに対し、追試で有意だったのは36%。効果の大きさは平均しておよそ半分になりました4。

    この検証は心理学を対象にしたもので、医学や栄養学の再現性がそのまま同じ比率だとは言えません。ただ、査読を通って一流誌に載った研究であっても、そのまま確定した事実として扱えるとは限らない。この点は分野を超えて示唆的です。健康情報が数年おきに覆るように見えるのは、必ずしも誰かが嘘をついているからではなく、こうした過程の一部が表に出ているためでもあります。

    日本の「科学的根拠」表示は、何を保証しているのか

    食品のパッケージに書かれた機能性の表示も、制度上の意味を知っておくと読み方が変わります。

    消費者庁の説明によれば、機能性表示食品は「事業者の責任で、科学的根拠を基に商品パッケージに機能性を表示するもの」として消費者庁に届け出られた食品です。特定保健用食品(トクホ)とは異なり、国が個別に審査して許可したものではありません6。届出にあたって根拠資料の提出と情報公開は求められますが、その中身を国が確かめたわけではありません。

    機能性表示食品にも根拠はあります。違うのは、その根拠を国が審査したか、企業が届け出たかです。届け出られた資料は公開されているので、元の研究まで辿れます。トクホとの違いは、別の記事で整理しました。

    エビデンスは、答えを決めてくれない

    身近な例で、水準の差を見てみます。「体に溜まるもの」と一括りにされる3つを並べると、根拠の量がまったく違います。

    同じ「溜まるもの」でも、分かっている量が違う
    ある数字 水準
    食品添加物 物質ごとの一日摂取許容量。日本人の実際の摂取量も毎年推定 上限も、実測もある
    重金属 耐容週間摂取量、魚種ごとの摂食目安、水質基準。体内半減期も分かっている 上限も、実測もある
    マイクロプラスチック ない。定義も、参照物質も、採取手順も揃っていない 評価そのものが行われていない

    この3つに対して「気をつけたほうがいい」と言うのは、同じ言葉でも意味の重さが違います。前の2つは数字で自分の位置が分かります。3つめは、位置そのものが分かりません。

    逆に、入口が1つに絞られて、止めたら実際に減ったことが数字で確認された例もあります。弁当のDEHPは、手袋の使用に関する通知をはさんで平均4,420 ng/gから198 ng/gになりました。確かめられるときは、ここまで確かめられます。

    もう1つ、同じ物質でも評価する機関によって数字が1,000倍違うことがあります。2023年、EUのEFSAと、ドイツのBfRが、BPAについて同じ年にそれぞれ 0.2 ng と 200 ng を出しました。どちらも評価を行い、どちらも根拠の文献があります。

    「エビデンスがある/ない」の二択にすると、この差が消えます。調べられていないことと、調べて差がなかったことも、同じ「ない」になります。

    最後に、この言葉の出発点にあった定義を見ておきます。いま使われている意味と、かなり違います。

    「エビデンス」が広まったのは、1990年代の「根拠に基づく医療(EBM)」という考え方からでした1。

    EBMは「論文どおりにやること」ではなかった

    この定義が統合するものとしているのは、三つです。研究から得られる最良の外部エビデンス、臨床家個人の専門的な技能と経験、そして患者自身の価値観と希望。この三つが噛み合って初めてEBMになります1。

    EBMは最初から「エビデンスさえあれば決まる」という考え方ではありませんでした。論文が示す平均的な結果を、目の前の人の状況と希望に照らして翻訳するところまでを含めて、ようやくEBMになります。

    最後に、この読み方をしてもなお残るものがあります。研究が示すのは集団の平均であり、平均に一致する人がどこかにいる保証はありません。一人ひとりに合わせる研究は進んでいますが、どの要因がどれだけ効くのかについて、確立した答えはまだ出ていません。

    だから最初の三点に戻ります。誰を対象に、何と比べて、どれくらいの差なのか。公的機関も、ほぼ同じ観点を「情報を見極めるための10か条」としてまとめています5。「その根拠は?」とたずねる、比較されていることを確かめる、出来事の「分母」を意識する、数字のトリックに注意する。並んでいるのは、専門知識がなくても実行できることばかりです。

    「エビデンスがあるから正しい」でも、「エビデンスなんて当てにならない」でもなく、その中身を確かめたうえで、自分の場合はどうかを考える。答えを保留したまま問いを持ち続けている時間に何が起きているのかについては、別に書きました。その手間のかかる作業が、他人の正解を受け取ることと、自分で選ぶことを分けています。

    参考文献・参考資料

    1. Sackett DL, Rosenberg WMC, Gray JAM, Haynes RB, Richardson WS. Evidence based medicine: what it is and what it isn’t. BMJ. 1996;312(7023):71-72. doi:10.1136/bmj.312.7023.71 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8555924/
    2. Guyatt GH, Oxman AD, Vist GE, Kunz R, Falck-Ytter Y, Alonso-Coello P, Schünemann HJ. GRADE: an emerging consensus on rating quality of evidence and strength of recommendations. BMJ. 2008;336(7650):924-926. doi:10.1136/bmj.39489.470347.AD https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2335261/
    3. Turner EH, Matthews AM, Linardatos E, Tell RA, Rosenthal R. Selective publication of antidepressant trials and its influence on apparent efficacy. New England Journal of Medicine. 2008;358(3):252-260. doi:10.1056/NEJMsa065779 https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMsa065779
    4. Open Science Collaboration. Estimating the reproducibility of psychological science. Science. 2015;349(6251):aac4716. doi:10.1126/science.aac4716 https://www.science.org/doi/10.1126/science.aac4716
    5. 厚生労働省『「統合医療」に係る情報発信等推進事業』(eJIM)「情報の見極め方/情報を見極めるための10か条」https://www.ejim.mhlw.go.jp/public/hint/index.html
    6. 消費者庁「機能性表示食品について」https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_function_claims

    本記事は健康・医学情報の読み方を整理したものであり、特定の治療法・製品の推奨や、個別の診断・治療に代わるものではありません。