サプリを買う前に、片づけておきたい問い

サプリメントを足す前に どれにするか 決まらない 足りていないか 数個に絞れる 足りているかから始めると、候補は数個に絞られる

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「どれにするか」から始めると、選択肢は無数にあって決まりません。「足りていないのか」から始めると、多くの場合、候補は数個に絞られます。

そして栄養素によって、足りているかの確かめ方が違います。血液の数値で線が引けるもの、食べている量から見るもの、尿から推定するもの。順番は、確かめ方を選ぶところからです。

1. そもそも足りていないのか

サプリメントは、足りないものを補うための手段です。だとすれば、最初の問いは「自分に足りていないのか」になります。

日本の状況は、公的な調査で数字が出ています12。

20〜40代女性のカルシウム・鉄・ビタミンDの摂取量が、いずれも食事摂取基準の推奨量/目安量を下回っていることを示す棒グラフ
20〜40代女性の1日あたり摂取量と、食事摂取基準2025年版が示す量12。調査と基準で年齢区分が異なり、ビタミンDは推奨量ではなく目安量です。

ただし、ここには注意がいります。この調査は1日の食事記録に基づいています1。

足りているかどうかは、栄養素によって事情が違います。骨から補われて値が動かないものもあり、体の中での使われ方も栄養素ごとに分かれます。順番の2番目が効いてくるのは、ここです。

鉄については、フェリチンは炎症で上がるため、一点の数値だけでは読めません。

2. 足りている人が足したら、どうなるのか

ここが、順番として2番目に来る理由になります。

欠乏のない成人を対象にした試験を集めた系統的レビュー(84研究、739,803人)は、ビタミン・ミネラルの補充について「がん・心血管疾患・死亡の予防に、ほとんどまたはまったく利益がない」と結論しています3。

「効果がない」と言い切っているのではありません。βカロテンとビタミンEについては推奨しないとし、マルチビタミンについては判断できるだけの材料がないとしています。この二つは違います。「エビデンスがない」が意味することの整理は、ここでそのまま効いてきます。

3. 増やすと不利になる場合がある

足りている人が足すことの問題は、「無駄になる」だけではありません。

フィンランドで行われたATBC試験は、50〜69歳の男性喫煙者29,133人にβカロテンを投与しました。想定は肺がんの予防です。結果は逆で、βカロテン群では肺がんの罹患が18%(95%信頼区間 3〜36%)多くなりました4。

米国のCARET試験も同じ方向を示し、予定より21か月早く中止されています5。

高用量のビタミンEについては、35,533人を対象にした試験で、前立腺がんが17%多く起きたと報告されました6。対象は健康な男性です。

いずれも特定の集団・特定の用量での結果であり、すべてのサプリメントに一般化できるものではありません。ただ、「体にいいものだから多いほどいい」という前提が成り立たないことは示しています。

4. 日本の基準も、同じことを書いている

この点について、厚生労働省の食事摂取基準2025年版に、かなり踏み込んだ記述があります。

貧血でない妊婦・授乳婦についても、鉄サプリメントの利用は控えるべきだと書かれています7。

逆に言えば、鉄欠乏や鉄欠乏性貧血がある場合の補給は必要であり、それは医師の指示に従って行うもの、という整理になります。不足しているかどうかで、答えが正反対になります。だから1番目の問いが最初に来ます。

5. いま飲んでいる薬はあるか

ここは順番というより、該当する人には最優先の確認事項です。

2000年、厚生省はセント・ジョーンズ・ワート(セイヨウオトギリソウ)と医薬品の相互作用について報道発表を行っています。薬物代謝酵素であるチトクロームP450、特にCYP3A4とCYP1A2が誘導されることが理由です8。

報告された影響は具体的で、抗HIV薬インジナビルの血中濃度の指標が平均43%低下、強心薬ジゴキシンが平均25%低下。免疫抑制薬シクロスポリンでは、心移植後の患者で急性拒絶反応が生じた例が報告されています8。

この発表では、該当する医薬品として28成分が挙げられ、添付文書の改訂が指示されました。ワルファリン、経口避妊薬、抗てんかん薬、抗不整脈薬などが含まれます8。

薬を服用中の方は、サプリメントを追加する前に処方医または薬剤師にご確認ください。また、すでに併用している場合、自己判断で急にやめることにも注意が必要とされています。

6. 順番に並べると、こうなる

ここまでの順番を並べると、こうなります。

サプリを足すか迷ったときの、判断の順番
順 問い 手がかり
1 薬を飲んでいるか 該当するなら、まず処方医・薬剤師に相談
2 本当に足りていないのか 1日の食事記録では判定できない。検査値や食習慣の傾向を見る
3 足りている人で効果は示されているか 栄養素ごとに違う。「不十分」と「推奨しない」を区別する
4 増やしたときの上限はあるか 耐容上限量が設定されているものと、されていないものがある
5 何が変わったら、やめると決めるか 始める前に決めておく

3番目については、パッケージの表示からも辿れます。「体にいい」と書かれているとき、その根拠がどこまで確かめられているかは、制度によって大きく違います。

5番目が抜けやすいところです。何をもって「効いた」とするかを決めずに始めると、やめる理由も見つからないまま続くことになります。

期限の置き方には、実例があります。皮膚科が金属制限食を指導するときは「2ヶ月続けて無効であれば速やかに中止する」と決められています。始めるときに、やめる条件を一緒に決めるやり方です。足す側でも、同じ形が使えます。

そして、栄養素には「不足を埋める」以外の役割もあります。不要なものを処理して外へ出す反応は、材料を消費します。足りなければ滞る。ただしここでも順番は同じで、足りていない状態から足したときと、足りている状態から足したときでは、起きることが違います。「解毒のために足す」も、1番目の問いから外れません。

そして、判断の材料は「エビデンスがある」という一言の中身によって変わります。同じ「研究で示された」でも、対象が誰で、何と比べて、どれくらいの差だったのかで、意味はまったく違ってきます。

順番が変わると、迷いの質が変わる

「どれを選ぶか」から始めると、選択肢は無数にあって決まりません。

「足りていないものはあるか」から始めると、多くの場合、候補は数個に絞られます。そして「足りていない」と確認できたなら、それは選ぶ根拠になります。確認できなければ、急いで足す理由もありません。

なお、「免疫力を上げる」という訴求は、この順番に乗りません。「免疫力」という一つの指標が医療にないため、足りているかどうかを確かめる方法がありません。

公的な基準ですら、鉄については「欠乏でない人が増やしても貧血の予防にはつながらない」と書いています。たんぱく質についても、推奨量以上の摂取で他の健康指標に有益な影響が得られる根拠は乏しいとしています。足すかどうかの前に、足りているかどうか。順番はそちらが先です。

参考文献・参考資料

  1. 厚生労働省「令和6年国民健康・栄養調査報告」第1部 栄養摂取状況調査の結果 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/r6-houkoku_00001.html
  2. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html
  3. O’Connor EA, Evans CV, Ivlev I, et al. Vitamin and Mineral Supplements for the Primary Prevention of Cardiovascular Disease and Cancer: Updated Evidence Report and Systematic Review for the US Preventive Services Task Force. JAMA. 2022;327(23):2334-2347. doi:10.1001/jama.2021.15650 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35727272/ 勧告文:US Preventive Services Task Force. JAMA. 2022;327(23):2326-2333. doi:10.1001/jama.2022.8970 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35727271/
  4. The Alpha-Tocopherol, Beta Carotene Cancer Prevention Study Group. The effect of vitamin E and beta carotene on the incidence of lung cancer and other cancers in male smokers. New England Journal of Medicine. 1994;330(15):1029-1035. doi:10.1056/NEJM199404143301501 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8127329/
  5. Omenn GS, Goodman GE, Thornquist MD, et al. Effects of a combination of beta carotene and vitamin A on lung cancer and cardiovascular disease. New England Journal of Medicine. 1996;334(18):1150-1155. doi:10.1056/NEJM199605023341802 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8602180/
  6. Klein EA, Thompson IM, Tangen CM, et al. Vitamin E and the risk of prostate cancer: the Selenium and Vitamin E Cancer Prevention Trial (SELECT). JAMA. 2011;306(14):1549-1556. doi:10.1001/jama.2011.1437 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21990298/
  7. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 ミネラル(微量ミネラル)pp.297-298 https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316469.pdf
  8. 厚生省医薬安全局安全対策課・生活衛生局食品保健課「セント・ジョーンズ・ワート(セイヨウオトギリソウ)と医薬品の相互作用について」平成12年5月10日 https://www.mhlw.go.jp/www1/houdou/1205/h0510-1_15.html

本記事は公的な基準と研究状況の整理であり、個別の診断・治療・栄養指導に代わるものではありません。特定の商品の効果を示すものでもありません。

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