カテゴリー: 心とからだ

  • 更年期かどうかを決めるのは、血液検査ではなく月経と症状

    更年期かどうかを決めるのは、血液検査ではなく月経と症状

    40代、50代に入ってから、それまでなかった不調が出てきた。ほてり、寝つきの悪さ、イライラ、疲れやすさ。調べると「更年期かもしれません」と出てきます。

    ただ、本当にそうなのかをどう確かめるのかは、たいてい書かれていません。

    更年期かどうかは、血液検査では決まりません。決めているのは、年齢と、月経の状況と、症状と、ほかの病気がないことです。

    このうち検査でまっすぐ確かめられるのは、4つ目だけです。順に見ていきます。

    「更年期」は、期間の名前

    更年期は、症状の名前ではなく期間の名前です。

    閉経とは、1年間月経がない状態を指します。日本人女性の閉経平均年齢は50.5歳で、これをはさんだ前後10年間が更年期(周閉経期)です1。

    更年期は閉経をはさんだ前後10年間。日本人の閉経平均年齢は50.5歳で、45.5歳から55.5歳にあたる
    閉経の平均は50.5歳。その前後5年ずつ、計10年間が更年期にあたります1。閉経は「最後の月経から1年たった」ことで判定されるため、渦中では確定しません。

    ここに、知られていない性質があります。閉経は、後ろから決まります。1年間月経がなくて初めて「あれが最後だった」と分かる。つまり、いま不調の渦中にいる人が「自分は更年期のどのあたりか」を確定させることは、その時点ではできません。

    症状が出ている最中に「更年期です」と一発で確定する検査が存在しないのは、この構造のためです。

    症状があることと、病名がつくことは別

    日本産科婦人科学会は、二つを分けています。更年期に現れるさまざまな症状が更年期症状。そのうち症状が重く、日常生活に支障をきたす状態が更年期障害です2。

    症状の幅は広く、学会が挙げているだけでも三つの系統にまたがります。ほてり・のぼせ・発汗といった血管症状、めまい・動悸・胸が締め付けられるといった身体症状、気分の落ち込み・意欲の低下・イライラといった精神症状です2。厚生労働省研究班の解説は、これに皮膚の乾燥やかゆみ、腟の乾き、尿失禁なども加えています1。

    幅が広いということは、当てはまる項目が見つかりやすいということでもあります。リストに当てはまったことは、原因がそれだと示していません。

    疑っている人と、確かめた人の差

    厚生労働省が2022年3月に実施した調査があります。全国の20〜64歳、女性2,975人・男性2,025人へのインターネット調査です3。

    女性で更年期障害の可能性を考えている割合は40代28.3%・50代38.3%、医療機関で診断された割合は40代3.6%・50代9.1%
    女性で「更年期障害の可能性がある」と考えている割合と、医療機関で診断された割合3。調査の「更年期症状」は回答者本人の主観に基づくものと、報告書に明記されています。

    50代女性では、38.3%が更年期障害の可能性を考えていて、医療機関で診断されたのは9.1%。40代では28.3%に対して3.6%です3。

    受診の側から見ると、もっとはっきりします。更年期症状を自覚している人のうち「受診していない」と答えたのは、40代女性で81.7%、50代女性で78.9%でした3。

    そして同じ調査で、更年期に入る前にほしかった情報を聞いています。40代女性の回答では「主な更年期症状に対する対処法」38.4%、「主な更年期症状の内容や程度」35.6%に続いて、「医療機関(婦人科等)を受診する目安」が21.9%、「受診すべき診療科の情報」が17.3%でした3。

    足りていないのは症状の一覧ではなく、いつ、どこへ行けばいいのかのほうだった、ということになります。

    ホルモンを測れば決まる、ではない

    「血液検査で女性ホルモンを測れば分かる」と考えて受診する人がいます。ここが、実際とずれています。

    厚生労働省研究班の解説はこう書いています。「血液中のホルモン濃度測定は、更年期の診断の補助に使えます」1。補助であって、決め手ではありません。

    理由は前の節と同じです。閉経の判定そのものが「12か月月経がない」という時間の観察で決まります。数値ひとつを取り出しても、その時間を先取りできません。

    これは健診の「異常なし」が答えている問いが狭いのと同じ構造です。検査は測った項目について答えるだけで、測っていないものについては何も言いません。

    測れるのは、「更年期以外」のほう

    ここが、この記事でいちばん実務的な部分です。

    厚生労働省研究班の解説は、更年期障害を疑うときに除外が重要な疾患として、次を具体的に挙げています1。

    更年期障害と症状が重なり、50歳近辺で頻度が多くなる疾患
    疾患 解説が挙げている受診先
    糖尿病 内科
    甲状腺機能低下症 内科
    メニエール病 耳鼻科
    手指関連疾患 整形外科

    日本産科婦人科学会も、症状の陰に別の病気が潜んでいないかの確認は大切だとして、産婦人科だけでなく内科・整形外科・耳鼻科・心療内科・精神科への受診をすすめることがある、と書いています2。

    この一覧が示しているのは、更年期かどうかを測るのではなく、更年期以外を消していくという順番です。そして消す側は、どれも数値や検査で確かめられます。

    甲状腺機能低下症は、疲れやすさ、寒がり、体重増加といった「代謝が落ちた」と表現されがちな不調と重なります。血液でTSHとFT4を測れば分かる項目です。

    疲れが抜けないという訴えなら、ヘモグロビンが基準内でも貯蔵鉄が減っている状態もありえます。フェリチンで確かめられます。

    自分の側で用意できるもの

    受診するかどうかを別にしても、記録は先に作れます。検査で代わりに出せないのが、まさにこの部分だからです。

    月経のこと。最後の月経がいつだったか。周期が乱れ始めたのはいつごろからか。量に変化はあるか。

    症状のこと。何が、いつから、週に何回くらい、どれくらい続くか。そして日常生活に支障が出ているかどうか。学会が更年期症状と更年期障害を分けている基準がここなので、診察室でもそのまま使われます。

    厚生労働省研究班のサイトには、症状の程度を点数にするセルフチェックが公開されています。点数そのものが診断になるわけではありませんが、「なんとなく調子が悪い」を持っていくより、記録を持っていくほうが話が早く進みます。

    治療の選択肢は、一つではない

    日本産科婦人科学会が挙げている治療は、ホルモン補充療法(HRT)、漢方薬、向精神薬(抗うつ薬・抗不安薬・睡眠薬)です2。どれを使うか、使わないかは、症状と本人の状況によって医師が判断します。

    ここで書けるのは、選択肢が複数あるという事実までです。個別にどれが向いているかは、この記事では決められません。

    男性の場合は、まだ分かっていないことが多い

    同じ厚生労働省の調査で、男性にも聞いています。50代男性で更年期障害の可能性を考えている割合は14.3%、診断されたのは1.7%でした3。

    ただし調査の定義欄は、男性の更年期障害についてこう書いています。概ね40歳以降に男性ホルモン(テストステロン)の減少により女性更年期障害と類似した症状を呈するが、病態が複雑で、まだ十分に解明されていない3。

    女性の更年期と同じ精度で語れる段階にはない、というのが現時点の状況です。

    確かめる順番

    順番の前に、押さえておくことが1つあります。ここで挙がる症状は、他の説明とほぼ全部重なります。

    疲労感、集中力の低下、睡眠の問題、肌の変化、気分の落ち込み。一般の人1,000人の調査では、過去7日間に症状がまったくなかった人は10.6%でした。栄養素不足の説明にも、検査結果の症状一覧にも、同じ言葉が並びます。

    だから「当てはまるかどうか」では、どれなのかが決まりません。決まるのは、年齢、月経の変化、そして経過という、当てはまり以外の情報です。

    更年期かどうかを一発で決める検査はありません。決めているのは、年齢と、月経の状況と、症状と、ほかの病気がないことでした。

    このうち自分で用意できるのは、最後の月経の時期と、症状の記録です。検査ではっきりするのは、甲状腺・血糖・貧血といった更年期以外の側です。そして、そちらが消えるほど、更年期という説明は確からしくなります。

    受診先が婦人科とは限らないのも、同じ理由からです。症状の内容によっては、内科や耳鼻科が先になります。

    参考文献・参考資料

    1. 厚生労働省研究班(東京大学産婦人科学講座・国立成育医療研究センター監修)「女性の健康推進室 ヘルスケアラボ」更年期障害とは? https://w-health.jp/climacterium_alarm/about_climacterium/(最終更新 2025年5月13日)
    2. 公益社団法人 日本産科婦人科学会「更年期障害」 https://www.jsog.or.jp/citizen/5717/
    3. 厚生労働省「更年期症状・障害に関する意識調査(結果概要)」2022年 https://www.mhlw.go.jp/content/000969136.pdf(定義 p.1、更年期障害の可能性 p.2、受診までの期間 p.3、ほしかった情報 p.8)

    本記事は公的機関・学会の公開資料の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の治療法・食品・サプリメント・製品の効果を示すものでも、使用を勧めるものでもありません。症状の現れ方には個人差があり、記載の数値がそのまま当てはまるとは限りません。

  • 「免疫力を上げたい」を、できることに置き換える

    「免疫力を上げたい」を、できることに置き換える

    「免疫力」という一つの数値は、医療の中に存在しません。健康診断にも、専門の検査にも、その項目はありません。

    つまり「免疫力が上がった」かどうかは、誰にも判定できません。上がったとも、上がらなかったとも言えない。そういう構造の言葉です。

    では医療は何を測っているのか。そして、感染しやすさについて実際に確かめられていることは何なのか。この二つを分けると、できることがはっきりします。

    測っているのは、別々の項目

    免疫は、多くの細胞と分子が役割を分担している仕組みです。そのため医療で調べるときも、目的に応じて別々の項目を見ます。

    免疫は測れます。ただし、一つの点数にはなりません。

    この構造は、他の場面でも出てきます。栄養素も、血液で分かるものと分からないものに分かれます。検査が答えている問いは、いつも思っているより狭い。

    「上げればいい」とも限らない

    もう一つ、「免疫力を上げる」という言い方には前提が入っています。方向が一つしかない、という前提です。

    免疫を抑える薬(免疫抑制薬)が治療に使われるのは、このためです。免疫は、強ければ強いほどよいものとして扱われていません。目指されているのは、必要なときに必要なだけ働くことです。

    「免疫力を上げる」という言葉は、この二方向を一方向に畳んでいます。

    眠る時間は、感染しやすさに効いていた

    総合点はなくても、確かめられていることはあります。そのひとつが睡眠です。

    睡眠時間が短い人は、同じ量のウイルスを鼻から入れられても、かぜを発症しやすくなっていました1。健康な成人164人の睡眠を活動計で7日間測ってから、全員に同じようにウイルスを投与した実験です。

    睡眠時間別のかぜ発症のオッズ比。5時間未満4.50倍、5〜6時間4.24倍、6〜7時間1.66倍
    7時間より長く眠っていた人と比べたときの、かぜを発症するオッズ比。事前の抗体価、年齢、性別、季節などとは独立した関連でした1。

    ただし、この「4.5倍」という数字はそのまま覚えないほうがいいものです。同じデータから推定できる範囲がかなり広く、「1倍を少し超える程度」から「18倍」まで幅があります。数字の幅をどう読むかは、別の記事で整理しました。

    幅は広くても、向きは動きません。全員が同じ量のウイルスを投与されているので、「よく眠る人は人混みを避けているから」といった説明では片づきません。

    ワクチンの効き方にも、差が出ている

    同じ研究グループが、ワクチンでも調べています。

    健康な中年成人125人にB型肝炎ワクチンを標準の3回接種し、活動計で睡眠を測りました。すると、睡眠時間が短い人ほど、2回目以降の抗体反応が低くなっていました。そして最終的に、臨床的に防御されるレベルの抗体に達しない可能性も高くなっていました2。

    ただしこちらは観察研究です。睡眠時間を割り付けたわけではないので、因果までは示していません。関連と因果を分ける話が、ここでも当てはまります。

    興味深いのは、この研究で予測に効いたのが睡眠の「長さ」だけだったことです。睡眠効率も、本人が感じる睡眠の質も、抗体反応を予測しませんでした2。検査上の睡眠指標と、休まった感覚が一致しないのと同じ向きです。

    では、何ができるのか

    ここまでを整理すると、確かめられていることと、そうでないことがはっきり分かれます。

    感染しにくさについて、確かめられていること
    状況
    睡眠を十分にとる ウイルスを投与する実験で、発症のしやすさに差が出ている
    ワクチンを受ける 抗体を作らせる方法として確立している
    手洗い・環境 曝露そのものを減らす
    特定の食品・成分で「免疫力を上げる」 「免疫力」という指標自体がないため、この形では検証できない

    最後の行は、「効かない」という意味ではありません。その言い方では確かめようがない、ということです。「エビデンスがない」と「効果がない」は別のものですが、ここではもう一段手前で、何を測れば確かめたことになるのかが決まっていません。

    表示に「免疫」と書かれていたら

    ついでに、金属の話も同じ形で確かめられます。2016年度の日本のパッチテスト陽性率は、ニッケル24.8%、金23.2%、コバルト7.9%、水銀5.3%、クロム2.3%。上位10項目のうち5つが金属でした3。

    これは「免疫力が低い」ことを示す数字ではありません。特定の物質に対して免疫が反応するようになっている(感作されている)人の割合です。しかも陽性の人のうち、実際に症状が出るのは一部だけだと学会は明記しています。

    免疫は「強い・弱い」の一本の軸ではなく、何に対して、どう反応するかの集まりです。だから項目ごとに検査があって、総合点がない。金属についても、陽性と症状は別の話になります。

    制度の側では、免疫に関する機能を表示している食品があります。ただしそれは、特定の成分について、特定の機能を届け出たものであって、「免疫力が上がる」という一般的な言明ではありません。

    何がどこまで届け出られているかは、確かめられます。機能性表示食品とトクホでは、根拠の強さが違います。その商品を人で試したのか、成分についての過去の研究をまとめたのか。そこまで分解すると、表示の一文の意味が変わります。

    一つの点数がない、ということ

    「免疫力」に一つの数値がないことは、不便に見えます。上がったか下がったかを確かめられないからです。

    同じ構造の言葉は、ほかにもあります。「代謝」にも一つの数値はありません。ただしそちらは、エネルギー消費量という測れるものが実在します。

    ただ、そのぶん目標が数字に置き換わりません。眠る時間を確保する、必要なワクチンを受ける、手を洗う。どれも地味ですが、実験で差が出ているのはこちら側です。

    感染をくり返す、治りが極端に遅い、口内炎や皮膚の感染が続く。こうした状態は、生活の工夫で動かす話ではありません。「免疫力」という総合点はなくても、免疫に関わる病態には実際に調べられる検査項目があります。

    参考文献・参考資料

    1. Prather AA, Janicki-Deverts D, Hall MH, Cohen S. Behaviorally Assessed Sleep and Susceptibility to the Common Cold. Sleep. 2015;38(9):1353-1359. doi:10.5665/sleep.4968 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26118561/
    2. Prather AA, Hall M, Fury JM, Ross DC, Muldoon MF, Cohen S, Marsland AL. Sleep and antibody response to hepatitis B vaccination. Sleep. 2012;35(8):1063-1069. doi:10.5665/sleep.1990 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22851802/
    3. 足立厚子「金属アレルギーの対処法〜全身型金属アレルギーを中心に〜」アレルギー 2020;69(3):169-173. https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/69/3/69_169/_pdf

    本記事は研究状況の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の食品・サプリメント・製品の効果を示すものでも、使用を勧めるものでもありません。ワクチンの要否と種類は医師の判断によります。免疫を抑える薬を使用中の方の感染対策は個別に決まるもので、この記事の範囲には入りません。

  • 「朝起きられない」に、診断基準と検査がある

    「朝起きられない」に、診断基準と検査がある

    朝、どうしても起きられない。昼を過ぎると動けるようになる。夜は眠れない。

    この並びは、しばしば生活習慣の問題として扱われます。

    同じ症状に対して、日本には診断基準と検査があります。

    起立性調節障害(OD)と呼ばれる病態です。

    診療ガイドラインは、これを本質的には身体疾患に分類されると記しています1。

    中学生の、およそ1割

    珍しい病態ではありません。疫学調査では、一般の中学生の約1割、小児科を受診する中学生の約2割を占めると報告されています1。

    症状は立ちくらみ、動悸、強い倦怠感、頭痛、腹痛と多彩で、慢性化や再燃をくり返す例では、不登校や登校困難につながることもあります。

    11項目のうち、3つ

    診断は、まず症状の確認から始まります。ガイドラインが挙げる身体症状は11項目です1。

    起立性調節障害の身体症状11項目のうち3項目以上で診断アルゴリズムへ進む
    立ちくらみ/失神/入浴時や嫌なことを見聞きしたときの気分不良/動悸・息切れ/朝起き不良/顔色不良/食欲不振/臍疝痛(へそのあたりの痛み)/倦怠感/頭痛/乗り物酔い。この11項目のうち3項目以上、または2項目でも強く疑われる場合に、診断アルゴリズムへ進みます1。

    ここで注目したいのは、「朝起き不良」が11項目のうちの1つでしかないことです。朝起きられないことだけを見ていると、他の10項目が視野に入りません。

    起立したときの動きで、4つに分かれる

    症状が揃ったら、次は検査です。新起立試験と呼ばれます。

    やることは単純で、10分間横になったあと立ち上がり、血圧が戻るまでの時間と、起立後の血圧・心拍数の変化を見ます1。特別な装置がなくても一般の小児科外来で実施できるよう設計されていて、午前中に行うと陽性率が高まるとされています。

    新起立試験で分かれる4つの型
    型 起立したときに起きること
    起立直後性低血圧(INOH) 立った直後に血圧が急に下がり、戻るのが遅い
    体位性頻脈症候群(POTS) 血圧は下がらないが、心拍数が著しく上がる
    遷延性起立性低血圧(DeOH) 立った直後は正常。3分以上経ってから血圧が下がる
    血管迷走神経性失神(VVS) 反射的に血管が広がり、心拍が下がる

    POTSについては、ガイドラインが特徴を書き分けています。立ちくらみよりも、頭痛や強い倦怠感が目立つとされています1。立ちくらみがなくても、POTSは外れません。

    先に、別の原因を外す

    同じ症状を起こす別の病態があります。ガイドラインは、除外すべきものを具体的に挙げています1。

    鉄欠乏性貧血が並んでいることは、覚えておく価値があります。倦怠感の原因として鉄を考える順番は、ここでも同じです。

    そして改訂第3版で新たに明記された項目があります。一部の薬剤が症状を誘発・増悪させることがあるという点です。ADHD治療薬、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬、カルシウム拮抗薬、抗コリン薬、三環系抗うつ薬などが挙げられています1。

    自分で薬をやめる話ではありません。飲んでいるものがあるなら、それを医師に伝える理由になります。飲んでいるものを全部伝えるのは、ここでも効いてきます。

    つまり、ODと決まる前に確かめられるものが、いくつもあります。血液検査で分かるものも含まれています。

    「体の問題」と「心の問題」を、分けない

    ODは身体疾患です。同時に、心理社会的な要因も症状に関わります。どちらか一方ではありません。

    ガイドラインは、ODを身体疾患に分類したうえで、睡眠リズムの乱れ、運動不足、心理的ストレス、学校や家庭の環境要因が、発症や症状の増悪に関与することも記しています1。

    思春期は内分泌系・神経系・循環器系が急激に変化する時期で、そこに心理社会的なストレスが加わると、循環を調節する仕組みが追いつかなくなる。ガイドラインはそう説明しています1。

    身体か心か、という二択で考えないこと。これはODに限った話ではありませんが、この病態ではとくにはっきりしています。複数の要素を協調させて診る、という考え方が、ガイドラインの側から要請されている珍しい例です。

    体を動かさない時間が、病態の一部になる

    第3版で扱いが変わったものが、もう一つあります。デコンディショニングです。

    長期の臥床など、体を動かさない時間が続くことで循環の調節能力が落ちる現象を指します。海外のガイドラインでは「除外すべきもの」に挙げられていますが、日本の第3版では除外ではなく、ODの病態生理に深く関わるものとして記載されています1。

    症状があるから動けない、動けないから症状が続く。この循環そのものが、病気の一部として扱われています。

    基準を満たさなかったときも、終わりではない

    新起立試験を受けても、診断基準を満たさない場合があります。

    第3版は、この場合の対応も書いています。検査時にたまたま循環の異常が再現されないこともあれば、傾向はあるが基準に届かない例、新起立試験では評価が難しい型もあります。そのうえで、明らかな器質的異常がなくても、日常生活に支障をきたす起立不耐症状が続くなら、ODとしての包括的な対応を検討するとしています1。

    確定診断にこだわるよりも、症状の経過や生活習慣、心理社会的要因を含めた総合的評価を行い、その子どもに必要な支援を判断する姿勢の重要性が強調されている

    診断名がつかないことと、支援が要らないことは別だ、という立場です。

    受診するとき、何を持っていくか

    相談先は小児科です。新起立試験は一般の小児科外来で実施できるよう設計されています。

    受診のときに用意しておくと役に立つもの
    内容
    症状 11項目のうち当てはまるもの。いつから、どの時間帯に
    時間帯の記録 起床時刻、動けるようになる時刻、就寝時刻を1〜2週間分
    飲んでいるもの 処方薬・市販薬・サプリメントすべて
    生活の変化 いつから、何が変わったか

    検査は午前中のほうが陽性率が高いとされているので、受診の時間帯も相談してみてください。

    名前がつくことの意味

    名前がつくことの効き目は、その反対側を見ると分かります。

    名前のつかない症状の一覧は、9割の人に当てはまります。「朝がつらい」「立ちくらみ」「疲れやすい」だけなら、どの説明も同じくらい当てはまってしまう。

    この記事で見てきた診断基準は、当てはまりを数えるのではなく、起立時に血圧と心拍がどう動いたかを測っています。検査で数値を出し、他の疾患を除外して、初めて名前がつく。だから名前がついたあとには、やることが決まります。

    この病態について書いておきたいのは、診断がつくかどうかより前の部分です。

    朝起きられないことが「怠け」として扱われるとき、子どもは症状と評価の両方を抱えます。11項目の症状表と、立ち上がったときの血圧と心拍という測れるものがあることは、それ自体が支えになります。

    一方で、名前がついたあとに何をするかは、そこからの話です。ガイドライン自身が、身体・心理・社会を分けずに見ることを求めています。検査が答えている問いは、いつも思っているより狭い。ここでも同じです。

    参考文献・参考資料

    1. 石井和嘉子.「小児起立性調節障害診療ガイドライン改訂第3版」の概説. 日大医学雑誌. 2026;85(2):51-57. doi:10.4264/numa.85.2_51 https://www.jstage.jst.go.jp/article/numa/85/2/85_51/_article/-char/ja ガイドライン本体:起立性調節障害ワーキンググループ「小児起立性調節障害診療ガイドライン」(日本小児心身医学会編『小児心身医学会ガイドライン集』改訂第3版, 南江堂, 2025年) 学会の一般向け解説:日本小児心身医学会

    本記事は診療ガイドラインの整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。診断と治療方針は医師の判断によります。症状の項目に当てはまることは、診断がついたことを意味しません。服用中の薬を自己判断で中止・変更しないでください。起き上がれない状態が続く、失神をくり返す、日常生活に支障が出ている。これらは、記事の内容で判断する範囲にありません。

  • 症状リストが当てはまったとき、どう受け取るか

    症状リストが当てはまったとき、どう受け取るか

    過去7日間に症状がまったくなかった人は、10.6%でした。残りの9割は、何かしら症状を抱えています。経験した症状の数は、中央値で5個。

    だから「慢性的な疲労感」「集中力の低下」「肌荒れ」「眠気」を並べたリストは、ほとんどの人に当てはまります。当てはまったことは、原因が特定できたことを意味しません。

    その症状が、そもそもどれくらいありふれているか。それを知っておくと、リストの読み方が変わります。

    1週間に、5個

    ニュージーランドで行われた全国調査があります。無作為に選んだ一般の人1,000人に、過去7日間で46項目の症状のうちどれを経験したかを尋ねたものです1。

    一般の人が過去7日間に経験した症状は中央値5個。症状がまったくなかった人は10.6%
    対象は治療中の患者ではなく、無作為抽出した一般の人です。上位5つは、腰痛38%、疲労36%、頭痛35%、鼻づまり・鼻水34%、関節痛34%でした1。

    症状があること自体は、日常の状態です。健康な人にも症状はあります。

    だから、よくある症状を並べたリストは当たる

    実例で見ます。RESONA-LABの検査結果報告書には、欄ごとに症状の一覧が添えられています3。

    報告書に載っている症状の一覧
    欄 添えられている症状
    食品不耐性 慢性的な疲労感、集中力の低下、眠気、肌荒れ、消化不良・腹部の違和感
    体内蓄積 集中力の低下・思考力の鈍化、疲労感や倦怠感、ホルモンバランスの乱れ、炎症の悪化
    解毒機能 思考がぼんやりする、すっきりしない朝が増える、代謝の低下による体重増加、免疫力の低下による体調不良
    ビタミン・ミネラル不足 免疫機能の低下、疲れやすさや倦怠感、肌トラブル、集中力低下、睡眠障害、立ちくらみ、筋肉機能の低下

    並べて気づくのは、4つの欄が、ほとんど同じ症状を挙げていることです。疲労感、集中力の低下、肌。

    どれか1つの欄に当てはまったのではなく、4つ全部に当てはまります。上の調査が示しているとおり、これらは9割の人が週に何個か経験しているものだからです。

    だから、この一覧の使い道は「自分がどれに該当するか」を決めることではありません。該当の有無は、そこからは決まりません。この記事の後半で扱う記録のほうが、答えに近づきます。

    疲労・頭痛・肌荒れ・眠気・お腹の不調といった、ありふれた症状を並べれば、たいていの人に当てはまります。

    リストに書かれている症状が、その原因で起きることは実際にあります。ただ、当てはまったことは、原因がそれだと示していません。他の原因でも同じ症状は出るからです。

    症状リストが当てはまることと、原因がそれであることは別。多くの原因が同じ症状につながる
    疲労は、睡眠不足でも、貧血でも、うつでも、感染症でも、単に忙しい週でも起きます。リストは「この原因ならこの症状が出る」を示しますが、逆向きには読めません。

    これは、健康情報を読むときにくり返し出てくる構造です。「50%減った」という数字を見たら元の頻度を探すのと同じで、症状のリストにも「元の頻度」があります。誰にでもある症状を並べているのか、それとも珍しい症状を挙げているのか。そこで意味がまったく変わります。

    名前がつくと、症状の見え方が変わる

    もう一つあります。原因を告げられること自体が、その後の体調の受け取り方を変えます。

    古典的な観察があります。職域の検診で高血圧が見つかり、本人に告げられた人たちを追跡したところ、その後の欠勤日数が増えました2。血圧の値が変わったからではなく、「高血圧である」と知らされたことのあとに起きた変化です。

    症状リストを読んだあとも、似たことが起こります。それまで気に留めていなかった感覚に注意が向き、記憶の中から該当する場面が拾い上げられます。期待や不安が症状の側に働く経路は、実際に測られています。

    では、どう見分けるのか

    リストに当てはまったとき、確かめられることが3つあります。

    1. 誰にでもある症状か

    疲労、頭痛、肌荒れ、眠気。これらは一般の人の3割前後が、この1週間に経験しています。当てはまったことに情報量は多くありません。

    逆に、頻度の低い症状が並んでいるなら、当てはまったことの意味は大きくなります。

    2. 順番が合っているか

    その症状は、原因とされているものより後から始まったのか。前からあったのか。

    前からあったなら、その原因では説明がつきません。ここは記憶があいまいになりやすいところなので、思い出せる範囲でかまいません。「去年の健診のころはどうだったか」といった目印を使うと考えやすくなります。

    3. 変えたら、変わるか

    いちばん確かなのがこれです。原因とされるものを一つだけ変えて、症状がどうなるかを見ます。

    やめるだけでは足りません。戻したときに症状が返ってくるかまで見て、初めて対応関係が見えてきます。一度に一つだけ変える、やめて、戻して、比べる。手順は同じです。

    記録が効くのは、ここ

    この3つは、いずれも記録がないと確かめられません。

    いつから、どんなときに、どれくらいの頻度で。日付と時刻が入っていれば、順番も変化も後から追えます。検査が答えていない部分は、この記録でしか埋まりません。

    逆に、記録がないまま症状リストと照らし合わせると、当てはまったという印象だけが残ります。

    リストで自己判断しないほうがいい場合

    次のような症状は、原因を探す段階にありません。ありふれた症状のリストと同じ枠には入らないものです。

    リストで判断してはいけない症状
    症状
    体重が意図せず減っている
    発熱が続いている
    血便がある、便が黒い
    皮膚や白目が黄色い
    今まで経験したことがない突然の激しい頭痛
    症状が日ごとに悪化している

    当てはまったところから、始まる

    症状リストに当てはまることは、悪いことではありません。気づくきっかけになります。

    ただ、そこは結論ではなく出発点です。当てはまった時点で分かっているのは「その症状が自分にもある」ことまでで、原因はまだ分かっていません。

    元の頻度、順番、変えたときの変化。この3つを確かめると、リストの中から自分に関係のあるものだけが残ります。

    参考文献・参考資料

    1. Petrie KJ, Faasse K, Crichton F, Grey A. How common are symptoms? Evidence from a New Zealand national telephone survey. BMJ Open. 2014;4(6):e005374. doi:10.1136/bmjopen-2014-005374 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24928596/
    2. Haynes RB, Sackett DL, Taylor DW, Gibson ES, Johnson AL. Increased absenteeism from work after detection and labeling of hypertensive patients. New England Journal of Medicine. 1978;299(14):741-744. doi:10.1056/NEJM197810052991403 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/692548/
    3. RESONA-LAB 検査結果報告書(人用・試供品サンプル)の記載による。報告書の見本は公式サイトで公開されています https://resona-lab.com/humans

    本記事は症状の受け取り方を整理したものであり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の検査・製品の効果を示すものでもありません。

  • 「頭痛薬をよく飲む」の“よく”は、月に何日からか

    「頭痛薬をよく飲む」の“よく”は、月に何日からか

    線は月10日です。トリプタンや複合鎮痛薬なら月10日、アセトアミノフェンやイブプロフェンのような単独成分なら月15日。国際的な診断基準に、数字で書かれています。

    そして引かれているのは飲んだ量ではなく、飲んだ日数です。1日に何錠飲んでも、1日と数えます。市販薬の説明書に「何日から」と書かれていないため、この線はほとんど知られていません。

    線は、薬によって違う

    基準は薬の種類ごとに置かれていて、位置が二つに分かれます。

    頭痛薬の服用日数の基準。単純鎮痛薬は月15日以上、トリプタンと複合鎮痛薬は月10日以上
    国際頭痛分類 第3版(ICHD-3)の「薬剤の使用過多による頭痛」の基準。いずれも「3ヵ月を超えて」定期的に続いた場合です。エルゴタミン・オピオイドも10日側に入ります1。

    アセトアミノフェンやイブプロフェンのような単独成分の鎮痛薬は、月15日が線です。片頭痛の薬であるトリプタンは、月10日。

    そして、注意が必要なのが複合鎮痛薬です。こちらも10日側に入ります。

    複合鎮痛薬とは、2種類以上の系統の薬、あるいはカフェインのような補助成分を組み合わせた製剤を指します1。市販の鎮痛薬には無水カフェインなどを含むものが少なくありません。成分表示を見ないと、自分がどちら側の線にいるのか分かりません。

    別の薬に変えても、足される

    ここがいちばん知られていない部分です。

    アセトアミノフェンを月8日、NSAIDを月8日で合計16日となり、15日の基準を超える
    ICHD-3 は「本分類の目的においては、すべての非オピオイド鎮痛薬を一つのクラスとみなす」と明記しています。アセトアミノフェンとNSAIDを使い分けても、日数は合算されます1。

    「同じ薬を続けないように、別のものと交互に使っている」という飲み方は、この基準では回避になりません。

    さらに、どの薬も単独では基準に届かない場合でも、合計で月10日以上になれば該当しうる区分が別に用意されています1。数えるべきは薬ごとの日数ではなく、頭痛のために何か飲んだ日の総数です。

    なぜ日数で線を引くのか

    この基準は「薬が体に悪いから」ではなく、痛み止めを飲む日が多いほど頭痛の日も増える現象があるために引かれています。「薬剤の使用過多による頭痛」と呼ばれます。

    頭痛が月15日以上ある人のうち、半分以上がこの状態にあたると ICHD-3 は記しています1。頻繁な頭痛の背景として、珍しいものではありません。

    日本での頻度については、正直に書いておきます。『頭痛の診療ガイドライン2021』は「わが国における大規模疫学調査は存在しない」と明記しています2。「日本人の何%」という数字は、まだ誰も持っていません。調べられていないことと、頻度が低いことは別です。海外の一般人口を対象とした系統的レビューでも、有病率の推計は0.5〜7.2%と大きく開いています3。

    それでも「やめましょう」とは書けない

    ここまで読むと、自分で薬を止めるという結論に向かいそうになります。この記事はそれを勧めません。理由が三つあります。

    一つ目は、薬によって止め方が違うことです。ガイドラインは、トリプタン・エルゴタミン・NSAIDs・複合鎮痛薬・単純鎮痛薬は重い離脱症状を起こさないため即時中止でよいとする一方、バルビツール、ベンゾジアゼピン、オピオイドを含むものは漸減が最善としています2。市販薬にも鎮静成分を含む製剤があり、自分の飲んでいるものがどちらかを成分表示だけで判断するのは簡単ではありません。

    二つ目は、止めた後に頭痛が来ることです。離脱に伴う頭痛・悪心・嘔吐・睡眠障害などは、通常2〜10日続くとされています2。何も知らずに止めれば、そこで耐えきれず再開することになります。

    三つ目が、構造として最も大きい点です。ガイドラインが挙げる治療の原則は、①原因薬剤の中止、②中止後に起こる頭痛への対処、③予防薬の投与の三つで一組です2。

    薬を飲む日数が増えているとき、その前提には抑えきれていない元の頭痛があります。診断基準自体が「もともと頭痛疾患をもつ患者において」と定めているとおりです1。②と③を用意せずに①だけを実行するのは、原因を残したまま対処だけを取り上げることになります。

    見通しとしては悪い話ではありません。ガイドラインは、離脱により1〜6ヵ月で約70%が改善する一方、4〜6年の追跡で約30%が再発し、その多くは1年以内としています2。7割は良くなり、3割は戻る。一度で終わる話ではありません。

    したがって、この記事が勧めるのは止めることではなく、数えることです。月に何日飲んでいるか。それが分かって初めて、次の判断ができます。

    記録に、もう一つ足すもの

    日数と並べて役に立つのが、自分の頭痛がどういう頭痛なのかという情報です。というのも、線の位置(10日か15日か)は、飲んでいる薬で決まり、飲む薬は頭痛の型で決まるからです。

    医師が片頭痛と緊張型頭痛を分けるとき、意外な項目が使われています。

    痛みの強さではなく、動いたときにどうなるか。これが両者を分ける項目の一つとして、診断基準に書かれています。

    この違いは対処にも表れます。片頭痛について、ガイドラインは発作中の対処として「静かな暗い場所で休む、痛む箇所を冷却する、入浴を控える」を挙げています2。一方、緊張型頭痛では運動プログラムが有効な可能性があるとして、頭痛体操が弱い推奨とされています2。

    片頭痛は発作中に動くと悪化し、緊張型頭痛は体を動かすことが治療の側に入ります。ただし片頭痛でも、発作中と発作のない期間は別です。予防としての有酸素運動は否定されていません2。

    そして重要な前提として、これは自己判定の道具ではありません。診断基準は4項目中2項目以上で満たされる構造で、両者が併存することもガイドラインに記されています2。動作で悪化するかどうかだけでは、分かれません。

    数えている場合ではないとき

    ここまでは、頭痛が続いている場合の話です。次に挙げるものが当てはまるときは、日数を数える段階にありません。

    二次性頭痛を疑うべき所見をまとめた「SNNOOP10」という一覧があります4。発熱を伴う、がんの既往がある、神経症状がある、突然発症した、50歳以降に始まった、頭痛のパターンが変わった、姿勢で変化する、咳やくしゃみで誘発される、進行している、妊娠中・産褥期である、外傷後に始まった、といった項目が並びます。

    そして一覧の最後、15項目目に置かれているのが「鎮痛薬使用過多」です4。頭痛薬を飲む日数が多いこと自体が、二次性頭痛を疑って診てもらうべき状況として挙げられています。

    特に、今まで経験したことがない突然の激しい頭痛は、くも膜下出血の典型的な症状として、ガイドラインに強い推奨・エビデンスの確実性Aで記されています2。頭部CTでの診断率は発症6時間以内なら100%ですが、3日後には85%、7日後には50%まで下がります2。時間が経ってからでは分からなくなります。

    数えるところから始まる

    数えられるものは、思っているより限られています。

    症状の一覧に当てはまるかどうかは、数えたことになりません。9割の人が当てはまるからです。対して「今月、薬を飲んだ日数」は、当てはまる・当てはまらないではなく、日数です。

    同じ形のものがいくつかあります。便通の6項目。家庭血圧の14回分の平均。睡眠休養感。どれも、感覚を数に変える手続きが決まっています。

    頭痛は、受診されにくい症状です。日本の全国調査では、片頭痛のある人の69.4%が頭痛について医師に相談したことがなく、自分の頭痛が片頭痛だと認識していた人は11.6%でした5。1997年の調査ですが、2022年の健保組合を対象とした調査でも受診なしが81.0%と報告されており、構造は大きくは変わっていません6。

    その一方で、ガイドラインは薬剤の使用過多による頭痛は予防可能だとしています2。予防できるのは、線がどこにあるかを知っている場合だけです。

    今日からできるのは、血圧を記録するのと同じように、頭痛のために薬を飲んだ日にしるしをつけることです。飲んだ量ではなく、日にちの数。

    それが月10日を超える月が3ヵ月以上続いているなら、自分で急に止めるのがいちばん危ない選択です。離脱には反跳頭痛が伴うため、いきなり止めると数日は悪化します。その記録があるかどうかで、始め方が変わります。

    参考文献・参考資料

    1. Headache Classification Committee of the International Headache Society (IHS). The International Classification of Headache Disorders, 3rd edition. Cephalalgia. 2018;38(1):1-211. doi:10.1177/0333102417738202 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29368949/ 日本語版(日本頭痛学会):https://www.jhsnet.net/kokusai_new_2019.html
    2. 日本神経学会・日本頭痛学会・日本神経治療学会 監修、「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会 編『頭痛の診療ガイドライン2021』医学書院, 2021年. https://www.jhsnet.net/pdf/guideline_2021.pdf(CQ I-14, CQ II-2-2, CQ III-2, CQ III-7, CQ VI-2, CQ VI-3, CQ VIII-4)
    3. Westergaard ML, Hansen EH, Glümer C, Olesen J, Jensen RH. Definitions of medication-overuse headache in population-based studies and their implications on prevalence estimates: a systematic review. Cephalalgia. 2014;34(6):409-425. doi:10.1177/0333102413512033 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24293089/
    4. Do TP, Remmers A, Schytz HW, et al. Red and orange flags for secondary headaches in clinical practice: SNNOOP10 list. Neurology. 2019;92(3):134-144. doi:10.1212/WNL.0000000000006697 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30587518/
    5. Sakai F, Igarashi H. Prevalence of migraine in Japan: a nationwide survey. Cephalalgia. 1997;17(1):15-22. doi:10.1046/j.1468-2982.1997.1701015.x https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9051330/
    6. Sakai F, Hirata K, Igarashi H, et al. A study to investigate the prevalence of headache disorders and migraine among people registered in a health insurance association in Japan. The Journal of Headache and Pain. 2022;23(1):70. doi:10.1186/s10194-022-01439-3 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35733104/ ※本論文には正誤表があります(doi:10.1186/s10194-022-01529-2)。また著者らは後続論文で、質問票による片頭痛の分類に誤分類があったと報告しています(doi:10.1186/s12883-024-03675-3)

    本記事は診断基準とガイドラインの整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の医薬品・製品の効果や優劣を示すものでもなく、使用を勧めるものでもありません。頭痛の診断と治療方針は医師の判断によります。服用中の薬を自己判断で中止・変更しないでください。

  • 同じものを食べても反応が違う。自分の場合をどう知るか

    同じものを食べても反応が違う。自分の場合をどう知るか

    健康の情報は、たいてい「人は」という主語で語られます。ただ、その平均どおりに反応する人が何割いるかは別の話です。自分の場合をどう確かめるかを整理します。

    集団を調べれば平均は出ますし、平均は判断の出発点になります。ただ、その平均どおりに反応する人が何割いるかは、別の話です。「自分の体を知る」が意味を持つのは、このずれのところです。

    同じものを食べても、同じことが起きるとは限らない

    この話を具体的にしてくれる研究があります。

    ゼエビらは2015年、800人を対象に連続血糖モニタリングを行い、46,898食分の食後血糖の反応を測定しました。そこで観察されたのは、同一の食事に対する反応が人によって大きく異なるということでした。著者らはこの結果から、普遍的な食事推奨の有用性には限りがあるかもしれない、と述べています1。

    ある人にとって血糖を大きく上げる食品が、別の人ではそれほど上げない。パンとバナナのどちらが上げやすいかさえ、人によって逆になりうるのです。「この食品はGI値が高い」という一般則が、個人の反応をそのまま説明するわけではありませんでした。

    研究チームはさらに、血液指標・食習慣・身体計測・身体活動・腸内細菌のデータを統合する機械学習アルゴリズムを作り、個人ごとの食後血糖反応を予測できることを示しました。この予測は独立した100人のコホートでも検証され、アルゴリズムに基づく盲検無作為化介入では、食後の血糖の上がり方がはっきり小さくなり、腸内細菌の構成にも一貫した変化が見られました1。

    ここで気をつけたいのは、この研究が示したのは「個別化は可能かもしれない」という方向性であって、「個別化された食事が長期の健康を改善する」ことではない、という点です。測られたのは食後血糖の反応であり、観察期間も限られています。個別化栄養は有望ですが、確立した実践にはまだなっていません。

    平均は、誰のものでもない

    この隙間は、健康診断の基準範囲にもそのまま現れます。「異常なし」が答えている問いは、思っているより狭いものです。

    この現象自体は、血糖に限った話ではありません。

    集団の平均値は、その集団を要約するには優れていますが、特定の一人を表しているわけではありません。全員が平均から少しずつ違う方向にずれていれば、平均に近い人はむしろ少数になります。

    研究が集団を対象にするのは、そうしないと偶然と区別できないからです。個人の変化だけを見ていては、それが介入によるものか、たまたまかを判定できません。集団を見る方法論は必然であって、その結果として「平均の人」という架空の人物が生まれます。

    だから「エビデンスに基づく」ことと「自分に合っている」ことは、自動的には重なりません。EBMの定義に患者自身の価値観が含まれていたのは、この隙間を埋める部分が最初から必要だと分かっていたからでしょう。

    では、個人について何が分かるのか

    個人の反応を確かめる方法論も、実は存在します。

    N-of-1試験と呼ばれるもので、一人の患者の中で、複数の治療期間を無作為な順序で繰り返し、その人自身における効果を比較します。ドゥアンらは2013年、この手法を患者中心の比較効果研究のための実践的な臨床意思決定の方法論として整理しています2。

    集団のRCTが「平均としてどうか」を答えるのに対し、N-of-1試験は「この人にとってどうか」を答えようとします。同じ無作為化という道具を、対象を変えて使っています。

    もっとも、この方法が使えるのは条件が限られます。症状が慢性的で安定していること、効果が比較的早く現れて中止すれば戻ること、繰り返しの測定ができること。急性の病気や、不可逆な介入には向きません。

    この個人差は、日常の体感にも現れます。食後に眠くなるかどうかが人によって違うのも、同じ話の一部です。

    今日から自分の反応を知る、素朴な方法

    N-of-1試験を自分でやるのは現実的ではありません。ただ、その考え方の一部は日常に持ち込めます。

    体質の違いがはっきり分かっている例としては乳糖不耐症があり、自分で閾値を確かめる余地も比較的大きい領域です。手順としては、次のようなことが効いてきます。ひとつは、一度に一つだけ変えること。サプリメントと運動と睡眠時間を同時に変えれば、何が効いたのかは分からなくなります。これは関連と因果を分ける話と同じ構造で、変数が増えるほど切り分けは難しくなります。

    もうひとつは、比較できる期間を持つことです。「調子がいい」だけでは、何と比べていいのかが分かりません。やめてみる期間、戻してみる期間があると、変化の輪郭が見えてきます。

    そして、変化には時間差があります。食後すぐに出るものもあれば、数日後に出るものもある。記録に時刻が入っていると、この差に気づけます。

    知ることの限界も、知っておく

    ここまで書いておいてなんですが、自分の体について分かることには限界があります。

    体調は多くの要因で動きます。季節、睡眠、ストレス、感染、加齢。ある変化を一つの原因に帰属させたくなりますが、たいていは複数が重なっています。

    測れるものが、大事なものとは限らないという問題もあります。数値化しやすい指標に注意が向き、数値化しにくい変化が見落とされます。体重や血糖は測れますが、集中が続くかどうかや、朝起きたときの感覚は測りにくいものです。後者のほうが本人にとって重要な場合もあります。

    そして、記録すること自体が負担になることもあります。すべてを測ろうとすると、体調に注意を向け続けることになり、それが疲れを生む場合がある。何を測らないかを決めることも、同じくらい実務的な判断になります。

    個人差の中身が、分かっている部分もある

    「人によって違う」は、たいてい曖昧なまま終わります。ただ、中身が酵素名と頻度まで分かっている領域もあります。

    日本人1,003人について5つの薬物代謝酵素の遺伝子型を調べた研究では、理論上483通りの組み合わせのうち139通りが実際に見つかりました。お酒の処理についても、日本人の4割強が働きの弱い側にいることが分かっています。

    個人差があると分かっていることは、「だから確かめる意味がある」という向きに効きます。平均の話が自分に当てはまらないことは、実際にあります。

    「自分の体を知る」を、少し具体的にする

    一つ変えて確かめるときに、抜けやすいものが1つあります。いつまでやるかです。

    医療の中には、その形が実際にあります。皮膚科が金属制限食を指導するときは「2ヶ月続けて無効であれば速やかに中止する」と決められています3。始めるときに、やめる条件が一緒に決まっている。

    期間の長さは、変えるものによって変わります。体内の水銀の量が半分になるまでは約2ヶ月。睡眠の変化なら、もっと短い単位で見えます。

    変えるもの・見るもの・いつまで。この3つが決まっていると、効かなかったときに戻せます。決まっていないと、効いたかどうかも分からないまま続きます。

    結局のところ、この言葉が指しうるものは複数あります。

    検査の数値を知ること。日々の変化のパターンを知ること。何をすると調子が崩れやすいかを知ること。医療者に説明できる形で症状を把握していること。どれも「知る」ですが、必要な手間も、得られるものも違います。

    どれが自分にとって役に立つかは、いま何に困っているかによります。困っていることが特にないなら、網羅的に測る必要もありません。逆に、繰り返す不調があるなら、網羅的に測るより、その一点だけを丁寧に記録するほうが役に立ちます。たとえば頭痛なら、薬を飲んだ日にしるしをつけるだけで、診療の判断に直接使える記録になります。

    参考文献・参考資料

    1. Zeevi D, Korem T, Zmora N, et al. Personalized Nutrition by Prediction of Glycemic Responses. Cell. 2015;163(5):1079-1094. doi:10.1016/j.cell.2015.11.001 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26590418/
    2. Duan N, Kravitz RL, Schmid CH. Single-patient (n-of-1) trials: a pragmatic clinical decision methodology for patient-centered comparative effectiveness research. Journal of Clinical Epidemiology. 2013;66(8 Suppl):S21-S28. doi:10.1016/j.jclinepi.2013.04.006 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23849149/
    3. 足立厚子「金属アレルギーの対処法〜全身型金属アレルギーを中心に〜」アレルギー 2020;69(3):169-173. https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/69/3/69_169/_pdf

    本記事は考え方の整理であり、特定の検査・食事法の推奨や、個別の診断・治療に代わるものではありません。