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  • 残留農薬の心配を、数字で整理する

    残留農薬の心配を、数字で整理する

    残留農薬について、日本では実際にスーパーで食品を買って、調理して、測っています。推定ではありません。

    令和4年度の調査では、8地域のスーパーマーケット等で市販された食品を購入し、必要に応じて調理したうえで14の食品群に分け、48種類の農薬等を分析しています1。

    結果は、許容一日摂取量に対する割合が0.000〜2.954%。いちばん高かったものでも3%に届きません1。

    買って、調理して、測る

    この調査の名前は、マーケットバスケット方式といいます。やっていることは、名前のとおりです。

    令和4年度 食品中の残留農薬等の一日摂取量調査の方法
    内容
    対象 48農薬等(農薬、動物用医薬品、飼料添加物)
    地域 北海道、宮城県、栃木県、東京都、新潟県、大阪府、高知県、長崎県の8地域
    試料 各地域のスーパーマーケット等で市販された食品を購入し、そのまま、あるいは必要に応じて調理した後に分析
    分け方 食品摂取量の地域別平均の分量に従って14の食品群に分別し、群ごとに混合均一化
    体重 令和元年国民健康・栄養調査の1歳以上の平均体重56.3kgで推計

    14の食品群は、米、雑穀・芋、砂糖・菓子、油脂、豆、果実、有色野菜、その他の野菜・漬物・きのこ・海藻、嗜好飲料、魚介、肉・卵、乳、調味料、飲料水です1。

    「調理した後」というところが効いています。洗って、皮をむいて、加熱して。実際に口に入る状態で測っています。

    結果の並び

    残留農薬の対ADI比。最大でも2.954%で、許容一日摂取量に対して大きく下回っていることを示す図
    令和4年度調査で定量された農薬等の対ADI比の範囲1。ADIは、一生涯毎日摂取し続けても健康への悪影響がないと推定される量です。
    定量された農薬等の一部(令和4年度)
    農薬等 ADI(mg/kg体重/日) 平均一日摂取量(µg/人/日) 対ADI比
    グリホサート 1 5.45〜11.08 0.010〜0.020%
    ジノテフラン 0.22 3.31〜5.59 0.027〜0.045%
    アセタミプリド 0.071 0.23〜1.85 0.006〜0.046%
    イミシアホス 0.0005 0.01〜0.83 0.041〜2.954%

    報告書は、推定された対ADI比は0.000〜2.954%であり、国民が一生涯に渡って毎日摂取したとしても健康に影響を生じるおそれはないものと考えられるとしています1。

    そして、全地域・全食品群で定量されなかった農薬等もあります。そちらは検出限界を下回っていたということです1。

    「分かっているもの」と「分かっていないもの」を分ける

    ここが、この記事でいちばん持ち帰れる部分です。

    体に入ってくるものについて、いま日本ではデータの揃い方に大きな差があります。

    入ってくるものと、分かっていることの差
    上限の数字 日本人が実際にどれだけ摂っているか
    残留農薬 ADIあり 毎年、買って測っている
    食品添加物 ADIあり 継続的に推定されている
    PFAS 2024年にTDI設定。ただし海外と最大5,300倍の開き データ収集をこれから進める段階
    マイクロプラスチック なし 測り方が国際的に揃っていない

    「体に悪いものが入ってくる」とひとまとめにすると、この差が消えます。残留農薬は、上限の数字があり、実際の摂取量も測られていて、その結果が公開されている側です。

    不安の総量は変わらなくても、どこに手を打てるかは変わります。

    それでも残る、入る量の不確かさ

    ただし、この調査が答えているのは平均一日摂取量です。

    8地域の食品を、地域別平均の分量に従って混ぜた試料を測っています。平均に一致する人が目の前にどれだけいるかは、別の話です。特定の食品に偏って食べている人の値は、この平均には表れません。

    そして、上の表で見たとおり、測られていない物質、測り方が決まっていない物質もあります。

    調理で減るものもある

    この調査が「買って、調理して、測る」方式をとっているのは、調理で量が変わるからです。

    実際に測られた例があります。乾燥ヒジキの無機ヒ素は、水戻しで5割、ゆで戻しで8割、ゆでこぼしで9割減りました。鉄・カルシウム・食物繊維は7割以上残ります。

    入る量は、食べるかどうかだけで決まるわけではありません。

    入る量が読めないぶんは、出す側で決まる

    ただし、この物質について言えば読めない部分は小さいほうです。対ADI比0.000〜2.954%という数字は、上限まで距離があることを示しています。

    同じ「検出された」でも、距離は桁で違います。添加物は最も高いもので17.2%、カドミウムは平均35%・95パーセンタイルで67%。心配の総量を等分に配る理由はありません。

    入ってくるものを全部把握することはできません。測られているものもあれば、これから測るものもあり、測り方が決まっていないものもあります。

    その状態で体に残る量を決めているのは、入る量と出る量の差のほうです。

    体の出口は尿と便の2つあります。水に溶ける形になったものは腎臓から尿へ。尿から出せないものは、肝臓が胆汁に乗せて便へ送ります。医学の教科書は、胆汁をそうした物質の主要排泄経路と書いていて、そこに出されるものに重金属が挙げられています。

    入口の側は、選べる範囲が限られています。出口の側は、毎日動いています。

    そして、残留農薬については確かめられることが1つあります。対ADI比の数字は毎年測り直されて公表されています。気になる農薬の名前があるなら、その年の報告書で自分の目で位置を確かめられます。不安の大きさではなく、数字の桁で見られる話です。

    参考文献・参考資料

    1. 厚生労働省「令和4年度 食品中の残留農薬等の一日摂取量調査結果」 https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/pesticide_residues/assets/001166921.pdf(調査方法 p.1、調査結果 p.2、別表1)

    本記事は公的な調査結果の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の食品・製品・農法の優劣を示すものでも、選択を勧めるものでもありません。記載の数値は調査年度の平均一日摂取量であり、個人の摂取量がそのまま当てはまるわけではありません。

  • PFASを、いまどこまで気にすればいいか

    PFASを、いまどこまで気にすればいいか

    食品安全委員会は2024年6月25日、PFOSとPFOAの耐容一日摂取量を20 ng/kg体重/日と定めました1。日本で初めて、PFASに数字が引かれたことになります。

    ただし同じ評価書に、こう書かれています。海外評価機関が採用しているエンドポイント(どの健康影響を基準に置くか)及び指標値は大きく異なり、PFOSで約600倍、PFOAで約5,300倍。現時点では、国際的に整合性の取れた健康影響評価が確立されている状況ではない1。

    線は引かれました。ただし、その線がどこにあるかについて、世界の合意はありません。

    どうやって20という数字が出たのか

    耐容一日摂取量(TDI)は、毎日摂取し続けても健康への悪影響がないと推定される、一日当たりの摂取量です1。

    出し方は、食品添加物の一日摂取許容量と同じ考え方です。動物試験で影響が出なかった量を出発点にして、種の差と個人の差を見込んだ係数で割ります。

    PFOS・PFOAのTDI算出
    PFOS PFOA
    出発点 ラット2世代試験の児動物の体重増加抑制 マウス試験の胎児の骨化部位数の減少など
    ヒト等価用量 500〜600 ng/kg体重/日 5,300 ng/kg体重/日
    不確実係数 30(種間3×種内10) 300(種間3×種内10×LOAEL使用10)
    TDI 20 ng/kg体重/日 20 ng/kg体重/日

    出発点の値は10倍近く違うのに、TDIは同じ20に落ち着いています。不確実係数が30と300で違うためです。数字が同じでも、その後ろにある確からしさは同じではありません。

    600倍と5,300倍という開き

    ここが、この評価書でいちばん正直な部分です。

    海外評価機関の指標値がPFOSで約600倍、PFOAで約5,300倍の開きがあることを示す図
    評価書が記している、海外評価機関の指標値の開き1。同じ物質について、機関ごとにこれだけ違う値が出されています。

    同じ物質について、機関ごとに採用する試験も指標値も違い、その幅がPFOAでは5,300倍に達しています。「エビデンスがある」と言うとき、何を指しているのかという問題が、そのまま出ている状態です。

    そして評価書は、将来的に科学的知見が集積してくればTDIを見直す根拠となる可能性はあると書いています1。いまの20という数字も、確定したものではありません。

    評価できなかったものがある

    PFASは総称で、多くの種類があります。今回、指標値が出たのはPFOSとPFOAの2つです。

    PFHxSについては、「評価を行う十分な知見は得られていない」として、指標値の算出は困難と判断されました1。

    また、EFSAは2020年にPFOS・PFOA・PFHxS・PFNAの合計値で指標を設定していますが、食品安全委員会は複数のPFAS分子種による複合ばく露について、動物試験でも疫学調査でも知見がほとんどないとして、合算での設定を採っていません1。

    自分がどこにいるかは、まだ分からない

    線が引かれても、自分がその線のどちら側にいるかは別の問題です。

    評価書は、今後必要なこととしてこう挙げています。摂取量・ばく露量の分布、高ばく露の個人や集団の把握、摂取・ばく露経路の推定についての情報。そして、飲料水や食品におけるPFAS濃度の分布に関するデータ収集を早急に進めることが必要である1。

    つまり日本人が実際にどれだけ摂っているかの全体像は、これから集める段階にあります。

    これはマイクロプラスチックと同じ構造です。線が引かれたかどうかの違いはありますが、「自分がいまどれだけ入れているか」を確かめる手段が手元にないという点は共通しています。

    入る量が分からないとき、何が残るか

    入口の側について、分かっていることがあります。PFASは撥水・撥油加工に使われてきたため、フライパンのコーティング、撥水加工の衣類、包装紙が経路として挙げられます。

    ここは金属の入口の一覧と並べると位置がはっきりします。金属には、魚種ごとの摂食目安も、水質基準も、耐容週間摂取量もあります。PFASには、日本のTDIという数字が1つあるだけで、自分の摂取量を知る手段がありません。

    そして、入口を完全には閉じられません。この点はマイクロプラスチックと同じ構造です。

    PFASは、分解されにくいことから対策が議論されている物質群です。入口を特定して減らす取り組みは、使用規制や排出源対策として国の側で進みます。

    個人の側で残るのは、入った分をどれだけ処理して外へ出せているかのほうです。

    体の出口は尿と便の2つあります。水に溶ける形になったものは腎臓から尿へ、尿から出せないものは肝臓が胆汁に乗せて便へ送ります。入る量を自分で測れないときほど、この差が効いてきます。

    そして胆汁を介した経路の終点は便です。その通過に関わる食物繊維は、日本人がすでに目標量に届いていない項目でした。

    参考文献・参考資料

    1. 内閣府食品安全委員会「有機フッ素化合物(PFAS)の食品健康影響評価について」2024年6月25日 https://www.fsc.go.jp/osirase/pfas_health_assessment.data/pfas_hyoukagaiyou.pdf 評価に関する情報ページ

    本記事は公的機関の評価書の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の製品・検査・浄水器などの効果を示すものでも、使用を勧めるものでもありません。PFASの健康影響評価は国際的に確立しておらず、記載の指標値は今後見直される可能性があります。居住地域の水道水質については、各自治体の公表資料をご確認ください。

  • マイクロプラスチックに、いま現実的にできること

    マイクロプラスチックに、いま現実的にできること

    マイクロプラスチックについて、「体内にどれだけ溜まると危ないか」という線を、まだ誰も引けていません。害がないと分かったからではなく、測り方が国際的に揃っていないからです。

    米国FDAは2024年7月の更新で、「食品中で検出されているレベルが人の健康にリスクをもたらすことを、現在の科学的根拠は示していない」としています。ただし同じページで、その評価を制限している要因も挙げています。標準化された定義、参照物質、試料の採取・調製手順が欠けていることです1。

    つまり「安全だと確かめた」ではなく、「比べられる形で測れていない」という段階にあります。

    入口は3つ挙げられている

    FDAは曝露経路として、空気、食べもの、そしてパーソナルケア製品の使用による皮膚からの吸収を挙げています1。

    ただし3つめについては、成分によって結果が分かれています。日焼け止めの場合、無機の散乱剤は角層の外層より奥へ到達しなかったという報告が大半で、逆に有機の吸収剤は血中に出ることが測定されています。「皮膚から入る」も、物質ごとに分けないと答えが出ません。

    食品については、食塩、魚介類、砂糖、ビール、ボトル入り飲料水などでの検出が報告されています。ただしFDAは、これらについて定量値を示していません。研究ごとに分析方法が違い、比較が困難だからです1。

    ここが、他の体内蓄積の話と決定的に違うところです。鉛と水銀なら、入口が具体的に分かっています。食品添加物なら、一日摂取許容量が決まっていて、日本人の実際の摂取量も毎年推定されています。

    マイクロプラスチックには、そのどちらもありません。

    同じプラスチック由来でも、フタル酸エステル類には物質ごとの耐容一日摂取量があり、2025年6月からポジティブリスト制度が完全施行されています。「プラスチック容器」という1つの入口の中に、答えが出ているものと出ていないものが混ざっています。

    日本の現状認識

    日本学術会議は、提言「マイクロプラスチックによる水環境汚染の生態・健康影響研究の必要性とプラスチックのガバナンス」で、現状をこう書いています2。

    日本学術会議の提言が示している現状
    記述
    可能性として指摘されていること ナノサイズのプラスチックが細胞膜を通過して、生物組織を傷害する可能性がある
    調査の状況 吸着・含有された有害物質による生物への毒性影響の調査事例は少ない
    リスク評価 環境および健康リスク評価は全く行われていない

    「危険だと分かっている」でも「安全だと分かっている」でもありません。評価そのものが行われていない、という第三の状態です。

    欧州食品安全機関(EFSA)は健康リスク評価を開始していて、結果の公表は2027年末までとされています3。線が引かれるとしても、まだ先です。

    入口を全部は閉じられない

    ここから先が、実際に手を動かせる部分です。

    入口を減らす方向は、いくつかあります。飲料の容器を選ぶ、加熱にプラスチック容器を使わない、パーソナルケア製品の成分表示を見る。どれも意味はあります。

    ただし空気が経路に入っている時点で、入る量を自分で完全に管理することはできません。屋内の繊維やほこりからも入ります。減らせても、ゼロにはなりません。

    入る量を減らしても完全には閉じられず、体に残る量は処理して出す側で決まることを示す図
    入口は減らせますが、閉じきることはできません。残る量を決めているのは、入る量と出る量の差のほうです。

    だとすると、実際に体に残る量を決めているのは、入る量だけではありません。入った分をどれだけ処理して外へ出せているか、その差のほうです。

    出す側は、実在する仕組みである

    「デトックス」という言葉は、いま扱いにくい状態にあります。物質名が書かれていない「毒素」を出すという商品や施術が多く、出たかどうかを誰も確かめられないからです。

    ただ、そこで話を止めると、出す側そのものが無かったことになります。実際には、経路ははっきり分かっています。

    体が不要なものを外へ出す経路
    経路 担っているもの
    尿 腎臓。水に溶ける形になったものを濾し出す
    便 肝臓がつくる胆汁。尿からは出せない物質を便側へ送り出す
    変換 肝臓の第I相・第II相。脂に溶けやすい物質を、水に溶ける形へ変える

    肝臓の主な働きは八つ以上あり、そのうちの一つが「胆汁をつくる」ことです。その役割は、尿からは出せない物質を便の側へ送り出すこと。つまり出口は尿だけではありません。

    そしてこの二段階の変換には、注意点があります。第一相でできる中間産物は、元の物質より反応しやすく、場合によっては毒性が強くなります。第二相が追いつかなければ、その中間産物のほうが問題を起こしうる。「解毒力を高める」という言い方が分かりにくいのは、この構造のためです。

    測れないものと、測れるもの

    この「測れなさ」は、検査の側にもそのまま現れています。

    RESONA-LABの結果報告書は、体内蓄積の欄を3つに分けています。重金属は9種の項目名が並び、添加物はE番号で並ぶ。そしてプラスチック蓄積の欄には、「準備中・・・」とだけ書かれています4。

    ここは正直な表示です。金属には、入口ごとの公的な基準や摂取量調査があります。添加物には一日摂取許容量があり、日本人の摂取量も毎年推定されています。マイクロプラスチックには、そのどちらもありません。FDAが定義も参照物質も採取手順も揃っていないと書いているとおりです。

    つまり「まだ測れない」という状態が、そのまま欄に書かれているということです。埋まっている欄と、埋まっていない欄の違いは、体の側ではなく、測る技術の側にあります。

    マイクロプラスチックは、いまのところ入る量も、体内の量も、比べられる形では測れません。線も引かれていません。

    その状態で自分に対してできることは、2つに分かれます。

    入口の側。容器、加熱、パーソナルケア製品。減らせますが、空気が入っている以上、閉じきれません。

    出口の側。尿と便という経路は実在し、肝臓・腎臓・腸が関わっています。便として出す経路は、食物繊維の量に影響されます。そしてその処理に必要な栄養素が足りているかは、確かめられる項目です。

    ほかの入口にどこまで数字があるかは、入ってくるものと、出す力で比べられます。

    入る量が測れないときほど、出す側が働いているかどうかが効いてきます。入口を完全には閉じられないからこそ、そちらが残りの量を決めます。

    参考文献・参考資料

    1. U.S. Food and Drug Administration. Microplastics and Nanoplastics in Foods.(最終更新 2024年7月24日) https://www.fda.gov/food/environmental-contaminants-food/microplastics-and-nanoplastics-foods
    2. 日本学術会議 提言「マイクロプラスチックによる水環境汚染の生態・健康影響研究の必要性とプラスチックのガバナンス」 https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/kohyo-24-t288-1-abstract.html 提言本文(PDF)
    3. 欧州食品安全機関(EFSA)はマイクロプラスチックの健康リスク評価を開始しており、結果の公表は2027年末までとされています。
    4. RESONA-LAB 検査結果報告書(人用・試供品サンプル)の記載による。報告書の見本は公式サイトで公開されています https://resona-lab.com/humans

    本記事は公的機関・学術団体の公開資料の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の製品・検査・食事法の効果を示すものでも、使用を勧めるものでもありません。マイクロプラスチックの健康影響については評価が進行中であり、記載の内容は今後変わる可能性があります。

  • 寝る前のコーヒー1杯は、すでに線を超えている

    寝る前のコーヒー1杯は、すでに線を超えている

    日本は、カフェインの1日の目安を示していません。感受性の個人差が大きく、健康への影響を正確に評価することが難しいから、というのがその理由です。

    数字を出しているのは海外で、健康な成人は1日400mg・1回200mgでほぼ一致しています。コーヒーなら200mLのマグカップで約120mg、3杯強です。

    ただし寝る前の1杯は、すでに別の線を超えています。就寝直前の100mgで睡眠障害が起きうる、という報告があります。

    日本が数字を出していない理由

    農林水産省のカフェインのページには、こう書かれています。「日本では、明確な基準や具体的な摂取量の目安は示していないものの、海外における情報に基づき、農林水産省のほか、以下の機関から情報発信をしています」1。

    内閣府食品安全委員会のファクトシートは、もう一歩踏み込んで書いています。「カフェインに対する感受性は個人差が大きいため、健康に及ぼす影響を正確に評価することは難しく、カフェインの一日摂取許容量(ADI)は設定されていません」2。

    調べた結果、一つの数字にすると実態から外れるという判断になった、ということです。同じ量で眠れなくなる人と、何ともない人がいます。

    同じものを食べても反応が人によって違うのと同じで、集団の平均で線を引いても、その線が自分に当てはまる保証はありません。

    海外の数字は、そろっている

    一方、海外の機関は具体的な値を出しています。しかも、健康な成人についてはほぼ一致しています1。

    各機関が示しているカフェイン摂取量の目安(上限)
    機関 健康な成人 妊婦・授乳婦
    欧州食品安全機関(EFSA)2015年 1日400mg/1回200mg 1日200mg
    米国食品医薬品局(FDA) 1日400mg かかりつけ医に相談
    カナダ保健省 1日400mg(18歳以上) 1日300mg
    オーストラリア・ニュージーランド食品基準局(FSANZ) 1日400mg/1回200mg(18歳以上) 1日200mg
    世界保健機関(WHO)2016年 — 1日300mg以上で摂取量を減らすよう注意喚起

    成人の1日400mgは、4つの機関で一致しています。分かれるのは妊婦の値で、200mgと300mgに割れています。18歳未満については、体重1kgあたり2.5〜3mgで示されています1。

    400mgは、何杯なのか

    ここを、日本の数字で換算します。文部科学省『日本食品標準成分表2020年版(八訂)』の値です1。

    100mLあたりのカフェイン量。玉露160mg、コーヒー60mg、紅茶30mg、せん茶20mg
    浸出液100mLあたりのカフェイン量1。ほうじ茶・ウーロン茶も20mg、番茶は10mgです。玉露は茶葉10gを60℃の湯60mLで2.5分という濃い出し方のため、この値になります。

    いちばん濃いのは玉露です。コーヒーの約2.7倍。一度に飲む量は少なくても、「お茶だから軽い」とは言えません。

    コーヒーは60mg/100mL。200mLのマグカップで約120mgになります。400mgは3杯強という計算です。

    エナジードリンクや眠気覚まし用の飲料は、農林水産省が2026年7月に市販12製品の成分表示を調べたところ、1本あたり50〜170mgでした1。製品によって3倍以上の幅があります。

    夜、眠れないのはどの量からか

    就寝直前であれば、100mgから睡眠に影響が出ることがあります。1日の総量とは別の話です。

    オーストリア保健・食品安全局(AGES)が2017年に公表したエナジードリンクの健康リスク評価は、こう述べています。「就寝直前に、1回当たり100mg(体重70kgの成人の場合:約1.4mg/kg体重)のカフェイン摂取は、一部の成人で睡眠障害を引き起こす可能性がある」2。

    カフェイン量の目安。就寝直前100mg、コーヒー1杯120mg、1回の目安200mg、1日の目安400mg
    各機関が挙げている量と、コーヒー1杯(200mLのマグカップ)の位置12。1日の上限にはまだ余裕があっても、寝る前の1杯はすでに睡眠に影響しうる量を超えています。

    1杯で超えます。1日の総量では余裕があっても、飲んだ時刻のほうで効いてくる、ということです。

    ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)も、「一部のヒトはコーヒー1杯でも睡眠障害を生じることもある」と書いています2。

    公的な睡眠指針が見ている「質」は、朝の休養感でした。寝つきや中途覚醒に心当たりがあるなら、杯数より最後の1杯が何時だったかのほうが確かめやすい項目です。

    知らないうちに重なる

    カフェインが入っているのは、コーヒーと茶だけではありません。農林水産省は、風邪薬・眠気防止薬・酔い止め薬といった市販の医薬品にも含まれていることがあると書いています1。

    そのうえで、次の2つを挙げています1。

    • カフェインを含む医薬品を服用するときは、エナジードリンクやコーヒー、お茶と一緒に飲むことを避ける
    • エナジードリンクなどカフェインを多く含む飲料と、アルコールを一緒に摂らない

    後者について、米国疾病予防管理センター(CDC)は理由を説明しています。カフェインがアルコールによる機能低下を隠すため、思った以上に飲んでしまう可能性がある。そしてカフェインはアルコールの代謝に影響しないので、血中のアルコール濃度は下がりません1。

    お酒を飲んだ日の睡眠にも別のことが起きているので、この2つが重なった日は、翌朝の状態が読みにくくなります。

    粉末は、まったく別の話

    高純度・高濃度のカフェイン粉末は、飲み物とはまったく別の話です。含まれる量の桁が違います。

    米国食品医薬品局(FDA)は、高純度のカフェイン粉末では小さじ1杯にコーヒー28杯分、液体の高濃度製品では半カップでコーヒー20杯分以上のカフェインが含まれると説明しています1。

    安全な量と有害な量の差が非常に小さく、台所用の計量器具では正確に量れない。これを理由に、FDAは2018年、粉末や液体の高純度・高濃度カフェインを大量包装で消費者に直接販売することを違法とみなすガイダンスを出しました1。

    ドイツでは、ティースプーン2杯(約9g)の高濃度カフェイン粉末を摂取した若い女性が急性中毒で死亡した例が報告されています1。

    自分の感受性のほうを見る

    この記事で見てきた数字の作られ方は、他の物質と同じ形をしています。

    食品添加物の一日摂取許容量は、動物実験で影響が出なかった量を100で割って作られています。カドミウムの耐容週間摂取量は、腎臓への影響を指標に置かれています。上限の数字には、必ず「何を守るために置いたか」があります。

    カフェインの場合、日本には上限値が設定されていません。だからこの記事で並べたのは、他国の機関が置いた数字でした。数字を見るときは、誰が、何を守るために置いたかを一緒に見ます。

    日本に数字がないのは、決めていないからではなく、一つの数字では合わないという判断の結果でした。

    だとすると、使える情報は2つになります。ひとつは、海外機関が示している400mgという枠。もうひとつは、自分がその枠のどこで反応するかです。

    コーヒー1杯で眠れなくなる人がいることは、公的な資料にも書かれていました。その場合、正しい上限は400mgではありません。一度に一つだけ変えて、変化を記録する。最後の1杯の時刻を2時間早めてみて、朝の感覚が変わるかを見る。確かめ方はそちらになります。

    めまい、心拍数の増加、興奮、不安、震え、不眠、下痢や吐き気。これらは農林水産省が過剰摂取の影響として挙げている症状です1。減らして消えるならカフェインが原因で、消えないなら別のものです。そこは自分で切り分けられます。

    参考文献・参考資料

    1. 農林水産省「カフェインの過剰摂取について」(作成 2015年12月25日/最終更新 2026年8月28日) https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/hazard_chem/caffeine.html
    2. 内閣府食品安全委員会「ファクトシート 食品中のカフェイン」(作成 2011年3月31日/最終更新 2018年2月23日) https://www.fsc.go.jp/factsheets/index.data/factsheets_caffeine.pdf

    本記事は公的機関の公開資料の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の食品・飲料・製品の効果を示すものでも、使用を勧めるものでもありません。カフェインへの感受性には大きな個人差があり、記載の数値がそのまま当てはまるとは限りません。

  • 夕方のむくみが、受診すべきものかを見分ける

    夕方のむくみが、受診すべきものかを見分ける

    夕方、靴がきつい。ふくらはぎを指で押すと少しへこむ。朝には戻っている。この変動が受診すべきものかどうかは、見分けられます。

    この一日のうちの変動の多くは、立って過ごしたという条件がそのまま出ているだけです。体のどこかが壊れて起きているわけではありません。

    10時間座ると、片脚に145mL増える

    どれくらい増えるのかは、実測されています。

    10時間の座位で下腿容積が109mL・145mL増え、8時間の座位でふくらはぎ2.4%・足首2.7%・筋の細胞外水分10.1%増えたことを示す図
    航空機の座席を再現した実験1。血管の太さや血流の速さには変化が確かめられず、翌日には元に戻っています。オフィスに近い条件の8時間座位でも、ふくらはぎの周囲径が2.4%、足首が2.7%、下肢の筋肉の細胞外水分量が10.1%増えました2。

    なぜ、立っていると水が出るのか

    血液の水分は、毛細血管の壁を通って組織側へ少しずつ染み出しています。押し出す力(血圧に由来する圧)と、引き戻す力(血液中のたんぱく質による浸透圧)のつり合いで、その量が決まります。

    立っていると、重力の分だけ脚の毛細血管の圧が上がります。押し出す側が強くなるので、染み出す量が増える。これが夕方のむくみの主な出どころです。

    ひとつ補足しておくと、「動脈側で染み出して静脈側で吸い戻される」という説明は、教科書で長く使われてきましたが、現在は修正されています。2010年の総説によれば、多くの組織で持続的な再吸収は起きておらず、染み出した水を回収しているのは主にリンパ系です3。

    夕方に脚がむくむのは、「回収が追いつかない」状態にあたります。

    ふくらはぎが、回収を助けている

    脚の静脈は、下から上へ血液を戻さなければなりません。心臓の力だけでは足りず、ふくらはぎの筋肉の収縮がポンプとして働いています。

    だから、動かない時間が長いほど不利になります。先ほどの8時間座位の実験では、低圧の着圧衣を片脚だけに着けると、周囲径の増加も、組織にたまった水分の増加も、はっきり抑えられました2。外から圧をかけることで、動かないぶんを部分的に補えたことになります。

    逆に言えば、席を立って歩く、かかとを上げ下げするといった動作は、この筋ポンプを使っていることになります。

    朝に戻っているのは、横になったから

    寝ると重力の向きが変わり、脚に溜まっていた水分は体の上方へ移動します。

    戻る量にも、日中の過ごし方が出ます。夜間の脚の水分量の変化は、前日に座っていた時間と強く相関していました(r = −0.588)4。日中に脚へ溜め込んだぶんが、横になると移動します。

    朝に元通りなのは、体が夜のあいだに回復したというより、姿勢が変わって配分が戻った、という理解のほうが近いでしょう。

    「むくみ=水分の摂りすぎ」ではない

    逆に、足りない側が関係することはあります。カリウムです。

    カリウムは細胞内外の水分バランスを保つミネラルで、ナトリウムの排出を助けています。不足したときに挙げられる症状に、倦怠感と並んでむくみが入っています7。

    ただしカリウムは、血液の数値で足りているかを判定できない栄養素です。血中濃度は体が厳しく調節しているので、摂取量とは別に決まります。食事摂取基準も、ナトリウムについては24時間尿からの推定という方法を挙げています。

    主な供給源は、果物(バナナ・メロン)、いも類、豆類。ここは「測って確かめる」ではなく「入れる側を見る」に切り替わる場所です。

    そして腎臓の側の事情もあります。腎臓は1日に200リットルを濾過して、その1%未満だけを尿として出しています。体の中の水の量を決めているのはこの回収の側で、夕方のむくみもその調整の一部です。

    むくむから水を控える、という対処をよく聞きます。ただ、ここまで見てきた仕組みは、飲んだ水の総量ではなく、姿勢と重力と筋ポンプの話でした。

    水を控えれば体液量は減りますが、重力で脚に水が移動することは止まりません。水の量については別の記事で整理しています。少なくともむくみ対策として水を減らすのは、狙う場所がずれています。

    また、薬が原因のこともあります。カルシウム拮抗薬という降圧薬では、末梢の浮腫の発生率が10.7%(対照3.2%)と報告されています5。細動脈が広がって毛細血管内の圧が上がるためで、ここまで説明してきた経路と同じです。

    水が血管から出て、どこで回収されるのか。その経路をイラストで追った解説があります。


    受診したほうがいい場合

    ここまでは、両脚に起こり、夜のうちに戻るタイプの話です。次の場合は当てはまりません。

    片脚だけが急に腫れた場合は、すぐに医療機関で確認してください。深部静脈血栓症の可能性があり、急ぐ判断が必要になります6。

    そのほか、息切れを伴う、朝になっても引かない、押した跡が長く残る、体重が短期間に増えた、片側だけの腫れが続く、といった場合も受診の対象になります。心臓・腎臓・肝臓・甲状腺の状態が関わることがあり、これらはどれも、体液の量を調整している臓器です。

    むくみは、その日の過ごし方の記録

    夕方に脚がむくむのは、立っていた時間、座っていた時間、動かなかった時間の合計が形になったものです。

    だから、毎日夕方にむくんで朝に戻るなら、体の異常というより条件の反映と見てよいでしょう。逆に、そのパターンから外れたとき——片側だけ、戻らない、急に、というときが、確認すべきタイミングになります。

    参考文献・参考資料

    1. Mittermayr M, Fries D, Gruber H, et al. Leg edema formation and venous blood flow velocity during a simulated long-haul flight. Thrombosis Research. 2007;120(4):497-504. doi:10.1016/j.thromres.2006.12.012 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17250877/
    2. Kurosawa Y, Nirengi S, Tabata I, Isaka T, Clark JF, Hamaoka T. Effects of Prolonged Sitting with or without Elastic Garments on Limb Volume, Arterial Blood Flow, and Muscle Oxygenation. Medicine & Science in Sports & Exercise. 2022;54(3):399-407. doi:10.1249/MSS.0000000000002822 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34711709/
    3. Levick JR, Michel CC. Microvascular fluid exchange and the revised Starling principle. Cardiovascular Research. 2010;87(2):198-210. doi:10.1093/cvr/cvq062 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20200043/
    4. Redolfi S, Yumino D, Ruttanaumpawan P, et al. Relationship between overnight rostral fluid shift and obstructive sleep apnea in nonobese men. American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine. 2009;179(3):241-246. doi:10.1164/rccm.200807-1076OC https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19011149/
    5. Makani H, Bangalore S, Romero J, et al. Peripheral edema associated with calcium channel blockers: incidence and withdrawal rate—a meta-analysis of randomized trials. Journal of Hypertension. 2011;29(7):1270-1280. doi:10.1097/HJH.0b013e3283472643 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21558959/
    6. Patel H, Skok C, DeMarco A. Peripheral Edema: Evaluation and Management in Primary Care. American Family Physician. 2022;106(5):557-564. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36379502/
    7. RESONA-LAB 検査結果報告書(人用・試供品サンプル)の記載による。報告書の見本は公式サイトで公開されています https://resona-lab.com/humans

    本記事は生理学的な仕組みと研究状況の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。降圧薬などの服用中にむくみが出た場合も、自己判断で中止しないでください。

  • 水の量は、渇きと尿の色で決まる

    水の量は、渇きと尿の色で決まる

    「水は1日2リットル」という目安を、どこかで見たことがあると思います。この数字がどこから来たのかを辿ると、自分に必要な量の決め方が見えてきます。

    英語圏には「8オンスのコップで1日8杯」という目安があります。「8×8ルール」と呼ばれるものです。

    日本では、この「8×8」という言い方はほとんど使われません。代わりに見かけるのが「水は1日2リットル」です。

    指している量は近いものです。8オンスは約240ミリリットル。8杯で約1.9リットルになります。ただし、日本の「1日2リットル」がこの8×8から来たのかどうかは、たどれる資料が見つかりませんでした。量が近いことと、出どころが同じであることは別の話です。

    ここで確かめられるのは、出どころではなく中身のほうです。1日2リットルという量に、どれだけの裏づけがあるのか。

    日本の基準は、水の量を定めていません

    厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」には、水の項目があります。ただし章の扱いは「(参考)」で、結論はこう書かれています。「以上より、水の目安量は定めず、本項は参考資料に留めることとした」4。

    定めなかった理由として、算出に使った値は必要量ではないこと、方法の妥当性の検証が要ること、日本人の身体活動レベル別のデータがないことなどが挙げられています4。

    元になった「8×8」のほうも同じです。2002年に文献をたどって検証した報告では、これを支持する科学的研究は見つかりませんでした1。健康な成人全員に同じ一つの量を当てはめる根拠は、どこにも見当たりませんでした。

    「2リットル」が数えているのは、飲みものだけではありません

    もうひとつ、この数字には抜け落ちた前提があります。

    起源のひとつとされているのが、1945年のアメリカの勧告です2。そこには「成人にとって適切な水の量は、たいていの場合1日2.5リットルである」と書かれていました。問題は、その次の一文です。

    「この量の大部分は、調理された食品に含まれている」2

    後半を落として前半だけを引くと、食べ物の水も数えた合計だったはずの量が、「飲む水の量」に変わります。この勧告が「1日2リットル」の出どころだと書いた資料は、確認できていません。ただ、合計を飲水量として読む間違いが、この分野で起きてきたことは確かです。

    この考え方は、その後の基準にも引き継がれています。アメリカが2004年に公表した栄養の基準は、水分が足りている成人の1日の摂取量を男性で約3.7リットル、女性で約2.7リットルとしました。飲みものと食べ物を合わせた合計で、そのうち約20%は食べ物から来ているという内訳つきです3。同じ発表で、策定した側は「1日にコップ何杯」という目安は示さないと明言しています3。

    そして日本では、その割合がもっと大きくなります。

    日本人が摂る水分の内訳。食事から51%、飲みものから49%。「1日2L」が数えているのは飲みもの側だけであることを示す図
    日本人の水分摂取の内訳4。米や麺類はパンより水分を多く含みます。フランスや英国では、食事由来はおよそ20〜40%とされています4。

    日本の食事は、水分の約半分を供給しています。海外で作られた数字をそのまま飲水量の目標にすると、多く見積もりすぎることになります。

    毎日確かめられるのは、渇きと尿の色

    毎日見るものが2つあります。渇きと、尿の色です。

    ひとつは渇きです。米国の基準を作った側が、健康な人については渇きを目安にしてよいと明記しています3。

    もうひとつは尿です。色が濃い、量が少ない、回数が減ったという変化は、飲む量が足りていない可能性を示します。腎臓は尿を濃くしたり薄くしたりして体液の量を調整しているので、その出力を見ていることになります。

    そして、暑い日、運動した日、発熱した日は別扱いです。固定の数字より、条件に応じて増やすほうが理にかなっています。

    量より先に、蛇口の話がある

    飲む量の議論の手前に、確かめられることがもう1つあります。何が溶けている水かです。

    日本の水道水には水質基準があり、鉛は0.01mg/L以下、総トリハロメタンは0.1mg/L以下と定められています7。基準内で運用されています。

    そのうえで、皮膚科が金属制限食を指導するときの項目に、具体的な手順が1つ入っています。「水道水は流し始めの5分間は使用しないこと」8。

    理由は配管です。止まっていた水は管の中に長く接していた分だけ、溶け出したものを含みます。流してから使えば、その分は減ります。同じ指導には「缶詰食品・缶詰飲料を摂取しない」「ステンレス製品やメッキ製品の調理器具を避ける」も並んでいます8。

    これは金属アレルギーの患者に対する指導なので、全員がやることではありません。ただ蓄積の入口として水道水が挙がっているときに、実際に手が動く場所がどこかは、はっきりしています。量ではなく、最初の5分です。

    もう1つ、浄水器の側にも法定の表示があります。除去対象物質12項目には溶解性鉛と総トリハロメタンが含まれ、総ろ過水量は「除去率が80%に低下するまで」を含む2つの条件の早いほうで決まっています。

    「もっと飲む」ことの効果は、どこまで確かめられているか

    ここまでは「足りているか」の話でした。では、足りている人がさらに増やすと何か良いことがあるのか。

    水分摂取量を変える無作為化比較試験は1,464件中18件しかなかったことを示す図
    2024年の系統的レビュー5。体重減少と尿路結石の再発予防では有益な結果が出ていますが、著者らは「臨床試験の数は限られており、エビデンスの質と量には限りがある」と結論しています。

    結石については、さらに厳密に調べた評価があります。それによると、結石になったことがない人の予防については、比較試験がひとつも見つかりませんでした6。すでに結石になったことがある人では再発が減る可能性が示されていますが、確実性は低いと評価されています。

    「結石の予防には水をたくさん」とよく言われます。確かめられているのは、いまのところ再発の側だけです。

    この区別は、健康情報を読むときに何度も出てきます。「エビデンスがない」が何を意味するのかは、別の記事で整理しました。

    ただし、例外があります

    ここまでは健康な人の話です。

    腎臓や心臓の疾患で治療中の人は、水分量が個別に決められています。この記事の範囲の外です。この記事の内容は当てはまりません。

    また、水は多ければ多いほどよいものでもありません。極端に大量の水を短時間に摂ると、血中のナトリウムが薄まり、低ナトリウム血症を起こすことがあります。持久系のスポーツで報告されています。

    数字が消えても、困らない

    「1日2リットル」は、覚えやすく、達成したかどうかが分かりやすい。だから広まりました。

    ただ、その数字の元をたどると、食品に含まれる水を数えていた勧告から後半が落ちたものでした。日本の基準はそもそも数値を置いていません。そして日本の食事は、水分の半分を食べ物から供給しています。

    見るのは渇きと尿の色です。どちらも、その日の気温や運動量、体の大きさを織り込んだうえで変わります。固定の数字にはそれができません。

    参考文献・参考資料

    1. Valtin H. “Drink at least eight glasses of water a day.” Really? Is there scientific evidence for “8 × 8”? American Journal of Physiology-Regulatory, Integrative and Comparative Physiology. 2002;283(5):R993-R1004. doi:10.1152/ajpregu.00365.2002 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12376390/
    2. Vreeman RC, Carroll AE. Medical myths. BMJ. 2007;335(7633):1288-1289. doi:10.1136/bmj.39420.420370.25 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18156231/
    3. Institute of Medicine, Food and Nutrition Board. Dietary Reference Intakes for Water, Potassium, Sodium, Chloride, and Sulfate. Washington, DC: The National Academies Press; 2005. doi:10.17226/10925 報告公表時のリリース:National Academies(2004年2月11日)
    4. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 各論「(参考)水」 https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316470.pdf
    5. Hakam N, Guzman Fuentes JL, Nabavizadeh B, et al. Outcomes in Randomized Clinical Trials Testing Changes in Daily Water Intake: A Systematic Review. JAMA Network Open. 2024;7(11):e2447621. doi:10.1001/jamanetworkopen.2024.47621 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39585691/
    6. Bao Y, Tu X, Wei Q. Water for preventing urinary stones. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2020;2(2):CD004292. doi:10.1002/14651858.CD004292.pub4 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32045491/
    7. 水質基準に関する省令(平成15年厚生労働省令第101号)。鉛及びその化合物 0.01mg/L以下、総トリハロメタン 0.1mg/L以下 https://laws.e-gov.go.jp/law/415M60000100101/
    8. 足立厚子「金属アレルギーの対処法〜全身型金属アレルギーを中心に〜」アレルギー 2020;69(3):169-173. https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/69/3/69_169/_pdf

    本記事は基準と研究状況の整理であり、個別の指導に代わるものではありません。腎臓・心臓の疾患で治療中の方の水分量は、個別に決められるもので、この記事の範囲には入りません。

  • 肝臓をいたわりたいとき、何を見ればいいか

    肝臓をいたわりたいとき、何を見ればいいか

    肝臓が担っている主な働きは八つ以上あり、解毒はそのうちの一つです。残りの七つは、ほとんど語られません。

    腎臓も同じです。1日に濾過する200リットルのうち、尿として出ていくのは1%未満。残りは回収しています。

    抜けている部分を知ると、「肝臓にいい」「腎臓を休ませる」といった言い方が実際に何を指しているのかが見えてきます。「デトックス」という言葉も、その一つです。

    肝臓の仕事は、思っているより多い

    その八つが、これです1。

    肝臓が担っている主な働き
    働き 内容
    胆汁をつくる 尿からは出せない物質を便側へ送り出す。脂質の消化と吸収も助ける
    ビタミンの貯蔵と処理 ビタミンA・D・E・Kを蓄え、使える形にする
    薬や異物の処理 捨てられる形に作り変える。ここが「解毒」と呼ばれている部分
    古い赤血球の後始末 分解してできた色素を、排泄できる形にする
    血液中のタンパク質をつくる 血液に含まれるタンパク質のほぼすべてを合成する
    糖と脂肪の調整 糖をつくる、脂肪をつくる、糖を蓄える形にする
    免疫への関与 肝臓にある免疫細胞が、血液中の病原体を取り除く
    栄養素の貯蔵 鉄、銅、脂溶性ビタミン

    八つのうち、日常会話に出てくるのは「薬や異物の処理」の一つだけです。

    血液中のタンパク質のほぼすべてを作っている。この一項目だけでも、肝臓が「不要なものを処理する場所」ではなく、体の材料をつくる工場だと分かります。

    この八つが体の中でどうつながっているかは、図で追うほうが早いです。


    「解毒」は、処理の別名である

    肝臓の「解毒」は、毒を消しているのではありません。捨てられる形に作り変えている工程です。

    脂に溶けやすい物質は、そのままでは尿に混ぜて捨てられません。水に溶けやすい形へ変えて、初めて腎臓から出せるようになります。この変換は二段階で進みます2。

    ここに、よく誤解される点があります。一段階目でできる中間産物は、元の物質より反応しやすく、場合によっては毒性が強くなります。二段階目が追いつかなければ、その中間産物のほうが問題を起こしうる2。

    だから「解毒力を高める」という表現は、この構造を知るとかえって分かりにくくなります。一段階目を速めるのか、二段階目を速めるのかで、意味が逆にもなりうるからです。前だけ速ければ、中間産物のほうが溜まります。

    腎臓は「濾す」だけではない

    腎臓についても、似た単純化が起きています。基本的な働きは、血液を濾過し、必要なものを回収し、不要なものを尿として出すこと。ただ、この「必要なものを回収する」部分が非常に大きいのです。

    腎循環から1日に濾過される液は200リットルで、尿として出るのはその1%未満であることを示す図
    差の大部分は、尿細管でグルコース、アミノ酸、ナトリウム、水などとして再吸収されています3。

    加えて、赤血球産生を促すエリスロポエチンの産生、レニンの分泌による血圧の調節、ビタミンDの活性型への変換、血漿浸透圧の調節、長期的な酸塩基平衡の維持といった役割も担っています3。

    体の中の水の量を決めているのも腎臓です。夕方に足がむくんで、朝には戻っているとき、その仕組みの一部をここが担っています。

    「老廃物を出す臓器」という説明は、出ていく1〜2リットルのほうだけを見た言い方になっています。

    そして、この「回収する」部分が、蓄積の話とつながります。

    カドミウムの耐容週間摂取量は、腎臓の近位尿細管への影響を指標に設定されています5。近位尿細管は、濾過された200リットルのうち大部分を回収している場所です。日本人がいちばん上限に近づいている金属が標的にしているのが、この回収の場所だということになります。

    腎臓は「出す量」だけでなく「戻す量」で評価されている——その理由が、こういうところにあります。

    3つの臓器は、別々の仕事をしている

    「解毒」はひとかたまりの能力のように語られますが、担っている場所は分かれています。

    出す側の3つの場所と、担当
    担当している出口 止まると起きること
    肝臓 作り変えと、胆汁への送り出し 水に溶けない物質が、送り出せない
    腎臓 尿。水に溶ける形のもの 水溶性のものが出ていかない
    腸 便。胆汁に出されたもの、吸収されなかったもの 腸に置かれた時間が延びる

    この3つは連続していて、順番があります。肝臓が胆汁に出したものは腸を通ります。肝臓だけが速くても、腸が動いていなければ外へは出ていません。

    だからこの3つを別々に見る意味があります。どこが足を引っ張っているかで、手をつける場所が変わるからです。順番としては、出口に近いほうが先になります。

    肝臓を「休ませる」と、何が起きるのか

    ここまで見ると、デトックスの説明でよく使われる「臓器を休ませる」という言い方が、少し据わりの悪いものに見えてきます。

    肝臓は血漿タンパク質を作り続けています。腎臓は再吸収を続けています。これらは、断食や特定の食事によって止めたり再開したりできる作業ではありません。

    むしろ、第II相の抱合反応には糖やアミノ酸から作られる材料が必要で、これらは栄養状態に依存します。何かを控えることが処理を助けるのか妨げるのかは、控える内容次第ということになります。

    ただし、ここも正確に言っておきます。特定の食事法が肝臓や腎臓の機能にどう影響するかについて、質の高い検証はほとんど行われていません。「休ませたほうがいい」も「休ませないほうがいい」も、現時点では十分な根拠を伴っていない。研究がないことは、どちらかが正しいことの証明にはなりません。

    機能が落ちているかどうかは、測れる

    実務的に役に立つのは、これらの臓器の働きが検査で評価できる、という点でしょう。

    肝臓についてはAST・ALT・γ-GTPといった酵素の値や、ビリルビン、アルブミン、凝固能。腎臓については推算糸球体濾過量(eGFR)や血清クレアチニン、尿中のタンパクなど。健康診断で測られている項目の多くは、この二つの臓器の働きが落ちていないかを調べるものです。

    これらの数値が正常範囲にあるなら、機能が落ちている状態ではないと考えるのが素直です。逆に、数値が動いているなら、汎用の「デトックス」ではなく、その原因を確かめることが先になります。

    働きを知ると、言葉の輪郭が変わる

    肝臓の八つの働きのうち、日常会話に出てくるのはほぼ一つだけでした。腎臓についても、出ていく側だけが語られていました。

    切り取ること自体は必要な単純化で、それがなければ話が始まりません。ただ、切り取られた一部が全体の代わりになると、そこから先の推論が歪みます。「解毒の臓器だから、解毒を助けるものを摂る」という筋道が、その一例です。

    八つのうち「胆汁をつくる」については、別に書きました。尿から出せない物質の主要排泄経路がそこで、教科書は出されるものに重金属を挙げています。そして「薬や異物の処理」の中身は、二段階の作り変えです。

    肝臓や腎臓のためにしていることがあるなら、それが八つの仕事のどれに向けたものかを確かめてみる。どれにも当てはまらないなら、それが向いているのは臓器ではなく、臓器のイメージのほうです。

    参考文献・参考資料

    1. Kalra A, Yetiskul E, Wehrle CJ, Tuma F. Physiology, Liver. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 最終更新 2023年5月1日. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK535438/
    2. Phang-Lyn S, Llerena VA. Biochemistry, Biotransformation. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 最終更新 2023年8月14日. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK544353/
    3. Ogobuiro I, Tuma F. Physiology, Renal. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 最終更新 2023年7月24日. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK538339/
    4. Curthoys NP, Moe OW. Proximal tubule function and response to acidosis. Clinical Journal of the American Society of Nephrology. 2014;9(9):1627-1638. doi:10.2215/CJN.10391012 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23908456/
    5. 内閣府食品安全委員会「食品から摂取されるカドミウムの健康影響評価」(2008年7月3日)。耐容週間摂取量の設定根拠として、腎臓(近位尿細管)への影響が指標とされています https://www.fsc.go.jp/hyouka/hy/hy-iinkai240-cadmium.pdf

    本記事は生理機能の整理であり、特定の食事法・製品の推奨や否定、個別の診断・治療に代わるものではありません。

  • 「デトックス」の広告を、どう見分けるか

    「デトックス」の広告を、どう見分けるか

    体が不要なものを処理する仕組みは実在します。そしてその働きは、材料で決まります。第II相でくっつける材料が足りなければ、処理は滞ります。

    つまり「出す力」は、汗や断食で上げるものではありません。足りていれば回り、足りなければ落ちる。断食で「臓器を休ませる」という発想が据わりが悪いのは、材料まで減るからです。

    一方、商品や施術の「デトックス」に物質名が書かれていないなら、出たかどうかは誰にも確かめられません。この二つは、同じものを指していません。どこで食い違うのかを見ていきます。

    体は、外から入ったものをどう扱っているのか

    食べ物や薬、環境中の化学物質など、体の外から入ってきた物質は、まとめて「異物」と呼ばれます。これらの多くは脂に溶けやすい性質を持っていて、そのままでは尿に混ぜて捨てられません。水に溶けにくいものは、腎臓でろ過されても再吸収されてしまいます。

    そこで体は、化学的に作り変えてから捨てるという方法をとっています。この作業を担う肝臓と腎臓が実際に何をしているのかは、別に整理しました。この一連の変換は生体内変換(biotransformation)と呼ばれ、大きく二つの段階に分けて説明されるのが一般的です1。

    第一相では、分子に手をかけて反応しやすい部分を作ります。第二相では、そこに別の分子をくっつけて水に溶けやすくします。こうして水に馴染む形になったものが、尿や胆汁を通って外へ出ていきます1。

    注意したいのは、第一相の生成物が必ずしも無害ではないことです。反応性が高まった中間体が、かえって毒性を持つ場合もあります。「解毒」という言葉から連想される、毒を無毒にする一方向の作業とは、少し様子が違います。処理経路であって、浄化装置ではありません。

    「毒素が溜まる」と言うとき、何が想定されているのか

    デトックスをうたう情報の多くは、体内に何が溜まっているのかを具体的に述べません。「毒素」「老廃物」といった言葉が使われますが、何という物質で、どこに、どれだけあるのかは示されないことが多いのです。

    実際に体内に蓄積し、測定もできる物質は存在します。残留性有機汚染物質と呼ばれる一群や、鉛・カドミウム・水銀・ヒ素といった重金属がそれにあたります。これらは脂肪組織や骨に長くとどまることが知られていて、量を測る方法もあります。

    そして、輪郭のない「毒素」と決定的に違う点がもう1つあります。これらには、時間の数字があります。

    厚生労働省は水銀について、「体内に取り込まれた水銀は代謝、排泄されます。その体内に取り込まれた量が半分にまで減少する期間は約2ヶ月です」と書いています4。だから同じ文書は、妊娠に気づくのが遅れた場合について「妊娠に気づいた段階から水銀の摂取量をコントロールすることで一定の効果が期待される」としています。

    ニッケルについても数字があります。経口で入った量のうち腸から吸収されるのは1〜10%で、90〜99%は便として出ていきます5。

    「溜まる」と「出る」は、物質ごとに速さが分かっているということです。何日で半分になるか、何割が吸収されるか、どこから出ていくか。輪郭のない「毒素」には、この数字がありません。入口ごとの一覧は別に整理しました。

    「溜まるものがある」こと自体は事実です。問題は、その具体的な物質の話と、輪郭のない「毒素」の話が、同じ言葉でつながれてしまうところにあります。

    デトックス食は、実際に検証されているのか

    市販のデトックス食については、これを支持する臨床的な根拠はきわめて乏しい。2015年に発表された総説の結論です2。デトックス食が必要なのか、何を含むのか、効果があるのか、危険はないのかを検討したものです。

    市販のデトックス食が肝臓の解毒を高め、残留性有機汚染物質を排出したとする臨床研究はいくつか存在します。ただし著者らによれば、それらは方法論に欠陥があり、標本数も小さいとされます。コリアンダー、海苔、オレストラといった食品に解毒作用を示唆する予備的な知見もありますが、その大半は動物で行われた研究です2。

    そして、著者らの知る限り、市販のデトックス食の有効性を評価した無作為化比較試験は行われていません2。

    ただし、市販品ではない定量された介入では、人での無作為化試験があります。大気汚染の大きい地域で291人を対象に行われた12週間の試験で、ブロッコリースプラウト飲料を飲んだ群はベンゼン由来の代謝物の尿中排泄が61%増えました。測っているのは尿に出た量で、健康アウトカムではありません。

    動物での結果を人に当てはめるときに何が起きるかは別の記事で扱いましたが、ここでも同じことが起きています。仕組みとしてありうる話が、人で確かめられないまま製品の説明になっています。

    汗については、意見が割れている

    「汗をかいて出す」という考え方は特に広く共有されています。この点は研究のあいだでも評価が分かれていて、片方だけを紹介すると誤解を招きます。

    シアーズらは2012年、ヒ素・カドミウム・鉛・水銀の汗中濃度を報告した研究を系統的に集め、122件から24件を選んで統合しました。結果として、曝露や体内蓄積が多い人では、汗の濃度が血漿や尿の濃度を上回ることが一般的であり、皮膚からの1日排泄量が尿からの排泄量に匹敵する、あるいは上回る場合があると報告しています3。

    著者らは、発汗は有害元素の排出手段として検討に値するとしつつ、適切な規模の試験を含む研究が、安全で効果的な手順を確立するために必要だと結論しています3。

    ただし、この総説自体が指摘しているとおり、対象集団も汗の採取方法も濃度も研究によって大きく異なります。汗に含まれる濃度が高いことと、体全体の負荷を意味のある程度まで下げられることは、別の問題です。汗として出る量には限りがあるので、濃度ではなく総量を見ないと判断できません。

    現時点で言えるのは、汗に有害元素が含まれること自体は複数の研究で観察されている、というところまでです。それが健康上の意味を持つ規模なのかについては、まだ答えが出ていません。

    そしてもう1つ、同じレビューが書いていることがあります。汗の金属は、血漿由来だけでなく、皮膚の層に由来するものも含まれます。だから「汗に出た」ことは、「体の中から出てきた」ことと同じではありません。

    肝臓と腎臓は、休ませるものなのか

    デトックスの説明でしばしば見かけるのが、「臓器を休ませる」という表現です。

    ただ、肝臓や腎臓は、断食や特定の食事によって作業を止めたり再開したりする器官ではありません。異物の処理は常時進行していて、むしろ栄養状態が悪くなると、第二相でくっつける材料のほうが足りなくなります。何かを控えることが処理能力を高めるのか、下げるのかは、控える内容によって変わります。

    この点についても、大規模な検証はほとんど行われていません。「休ませたほうがいい」も「休ませないほうがいい」も、現時点では十分な根拠を伴っていないのです。

    言葉を分けてみる

    ここまでを踏まえると、「デトックス」という一語が、少なくとも三つの別の話を抱えていることが見えてきます。

    「デトックス」という言葉が指しうる三つの水準
    水準 内容 現在の位置づけ
    生理学的な生体内変換 第一相・第二相を経て異物を水溶性にし排泄する仕組み 確立した知見。ただし常時働いており、外から起動するものではない
    特定物質の体内蓄積 重金属や残留性有機汚染物質など、測定可能な物質の負荷 存在は確認されている。減らす方法の有効性は検証途上
    商品としてのデトックス デトックス食・飲料・施術など ヒトでの無作為化比較試験は行われていない2

    この三つが同じ言葉でつながれているために、確立した生理学の話が、そのまま商品の裏づけとして流用されてしまいます。「肝臓には解毒の仕組みがある」は正しい。しかしそれは、ある製品がその仕組みを高めることの根拠にはなりません。

    では、どう考えておくか

    「たくさん飲んで出す」も、出どころは同じくらい曖昧です。その数字の出どころを辿ると、意外な経緯が見えてきます。

    デトックスをうたう情報に触れたとき、確かめられることは多くありません。それでも、何を出すと言っているのかは探せます。物質名が具体的に書かれているか。どこで測ったのか。比較対象があるのか。

    物質名が示されないまま「毒素」とだけ書かれている場合、その主張は検証のしようがない状態にあります。何が減ったかを測れないので、効いたかどうかを誰も確かめられません。検証されていないことと、効果がないことは別ですが、確かめようのない主張は、判断には使えません。

    気になる曝露が具体的にある場合──職業上の接触や、住環境の懸念など──は、汎用の「デトックス」ではなく、その物質の測定と評価が先になります。何を減らしたいのかがはっきりしていれば、方法の検討もできます。

    そして手をつける順番もあります。仕組みそのものは、物質名まで分かっています。第I相はシトクロムP450による酸化、第II相でグルクロン酸や硫酸をくっつけて水に溶ける形にする。そして水に溶けない物質は、胆汁に乗って便から出ていきます。

    入口ごとの数字と、出す側の仕組みは、入ってくるものと、出す力にまとめています。

    参考文献・参考資料

    1. Phang-Lyn S, Llerena VA. Biochemistry, Biotransformation. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 最終更新 2023年8月14日. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK544353/
    2. Klein AV, Kiat H. Detox diets for toxin elimination and weight management: a critical review of the evidence. Journal of Human Nutrition and Dietetics. 2015;28(6):675-686. doi:10.1111/jhn.12286 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25522674/
    3. Sears ME, Kerr KJ, Bray RI. Arsenic, cadmium, lead, and mercury in sweat: a systematic review. Journal of Environmental and Public Health. 2012;2012:184745. doi:10.1155/2012/184745 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3312275/
    4. 薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会乳肉水産食品部会「妊婦への魚介類の摂食と水銀に関する注意事項」平成17年11月2日(平成22年6月1日改訂)およびQ&A https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/suigin/dl/index-b.pdf
    5. 足立厚子「金属アレルギーの対処法〜全身型金属アレルギーを中心に〜」アレルギー 2020;69(3):169-173. https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/69/3/69_169/_pdf

    本記事は用語と研究状況の整理であり、特定の製品・施術の推奨や否定、個別の診断・治療に代わるものではありません。