予防に手が回らない理由を知って、自分で動く

平均寿命と健康寿命の差|女性 11.63年 日常生活に制限がある期間(令和4年) 平均寿命

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日本の国民医療費は48兆915億円(令和5年度)。この統計の定義に、こう書いてあります。「健康の維持・増進を目的とした健康診断、予防接種等に要する費用」は含まない1。

誰かが隠しているのではありません。国民医療費は「傷病の治療に要した費用」を推計する統計だからです1。定義として正しい。

ただ、その結果として起きていることがあります。私たちが「医療にいくら使っているか」を話すとき、予防の話は最初から数字に入っていません。

縮めたいのは、8.49年と11.63年

健康寿命は「日常生活に制限がない期間の平均」です。令和4年の値は男性72.57年、女性75.45年。同じ年の平均寿命は男性81.05年、女性87.09年でした2。

平均寿命と健康寿命(令和4年)2
平均寿命 健康寿命 差
男性 81.05年 72.57年 8.49年
女性 87.09年 75.45年 11.63年
平均寿命と健康寿命の差を示す図。男性は8.49年、女性は11.63年
差は、日常生活に制限がある期間にあたります。令和4年値は令和元年値と比べて男性で短縮、女性で延伸していますが、いずれも統計的に有意な差は見られなかったとされています2。

この差をつくっているものには、名前と数字がついています。介護が必要になった原因は、軽い段階と重い段階で顔ぶれが入れ替わります。

この差を縮めることが、健康日本21(第三次・令和6〜17年度)の目標にも置かれています。目標の書き方は「平均寿命の増加分を上回る健康寿命の増加」です2。長く生きるだけでなく、動ける期間のほうを伸ばす、ということです。

お金は、治療のほうへ向いている

令和5年度の国民医療費は48兆915億円。国内総生産に対する比率は8.08%でした1。

年齢で分けると、はっきりした形が出ます。

年齢階級別の国民医療費(令和5年度)1
年齢 国民医療費 構成割合 一人当たり
65歳未満 ― 約39.9% 21万8,000円
65歳以上 28兆8,806億円 60.1% 79万7,200円

一人当たりで約3.7倍です。これは高齢者が多く使っているという話ではなく、病気は年齢とともに増えるという、当たり前のことが数字に出ているだけです。

その定義は、正しい

ここからが構造の話です。国民医療費の定義には、含まないものが明記されています1。

傷病の治療費に限っているため、(1)正常な妊娠・分娩に要する費用、(2)健康の維持・増進を目的とした健康診断、予防接種等に要する費用、(3)固定した身体障害のために必要とする義眼や義肢等の費用は含まない

これは合理的な定義です。国民医療費は、公的医療保険が給付する範囲を推計するための統計です。保険は「傷病の治療」に給付すると決まっている。だから統計もその範囲を数える。範囲が曖昧なら、保険財政の見通しが立たなくなります。

国民皆保険は、この線引きがあるから成り立っています。誰でも、どこでも、同じ自己負担で治療を受けられる。銀歯の材料がJIS規格で決まっているのも、弁当のフタル酸が通知1本で22分の1になったのも、この制度が実際に動いているからです。

同時に、起きていること

定義が正しいことと、その定義が生む結果は別です。

「医療費が48兆円」と言うとき、その48兆円には予防が入っていません。だから「予防にいくら使っているか」は、この統計からは見えません。見えない数字は、並べて比べることも、増減を議論することも難しくなります。

そして、ここが大事なところです。予防が進むと、48兆円の側が減ります。診察が減り、検査が減り、投薬が減る。一方で、予防そのものはこの統計に現れないので、「何がどれだけ効いたか」は同じ土俵で示しにくい。

費用が減る側は数字で見えて、増やすべき側は数字で見えにくい。これが、予防が育ちにくい構造の一つです。

ここまでが公的統計の記述です。「だから予防が育ちにくい」という読み方は、me:LABの解釈です。

誰かがサボっているわけではない

この話は「国が予防をやっていない」という話ではありません。数字がそう言っていません。

特定健診・特定保健指導の実施状況(2023年度)3
対象者 実施 実施率 前年度比
特定健診 5,210万人 3,123万人 59.9% +1.8pt
特定保健指導 519万人 143万人 27.6% +1.1pt

40〜74歳を対象に、5,210万人分の枠組みが毎年動いています。そして結果も出ています。メタボリックシンドロームの該当者と予備群は、2008年度と比べて17.2%減りました3。実施率も減少率も、毎年少しずつ上がっています。

ただし、2つの数字のあいだには開きがあります。健診は59.9%まで来て、保健指導は27.6%。見つけるところまでは届いていて、生活を変えるところまでは届ききっていません。

これも、誰かの怠慢ではないと考えています。健診は「受ける」で完了しますが、保健指導は数か月にわたって続けるものです。仕事の都合も、家庭の事情もある。仕組みの問題というより、一人ひとりの生活の中にどう入るかという問題です。

では、どこに余白があるのか

いまの仕組みが見ている範囲を、そのまま書き出すとこうなります。

特定健診が見ている範囲
範囲
対象 40〜74歳3
頻度 年1回
項目 決められた基本項目
見つけるもの 生活習慣病のリスク

これは弱点ではなく、5,210万人に同じ質で届けるための設計です。対象を広げ、頻度を上げ、項目を増やせば、費用も人手も跳ね上がります。全員に届けることと、一人ひとりに合わせることは、どこかで両立しなくなります。

だから余白は、ここに残ります。39歳までの期間。年1回のあいだの364日。基本項目に入っていないもの。この3つは、制度が取りこぼしているのではなく、制度が引き受けきれない範囲です。

そして、この余白を埋められるのは、いまのところ本人しかいません。検査はそれぞれ違う問いに答えていて、ひとつで全部が分かるものはありません。だとすれば、自分がどの問いを持っているのかを決めるところから始まります。

今日、確かめられること

数字に戻ります。特定健診の実施率は59.9%。4割の人は受けていません3。

40〜74歳で公的医療保険に入っているなら、あなたは5,210万人の対象者のうちの1人です。まず確かめられるのはここです。

  • 自分が対象かどうか。40歳以上74歳以下で、医療保険の加入者なら対象です
  • 今年度、受けたかどうか。受けていないなら、加入している保険者(健保組合・協会けんぽ・市町村国保)から案内が来ています
  • 保健指導の対象になったか。なったなら、終わりまでやった人は27.6%です。途中で止まっている側にいないか

平均寿命と健康寿命の差、男性8.49年・女性11.63年は集団の平均です。自分の分はまだ決まっていません。決まっていないものについて、いま手を動かせる場所は、思っているより具体的にあります。

入ってくるものと出す力については、こちらに一覧で並べています。

参考文献・参考資料

  1. 厚生労働省「令和5(2023)年度 国民医療費の概況」令和7年10月10日 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/23/dl/R05data.pdf
  2. 厚生労働省健康・生活衛生局健康課「健康寿命の令和4年値について」第4回 健康日本21(第三次)推進専門委員会 資料1-1、令和6年12月24日 https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001363069.pdf
  3. 厚生労働省「2023年度 特定健康診査・特定保健指導の実施状況について」 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001492019.pdf

本記事は公的統計の整理と、それに対する編集部の解釈を含みます。個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の制度・機関・職種を批判する意図はありません。

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