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  • 解毒を高めるなら、どこから手をつけるか

    解毒を高めるなら、どこから手をつけるか

    「解毒を高めたい」と思ったとき、先に動かすのは出口のほうです。肝臓ではありません。

    理由は単純です。肝臓が処理して胆汁に出したものは、腸を通って便から出ていきます。出口が滞っていれば、上流をいくら動かしても行き場がありません。

    順番があります。そして順番を逆にすると、逆に働くことがあります。

    上流から動かすと、どこへ行くのか

    体が不要なものを外へ出す経路は、2つあります。

    水に溶ける形になったものは、腎臓から尿として出ます。問題は、もう一方です。

    医学の教科書は胆汁を「腎臓でろ過または排泄できない、潜在的に有害な脂溶性物質の主要排泄経路」とし、そこへ出されるものに重金属を名指しで挙げています1。肝細胞は1日600〜1000mLの胆汁を分泌しています1。

    上流の肝臓から胆汁に出されたものが腸に置かれ、出口が詰まっていると行き場がないことを示す図
    胆汁に出されたものは、いったん腸に置かれます。そこから先が動いていなければ、上流だけを速めても出ていきません。

    胆汁は腸へ出ます。つまり、肝臓の処理を速めたところで、そのあと腸を通って便として出なければ、体の外には出ていません。

    しかも、腸を通るのは胆汁に出された分だけではありません。ニッケルの場合、経口で入った量のうち腸から吸収されるのは1〜10%で、90〜99%は吸収されずにそのまま便として出ていきます3。

    つまり出口としての腸には、2つの流れが来ています。吸収されずに通過する分と、いったん吸収されて肝臓で処理され、胆汁で戻される分。前者のほうが、量としては圧倒的に多い。口から入る金属について言えば、9割以上がこちら側です。

    そして胆汁酸の場合、95%は回腸で再吸収されて肝臓へ戻ります1。腸に置かれたものが、そのまま全部出ていくわけではない、ということです。

    順番を逆にすると、逆に働く

    もう一つ、同じ構造が肝臓の内部にもあります。

    異物の処理は二段階です。第I相で分子に手をかけて反応しやすい部分を作り、第II相で別の分子をくっつけて水に溶かす。

    ここで、第I相でできる中間代謝物は、元の物質より反応しやすくなっています2。

    つまり一段階目だけ速まって、二段階目が追いつかなければ、反応しやすい状態のものが溜まります。「解毒力を高める」という言い方が実際には分かりにくいのは、どちらを速めるかで意味が逆になりうるからです。

    出口についても、同じことが言えます。上流だけ動かして下流が動いていなければ、途中に溜まる。

    では、出口が動いているかをどう確かめるか

    ここが、自分でできる部分です。

    便通について、国際的な診断基準は6項目で見ています。回数はそのうちの1つにすぎず、線引きは「週3回未満」。残りの5つは、いきみ、硬い便、残便感、詰まった感じ、用手的な排便介助です。

    出口の側で、自分で確かめられること
    見るもの 手がかり
    便通 回数だけでなく、いきみ・硬さ・残便感。6項目のうち2つ以上が診断の基準
    食物繊維 目標量は30〜64歳で男性22g・女性18g。実際の摂取量は12.45gと11.5g
    水分 固定の数字ではなく、渇きと尿の色
    お酒 日本人の4割強は処理能力が低い側。処理の順番を占有します

    どれも、特別な道具は要りません。そして、どれも上流ではなく出口の側です。

    上流の側は、材料で決まる

    出口が動いているなら、次は上流です。

    第II相でくっつけるものの正体を辿ると、すべて糖とアミノ酸に行き着きます。グルクロン酸はグルコースから、メチル基はメチオニンから、硫酸は含硫アミノ酸から。特別な物質は一つも出てきません。

    つまり上流の側は、材料を消費する反応です。足りなければ滞る。

    ただし線があります。「特定の栄養素を足せば処理が速くなる」とは、まだ言えません。足りていない状態から足したときと、足りている状態から足したときでは、起きることが違うためです。足すかどうかの前に、足りているかどうか。順番はここでも同じです。

    「出す」は、鍛えるものではない

    「解毒力を上げる」という言い方には、鍛えれば強くなるという含みがあります。

    ここまで見た構造は、そうなっていません。止めたり再開したりする器官ではなく、常時動いている工程です。肝臓は血漿タンパク質を作り続け、腎臓は再吸収を続けています。

    だから断食で「臓器を休ませる」という発想が据わりが悪いのは、休めないからというだけでなく、材料まで一緒に減るからです。

    できるのは、落とさないことと、詰まらせないことです。

    自分の出す側が、いまどうなっているか

    ここまでの話には、まだ空いているところがあります。

    出口が動いているかは、便通と食事から見当がつきます。上流の材料が足りているかは、栄養素によって確かめ方が違います。血液の数値で線が引けるものと、食べている量から見るものがあります。

    ただし、「いま自分の出す側がどうなっているか」を一つの形で見る手段は、一般の医療の中にありません。健康診断の肝機能・腎機能の項目は、いまの機能が落ちていないかを調べるもので、答えている問いが違います。

    RESONA-LABの結果に解毒機能の欄があるのは、そこを見るためです。入れる側だけでは、体に残る量が決まらないからです。

    今日できるのは、出口の側から1つ数えることです。上流の材料を足す前に、そこが動いているかで結果が変わります。

    出口の側で、今週数えられるもの
    見るもの 目安
    便が出た回数 国際基準の線引きは週3回未満
    水分の量 渇きと尿の色で見る。日本に目安量はない
    食物繊維 米・パン・麺・いも・果物が主な供給源

    3つとも、今日から数えられます。材料の話はそのあとです。

    入口と出口の両方については入ってくるものと、出す力に一覧で並べています。

    参考文献・参考資料

    1. Dave HD, Shumway KR, Al Obaidi NM. Physiology, Biliary. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 最終更新 2022年12月15日. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK537107/
    2. Phang-Lyn S, Llerena VA. Biochemistry, Biotransformation. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 最終更新 2023年8月14日. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK544353/
    3. 足立厚子「金属アレルギーの対処法〜全身型金属アレルギーを中心に〜」アレルギー 2020;69(3):169-173. https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/69/3/69_169/_pdf

    本記事は生理学と公的な基準の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の食品・サプリメント・製品・施術の効果を示すものでも、使用を勧めるものでもありません。特定の栄養素の摂取や食事法が生体内変換・排泄の速度を変えるかどうかについて、十分な検証はなされていません。消化器の疾患で治療中の方、食事制限を受けている方は、内容が個別に決められています。この記事の範囲の外です。

  • 主食から入るカドミウムと、どう付き合うか

    主食から入るカドミウムと、どう付き合うか

    日本人が許容量にいちばん近づいている物質は、主食から入ってきます。

    カドミウムの耐容週間摂取量は体重1kgあたり7µg。日本人の実際の摂取量は、平均でその35%、95パーセンタイルで67%です1。20人に1人は、線の3分の2まで来ています。

    そして摂取量の7割以上が、米・小麦・大豆の3品目から来ています1。避けにくい入口です。

    線がどこにあるか

    カドミウムについては、日本に耐容週間摂取量(TWI)が設定されています。食品安全委員会が2008年7月3日に、体重1kgあたり週7µgと定めました1。

    週単位で設定されているのは、体内に蓄積して長い時間残る性質があるためです。食品添加物のように1日単位で見る物質とは、扱い方が違います。

    実際の摂取量は、どのあたりか

    農林水産省は、平成21〜26年度の調査結果として、日本人の食品からのカドミウム摂取量を1日あたり体重1kgにつき0.32µgとしています。週にすると2.24µgです1。

    カドミウムの耐容週間摂取量に対する日本人の摂取量。平均35%、95パーセンタイル67%
    耐容週間摂取量に対する割合1。平均で35%、95パーセンタイルで67%です。

    ここで効いてくるのが、平均だけを見ないことです。

    平均は35%ですが、95パーセンタイルでは67%になります1。摂取量の多いほうから20人に1人は、耐容量の3分の2の位置にいるということです。

    平均に一致する人が目の前にどれだけいるかは、別の話でした。この物質では、その差が実際の距離として表れています。

    他の物質と比べると

    「体に入ってくるもの」とひとまとめにすると、この差が見えなくなります。

    上限の数字に対して、日本人の摂取量はどこにいるか
    物質 上限に対する割合
    カドミウム 平均35%/95パーセンタイル67%
    残留農薬(48農薬等) 0.000〜2.954%
    食品添加物 調査で最も高かったものでADIの17.2%
    PFAS 2024年にTDI設定。実際の摂取量データはこれから
    マイクロプラスチック 上限そのものがない

    カドミウムだけ、桁が違います。不安の総量ではなく、実際の距離で並べると、手を打つ場所の優先順位が変わります。

    入口を選べない

    ここが、この物質の難しいところです。

    農林水産省は、日本人のカドミウム摂取量について米・小麦・大豆の3品目から7割以上と説明しています1。

    特定の嗜好品や加工食品ではありません。主食です。

    カドミウムは日本の土壌に由来するもので、火山国であることや鉱山活動の歴史が背景にあります。「この商品を避ければいい」という構造になっていません。

    国の側では、米のカドミウム濃度に基準値が設けられ、産地での対策も行われています。ただし個人の選択で減らせる幅は、他の物質より狭いことになります。

    ただし、主食のほかにもう1つ、この金属には入口があります。たばこです。

    紙巻たばこ1本に含まれるカドミウムは1.8〜2.8µgで、うち10〜20%が主流煙に吸入されます。20本で2〜4µg。食事から入る量(体重60kgで1日約19µg)の1〜2割にあたります。皮膚科の金属制限食の指導表でも、ニッケルを多く含むものの欄に「タバコ」が挙げられています2。

    そして経路が違います。吸入で入ったものは、肝臓での作り変えを経由せずに全身へ回ります。同じµgでも、扱われ方が同じではありません。

    つまり入口は2つあって、片方は選べません。もう片方は選べます。米・小麦・大豆をやめる選択肢は現実的ではなく、栄養面でも勧められません。減らせる側が、そちらではないということです。

    減るのを待てる時間ではない

    もう1つ、この金属には時間の問題があります。

    食品安全委員会の評価書は、カドミウムは近位尿細管で再吸収されて腎皮質に蓄積し、腎皮質での生物学的半減期は20〜50年と推定されるとしています。体内負荷量の1/3が腎皮質、1/4が肝臓や筋肉に蓄積し、脳・脂肪組織・骨への蓄積は非常に少ないとも書かれています。

    水銀なら、体内の量が半分になるまで約2ヶ月です。この金属は、その時間では動きません。効くのは、これから入る量のほうだけです。

    入口が選べないときに、残るもの

    ここまでを並べると、この物質は次の条件を満たしています。

    上限の数字がある。実際の摂取量も測られている。そして、線までの距離が他より近い。さらに、入口が主食なので選べない。

    この状態で体に残る量を決めているのは、入る量と出る量の差のほうです。

    体の出口は尿と便の2つあります。医学の教科書は、胆汁を「腎臓でろ過または排泄できない、潜在的に有害な脂溶性物質の主要排泄経路」と書いていて、そこへ出されるものとして重金属を名指しで挙げています。

    そしてその前段にある変換は、第I相と第II相の二段階で、第II相ではグルクロン酸や硫酸、アミノ酸をくっつけます。物質名まで分かっている反応です。

    入口を減らせないぶん、出口が働いているかどうかが効いてきます。そして胆汁を介した経路の終点は便で、その通過に関わる食物繊維は、日本人がすでに目標量に届いていない項目でした。

    数えるべきは、不安ではなく距離

    「体に悪いものが入ってくる」という言い方は、どの物質にも同じ重さを与えてしまいます。

    実際には、上限の数字があるものとないもの、実測されているものとされていないもの、そして線まで遠いものと近いものがあります。

    日本人がいちばん近づいているのは、毎日食べている主食から入るものでした。避ける選択肢が乏しいからこそ、出す側の話になります。

    参考文献・参考資料

    1. 農林水産省「我が国における食品からのカドミウムの摂取量」(平成30年10月1日更新) https://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/kome/k_cd/jitai_sesyu/02_int.html 耐容週間摂取量は内閣府食品安全委員会「食品から摂取されるカドミウムの健康影響評価」(2008年7月3日) 評価書(PDF)
    2. 足立厚子「金属アレルギーの対処法〜全身型金属アレルギーを中心に〜」アレルギー 2020;69(3):169-173. https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/69/3/69_169/_pdf

    本記事は公的機関の調査結果の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の食品・産地・製品の優劣を示すものでも、選択を勧めるものでもありません。記載の数値は集団の推計であり、個人の摂取量がそのまま当てはまるわけではありません。食品中のカドミウムには基準値が設けられ、流通品はその範囲で管理されています。

  • お酒の付き合い方を、体質から決める

    お酒の付き合い方を、体質から決める

    日本人の4割強は、アルコールの処理能力が生まれつき低い側にいます。両方の遺伝子が弱いホモ欠損型が1割弱、片方が弱いヘテロ欠損型が3割強です1。

    ヘテロ欠損型の酵素活性は、活性型の約16分の1しかありません1。

    そして重要なのはここです。「鍛えられて飲めるようになった」のは、処理が速くなったからではありません。

    処理の順番と、詰まる場所

    アルコールは、そのまま体から出ていくわけではありません。二段階で作り変えられます。

    アルコールがアセトアルデヒドを経て酢酸になる二段階と、ALDH2の働きが弱いと中間で滞ることを示す図
    アセトアルデヒドは中間の物質です。ALDH2の働きが弱いと、ここで滞ります1。

    アルコール → アセトアルデヒド → 酢酸。この真ん中の物質が、顔の赤み、吐き気、頭痛、眠気を起こします。

    これは体が異物を処理するときの構造と同じです。第I相で反応しやすい形に変え、次の段階で処理する。一段階目だけ進んで二段階目が追いつかないと、中間の物質が溜まります。

    ALDH2が担っているのが、その二段階目です。

    日本人の内訳

    厚生労働省のe-ヘルスネットは、日本・中国・韓国などの東アジアの人では、遺伝子の点突然変異により酵素の働きが弱い人が多くみられると説明しています1。

    ALDH2の型と、日本人での割合
    型 日本人での割合 起きること
    ホモ欠損型(2本とも弱い) 1割弱 少量の飲酒で血中アセトアルデヒド濃度が急激に増加。激しいフラッシング反応(顔面紅潮、嘔気、頭痛、眠気)
    ヘテロ欠損型(1本が弱い) 3割強 活性型の約1/16の酵素活性。フラッシング反応が起こる
    ホモ活性型(2本とも強い) 残り

    地域差もあります。e-ヘルスネットは、日本列島の中心部ほどALDH2欠損の頻度が若干高い傾向があるとしています1。

    「飲めるようになった」は、強くなったのか

    ここが、この記事でいちばん持ち帰ってほしい部分です。

    e-ヘルスネットは、ヘテロ欠損者についてこう書いています。職場やサークルで飲酒を鍛えられて、耐性によりフラッシング反応が弱まり、大酒家になるひとも少なくない1。

    変わったのは反応のほうです。酵素の活性が16分の1であることは変わりません。赤くならなくなっても、アセトアルデヒドが速く処理されるようになったわけではない。

    数字にも表れています。1970年代はアルコール依存症患者の3%がヘテロ欠損者でしたが、現在では13%以上が該当します1。

    そしてe-ヘルスネットは、ALDH2欠損者では飲酒による食道や咽頭の発癌リスクが高まると記しています1。

    不耐性が、遺伝子で決まっている例

    「同じものを口にしても、人によって起きることが違う」。これは感覚の話ではありません。

    ALDH2は、その最もはっきりした例です。処理する酵素の働きが、生まれつき16倍違う。同じ量を飲んでも、体の中に残るアセトアルデヒドの量が違います。

    乳糖不耐症も同じ構造で、大人になってラクターゼを作り続けるかどうかがDNAの一箇所で決まっています。

    そして同じ食品への反応が人によって違う理由には、量、消化吸収、腸内細菌、感じ方という複数の要素があります。ALDH2と乳糖は、そのうち消化吸収の部分がはっきり分かっている例にあたります。

    自分がどちら側かを確かめる

    遺伝子検査でも分かりますが、その前に手がかりがあります。

    飲み始めた頃に、顔が赤くなったかどうか。いま赤くならないかどうかではありません。耐性でフラッシング反応は弱まるので、現在の強さは体質を表しません。

    そしてお酒を飲んだ日の睡眠には、寝つきが早くなる一方でレム睡眠が乱れるという入れ替わりが起きています。カフェインの感受性にも大きな個人差があり、日本が上限の目安を示していない理由がそこにあります。

    処理能力に個人差がある物質は、「一般的な適量」が自分に当てはまるとは限りません。

    入る量より、処理できる量

    同じことが、酵素の側全般に言えます。薬物代謝酵素にも、日本人と欧米人で頻度が大きく違う型があります。CYP2C19の働きが弱い型は、欧米で2〜5%、東アジアで13〜23%です。

    こうした差がどこから来たのかについては、食文化と身体の関係をまとめています。牛乳やデンプンでも、同じ構造が確かめられています。

    この構造は、アルコールだけのものではありません。

    異物の処理も、二段階です。第I相で反応しやすい形にして、第II相で別の分子をくっつけて水に溶かす。そして第I相でできる中間代謝物は、元の物質より反応しやすくなっています。アセトアルデヒドと同じ位置にあるものです。

    だから「処理を速める」という言い方が実際には分かりにくいのは、どちらの段を速めるかで意味が逆になるからです。ALDH2の話は、その構造がいちばんはっきり見える例になっています。

    アルコールについて語られるのは、たいてい「どれだけ飲むか」です。

    ただ、体に残るアセトアルデヒドの量を決めているのは、飲んだ量だけではありません。飲んだ量と、処理できる速さの関係です。同じ量でも、酵素活性が16分の1なら、残る量も残る時間も違います。

    これは入れる側と出す側を一緒に見るという話の、いちばん分かりやすい実例です。入る量だけを数えても、体の中で何が起きるかは決まりません。

    参考文献・参考資料

    1. 厚生労働省 e-ヘルスネット「2型アルデヒド脱水素酵素」 https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/alcohol/ya-007.html

    本記事は公的資料の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の検査・製品の効果を示すものでも、使用を勧めるものでもありません。遺伝子型の頻度は集団の推計であり、個人の型を示すものではありません。飲酒量については、体質にかかわらず少ないほど健康リスクは小さくなります。アルコール依存の状態は、意志や体質の問題ではなく、治療の対象として確立した病態です。

  • 「解毒」を高めるために、実際に必要なもの

    「解毒」を高めるために、実際に必要なもの

    「解毒」が実際にしているのは、物質に別の分子をくっつけて、水に溶ける形へ作り変えることです。くっつける材料の名前まで分かっています。

    グルクロン酸、硫酸、グルタチオン、グリシン、タウリン、グルタミン酸、アセチル基、メチル基。これが第II相反応で使われるものの一覧です1。

    毒を消しているのではありません。捨てられる形に変えています。

    そのままでは、捨てられない

    食べ物、薬、環境中の化学物質。体の外から入ってきた物質の多くは、脂に溶けやすい性質を持っています。

    脂に溶けやすいものは、そのままでは尿に混ぜて捨てられません。腎臓で濾過されても、再吸収されてしまうからです。

    そこで、体は形を変えます。水に馴染む形にしてから捨てる。この一連の作り変えを、生体内変換(biotransformation)といいます。

    この処理の大部分は肝臓の肝細胞で行われますが、脂肪組織、腸、腎臓、肺、皮膚でも起きています1。肝臓だけの話ではありません。

    第I相:反応しやすい部分を作る

    一段階目は、分子に手をかけて、後で何かをくっつけられる場所を作る工程です。

    第I相で起きる反応
    反応
    酸化 シトクロムP450による。最も多い
    還元
    加水分解

    シトクロムP450は、細胞内の小胞体に膜結合している酵素群です。中でもCYP3A4が最も多く、全CYP450活性の約50%を占めます1。

    この酵素の名前は、薬の説明書で見たことがあるかもしれません。「この薬と一緒に飲まないでください」という組み合わせの多くは、同じ酵素を取り合うために起きます。

    第II相:くっつけて、水に溶かす

    二段階目が、この記事の中心です。第I相で作った場所に、別の分子をくっつけます。

    第I相で反応しやすい部分を作り、第II相で別の分子をくっつけて水に溶ける形にする二段階の図
    二段階の作り変え。第II相でくっつけるものが、水に溶ける形へ変える役割を担っています1。
    第II相でくっつけるもの
    反応 くっつけるもの
    グルクロン酸抱合 グルクロン酸。最も多い
    硫酸抱合 硫酸
    グルタチオン抱合 グルタチオン
    アミノ酸抱合 グリシン、タウリン、グルタミン酸
    アセチル化 アセチル基
    メチル化 メチル基

    ここまで具体的に分かっています。「解毒力」という総合点はありませんが、何をくっつけているかは名前で並べられます。

    この段の速さは、人によって違う

    第I相を担うP450には、遺伝子型によって働きの強さが違うものがあります。CYP2C19の場合、働きが弱い型は欧米で2〜5%、東アジアで13〜23%です。

    ただし、これは薬の効き方で確立した知見です。食品や環境中の物質の処理速度に同じように当てはまるかは、まだ別の話です。

    順番が狂うと、逆に働く

    二段階であることには、見落としやすい意味があります。

    第I相でできる中間代謝物は、元の物質より反応しやすくなっています。これは薬の場合には利点で、体内で活性型に変わるプロドラッグはこの仕組みを使います1。

    ただし裏返すと、第II相が追いつかなければ、反応しやすい状態のものが溜まるということでもあります。

    だから「解毒力を高める」という言い方は、この構造を知ると分かりにくくなります。第I相を速めるのか、第II相を速めるのかで、意味が逆になりうるからです。

    止めたり、再開したりする器官ではない

    「臓器を休ませる」という言い方が、断食やクレンズの説明でよく使われます。

    ただ、この処理は常時進行しています。肝臓は血漿タンパク質を作り続け、腎臓は再吸収を続けています。作業を止めたり再開したりする器官ではありません。

    くっつけるものは、どこから来るか

    第II相でくっつけるものの正体を辿ると、すべて糖とアミノ酸に行き着きます。

    第II相でくっつけるものの出どころ
    くっつけるもの 何からできているか
    グルクロン酸 グルコース(糖)から作られる
    グルタチオン 3つのアミノ酸がつながったもの
    グリシン、タウリン、グルタミン酸 アミノ酸そのもの
    硫酸 含硫アミノ酸に由来する硫黄
    メチル基 メチオニン(アミノ酸)に由来

    並べると分かることがあります。特別な物質は一つも出てきません。糖とアミノ酸、それだけです。

    つまり解毒は、材料を消費する反応です。これは比喩ではなく、分子の名前まで分かっている話です。そして材料は、日々の食事から来ています。

    反応を回す側にも、栄養素が要る

    くっつける分子とは別に、その反応を担う酵素の側があります。

    シトクロムP450も、抱合を行う酵素も、単独では働きません。補因子と呼ばれる金属やビタミンが要ります。マグネシウムは300以上の酵素反応に関わるミネラルで、鉄と銅は酸化還元を担う酵素の構成要素です。

    RESONA-LABのレポートは、検査で測るビタミン・ミネラルについて、栄養素ごとに「解毒への関与」を記載しています2。

    レポートが記している「解毒への関与」
    栄養素 記載
    ビタミンC 有害物質の中和と肝臓酵素の働きを支える
    マグネシウム 肝臓酵素の働きを助け、毒素排出を促す
    亜鉛 有害金属の排出を助ける
    鉄 肝臓の代謝酵素の補因子
    葉酸 肝臓のメチル化反応に関与し、解毒酵素をサポート
    ビタミンA 腸管バリアを維持し、有害物質の侵入を防ぐ
    ビタミンE 活性酸素を除去し、肝臓の負担を軽減
    銅 抗酸化酵素(SOD)の構成要素

    レポートはこの一覧のあとに、こう書いています。「検査で測るビタミン・ミネラルは、排出経路の鍵を握る栄養素。つまり、『何が溜まっているか』だけでなく、出す力(排出力)が足りているかまでわかります」2。

    なおレポート自身が、この内容は一般的な栄養学的知見に基づくものであり、特定の製品を推奨するものではないと注記しています2。

    ただし、ここから先に線があります。「特定の栄養素を足せば処理が速くなる」とは、まだ言えません。足りない状態から足したときと、足りている状態から足したときでは、起きることが違うためです。足すかどうかの前に、足りているかどうかという順番が効いてくるのは、ここでも同じです。

    この工程が動いたことを、人で測った例がある

    第II相が実際に動いたかどうかは、尿に出てきた形を測れば分かります。

    大気汚染の大きい地域で行われた291人の無作為化試験では、ブロッコリースプラウト飲料を飲んだ群で、ベンゼン由来のメルカプツール酸の尿中排泄が61%増えました。メルカプツール酸は、第II相で処理されたあとに尿から出ていく形の1つです。

    この工程は、外から動くことがある。ただしその試験が測ったのは出てきた量であって、体内に残っている量でも、健康アウトカムでもありません。

    変換のあとに、出口がある

    ただし、この工程を通らない入り方もあります。

    口から入ったものは、腸から吸収されたあと肝臓を経由してから全身へ回ります。吸って入ったものは、肺から直接全身の循環に乗ります。第I相も第II相も経由しません。

    食品安全委員会のワーキンググループ報告は、吸入曝露についてこう書いています。「粉塵や煙として直接体内に入る。肝臓の解毒を経由しないので、腎障害が起こりやすい」。

    つまりこの二段階は、すべての入口に働くわけではありません。どの入口から入ったかで、処理の経路そのものが変わります。

    第I相と第II相を経て水に溶ける形になったものは、腎臓から尿として出ます。

    ただし、それでも尿から出せないものがあります。その行き先が胆汁で、終点は便です。医学の教科書は胆汁を「腎臓でろ過または排泄できない、潜在的に有害な脂溶性物質の主要排泄経路」と書いていて、そこに出されるものに重金属が挙げられています。

    つまり体の処理は、変換して、出すという二つの段階でできています。変換だけ進んでも、出口が動いていなければ完結しません。

    「解毒」は、抽象語ではない

    この記事に出てきたのは、すべて標準的な生化学の教科書に載っている名前です。

    シトクロムP450。CYP3A4。グルクロン酸抱合。硫酸抱合。グルタチオン抱合。グリシン、タウリン、グルタミン酸。アセチル化。メチル化。

    解毒は、物質名で語れる範囲の話です。怪しくなるのは、この仕組みを使って何かを売るときに、何が出たのかを言わないときです。

    そしてどこから手をつけるかには順番があります。上流だけ速めても、出口が動いていなければ途中に溜まります。

    仕組みが実在することと、その仕組みを名乗る商品が効くことは、別のことでした。入れる側と出す側を一緒に見るのは、前者が実在するからです。

    そして、くっつける材料には名前がついています。グルクロン酸ならグルコース、メチル基ならメチオニン、硫酸なら含硫アミノ酸。すべて糖とアミノ酸から作られます。

    特別な物質は1つも出てきません。だから確かめられるのは、食事の量が極端に減っていないかです。断食や糖質の大幅な制限をしているなら、上流の材料もそのぶん減っています。「休ませる」つもりの行動が、材料を止める側に働くことがあります。

    参考文献・参考資料

    1. Phang-Lyn S, Llerena VA. Biochemistry, Biotransformation. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 最終更新 2023年8月14日. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK544353/
    2. 株式会社bio medical「バイオレゾナンス検査結果報告書」サンプル(各栄養素の役割と不足したときの影響/排出・代謝の仕組み) RESONA-LAB 公式サイト

    本記事は生化学の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の食品・サプリメント・製品・施術の効果を示すものでも、使用を勧めるものでもありません。特定の栄養素の摂取が生体内変換の速度を変えるかどうかについて、十分な検証はなされていません。服用中の薬の飲み合わせは、その薬ごとに決まっているもので、この記事の範囲には入りません。

  • 残留農薬の心配を、数字で整理する

    残留農薬の心配を、数字で整理する

    残留農薬について、日本では実際にスーパーで食品を買って、調理して、測っています。推定ではありません。

    令和4年度の調査では、8地域のスーパーマーケット等で市販された食品を購入し、必要に応じて調理したうえで14の食品群に分け、48種類の農薬等を分析しています1。

    結果は、許容一日摂取量に対する割合が0.000〜2.954%。いちばん高かったものでも3%に届きません1。

    買って、調理して、測る

    この調査の名前は、マーケットバスケット方式といいます。やっていることは、名前のとおりです。

    令和4年度 食品中の残留農薬等の一日摂取量調査の方法
    内容
    対象 48農薬等(農薬、動物用医薬品、飼料添加物)
    地域 北海道、宮城県、栃木県、東京都、新潟県、大阪府、高知県、長崎県の8地域
    試料 各地域のスーパーマーケット等で市販された食品を購入し、そのまま、あるいは必要に応じて調理した後に分析
    分け方 食品摂取量の地域別平均の分量に従って14の食品群に分別し、群ごとに混合均一化
    体重 令和元年国民健康・栄養調査の1歳以上の平均体重56.3kgで推計

    14の食品群は、米、雑穀・芋、砂糖・菓子、油脂、豆、果実、有色野菜、その他の野菜・漬物・きのこ・海藻、嗜好飲料、魚介、肉・卵、乳、調味料、飲料水です1。

    「調理した後」というところが効いています。洗って、皮をむいて、加熱して。実際に口に入る状態で測っています。

    結果の並び

    残留農薬の対ADI比。最大でも2.954%で、許容一日摂取量に対して大きく下回っていることを示す図
    令和4年度調査で定量された農薬等の対ADI比の範囲1。ADIは、一生涯毎日摂取し続けても健康への悪影響がないと推定される量です。
    定量された農薬等の一部(令和4年度)
    農薬等 ADI(mg/kg体重/日) 平均一日摂取量(µg/人/日) 対ADI比
    グリホサート 1 5.45〜11.08 0.010〜0.020%
    ジノテフラン 0.22 3.31〜5.59 0.027〜0.045%
    アセタミプリド 0.071 0.23〜1.85 0.006〜0.046%
    イミシアホス 0.0005 0.01〜0.83 0.041〜2.954%

    報告書は、推定された対ADI比は0.000〜2.954%であり、国民が一生涯に渡って毎日摂取したとしても健康に影響を生じるおそれはないものと考えられるとしています1。

    そして、全地域・全食品群で定量されなかった農薬等もあります。そちらは検出限界を下回っていたということです1。

    「分かっているもの」と「分かっていないもの」を分ける

    ここが、この記事でいちばん持ち帰れる部分です。

    体に入ってくるものについて、いま日本ではデータの揃い方に大きな差があります。

    入ってくるものと、分かっていることの差
    上限の数字 日本人が実際にどれだけ摂っているか
    残留農薬 ADIあり 毎年、買って測っている
    食品添加物 ADIあり 継続的に推定されている
    PFAS 2024年にTDI設定。ただし海外と最大5,300倍の開き データ収集をこれから進める段階
    マイクロプラスチック なし 測り方が国際的に揃っていない

    「体に悪いものが入ってくる」とひとまとめにすると、この差が消えます。残留農薬は、上限の数字があり、実際の摂取量も測られていて、その結果が公開されている側です。

    不安の総量は変わらなくても、どこに手を打てるかは変わります。

    それでも残る、入る量の不確かさ

    ただし、この調査が答えているのは平均一日摂取量です。

    8地域の食品を、地域別平均の分量に従って混ぜた試料を測っています。平均に一致する人が目の前にどれだけいるかは、別の話です。特定の食品に偏って食べている人の値は、この平均には表れません。

    そして、上の表で見たとおり、測られていない物質、測り方が決まっていない物質もあります。

    調理で減るものもある

    この調査が「買って、調理して、測る」方式をとっているのは、調理で量が変わるからです。

    実際に測られた例があります。乾燥ヒジキの無機ヒ素は、水戻しで5割、ゆで戻しで8割、ゆでこぼしで9割減りました。鉄・カルシウム・食物繊維は7割以上残ります。

    入る量は、食べるかどうかだけで決まるわけではありません。

    入る量が読めないぶんは、出す側で決まる

    ただし、この物質について言えば読めない部分は小さいほうです。対ADI比0.000〜2.954%という数字は、上限まで距離があることを示しています。

    同じ「検出された」でも、距離は桁で違います。添加物は最も高いもので17.2%、カドミウムは平均35%・95パーセンタイルで67%。心配の総量を等分に配る理由はありません。

    入ってくるものを全部把握することはできません。測られているものもあれば、これから測るものもあり、測り方が決まっていないものもあります。

    その状態で体に残る量を決めているのは、入る量と出る量の差のほうです。

    体の出口は尿と便の2つあります。水に溶ける形になったものは腎臓から尿へ。尿から出せないものは、肝臓が胆汁に乗せて便へ送ります。医学の教科書は、胆汁をそうした物質の主要排泄経路と書いていて、そこに出されるものに重金属が挙げられています。

    入口の側は、選べる範囲が限られています。出口の側は、毎日動いています。

    そして、残留農薬については確かめられることが1つあります。対ADI比の数字は毎年測り直されて公表されています。気になる農薬の名前があるなら、その年の報告書で自分の目で位置を確かめられます。不安の大きさではなく、数字の桁で見られる話です。

    参考文献・参考資料

    1. 厚生労働省「令和4年度 食品中の残留農薬等の一日摂取量調査結果」 https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/pesticide_residues/assets/001166921.pdf(調査方法 p.1、調査結果 p.2、別表1)

    本記事は公的な調査結果の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の食品・製品・農法の優劣を示すものでも、選択を勧めるものでもありません。記載の数値は調査年度の平均一日摂取量であり、個人の摂取量がそのまま当てはまるわけではありません。

  • PFASを、いまどこまで気にすればいいか

    PFASを、いまどこまで気にすればいいか

    食品安全委員会は2024年6月25日、PFOSとPFOAの耐容一日摂取量を20 ng/kg体重/日と定めました1。日本で初めて、PFASに数字が引かれたことになります。

    ただし同じ評価書に、こう書かれています。海外評価機関が採用しているエンドポイント(どの健康影響を基準に置くか)及び指標値は大きく異なり、PFOSで約600倍、PFOAで約5,300倍。現時点では、国際的に整合性の取れた健康影響評価が確立されている状況ではない1。

    線は引かれました。ただし、その線がどこにあるかについて、世界の合意はありません。

    どうやって20という数字が出たのか

    耐容一日摂取量(TDI)は、毎日摂取し続けても健康への悪影響がないと推定される、一日当たりの摂取量です1。

    出し方は、食品添加物の一日摂取許容量と同じ考え方です。動物試験で影響が出なかった量を出発点にして、種の差と個人の差を見込んだ係数で割ります。

    PFOS・PFOAのTDI算出
    PFOS PFOA
    出発点 ラット2世代試験の児動物の体重増加抑制 マウス試験の胎児の骨化部位数の減少など
    ヒト等価用量 500〜600 ng/kg体重/日 5,300 ng/kg体重/日
    不確実係数 30(種間3×種内10) 300(種間3×種内10×LOAEL使用10)
    TDI 20 ng/kg体重/日 20 ng/kg体重/日

    出発点の値は10倍近く違うのに、TDIは同じ20に落ち着いています。不確実係数が30と300で違うためです。数字が同じでも、その後ろにある確からしさは同じではありません。

    600倍と5,300倍という開き

    ここが、この評価書でいちばん正直な部分です。

    海外評価機関の指標値がPFOSで約600倍、PFOAで約5,300倍の開きがあることを示す図
    評価書が記している、海外評価機関の指標値の開き1。同じ物質について、機関ごとにこれだけ違う値が出されています。

    同じ物質について、機関ごとに採用する試験も指標値も違い、その幅がPFOAでは5,300倍に達しています。「エビデンスがある」と言うとき、何を指しているのかという問題が、そのまま出ている状態です。

    そして評価書は、将来的に科学的知見が集積してくればTDIを見直す根拠となる可能性はあると書いています1。いまの20という数字も、確定したものではありません。

    評価できなかったものがある

    PFASは総称で、多くの種類があります。今回、指標値が出たのはPFOSとPFOAの2つです。

    PFHxSについては、「評価を行う十分な知見は得られていない」として、指標値の算出は困難と判断されました1。

    また、EFSAは2020年にPFOS・PFOA・PFHxS・PFNAの合計値で指標を設定していますが、食品安全委員会は複数のPFAS分子種による複合ばく露について、動物試験でも疫学調査でも知見がほとんどないとして、合算での設定を採っていません1。

    自分がどこにいるかは、まだ分からない

    線が引かれても、自分がその線のどちら側にいるかは別の問題です。

    評価書は、今後必要なこととしてこう挙げています。摂取量・ばく露量の分布、高ばく露の個人や集団の把握、摂取・ばく露経路の推定についての情報。そして、飲料水や食品におけるPFAS濃度の分布に関するデータ収集を早急に進めることが必要である1。

    つまり日本人が実際にどれだけ摂っているかの全体像は、これから集める段階にあります。

    これはマイクロプラスチックと同じ構造です。線が引かれたかどうかの違いはありますが、「自分がいまどれだけ入れているか」を確かめる手段が手元にないという点は共通しています。

    入る量が分からないとき、何が残るか

    入口の側について、分かっていることがあります。PFASは撥水・撥油加工に使われてきたため、フライパンのコーティング、撥水加工の衣類、包装紙が経路として挙げられます。

    ここは金属の入口の一覧と並べると位置がはっきりします。金属には、魚種ごとの摂食目安も、水質基準も、耐容週間摂取量もあります。PFASには、日本のTDIという数字が1つあるだけで、自分の摂取量を知る手段がありません。

    そして、入口を完全には閉じられません。この点はマイクロプラスチックと同じ構造です。

    PFASは、分解されにくいことから対策が議論されている物質群です。入口を特定して減らす取り組みは、使用規制や排出源対策として国の側で進みます。

    個人の側で残るのは、入った分をどれだけ処理して外へ出せているかのほうです。

    体の出口は尿と便の2つあります。水に溶ける形になったものは腎臓から尿へ、尿から出せないものは肝臓が胆汁に乗せて便へ送ります。入る量を自分で測れないときほど、この差が効いてきます。

    そして胆汁を介した経路の終点は便です。その通過に関わる食物繊維は、日本人がすでに目標量に届いていない項目でした。

    参考文献・参考資料

    1. 内閣府食品安全委員会「有機フッ素化合物(PFAS)の食品健康影響評価について」2024年6月25日 https://www.fsc.go.jp/osirase/pfas_health_assessment.data/pfas_hyoukagaiyou.pdf 評価に関する情報ページ

    本記事は公的機関の評価書の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の製品・検査・浄水器などの効果を示すものでも、使用を勧めるものでもありません。PFASの健康影響評価は国際的に確立しておらず、記載の指標値は今後見直される可能性があります。居住地域の水道水質については、各自治体の公表資料をご確認ください。

  • 出す力を上げたいとき、どこを見ればいいか

    出す力を上げたいとき、どこを見ればいいか

    医学の教科書は、胆汁を「腎臓でろ過または排泄できない、潜在的に有害な脂溶性物質の主要排泄経路」と書いています1。

    そこへ出されるものとして具体的に挙げられているのは、ビリルビン、胆汁酸、コレステロール、リン脂質、そして重金属です1。

    つまり体の出口は、尿だけではありません。尿から出せないものが通る道が、別にあります。そしてその道の終点は、便です。

    腎臓が扱えないものがある

    体から何かを外へ出すとき、まず思い浮かぶのは尿です。腎臓が血液を濾過して、不要なものを尿に混ぜて捨てる。これは正しい。

    ただし、腎臓が扱えるのは水に溶けるものです。脂に溶けやすい物質は、濾過されても再吸収されてしまいます。

    そこで肝臓が、二段階の変換を行います。第一相で分子に手をかけて反応しやすい部分を作り、第二相で別の分子をくっつけて水に溶けやすくする。水に馴染む形になれば、尿から出せます。

    ただし、この変換だけでは足りないものがあります。変換しても水に溶けにくいままのもの、分子が大きすぎるもの。それらの行き先が胆汁です。

    体の出口が尿と便の2つあり、水に溶ける形になったものは尿へ、そうでないものは胆汁を経て便へ向かうことを示す図
    肝臓が水に溶ける形へ変えたものは、腎臓から尿として出ます。それでも尿から出せないものは、胆汁に乗って腸へ向かいます1。

    胆汁は、脂肪の消化だけの液ではない

    胆汁と聞いて出てくるのは、たいてい「脂肪の消化を助ける」という説明です。それも合っています。教科書も、脂肪吸収の促進が胆汁の主な機能だと書いています1。

    ただし同じ教科書が、続けてもう一つの役割を挙げています。潜在的に有害な外因性脂溶性物質と、内因性基質の主要排泄経路であること1。

    胆汁へ排出されるものとして挙げられているもの
    物質
    ビリルビン 古い赤血球を分解してできた色素
    胆汁酸 脂肪の吸収を助ける。大部分は回収される
    コレステロール 体外へ出す主要な経路のひとつ
    重金属 教科書が名指しで挙げている
    リン脂質・酵素・ビタミン

    量も具体的です。肝細胞は1日に600〜1000mLの胆汁を分泌します1。ペットボトル1本から2本分が、毎日この経路を流れています。

    出したものが、戻ってくる仕組みもある

    胆汁は腸へ出たあと、そのまま全部が便になるわけではありません。

    胆汁酸の95%は、回腸で再吸収されて肝臓へ戻ります。便から失われるのは5%で、その分は肝臓で新しく作られて補われます1。この行って戻る流れを、腸肝循環といいます。

    胆汁酸の95%が回腸で再吸収されて肝臓へ戻り、5%が便から出ることを示す循環の図
    胆汁酸について報告されている割合1。再吸収される割合は物質によって異なり、すべてがこの比率で戻るわけではありません。

    ここは慎重に読む必要があります。95%というのは胆汁酸の数字であって、胆汁に出されたすべての物質がこの割合で戻るという意味ではありません。再吸収されるかどうかは物質によって違います。

    それでも、構造としてはっきりしていることがあります。胆汁に出されたものは、いったん腸に置かれる。そこから先、便として出ていくか、腸に留まるかで、体に残る量が変わります。

    便通が、出口の話でもある理由

    ここまでを並べると、便の位置づけが変わります。

    便は「消化のあとの残りかす」だけではありません。肝臓が処理して、尿からは出せないと判断したものが送られてくる先でもあります。

    だから便通の診断基準が、回数だけでなく、いきみ・硬さ・残便感まで6項目で見ているのは、腸の快適さだけの話ではないことになります。通過が滞れば、腸に置かれている時間が延びます。

    そして通過に関わるものには、数字があります。食物繊維の目標量は30〜64歳の男性で22g、女性で18g。実際の摂取量は12.45gと11.5gでした。

    金属についても、同じ向きの数字があります。ニッケルの場合、経口摂取のうち腸から吸収されるのは1〜10%。90〜99%は、吸収されずに便として出ていきます2。

    つまり金属には、2つの出方があります。吸収されずにそのまま通過する分と、吸収されて肝臓で処理され、胆汁に乗って腸へ戻される分。どちらも、最後は腸を通ります。

    この構造があるので、「溜まっているかもしれない」に対して、便の通過は無関係ではありません。口の中の金属や、食品に含まれる金属についても、経路はここへ集まります。

    「出す」を、商法から取り戻す

    「デトックス」という言葉は、いま使いにくい状態にあります。物質名が書かれていない「毒素」を出すという商品や施術が多く、出たかどうかを誰も確かめられないからです。

    ただ、そこで話を止めると、出す側そのものが無かったことになります。

    この記事で並べたのは、すべて標準的な生理学の教科書に書かれていることです。肝臓が二段階で変換すること。水に溶けない物質の主要排泄経路が胆汁であること。そこに重金属が含まれること。1日600〜1000mL分泌されること。95%が回収され、5%が便へ出ること。

    出す側は、実在します。怪しいのは、その仕組みを使って何かを売るときに、何が出たのかを言わない売り方のほうです。

    入れる側だけでは、残る量が決まらない

    健康の話は「何を食べるか」「何を足すか」に寄ります。そちらは選びやすく、買いやすいからです。

    ただ、入る量を完全には管理できないものもあります。そういうとき、体に残る量を決めているのは入る量と出る量の差のほうです。

    そして、どちらから先に手をつけるかには順番があります。出口が滞っていれば、上流を動かしても行き場がありません。

    尿と便。出口は2つあります。片方は水に溶けるものを、もう片方は溶けないものを担当しています。入れる側と一緒に出す側も見るのは、この構造があるからです。

    今日数えられるのは、便が出た回数です。胆汁に出されたものは、いったん腸に置かれます。そこで止まっている時間が長いほど、戻ってくる分が増えます。

    国際的な基準の線引きは週3回未満です。毎日でなくても基準の外ではありませんが、何回だったかを知らないままでは、出口の側が動いているかを判断できません。1週間、数えるところからです。

    参考文献・参考資料

    1. Dave HD, Shumway KR, Al Obaidi NM. Physiology, Biliary. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 最終更新 2022年12月15日. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK537107/
    2. 足立厚子「金属アレルギーの対処法〜全身型金属アレルギーを中心に〜」アレルギー 2020;69(3):169-173.(図1「ニッケルの体内代謝」) https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/69/3/69_169/_pdf

    本記事は生理機能の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の食品・製品・検査・施術の効果を示すものでも、使用を勧めるものでもありません。再吸収される割合は物質によって異なり、記載の数値がすべての物質に当てはまるわけではありません。肝機能・胆道系の検査値について指摘を受けている方は、個別の評価が行われている段階で、この記事の範囲には入りません。

  • マイクロプラスチックに、いま現実的にできること

    マイクロプラスチックに、いま現実的にできること

    マイクロプラスチックについて、「体内にどれだけ溜まると危ないか」という線を、まだ誰も引けていません。害がないと分かったからではなく、測り方が国際的に揃っていないからです。

    米国FDAは2024年7月の更新で、「食品中で検出されているレベルが人の健康にリスクをもたらすことを、現在の科学的根拠は示していない」としています。ただし同じページで、その評価を制限している要因も挙げています。標準化された定義、参照物質、試料の採取・調製手順が欠けていることです1。

    つまり「安全だと確かめた」ではなく、「比べられる形で測れていない」という段階にあります。

    入口は3つ挙げられている

    FDAは曝露経路として、空気、食べもの、そしてパーソナルケア製品の使用による皮膚からの吸収を挙げています1。

    ただし3つめについては、成分によって結果が分かれています。日焼け止めの場合、無機の散乱剤は角層の外層より奥へ到達しなかったという報告が大半で、逆に有機の吸収剤は血中に出ることが測定されています。「皮膚から入る」も、物質ごとに分けないと答えが出ません。

    食品については、食塩、魚介類、砂糖、ビール、ボトル入り飲料水などでの検出が報告されています。ただしFDAは、これらについて定量値を示していません。研究ごとに分析方法が違い、比較が困難だからです1。

    ここが、他の体内蓄積の話と決定的に違うところです。鉛と水銀なら、入口が具体的に分かっています。食品添加物なら、一日摂取許容量が決まっていて、日本人の実際の摂取量も毎年推定されています。

    マイクロプラスチックには、そのどちらもありません。

    同じプラスチック由来でも、フタル酸エステル類には物質ごとの耐容一日摂取量があり、2025年6月からポジティブリスト制度が完全施行されています。「プラスチック容器」という1つの入口の中に、答えが出ているものと出ていないものが混ざっています。

    日本の現状認識

    日本学術会議は、提言「マイクロプラスチックによる水環境汚染の生態・健康影響研究の必要性とプラスチックのガバナンス」で、現状をこう書いています2。

    日本学術会議の提言が示している現状
    記述
    可能性として指摘されていること ナノサイズのプラスチックが細胞膜を通過して、生物組織を傷害する可能性がある
    調査の状況 吸着・含有された有害物質による生物への毒性影響の調査事例は少ない
    リスク評価 環境および健康リスク評価は全く行われていない

    「危険だと分かっている」でも「安全だと分かっている」でもありません。評価そのものが行われていない、という第三の状態です。

    欧州食品安全機関(EFSA)は健康リスク評価を開始していて、結果の公表は2027年末までとされています3。線が引かれるとしても、まだ先です。

    入口を全部は閉じられない

    ここから先が、実際に手を動かせる部分です。

    入口を減らす方向は、いくつかあります。飲料の容器を選ぶ、加熱にプラスチック容器を使わない、パーソナルケア製品の成分表示を見る。どれも意味はあります。

    ただし空気が経路に入っている時点で、入る量を自分で完全に管理することはできません。屋内の繊維やほこりからも入ります。減らせても、ゼロにはなりません。

    入る量を減らしても完全には閉じられず、体に残る量は処理して出す側で決まることを示す図
    入口は減らせますが、閉じきることはできません。残る量を決めているのは、入る量と出る量の差のほうです。

    だとすると、実際に体に残る量を決めているのは、入る量だけではありません。入った分をどれだけ処理して外へ出せているか、その差のほうです。

    出す側は、実在する仕組みである

    「デトックス」という言葉は、いま扱いにくい状態にあります。物質名が書かれていない「毒素」を出すという商品や施術が多く、出たかどうかを誰も確かめられないからです。

    ただ、そこで話を止めると、出す側そのものが無かったことになります。実際には、経路ははっきり分かっています。

    体が不要なものを外へ出す経路
    経路 担っているもの
    尿 腎臓。水に溶ける形になったものを濾し出す
    便 肝臓がつくる胆汁。尿からは出せない物質を便側へ送り出す
    変換 肝臓の第I相・第II相。脂に溶けやすい物質を、水に溶ける形へ変える

    肝臓の主な働きは八つ以上あり、そのうちの一つが「胆汁をつくる」ことです。その役割は、尿からは出せない物質を便の側へ送り出すこと。つまり出口は尿だけではありません。

    そしてこの二段階の変換には、注意点があります。第一相でできる中間産物は、元の物質より反応しやすく、場合によっては毒性が強くなります。第二相が追いつかなければ、その中間産物のほうが問題を起こしうる。「解毒力を高める」という言い方が分かりにくいのは、この構造のためです。

    測れないものと、測れるもの

    この「測れなさ」は、検査の側にもそのまま現れています。

    RESONA-LABの結果報告書は、体内蓄積の欄を3つに分けています。重金属は9種の項目名が並び、添加物はE番号で並ぶ。そしてプラスチック蓄積の欄には、「準備中・・・」とだけ書かれています4。

    ここは正直な表示です。金属には、入口ごとの公的な基準や摂取量調査があります。添加物には一日摂取許容量があり、日本人の摂取量も毎年推定されています。マイクロプラスチックには、そのどちらもありません。FDAが定義も参照物質も採取手順も揃っていないと書いているとおりです。

    つまり「まだ測れない」という状態が、そのまま欄に書かれているということです。埋まっている欄と、埋まっていない欄の違いは、体の側ではなく、測る技術の側にあります。

    マイクロプラスチックは、いまのところ入る量も、体内の量も、比べられる形では測れません。線も引かれていません。

    その状態で自分に対してできることは、2つに分かれます。

    入口の側。容器、加熱、パーソナルケア製品。減らせますが、空気が入っている以上、閉じきれません。

    出口の側。尿と便という経路は実在し、肝臓・腎臓・腸が関わっています。便として出す経路は、食物繊維の量に影響されます。そしてその処理に必要な栄養素が足りているかは、確かめられる項目です。

    ほかの入口にどこまで数字があるかは、入ってくるものと、出す力で比べられます。

    入る量が測れないときほど、出す側が働いているかどうかが効いてきます。入口を完全には閉じられないからこそ、そちらが残りの量を決めます。

    参考文献・参考資料

    1. U.S. Food and Drug Administration. Microplastics and Nanoplastics in Foods.(最終更新 2024年7月24日) https://www.fda.gov/food/environmental-contaminants-food/microplastics-and-nanoplastics-foods
    2. 日本学術会議 提言「マイクロプラスチックによる水環境汚染の生態・健康影響研究の必要性とプラスチックのガバナンス」 https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/kohyo-24-t288-1-abstract.html 提言本文(PDF)
    3. 欧州食品安全機関(EFSA)はマイクロプラスチックの健康リスク評価を開始しており、結果の公表は2027年末までとされています。
    4. RESONA-LAB 検査結果報告書(人用・試供品サンプル)の記載による。報告書の見本は公式サイトで公開されています https://resona-lab.com/humans

    本記事は公的機関・学術団体の公開資料の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の製品・検査・食事法の効果を示すものでも、使用を勧めるものでもありません。マイクロプラスチックの健康影響については評価が進行中であり、記載の内容は今後変わる可能性があります。

  • 糖質を減らすとき、一緒に減るものへの備え

    糖質を減らすとき、一緒に減るものへの備え

    糖質を減らすと、体から出す経路のひとつが細ります。米・パン・麺・いも・果物は、日本人の食物繊維の主な供給源だからです。

    体の出口は尿だけではありません。肝臓は胆汁をつくり、尿からは出せない物質を便の側へ送り出しています。その便の通過に関わるのが食物繊維です。

    そして日本人は、すでに食物繊維の目標量に届いていません。30〜49歳男性で目標22gに対し、実際は12.45gでした。

    目標量が「残り」である、ということ

    『日本人の食事摂取基準(2025年版)』は、炭水化物の目標量をこう説明しています。炭水化物がエネルギー源として重要な役割を担っていることから、たんぱく質及び脂質の残余として目標量(範囲)を設定した1。

    たんぱく質13〜20%と脂質20〜30%を決めたあと、残りが炭水化物50〜65%になることを示す図
    たんぱく質13〜20%、脂質20〜30%。この2つを引いた残りが炭水化物の範囲になります1。

    順番が逆なのが要点です。「炭水化物はこれだけ必要だ」という研究から50〜65%が出たのではありません。他の2つを決めた結果、そこが空いた。

    だから、この範囲を下回ったときに何が起きるかについて、基準は答えを持っていません。線が引かれていないことと、下回って大丈夫なことは別です。

    なお、この%エネルギーにはアルコールから摂ったエネルギーも含まれます(基準表の脚注に明記されています)1。飲む人は、炭水化物の枠の一部を酒が占めていることになります。

    砂糖にも、目標量はない

    糖質制限の話で真っ先に減らされるのは砂糖ですが、糖類(単糖及び二糖類)に目標量は設定されていません。

    報告書は理由を書いています。糖類の過剰摂取が肥満や齲歯の原因となることは広く知られているが、諸外国で指標の設定に多く用いられている added sugar 及び free sugar の摂取量の把握が日本において現状では困難であること、及び他国と日本における糖類摂取状況が大きく異なる可能性があることから、目標量は設定しなかった1。

    害がないから設定しなかったのではありません。日本人が実際にどれだけ摂っているかを測る仕組みが、まだないからです。

    減るのは、糖質だけではない

    ここが、この記事でいちばん実務的な部分です。

    糖質を減らすと、米・パン・麺・いも・果物が減ります。これらは日本人の食物繊維の主な供給源です。

    そして食物繊維が関わっているのは、便の通過です。体が不要なものを処理して外へ出すとき、出口は尿だけではありません。肝臓の主な働きの一つが「胆汁をつくる」ことで、その役割は尿からは出せない物質を便側へ送り出すことでした。

    つまり糖質を減らすという選択は、入れる側の話に見えて、出す側にも届きます。入れる側と出す側を一緒に見るのは、そのためです。

    その食物繊維には、はっきりした目標量があります。

    食物繊維の目標量と実際の摂取量。30〜49歳男性は目標22gに対し摂取12.45g、女性は18gに対し11.5g
    30〜49歳の目標量と、摂取量の中央値1。目標量の算定に用いられたのは平成30年・令和元年の国民健康・栄養調査の値です。
    食物繊維の目標量(g/日)
    年齢 男性 女性
    18〜29歳 20以上 18以上
    30〜64歳 22以上 18以上
    65〜74歳 21以上 18以上
    75歳以上 20以上 17以上

    さらに、この目標量は理想の量ではありません。報告書は、成人の理想的な目標量は25g/日以上と考えられるが、現在の日本人の摂取実態を鑑み、実行可能性を考慮してこれよりも低く設定されていると書いています1。

    効果の大きさについても数字があります。観察研究を含むメタ・アナリシスでは、25〜29g/日の摂取量で最も顕著な効果が観察されたと報告されています1。

    つまり、下げられている目標量にすら届いていないところから、さらに糖質を減らすことになります。

    減らすなら、どこから入れ直すか

    糖質を減らすこと自体を止めるものではありません。減った食物繊維をどこから入れるかを、先に決めておきます。

    穀類以外の供給源は、豆類、海藻、きのこ、野菜、ナッツです。ここを増やさずに主食だけ減らすと、目標量からの距離が開きます。

    ただし、一度に大きく増やすと張りや不快感が出ます。報告書も、便秘の重症化予防を目的とした食物繊維の追加摂取について、1日10g・少なくとも4週間にわたる追加が勧められていること、腸にガスがたまるといった症状の悪化も報告されていることから、慎重に判断されるべきだとしています1。

    成分表の版が変わると、数字も変わる

    食物繊維の数字を扱うときの注意が1つあります。

    日本食品標準成分表が七訂から八訂になったとき、測定法が変わりました。精白米は0.3g→1.5g、食パンは2.3g→4.2g(可食部100gあたり)。食品が変わったのではなく、測り方が変わったためです1。

    そして目標量のほうは、七訂相当の測定法で算定されています。八訂を使ったアプリで計算すると、実際より高めの値が出ます。報告書も「八訂を用いた場合の値は高めに算出されることを考慮すべきである」と書いています1。

    線が引かれていない場所と、引かれている場所

    もう1つ、食物繊維が関わる場所があります。通過そのものです。

    ニッケルの場合、経口で入った量のうち腸から吸収されるのは1〜10%で、90〜99%は吸収されずに便として出ていきます2。加えて肝臓が胆汁に出したものも腸へ送られてきます。医学の教科書は、そこへ出されるものに重金属を名指しで挙げています。

    つまり便として出る経路は、栄養の話であると同時に、入ってきたものが体を通り抜ける経路でもあります。糖質を減らすと食物繊維も一緒に減る、という構造が効いてくるのは、こちら側でもあります。

    目標量22g・18gに対して、実際は12.45gと11.5g。出口が先で、上流があとという順番の中で、いちばん数字がはっきりしているのがこの差です。

    炭水化物の目標量は、他の2つを決めた残りでした。糖類には目標量そのものがありません。「何%から制限なのか」に、日本の基準は答えを持っていません。

    数字があるのは食物繊維です。30〜64歳の男性で22g、女性で18g。実際の摂取量は12.45gと11.5g。しかもこの目標量は、理想とされる25gから実行可能性を考慮して下げた値でした。

    糖質をどれだけ減らすかは自分で決めることになります。そのとき手元にある唯一の数字が、食物繊維です。

    そして食物繊維は、入れる側の項目でありながら、出す側の経路にも関わっています。減らした分をどこから入れ直すかは、その両方を動かす選択になります。

    参考文献・参考資料

    1. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 各論 エネルギー・たんぱく質 1-4 炭水化物 https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316464.pdf(食物繊維の摂取量 p.135、測定法の変更 p.136、便秘と食物繊維 p.137、概要 p.138、炭水化物の基準表 p.143、食物繊維の基準表 p.144)
    2. 足立厚子「金属アレルギーの対処法〜全身型金属アレルギーを中心に〜」アレルギー 2020;69(3):169-173. https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/69/3/69_169/_pdf

    本記事は公的な基準の整理であり、個別の診断・治療・栄養指導に代わるものではありません。特定の食品・製品・食事法の効果を示すものでも、実施を勧めるものでもありません。必要量には個人差があり、記載の数値がそのまま当てはまるとは限りません。糖尿病などで食事療法を受けている方は、量が個別に決められています。この記事の範囲の外です。

  • 更年期かどうかを決めるのは、血液検査ではなく月経と症状

    更年期かどうかを決めるのは、血液検査ではなく月経と症状

    40代、50代に入ってから、それまでなかった不調が出てきた。ほてり、寝つきの悪さ、イライラ、疲れやすさ。調べると「更年期かもしれません」と出てきます。

    ただ、本当にそうなのかをどう確かめるのかは、たいてい書かれていません。

    更年期かどうかは、血液検査では決まりません。決めているのは、年齢と、月経の状況と、症状と、ほかの病気がないことです。

    このうち検査でまっすぐ確かめられるのは、4つ目だけです。順に見ていきます。

    「更年期」は、期間の名前

    更年期は、症状の名前ではなく期間の名前です。

    閉経とは、1年間月経がない状態を指します。日本人女性の閉経平均年齢は50.5歳で、これをはさんだ前後10年間が更年期(周閉経期)です1。

    更年期は閉経をはさんだ前後10年間。日本人の閉経平均年齢は50.5歳で、45.5歳から55.5歳にあたる
    閉経の平均は50.5歳。その前後5年ずつ、計10年間が更年期にあたります1。閉経は「最後の月経から1年たった」ことで判定されるため、渦中では確定しません。

    ここに、知られていない性質があります。閉経は、後ろから決まります。1年間月経がなくて初めて「あれが最後だった」と分かる。つまり、いま不調の渦中にいる人が「自分は更年期のどのあたりか」を確定させることは、その時点ではできません。

    症状が出ている最中に「更年期です」と一発で確定する検査が存在しないのは、この構造のためです。

    症状があることと、病名がつくことは別

    日本産科婦人科学会は、二つを分けています。更年期に現れるさまざまな症状が更年期症状。そのうち症状が重く、日常生活に支障をきたす状態が更年期障害です2。

    症状の幅は広く、学会が挙げているだけでも三つの系統にまたがります。ほてり・のぼせ・発汗といった血管症状、めまい・動悸・胸が締め付けられるといった身体症状、気分の落ち込み・意欲の低下・イライラといった精神症状です2。厚生労働省研究班の解説は、これに皮膚の乾燥やかゆみ、腟の乾き、尿失禁なども加えています1。

    幅が広いということは、当てはまる項目が見つかりやすいということでもあります。リストに当てはまったことは、原因がそれだと示していません。

    疑っている人と、確かめた人の差

    厚生労働省が2022年3月に実施した調査があります。全国の20〜64歳、女性2,975人・男性2,025人へのインターネット調査です3。

    女性で更年期障害の可能性を考えている割合は40代28.3%・50代38.3%、医療機関で診断された割合は40代3.6%・50代9.1%
    女性で「更年期障害の可能性がある」と考えている割合と、医療機関で診断された割合3。調査の「更年期症状」は回答者本人の主観に基づくものと、報告書に明記されています。

    50代女性では、38.3%が更年期障害の可能性を考えていて、医療機関で診断されたのは9.1%。40代では28.3%に対して3.6%です3。

    受診の側から見ると、もっとはっきりします。更年期症状を自覚している人のうち「受診していない」と答えたのは、40代女性で81.7%、50代女性で78.9%でした3。

    そして同じ調査で、更年期に入る前にほしかった情報を聞いています。40代女性の回答では「主な更年期症状に対する対処法」38.4%、「主な更年期症状の内容や程度」35.6%に続いて、「医療機関(婦人科等)を受診する目安」が21.9%、「受診すべき診療科の情報」が17.3%でした3。

    足りていないのは症状の一覧ではなく、いつ、どこへ行けばいいのかのほうだった、ということになります。

    ホルモンを測れば決まる、ではない

    「血液検査で女性ホルモンを測れば分かる」と考えて受診する人がいます。ここが、実際とずれています。

    厚生労働省研究班の解説はこう書いています。「血液中のホルモン濃度測定は、更年期の診断の補助に使えます」1。補助であって、決め手ではありません。

    理由は前の節と同じです。閉経の判定そのものが「12か月月経がない」という時間の観察で決まります。数値ひとつを取り出しても、その時間を先取りできません。

    これは健診の「異常なし」が答えている問いが狭いのと同じ構造です。検査は測った項目について答えるだけで、測っていないものについては何も言いません。

    測れるのは、「更年期以外」のほう

    ここが、この記事でいちばん実務的な部分です。

    厚生労働省研究班の解説は、更年期障害を疑うときに除外が重要な疾患として、次を具体的に挙げています1。

    更年期障害と症状が重なり、50歳近辺で頻度が多くなる疾患
    疾患 解説が挙げている受診先
    糖尿病 内科
    甲状腺機能低下症 内科
    メニエール病 耳鼻科
    手指関連疾患 整形外科

    日本産科婦人科学会も、症状の陰に別の病気が潜んでいないかの確認は大切だとして、産婦人科だけでなく内科・整形外科・耳鼻科・心療内科・精神科への受診をすすめることがある、と書いています2。

    この一覧が示しているのは、更年期かどうかを測るのではなく、更年期以外を消していくという順番です。そして消す側は、どれも数値や検査で確かめられます。

    甲状腺機能低下症は、疲れやすさ、寒がり、体重増加といった「代謝が落ちた」と表現されがちな不調と重なります。血液でTSHとFT4を測れば分かる項目です。

    疲れが抜けないという訴えなら、ヘモグロビンが基準内でも貯蔵鉄が減っている状態もありえます。フェリチンで確かめられます。

    自分の側で用意できるもの

    受診するかどうかを別にしても、記録は先に作れます。検査で代わりに出せないのが、まさにこの部分だからです。

    月経のこと。最後の月経がいつだったか。周期が乱れ始めたのはいつごろからか。量に変化はあるか。

    症状のこと。何が、いつから、週に何回くらい、どれくらい続くか。そして日常生活に支障が出ているかどうか。学会が更年期症状と更年期障害を分けている基準がここなので、診察室でもそのまま使われます。

    厚生労働省研究班のサイトには、症状の程度を点数にするセルフチェックが公開されています。点数そのものが診断になるわけではありませんが、「なんとなく調子が悪い」を持っていくより、記録を持っていくほうが話が早く進みます。

    治療の選択肢は、一つではない

    日本産科婦人科学会が挙げている治療は、ホルモン補充療法(HRT)、漢方薬、向精神薬(抗うつ薬・抗不安薬・睡眠薬)です2。どれを使うか、使わないかは、症状と本人の状況によって医師が判断します。

    ここで書けるのは、選択肢が複数あるという事実までです。個別にどれが向いているかは、この記事では決められません。

    男性の場合は、まだ分かっていないことが多い

    同じ厚生労働省の調査で、男性にも聞いています。50代男性で更年期障害の可能性を考えている割合は14.3%、診断されたのは1.7%でした3。

    ただし調査の定義欄は、男性の更年期障害についてこう書いています。概ね40歳以降に男性ホルモン(テストステロン)の減少により女性更年期障害と類似した症状を呈するが、病態が複雑で、まだ十分に解明されていない3。

    女性の更年期と同じ精度で語れる段階にはない、というのが現時点の状況です。

    確かめる順番

    順番の前に、押さえておくことが1つあります。ここで挙がる症状は、他の説明とほぼ全部重なります。

    疲労感、集中力の低下、睡眠の問題、肌の変化、気分の落ち込み。一般の人1,000人の調査では、過去7日間に症状がまったくなかった人は10.6%でした。栄養素不足の説明にも、検査結果の症状一覧にも、同じ言葉が並びます。

    だから「当てはまるかどうか」では、どれなのかが決まりません。決まるのは、年齢、月経の変化、そして経過という、当てはまり以外の情報です。

    更年期かどうかを一発で決める検査はありません。決めているのは、年齢と、月経の状況と、症状と、ほかの病気がないことでした。

    このうち自分で用意できるのは、最後の月経の時期と、症状の記録です。検査ではっきりするのは、甲状腺・血糖・貧血といった更年期以外の側です。そして、そちらが消えるほど、更年期という説明は確からしくなります。

    受診先が婦人科とは限らないのも、同じ理由からです。症状の内容によっては、内科や耳鼻科が先になります。

    参考文献・参考資料

    1. 厚生労働省研究班(東京大学産婦人科学講座・国立成育医療研究センター監修)「女性の健康推進室 ヘルスケアラボ」更年期障害とは? https://w-health.jp/climacterium_alarm/about_climacterium/(最終更新 2025年5月13日)
    2. 公益社団法人 日本産科婦人科学会「更年期障害」 https://www.jsog.or.jp/citizen/5717/
    3. 厚生労働省「更年期症状・障害に関する意識調査(結果概要)」2022年 https://www.mhlw.go.jp/content/000969136.pdf(定義 p.1、更年期障害の可能性 p.2、受診までの期間 p.3、ほしかった情報 p.8)

    本記事は公的機関・学会の公開資料の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の治療法・食品・サプリメント・製品の効果を示すものでも、使用を勧めるものでもありません。症状の現れ方には個人差があり、記載の数値がそのまま当てはまるとは限りません。