添加物や器具の規制を、どこまで信頼できるか

市販の弁当のDEHP 1999年度 4,420 ng/g 翌年度 198 ng/g 由来が手袋と特定され、通知1本で翌年度に下がった

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1999年度の調査で、市販の弁当からフタル酸エステル(DEHP)が平均4,420 ng/g検出されました1。

由来を辿ると、DEHPを可塑剤とした塩化ビニル製の手袋でした。2000年6月14日、厚生省が食品用途への使用を避けるよう通知を出しています1。

翌年度、177製品を調べ直した結果は平均198 ng/g。約22分の1になっていました1。

入口が1つに絞られた、数少ない例

弁当からDEHPが出たとき、最初に分かったのは「出ている」ことだけでした。そこから、どうやって手袋にたどり着いたか。

調査では、トレーから弁当を取り出す際に、トレーに接触する部分でDEHPの溶出量が大きくなることが確認されました。さらに、塩化ビニル製手袋を使用した場合にDEHP含有量が高いことが判明し、手袋が供給源であると認識されました1。

そして2000年度の調査で、DEHPを含むPVC製品が脂肪性食品に接触すると、DEHPが容易に食品へ移行することが明らかになりました。

市販弁当のDEHP濃度が平均4420ng/gから198ng/gへ約22分の1に減ったことを示す図
平成11年度と平成12年度の市販弁当の調査結果。手袋の使用に関する通知をはさんで、平均値が約22分の1になりました1。

脂に溶けやすい物質が、脂に接すると移る。この一点が分かれば、止める場所が決まります。

止まったことが、数字で確認されている

市販弁当のDEHP濃度1
年度 範囲 平均
平成11年度(1999) 803〜8,930 ng/g 4,420 ng/g
平成12年度(2000、177製品) 45〜517 ng/g 198 ng/g

この間にあったのは、2000年6月14日の通知1本です。

ここが重要です。「体に入ってくるもの」の話は、たいてい入口が特定できないまま終わります。マイクロプラスチックは、いまも定義も測り方も揃っていません。BPAは、日本の耐容量そのものが決まっていません。

この件は違いました。検出された → 由来が1つに絞られた → 止めた → 減ったことが確認された。全部の段階が数字で追えます。

2025年6月、制度そのものが変わった

その後、規制の形が根本的に変わりました。

2002年8月、食品・添加物等の規格基準で、油脂または脂肪性食品を含有する食品に接触する器具・容器包装について、PVCを主成分とする合成樹脂におけるDEHPの使用が原則禁止されました2。

そして2018年の食品衛生法改正で、食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度の導入が決まります。2020年6月1日に施行、2025年6月1日に完全施行となりました2。

2つの方式の違い
考え方
これまで(ネガティブリスト) 使ってはいけないものを決める。決まっていないものは使える
いま(ポジティブリスト) 使ってよいものを列挙する。載っていないものは使えない

これは、答えが出ていない物質の扱い方が逆になったということです。評価が終わっていないものは、使えない側に入ります。

いま、リストに何が載っているか

2023年11月30日と2024年9月27日に再整理されたポジティブリストには、フタル酸エステル6物質のうちDBP(フタル酸ジブチル)を除く5物質が掲載されています2。

6物質の扱いと、食品安全委員会が示したTDI2
物質 リスト TDI(mg/kg体重/日)
DBP 掲載なし=合成樹脂の原材料として使用不可 0.005
DEHP 掲載あり(材質区分ごとに使用制限) 0.03
DINP 掲載あり 0.15
DIDP 掲載あり 0.15
BBP 掲載あり。油脂・脂肪性食品に接触する部分に使用してはならない(溶出・浸出のおそれのないよう加工されている場合を除く) 0.2
DNOP 掲載あり 0.37

TDIは6物質それぞれに設定されています。2013年2月から2016年7月にかけて、食品安全委員会が食品健康影響評価によって示したものです2。

BPAには日本のTDIがないのと、対照的です。

対TDI比の数字を、どう読むか

国立医薬品食品衛生研究所が、ポジティブリスト制度を踏まえた曝露量を検討しています。PVCモデル試料の溶出試験の結果とシミュレーションから、食事中濃度と推定一日摂取量を求め、TDIと比較したものです2。

結果は対TDI比0.008〜1.09。いちばん高いDIDPのシミュレーション値が1.09で、TDIを超えています。

ここで前提を読まないと、意味を取り違えます。資料自身がこう注記しています。

食事中濃度およびEDIは、フタル酸エステル類がポジティブリストにおいて使用可能な範囲のすべての合成樹脂製品に使用された場合を想定した保守的な値。市場に流通している合成樹脂製品では、フタル酸エステルの使用は一部の製品(1%未満)に限られると推定される2

つまり「使える上限まで全部に使ったら」という計算です。実際の使用は1%未満と推定されているので、実際の摂取量はこれよりはるかに低い、というのが資料の結論です。

数字を見るときは、分母と前提を一緒に見ます。同じ「対TDI比」でも、カドミウムの35%は実際の摂取量から出した値、こちらは最大使用を仮定した値です。並べて比較できる数字ではありません。

この検討を受けて、消費者庁は「ポジティブリストにおける使用制限が遵守されれば、ばく露量がTDIを超えることはないと考えられることから、個別の溶出規格等の設定は行わない」としています2。

今日、確認できること

制度の側が動いているので、個人が細かく確認する必要は多くありません。そのうえで、この件が残した原則は使えます。

脂に溶けやすい物質は、脂に接すると移ります。だから規制も「油脂または脂肪性食品に接触する部分」という書き方をしています。

この原則から出てくること
場面 効く理由
油ものを、ラップや容器に熱いまま密着させない 温度が上がるほど移行しやすい
使い捨て手袋で油ものを長時間扱わない この件の発端がここ
容器の耐熱温度表示を見る ポジティブリストの使用制限も、耐熱温度150℃以上/未満で区分が分かれている

そしてプラスチック由来の物質のうち、マイクロプラスチックのほうは、まだ測り方が揃っていません。同じ「プラスチック容器」という入口の中に、答えが出ているものと、出ていないものが混ざっています。

入口は、特定できることがある

この記事の要点は、フタル酸そのものより、経緯のほうにあります。

弁当から出た。トレーとの接触部分で高い。手袋を使うと高い。脂に接すると移る。4つの観察で、入口が1つに絞られました。そして止めたら、翌年度には22分の1になっていました。

蓄積の入口には、閉じられるものと閉じられないものがあります。主食から入るカドミウムは閉じられません。けれど、閉じられるものは実際に閉じられてきました。

「体に悪いものが入ってくる」で止まらずに、何がどこから入っているかまで辿ると、止める場所が見つかることがあります。この件は、その実例です。

参考文献・参考資料

  1. 厚生労働省「器具及び容器包装並びにおもちゃの規格基準の改正に関する薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会報告について」平成14年6月 https://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/06/s0611-5.html
  2. 消費者庁 食品衛生基準審査課「フタル酸エステルの取扱いについて」令和7年6月26日 器具・容器包装部会 資料2 https://www.caa.go.jp/policies/council/fssc/meeting_materials/assets/fssc_cms101_250626_05.pdf

本記事は公的資料の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の製品の安全性や危険性を示すものでも、使用を勧めるものでも、中止を勧めるものでもありません。ポジティブリストの内容は改正されることがあります。

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