カテゴリー: 腸内環境

  • お腹の張りを、減らす方向から考え直す

    お腹の張りを、減らす方向から考え直す

    小麦、タマネギ、ひよこ豆、レンズ豆、リンゴ、トウモロコシ、牛乳、ヨーグルト、はちみつ。

    この9つには共通点があります。小腸で分解・吸収されにくく、そのまま大腸に達して、腸内細菌にすばやく発酵・分解される糖を多く含みます1。

    結果として2つのことが起きます。水素ガスやメタンガスが発生すること。そして高浸透圧性によって、腸管内に水分を引き込むことです1。

    なぜ、この9つが一緒に挙がるのか

    小麦とタマネギとリンゴと牛乳は、食品としては何の関係もありません。共通しているのは含まれている糖の性質です。

    FODMAPは、次の4つの頭文字です1。

    FODMAPの中身1
    頭文字 内容
    F fermentable(発酵性)
    O oligosaccharides(オリゴ糖)
    D disaccharides(二糖類)
    M monosaccharides(単糖類)
    P polyols(糖アルコール)

    つまり「発酵しやすい短い糖」のまとまりです。食品の種類ではなく、糖の種類で束ねられています。

    小腸で吸収されなかった糖が大腸で発酵してガスを出し、浸透圧で水を引き込むことを示す図
    小腸で吸収されなかった分が大腸に届き、そこで2つのことが起きます1。

    この機序が分かると、お腹の張りが「食べた量が増えたから」だけでは説明できない理由も見えてきます。増えているのは、食べたものの体積ではなく、ガスと水分のほうです。

    そして乳糖不耐症は、この構造がいちばんはっきり分かっている例です。二糖類(D)にあたります。ガイドラインは、乳糖不耐症のIBS患者について、ラクトース制限食を6週間摂取することで症状が有意に改善したという報告を挙げています1。

    どこまで確かめられているか

    ガイドラインの記述を、そのまま引きます。

    IBS患者では、低FODMAP食の摂取により、一般の食事に比べ、IBS症状を軽減することが欧米を中心に複数の無作為比較試験より示されているが、本邦における低FODMAP食の受容性、有効性に関してはさらなる検討が必要である1

    2つのことが同時に書かれています。欧米では複数のRCTで示されている。日本ではこれから。

    「受容性」というのは、実行できるかどうかの話です。除去には栄養・生活・戻しにくさという三方向のコストがあります。小麦とタマネギと牛乳を同時に外す食事が、日本の食卓でどれだけ続けられるかは、別に確かめる必要があります。

    盲検にすると、犯人が変わる

    この分野には、印象的な試験があります。

    自分でグルテンが合わないと考えている人を対象に、本人にも研究者にも中身が分からない形で行われた試験です。

    盲検下で分かったこと
    試験 結果
    2013年 低FODMAP食にすると参加者全員の消化器症状が一貫して改善。その後グルテンを負荷しても、対照のホエイを負荷しても同じように悪化。グルテンに特異的な反応は8%だけ
    2018年 グルテン・フルクタン・プラセボを盲検で割り付けたところ、症状が最も強く出たのはフルクタン。グルテンとプラセボのあいだに差はなかった

    フルクタンは、FODMAPのO(オリゴ糖)にあたります。小麦とタマネギに多く含まれます。

    つまり「小麦が合わない」と感じていた人の多くで、実際に症状を出していたのはグルテン(たんぱく質)ではなく、フルクタン(糖)のほうだった、ということになります。

    自分の感覚だけでは、犯人を決められないという話の、いちばん明快な実例です。

    全員に共通することと、個別に決めること

    ガイドラインは、食事指導を2つに分けています。

    IBS患者に対する食事指導・食事療法に関しては、すべての患者に共通した有用な事項と個々に異なる対応事項とに分けて検討することが必要である。間食や欠食を慎み、規則的な食事習慣を心がけることはすべての患者に共通する項目である。一方、症状を助長させる食品や食事成分を認識し、制限することは患者ごとに対応するべき項目である1

    「まず規則的に食べる」が、全員共通の側にあります。個別の食品を外すのは、そのあとです。

    これは順番の話として、この媒体で何度か出てきた形と同じです。出口が先、上流があと。足すかどうかの前に、足りているかどうか。

    やるなら、どういう形になるか

    低FODMAP食は、ずっと続ける食事ではありません。合わないものを見つけるための手順です。

    形は、この媒体で繰り返し書いてきたものと同じになります。

    合わないものを見つける手順の形
    やること
    1 期間を決めて、対象を減らす
    2 1つずつ戻して、変化を比べる
    3 反応が出なかったものは、戻したままにする
    4 効かなかったら、期限で区切ってやめる

    4番目が抜けやすいところです。皮膚科が金属制限食を指導するときは「2ヶ月続けて無効であれば速やかに中止する」と決められています。同じ形です。

    そして、FODMAPを含む食品の多くは、食物繊維の供給源でもあります。小麦、豆類、タマネギ。日本人の食物繊維の摂取量は、目標量に10g近く足りていません。減らす対象が、そのまま栄養の供給源になっている——この構造は、ここでも同じです。

    だから期間を決めることに意味があります。

    自分でやる前に、確かめること

    1つ、はっきりさせておきます。ここで扱ったのは、診療ガイドラインに書かれている内容です。対象はIBSと診断された患者で、その食事指導の話です。

    そしてお腹の張りには、この記事で扱っていない原因もあります。体重が意図せず減っている、血が混じる、夜間に症状で目が覚める、発熱が続いている。こうしたことがあるなら、食事を変える前の段階です。

    それ以外の場合、この記事から持って帰れるのは2つです。

    1つめ。お腹の張りの機序は、かなりの部分まで分かっています。小腸で吸収されなかった糖が、大腸でガスと水分を作る。体質でも、気のせいでもありません。

    2つめ。犯人を決めるのは感覚ではなく、1つずつ戻して比べる手順です。盲検にすると答えが変わる、という実例がすでにあります。

    参考文献・参考資料

    1. 日本消化器病学会「機能性消化管疾患診療ガイドライン2020―過敏性腸症候群(IBS)(改訂第2版)」食事指導・食事療法の項 https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/guideline/pdf/IBSGL2020_.pdf

    本記事は診療ガイドラインの記載の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。引用した研究の対象は過敏性腸症候群と診断された患者です。特定の食品・食事法の効果を示すものでも、実施を勧めるものでもありません。食事制限は栄養素の不足を招く可能性があります。治療中の方、食事制限を受けている方、お子さま、妊娠中・授乳中の方は、個別の指示が優先されます。

  • たばこの煙が、体に入る経路から考える

    たばこの煙が、体に入る経路から考える

    吸って入ったものには、肝臓を通らないという特徴があります。

    食品安全委員会のカドミウム健康リスク評価ワーキンググループの報告に、吸入曝露についてこう書かれています。「粉塵や煙として直接体内に入る。肝臓の解毒を経由しないので、腎障害が起こりやすい」1。

    口から入ったものは、腸で吸収されたあと肝臓を経由します。そこで第I相・第II相の作り変えを受けます。吸入では、その段階が飛ばされます。

    同じ物質でも、入口で扱いが変わる

    体が異物を処理する仕組みは、入口によって働き方が変わります。

    入口ごとの、肝臓の位置
    入口 通る順番 肝臓の作り変え
    経口(食べる・飲む) 腸 → 門脈 → 肝臓 → 全身 全身へ回る前に通る
    吸入(吸う) 肺 → 全身 通らない
    経皮(塗る) 皮膚 → 全身 通らない。ただし角層で止まる物質が多い

    経口で入ったものは、全身の血液に回る前に肝臓を通ります。ここで水に溶ける形へ作り変えられ、尿から出せるものは尿へ、出せないものは胆汁に乗って便へ向かいます。

    吸入では、この段階がありません。肺から入ったものは、そのまま全身の循環に乗ります。

    そして、経口で入った金属の90〜99%は、そもそも吸収されずに便として通過します。吸入では、この「通過するだけ」の分もありません。

    たばこのカドミウムには、数字がある

    食品安全委員会のワーキンググループ報告は、具体的な数値を挙げています1。

    紙巻たばこのカドミウム
    量
    1本あたりの含有量 1.8〜2.8µg(欧州・メキシコの紙巻たばこの報告)
    主流煙に吸入される割合 10〜20%
    副流煙に移行する割合 50%
    20本あたりの吸入量 2〜4µg

    同じ報告は、「タバコ煙の中のカドミウムは高く、喫煙者の血中、尿中カドミウム濃度は同年代の個人より高い」としています1。

    経口では腸から肝臓を通って全身へ向かうのに対し、吸入では肺から直接全身へ向かうことを示す図
    経口には肝臓という段が入ります。吸入には入りません1。

    食事から入る量と比べると

    比較できる数字があります。日本人の食品からのカドミウム摂取量は、1日あたり体重1kgにつき0.32µg。体重60kgなら、1日約19µgです。

    20本吸って吸入されるのが2〜4µg。量としては、食事から入る分の1〜2割にあたります。

    ただし、ここで量だけを比べると読み違えます。2つの点で条件が違います。

    同じµgでも、条件が違う
    食事から たばこから
    肝臓を通るか 通る 通らない
    選べるか 主食なので、選べない 選べる

    入口の一覧の中で、これは珍しい位置にいます。数字があって、経路がはっきりしていて、しかも減らす選択肢がある。

    カドミウムは、水銀のようには減らない

    もう1つ、押さえておく違いがあります。物質によって、体から減る速さが違います。

    水銀については、厚生労働省が「体内に取り込まれた量が半分にまで減少する期間は約2ヶ月」と書いています。入口を変えれば、その速さで減っていきます。

    カドミウムは違います。同じワーキンググループ報告は、「半減期の長いカドミウムは徐々に蓄積していき、腎機能が極端に低下しない限り、腎臓皮質の蓄積量に比例して尿中に排泄される」と書いています1。

    溜まる側の物質です。だから、入口を1つ閉じることの効き方も違ってきます。水銀なら2ヶ月で結果が動く。カドミウムは、これから入る量が変わるという形で効きます。

    加熱式たばこについて、いま言えること

    日本は加熱式たばこの使用率が高い国です。2018年の国民健康・栄養調査では、習慣的に喫煙している人のうち加熱式たばこを使っている割合は男性30.6%、女性23.6%でした2。

    では、金属はどうなのか。2026年7月に発表された系統的レビューが、21件の研究を集めています3。

    結果はこうです。調べられている金属はカドミウム、鉛、ニッケル、水銀。報告されている濃度は概して低く、検出限界または定量限界に近いことが多い。カドミウムと鉛が定量限界未満だったとする報告もあれば、分析の感度や採取方法によって微量に検出されたとする報告もあります3。

    ただし著者らは、吸煙のパターン、機器の世代、エアロゾールの採取システム、分析手法、報告単位について、既存の文献のあいだに相当な異質性があると書いています3。直接の比較が難しい状態です。

    結論はこうです。「IQOSのエアロゾールは、化学組成において従来の紙巻たばこの煙とは実質的に異なり、燃焼に関連する多くの有害物質のレベルは概して低い。しかし、生物学的に活性な化合物を含む、化学的に複雑な混合物であることに変わりはない」3。

    この状態は、マイクロプラスチックの評価が測り方の不統一で進んでいないのと、同じ形です。「低い」と「比べられる形で測れている」は別です。

    数えられる入口である、ということ

    蓄積の入口の中で、この項目には他にない特徴があります。

    主食は選べません。空気中のマイクロプラスチックも閉じきれません。缶のBPAは、そもそも国が耐容量を決めていません。

    たばこは、本数で数えられます。1本あたりの含有量も、吸入される割合も、数字があります。この1週間に何本吸ったかは、思い出す話ではなく数える話です。

    そして、減らした分がそのまま吸入量に反映されます。入口の一覧の中で、いちばん計算が単純な項目がここです。

    なお、副流煙に50%が移行するという数字がある以上、これは吸っている本人だけの話ではありません。同じ空間にいる人にも、同じ経路が開いています。

    参考文献・参考資料

    1. 香山不二雄ほか「カドミウムの健康リスク評価ワーキンググループ報告」内閣府食品安全委員会 https://www.fsc.go.jp/fsciis/
    2. 厚生労働省「平成30年 国民健康・栄養調査」。習慣的に喫煙している者のうち加熱式たばこを使用している者の割合 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/tobacco/index.html
    3. Matei RI, Baroi AM, Fistos T, Fierascu I, Fierascu RC. Beyond the WHO Priority Toxicants: A Systematic Review of Harmful and Potentially Harmful Constituents in IQOS Aerosols. Toxics. 2026;14(7):614.(21件の研究を対象とした系統的レビュー) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC13417897/

    本記事は公的機関の資料と公開された研究の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の製品の安全性や危険性を示すものでも、使用を勧めるものでも、中止を勧めるものでもありません。喫煙の健康影響は金属の曝露に限られるものではなく、この記事はその全体を扱ったものではありません。禁煙については、保険適用の治療があります。

  • 解毒を高めるなら、どこから手をつけるか

    解毒を高めるなら、どこから手をつけるか

    「解毒を高めたい」と思ったとき、先に動かすのは出口のほうです。肝臓ではありません。

    理由は単純です。肝臓が処理して胆汁に出したものは、腸を通って便から出ていきます。出口が滞っていれば、上流をいくら動かしても行き場がありません。

    順番があります。そして順番を逆にすると、逆に働くことがあります。

    上流から動かすと、どこへ行くのか

    体が不要なものを外へ出す経路は、2つあります。

    水に溶ける形になったものは、腎臓から尿として出ます。問題は、もう一方です。

    医学の教科書は胆汁を「腎臓でろ過または排泄できない、潜在的に有害な脂溶性物質の主要排泄経路」とし、そこへ出されるものに重金属を名指しで挙げています1。肝細胞は1日600〜1000mLの胆汁を分泌しています1。

    上流の肝臓から胆汁に出されたものが腸に置かれ、出口が詰まっていると行き場がないことを示す図
    胆汁に出されたものは、いったん腸に置かれます。そこから先が動いていなければ、上流だけを速めても出ていきません。

    胆汁は腸へ出ます。つまり、肝臓の処理を速めたところで、そのあと腸を通って便として出なければ、体の外には出ていません。

    しかも、腸を通るのは胆汁に出された分だけではありません。ニッケルの場合、経口で入った量のうち腸から吸収されるのは1〜10%で、90〜99%は吸収されずにそのまま便として出ていきます3。

    つまり出口としての腸には、2つの流れが来ています。吸収されずに通過する分と、いったん吸収されて肝臓で処理され、胆汁で戻される分。前者のほうが、量としては圧倒的に多い。口から入る金属について言えば、9割以上がこちら側です。

    そして胆汁酸の場合、95%は回腸で再吸収されて肝臓へ戻ります1。腸に置かれたものが、そのまま全部出ていくわけではない、ということです。

    順番を逆にすると、逆に働く

    もう一つ、同じ構造が肝臓の内部にもあります。

    異物の処理は二段階です。第I相で分子に手をかけて反応しやすい部分を作り、第II相で別の分子をくっつけて水に溶かす。

    ここで、第I相でできる中間代謝物は、元の物質より反応しやすくなっています2。

    つまり一段階目だけ速まって、二段階目が追いつかなければ、反応しやすい状態のものが溜まります。「解毒力を高める」という言い方が実際には分かりにくいのは、どちらを速めるかで意味が逆になりうるからです。

    出口についても、同じことが言えます。上流だけ動かして下流が動いていなければ、途中に溜まる。

    では、出口が動いているかをどう確かめるか

    ここが、自分でできる部分です。

    便通について、国際的な診断基準は6項目で見ています。回数はそのうちの1つにすぎず、線引きは「週3回未満」。残りの5つは、いきみ、硬い便、残便感、詰まった感じ、用手的な排便介助です。

    出口の側で、自分で確かめられること
    見るもの 手がかり
    便通 回数だけでなく、いきみ・硬さ・残便感。6項目のうち2つ以上が診断の基準
    食物繊維 目標量は30〜64歳で男性22g・女性18g。実際の摂取量は12.45gと11.5g
    水分 固定の数字ではなく、渇きと尿の色
    お酒 日本人の4割強は処理能力が低い側。処理の順番を占有します

    どれも、特別な道具は要りません。そして、どれも上流ではなく出口の側です。

    上流の側は、材料で決まる

    出口が動いているなら、次は上流です。

    第II相でくっつけるものの正体を辿ると、すべて糖とアミノ酸に行き着きます。グルクロン酸はグルコースから、メチル基はメチオニンから、硫酸は含硫アミノ酸から。特別な物質は一つも出てきません。

    つまり上流の側は、材料を消費する反応です。足りなければ滞る。

    ただし線があります。「特定の栄養素を足せば処理が速くなる」とは、まだ言えません。足りていない状態から足したときと、足りている状態から足したときでは、起きることが違うためです。足すかどうかの前に、足りているかどうか。順番はここでも同じです。

    「出す」は、鍛えるものではない

    「解毒力を上げる」という言い方には、鍛えれば強くなるという含みがあります。

    ここまで見た構造は、そうなっていません。止めたり再開したりする器官ではなく、常時動いている工程です。肝臓は血漿タンパク質を作り続け、腎臓は再吸収を続けています。

    だから断食で「臓器を休ませる」という発想が据わりが悪いのは、休めないからというだけでなく、材料まで一緒に減るからです。

    できるのは、落とさないことと、詰まらせないことです。

    自分の出す側が、いまどうなっているか

    ここまでの話には、まだ空いているところがあります。

    出口が動いているかは、便通と食事から見当がつきます。上流の材料が足りているかは、栄養素によって確かめ方が違います。血液の数値で線が引けるものと、食べている量から見るものがあります。

    ただし、「いま自分の出す側がどうなっているか」を一つの形で見る手段は、一般の医療の中にありません。健康診断の肝機能・腎機能の項目は、いまの機能が落ちていないかを調べるもので、答えている問いが違います。

    RESONA-LABの結果に解毒機能の欄があるのは、そこを見るためです。入れる側だけでは、体に残る量が決まらないからです。

    今日できるのは、出口の側から1つ数えることです。上流の材料を足す前に、そこが動いているかで結果が変わります。

    出口の側で、今週数えられるもの
    見るもの 目安
    便が出た回数 国際基準の線引きは週3回未満
    水分の量 渇きと尿の色で見る。日本に目安量はない
    食物繊維 米・パン・麺・いも・果物が主な供給源

    3つとも、今日から数えられます。材料の話はそのあとです。

    入口と出口の両方については入ってくるものと、出す力に一覧で並べています。

    参考文献・参考資料

    1. Dave HD, Shumway KR, Al Obaidi NM. Physiology, Biliary. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 最終更新 2022年12月15日. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK537107/
    2. Phang-Lyn S, Llerena VA. Biochemistry, Biotransformation. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 最終更新 2023年8月14日. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK544353/
    3. 足立厚子「金属アレルギーの対処法〜全身型金属アレルギーを中心に〜」アレルギー 2020;69(3):169-173. https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/69/3/69_169/_pdf

    本記事は生理学と公的な基準の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の食品・サプリメント・製品・施術の効果を示すものでも、使用を勧めるものでもありません。特定の栄養素の摂取や食事法が生体内変換・排泄の速度を変えるかどうかについて、十分な検証はなされていません。消化器の疾患で治療中の方、食事制限を受けている方は、内容が個別に決められています。この記事の範囲の外です。

  • 「解毒」を高めるために、実際に必要なもの

    「解毒」を高めるために、実際に必要なもの

    「解毒」が実際にしているのは、物質に別の分子をくっつけて、水に溶ける形へ作り変えることです。くっつける材料の名前まで分かっています。

    グルクロン酸、硫酸、グルタチオン、グリシン、タウリン、グルタミン酸、アセチル基、メチル基。これが第II相反応で使われるものの一覧です1。

    毒を消しているのではありません。捨てられる形に変えています。

    そのままでは、捨てられない

    食べ物、薬、環境中の化学物質。体の外から入ってきた物質の多くは、脂に溶けやすい性質を持っています。

    脂に溶けやすいものは、そのままでは尿に混ぜて捨てられません。腎臓で濾過されても、再吸収されてしまうからです。

    そこで、体は形を変えます。水に馴染む形にしてから捨てる。この一連の作り変えを、生体内変換(biotransformation)といいます。

    この処理の大部分は肝臓の肝細胞で行われますが、脂肪組織、腸、腎臓、肺、皮膚でも起きています1。肝臓だけの話ではありません。

    第I相:反応しやすい部分を作る

    一段階目は、分子に手をかけて、後で何かをくっつけられる場所を作る工程です。

    第I相で起きる反応
    反応
    酸化 シトクロムP450による。最も多い
    還元
    加水分解

    シトクロムP450は、細胞内の小胞体に膜結合している酵素群です。中でもCYP3A4が最も多く、全CYP450活性の約50%を占めます1。

    この酵素の名前は、薬の説明書で見たことがあるかもしれません。「この薬と一緒に飲まないでください」という組み合わせの多くは、同じ酵素を取り合うために起きます。

    第II相:くっつけて、水に溶かす

    二段階目が、この記事の中心です。第I相で作った場所に、別の分子をくっつけます。

    第I相で反応しやすい部分を作り、第II相で別の分子をくっつけて水に溶ける形にする二段階の図
    二段階の作り変え。第II相でくっつけるものが、水に溶ける形へ変える役割を担っています1。
    第II相でくっつけるもの
    反応 くっつけるもの
    グルクロン酸抱合 グルクロン酸。最も多い
    硫酸抱合 硫酸
    グルタチオン抱合 グルタチオン
    アミノ酸抱合 グリシン、タウリン、グルタミン酸
    アセチル化 アセチル基
    メチル化 メチル基

    ここまで具体的に分かっています。「解毒力」という総合点はありませんが、何をくっつけているかは名前で並べられます。

    この段の速さは、人によって違う

    第I相を担うP450には、遺伝子型によって働きの強さが違うものがあります。CYP2C19の場合、働きが弱い型は欧米で2〜5%、東アジアで13〜23%です。

    ただし、これは薬の効き方で確立した知見です。食品や環境中の物質の処理速度に同じように当てはまるかは、まだ別の話です。

    順番が狂うと、逆に働く

    二段階であることには、見落としやすい意味があります。

    第I相でできる中間代謝物は、元の物質より反応しやすくなっています。これは薬の場合には利点で、体内で活性型に変わるプロドラッグはこの仕組みを使います1。

    ただし裏返すと、第II相が追いつかなければ、反応しやすい状態のものが溜まるということでもあります。

    だから「解毒力を高める」という言い方は、この構造を知ると分かりにくくなります。第I相を速めるのか、第II相を速めるのかで、意味が逆になりうるからです。

    止めたり、再開したりする器官ではない

    「臓器を休ませる」という言い方が、断食やクレンズの説明でよく使われます。

    ただ、この処理は常時進行しています。肝臓は血漿タンパク質を作り続け、腎臓は再吸収を続けています。作業を止めたり再開したりする器官ではありません。

    くっつけるものは、どこから来るか

    第II相でくっつけるものの正体を辿ると、すべて糖とアミノ酸に行き着きます。

    第II相でくっつけるものの出どころ
    くっつけるもの 何からできているか
    グルクロン酸 グルコース(糖)から作られる
    グルタチオン 3つのアミノ酸がつながったもの
    グリシン、タウリン、グルタミン酸 アミノ酸そのもの
    硫酸 含硫アミノ酸に由来する硫黄
    メチル基 メチオニン(アミノ酸)に由来

    並べると分かることがあります。特別な物質は一つも出てきません。糖とアミノ酸、それだけです。

    つまり解毒は、材料を消費する反応です。これは比喩ではなく、分子の名前まで分かっている話です。そして材料は、日々の食事から来ています。

    反応を回す側にも、栄養素が要る

    くっつける分子とは別に、その反応を担う酵素の側があります。

    シトクロムP450も、抱合を行う酵素も、単独では働きません。補因子と呼ばれる金属やビタミンが要ります。マグネシウムは300以上の酵素反応に関わるミネラルで、鉄と銅は酸化還元を担う酵素の構成要素です。

    RESONA-LABのレポートは、検査で測るビタミン・ミネラルについて、栄養素ごとに「解毒への関与」を記載しています2。

    レポートが記している「解毒への関与」
    栄養素 記載
    ビタミンC 有害物質の中和と肝臓酵素の働きを支える
    マグネシウム 肝臓酵素の働きを助け、毒素排出を促す
    亜鉛 有害金属の排出を助ける
    鉄 肝臓の代謝酵素の補因子
    葉酸 肝臓のメチル化反応に関与し、解毒酵素をサポート
    ビタミンA 腸管バリアを維持し、有害物質の侵入を防ぐ
    ビタミンE 活性酸素を除去し、肝臓の負担を軽減
    銅 抗酸化酵素(SOD)の構成要素

    レポートはこの一覧のあとに、こう書いています。「検査で測るビタミン・ミネラルは、排出経路の鍵を握る栄養素。つまり、『何が溜まっているか』だけでなく、出す力(排出力)が足りているかまでわかります」2。

    なおレポート自身が、この内容は一般的な栄養学的知見に基づくものであり、特定の製品を推奨するものではないと注記しています2。

    ただし、ここから先に線があります。「特定の栄養素を足せば処理が速くなる」とは、まだ言えません。足りない状態から足したときと、足りている状態から足したときでは、起きることが違うためです。足すかどうかの前に、足りているかどうかという順番が効いてくるのは、ここでも同じです。

    この工程が動いたことを、人で測った例がある

    第II相が実際に動いたかどうかは、尿に出てきた形を測れば分かります。

    大気汚染の大きい地域で行われた291人の無作為化試験では、ブロッコリースプラウト飲料を飲んだ群で、ベンゼン由来のメルカプツール酸の尿中排泄が61%増えました。メルカプツール酸は、第II相で処理されたあとに尿から出ていく形の1つです。

    この工程は、外から動くことがある。ただしその試験が測ったのは出てきた量であって、体内に残っている量でも、健康アウトカムでもありません。

    変換のあとに、出口がある

    ただし、この工程を通らない入り方もあります。

    口から入ったものは、腸から吸収されたあと肝臓を経由してから全身へ回ります。吸って入ったものは、肺から直接全身の循環に乗ります。第I相も第II相も経由しません。

    食品安全委員会のワーキンググループ報告は、吸入曝露についてこう書いています。「粉塵や煙として直接体内に入る。肝臓の解毒を経由しないので、腎障害が起こりやすい」。

    つまりこの二段階は、すべての入口に働くわけではありません。どの入口から入ったかで、処理の経路そのものが変わります。

    第I相と第II相を経て水に溶ける形になったものは、腎臓から尿として出ます。

    ただし、それでも尿から出せないものがあります。その行き先が胆汁で、終点は便です。医学の教科書は胆汁を「腎臓でろ過または排泄できない、潜在的に有害な脂溶性物質の主要排泄経路」と書いていて、そこに出されるものに重金属が挙げられています。

    つまり体の処理は、変換して、出すという二つの段階でできています。変換だけ進んでも、出口が動いていなければ完結しません。

    「解毒」は、抽象語ではない

    この記事に出てきたのは、すべて標準的な生化学の教科書に載っている名前です。

    シトクロムP450。CYP3A4。グルクロン酸抱合。硫酸抱合。グルタチオン抱合。グリシン、タウリン、グルタミン酸。アセチル化。メチル化。

    解毒は、物質名で語れる範囲の話です。怪しくなるのは、この仕組みを使って何かを売るときに、何が出たのかを言わないときです。

    そしてどこから手をつけるかには順番があります。上流だけ速めても、出口が動いていなければ途中に溜まります。

    仕組みが実在することと、その仕組みを名乗る商品が効くことは、別のことでした。入れる側と出す側を一緒に見るのは、前者が実在するからです。

    そして、くっつける材料には名前がついています。グルクロン酸ならグルコース、メチル基ならメチオニン、硫酸なら含硫アミノ酸。すべて糖とアミノ酸から作られます。

    特別な物質は1つも出てきません。だから確かめられるのは、食事の量が極端に減っていないかです。断食や糖質の大幅な制限をしているなら、上流の材料もそのぶん減っています。「休ませる」つもりの行動が、材料を止める側に働くことがあります。

    参考文献・参考資料

    1. Phang-Lyn S, Llerena VA. Biochemistry, Biotransformation. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 最終更新 2023年8月14日. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK544353/
    2. 株式会社bio medical「バイオレゾナンス検査結果報告書」サンプル(各栄養素の役割と不足したときの影響/排出・代謝の仕組み) RESONA-LAB 公式サイト

    本記事は生化学の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の食品・サプリメント・製品・施術の効果を示すものでも、使用を勧めるものでもありません。特定の栄養素の摂取が生体内変換の速度を変えるかどうかについて、十分な検証はなされていません。服用中の薬の飲み合わせは、その薬ごとに決まっているもので、この記事の範囲には入りません。

  • 出す力を上げたいとき、どこを見ればいいか

    出す力を上げたいとき、どこを見ればいいか

    医学の教科書は、胆汁を「腎臓でろ過または排泄できない、潜在的に有害な脂溶性物質の主要排泄経路」と書いています1。

    そこへ出されるものとして具体的に挙げられているのは、ビリルビン、胆汁酸、コレステロール、リン脂質、そして重金属です1。

    つまり体の出口は、尿だけではありません。尿から出せないものが通る道が、別にあります。そしてその道の終点は、便です。

    腎臓が扱えないものがある

    体から何かを外へ出すとき、まず思い浮かぶのは尿です。腎臓が血液を濾過して、不要なものを尿に混ぜて捨てる。これは正しい。

    ただし、腎臓が扱えるのは水に溶けるものです。脂に溶けやすい物質は、濾過されても再吸収されてしまいます。

    そこで肝臓が、二段階の変換を行います。第一相で分子に手をかけて反応しやすい部分を作り、第二相で別の分子をくっつけて水に溶けやすくする。水に馴染む形になれば、尿から出せます。

    ただし、この変換だけでは足りないものがあります。変換しても水に溶けにくいままのもの、分子が大きすぎるもの。それらの行き先が胆汁です。

    体の出口が尿と便の2つあり、水に溶ける形になったものは尿へ、そうでないものは胆汁を経て便へ向かうことを示す図
    肝臓が水に溶ける形へ変えたものは、腎臓から尿として出ます。それでも尿から出せないものは、胆汁に乗って腸へ向かいます1。

    胆汁は、脂肪の消化だけの液ではない

    胆汁と聞いて出てくるのは、たいてい「脂肪の消化を助ける」という説明です。それも合っています。教科書も、脂肪吸収の促進が胆汁の主な機能だと書いています1。

    ただし同じ教科書が、続けてもう一つの役割を挙げています。潜在的に有害な外因性脂溶性物質と、内因性基質の主要排泄経路であること1。

    胆汁へ排出されるものとして挙げられているもの
    物質
    ビリルビン 古い赤血球を分解してできた色素
    胆汁酸 脂肪の吸収を助ける。大部分は回収される
    コレステロール 体外へ出す主要な経路のひとつ
    重金属 教科書が名指しで挙げている
    リン脂質・酵素・ビタミン

    量も具体的です。肝細胞は1日に600〜1000mLの胆汁を分泌します1。ペットボトル1本から2本分が、毎日この経路を流れています。

    出したものが、戻ってくる仕組みもある

    胆汁は腸へ出たあと、そのまま全部が便になるわけではありません。

    胆汁酸の95%は、回腸で再吸収されて肝臓へ戻ります。便から失われるのは5%で、その分は肝臓で新しく作られて補われます1。この行って戻る流れを、腸肝循環といいます。

    胆汁酸の95%が回腸で再吸収されて肝臓へ戻り、5%が便から出ることを示す循環の図
    胆汁酸について報告されている割合1。再吸収される割合は物質によって異なり、すべてがこの比率で戻るわけではありません。

    ここは慎重に読む必要があります。95%というのは胆汁酸の数字であって、胆汁に出されたすべての物質がこの割合で戻るという意味ではありません。再吸収されるかどうかは物質によって違います。

    それでも、構造としてはっきりしていることがあります。胆汁に出されたものは、いったん腸に置かれる。そこから先、便として出ていくか、腸に留まるかで、体に残る量が変わります。

    便通が、出口の話でもある理由

    ここまでを並べると、便の位置づけが変わります。

    便は「消化のあとの残りかす」だけではありません。肝臓が処理して、尿からは出せないと判断したものが送られてくる先でもあります。

    だから便通の診断基準が、回数だけでなく、いきみ・硬さ・残便感まで6項目で見ているのは、腸の快適さだけの話ではないことになります。通過が滞れば、腸に置かれている時間が延びます。

    そして通過に関わるものには、数字があります。食物繊維の目標量は30〜64歳の男性で22g、女性で18g。実際の摂取量は12.45gと11.5gでした。

    金属についても、同じ向きの数字があります。ニッケルの場合、経口摂取のうち腸から吸収されるのは1〜10%。90〜99%は、吸収されずに便として出ていきます2。

    つまり金属には、2つの出方があります。吸収されずにそのまま通過する分と、吸収されて肝臓で処理され、胆汁に乗って腸へ戻される分。どちらも、最後は腸を通ります。

    この構造があるので、「溜まっているかもしれない」に対して、便の通過は無関係ではありません。口の中の金属や、食品に含まれる金属についても、経路はここへ集まります。

    「出す」を、商法から取り戻す

    「デトックス」という言葉は、いま使いにくい状態にあります。物質名が書かれていない「毒素」を出すという商品や施術が多く、出たかどうかを誰も確かめられないからです。

    ただ、そこで話を止めると、出す側そのものが無かったことになります。

    この記事で並べたのは、すべて標準的な生理学の教科書に書かれていることです。肝臓が二段階で変換すること。水に溶けない物質の主要排泄経路が胆汁であること。そこに重金属が含まれること。1日600〜1000mL分泌されること。95%が回収され、5%が便へ出ること。

    出す側は、実在します。怪しいのは、その仕組みを使って何かを売るときに、何が出たのかを言わない売り方のほうです。

    入れる側だけでは、残る量が決まらない

    健康の話は「何を食べるか」「何を足すか」に寄ります。そちらは選びやすく、買いやすいからです。

    ただ、入る量を完全には管理できないものもあります。そういうとき、体に残る量を決めているのは入る量と出る量の差のほうです。

    そして、どちらから先に手をつけるかには順番があります。出口が滞っていれば、上流を動かしても行き場がありません。

    尿と便。出口は2つあります。片方は水に溶けるものを、もう片方は溶けないものを担当しています。入れる側と一緒に出す側も見るのは、この構造があるからです。

    今日数えられるのは、便が出た回数です。胆汁に出されたものは、いったん腸に置かれます。そこで止まっている時間が長いほど、戻ってくる分が増えます。

    国際的な基準の線引きは週3回未満です。毎日でなくても基準の外ではありませんが、何回だったかを知らないままでは、出口の側が動いているかを判断できません。1週間、数えるところからです。

    参考文献・参考資料

    1. Dave HD, Shumway KR, Al Obaidi NM. Physiology, Biliary. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 最終更新 2022年12月15日. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK537107/
    2. 足立厚子「金属アレルギーの対処法〜全身型金属アレルギーを中心に〜」アレルギー 2020;69(3):169-173.(図1「ニッケルの体内代謝」) https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/69/3/69_169/_pdf

    本記事は生理機能の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の食品・製品・検査・施術の効果を示すものでも、使用を勧めるものでもありません。再吸収される割合は物質によって異なり、記載の数値がすべての物質に当てはまるわけではありません。肝機能・胆道系の検査値について指摘を受けている方は、個別の評価が行われている段階で、この記事の範囲には入りません。

  • 「腸活」で本当にやるべきことを、4つに分ける

    「腸活」で本当にやるべきことを、4つに分ける

    「腸活」は4つの別々の目的が混ざった言葉です。便通、お腹の張り、菌のバランス、肌や免疫。どれも「腸活」と呼ばれますが、確かめられる度合いがまったく違います。

    いちばん確かなのは食物繊維で、日本人は目標量に届いていません。いちばん曖昧なのが「菌のバランス」で、そもそも良い状態の定義が決まっていません。

    この4つを分けると、自分がどれをやろうとしているのかが決まります。

    分けると、今日から手をつけられるものと、まだ誰にも分からないものが、はっきり分かれます。

    4つに分けてみる

    「腸活」で目指されていることと、確かめられる度合い
    目的 いまの状況
    便通をよくする 公的な目標量があり、診断基準もある
    お腹の張りを減らす 測ると、感覚と実際の量が一致しないことがある
    菌のバランスを良くする 「良い状態」の定義が、まだ決着していない
    肌・免疫・全身の健康 確かめられている範囲が限られる

    便通 ── いちばんはっきりしている

    そしてここは、便通が「快適さ」を超える場所でもあります。ニッケルの場合、経口で入った量のうち腸から吸収されるのは1〜10%で、90〜99%は便として出ていきます2。肝臓が胆汁に出したものも、腸を通って便から出ます。4つのうち、出口の役割を持っているのはここだけです。

    4つのうち、数字で目標が置かれているのはここだけです。食物繊維で、30〜64歳の男性22g・女性18g。日本人の実際の摂取量は、その中央値で13.3g/日でした1。

    この目標量は理想の量ではなく、実行可能性を考慮して低く設定されたものです。年齢区分ごとの値も、健康利益から見た望ましい量との差も、そちらに整理しました。

    つまり足りていない幅がはっきりしている、数少ない栄養素だということです。他の3つには、この形の数字がありません。

    便通には、回数だけでなく、いきみ・硬さ・残便感まで見る診断基準があります。回数は6項目のうちの1つにすぎません。

    お腹の張り ── 測ると、感覚とずれる

    張りは、便通とは別の問題です。そして張っている感じと、実際にお腹の中にある量は、あまり一致しないことが繰り返し報告されています。

    姿勢や筋肉の反応、感覚の閾値が関わっています。ガスを減らすことだけを考えると、うまくいきません。

    菌のバランス ── 良い状態の定義が、まだない

    「良い腸内環境」が何を指すのか、まだ決まっていません。

    「健康な腸内細菌叢とは何か」を正面から検討した2021年の総説は、定義できるかどうか自体が難しい問いだと結論しています。判定する物差しが、まだありません。

    そして「善玉菌・悪玉菌」という日本で定着した区分も、学術的には批判されています。同じ菌種でも、株が違えば性質が変わり、共存する菌との関係でも働きが変わります。

    「菌のバランスを整えた」かどうかを確かめる方法が、いまのところありません。効果がないという意味ではなく、判定する基準がないということです。

    肌・免疫・全身 ── 確かめられている範囲は限られる

    腸と全身の関係は、研究が活発な領域です。ただし「腸を整えれば免疫力が上がる」という言い方にすると、確かめようがなくなります。「免疫力」という一つの指標が医療にないためです。

    何を測れば確かめたことになるのかが決まっていない主張は、効くとも効かないとも言えません。

    食物繊維は、サプリメントで置き換えられるのか

    同じ量を置き換えても、同じ利益が得られる保証はない。食事摂取基準にはっきり書かれています1。原文はこうです。

    目標量の算定に用いられた研究の多くは、通常の食品に由来する食物繊維であり、サプリメント等に由来するものではない。したがって、同じ量の食物繊維を通常の食品に代えてサプリメント等で摂取したときに、ここに記されたものと同等の健康利益を期待できるという保証はない。さらに、食品由来で摂取できる量を超えて大量の食物繊維をサプリメント等によって摂取すれば、ここに記されたよりも多くの(大きな)健康利益が期待できるとする根拠はない。

    二段構えになっています。置き換えの話が前半、食品から摂れる量を超えて足しても、より大きな利益が期待できる根拠はないというのが後半です。

    今日できること

    4つのうち、今日から動かせるのは食物繊維の量です。中央値13.3gと25gの差は、およそ12g。これは食品の量に置き換えられます。

    ひとつ注意があります。アプリや食事記録で「目標量に届いた」と出ても、それだけでは足りていない可能性があります。

    測定法の変更で食物繊維の成分値が変わった。白米0.3gから1.5g、食パン2.3gから4.2g
    日本食品標準成分表の七訂と八訂で測定法が変わり、同じ食品の成分値が上がりました(精白米 0.3g→1.5g、食パン 2.3g→4.2g、可食部100gあたり)。食品そのものが変わったわけではありません。一方、目標量は七訂相当の測定法で算定されています1。

    報告書は、八訂の成分表で計算する場合は成人では25g/日を目安とするのも一つの方法だとしています1。目標量ではなく25gを見ておけば、この食い違いを気にせずに済みます。

    ただし、一度に大きく増やすと張りや不快感が出ます。一度に一つだけ変えるという原則は、ここでも同じです。増やす量も、期間をかけて分けたほうが確かめやすくなります。

    血便がある、便が黒い、体重が意図せず減っている、急に排便の習慣が変わってそれが続いている、発熱を伴う腹痛がある。これらは食事の工夫で動く範囲にありません。食物繊維を増やしても、菌を足しても変わりません。

    分けると、やることが決まる

    「腸活」をひとまとめにすると、何をどこまで期待していいのかが分からなくなります。

    分けると、こうなります。便通には公的な目標量と診断基準があり、足りていない幅もはっきりしている。張りは、感覚と量がずれることを知っておく。菌のバランスは、まだ判定する物差しがない。全身の健康は、何を測れば確かめたことになるのかが決まっていない。

    そして腸は、肝臓が胆汁に乗せて送り出したものの通り道でもあります。便として出るか、腸に留まるかで、体に残る量が変わります。

    確かめられていないことと、効果がないことは別です。ただ、確かめられる場所から手をつけるほうが、手戻りがありません。

    参考文献・参考資料

    1. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 各論 炭水化物(食物繊維 pp.134-136) https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316464.pdf
    2. 足立厚子「金属アレルギーの対処法〜全身型金属アレルギーを中心に〜」アレルギー 2020;69(3):169-173. https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/69/3/69_169/_pdf

    本記事は公的な基準と研究状況の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の食品・サプリメント・製品の効果を示すものでも、使用を勧めるものでもありません。食物繊維の必要量は年齢・性別・状態によって異なります。消化器の疾患で治療中の方、食事制限を受けている方は、内容が個別に決められています。この記事の範囲の外です。

  • 毎日出なくても大丈夫か。便通の線引きを知る

    毎日出なくても大丈夫か。便通の線引きを知る

    便秘かどうかを判断する国際的な基準では、回数は6項目のうちの1つにすぎません。しかも線引きは「週3回未満」です。

    毎日出ていなくても、基準の外にはなりません。逆に、毎日出ていても残りの5項目に当てはまれば基準を満たします。

    「毎日ちゃんと出ているから大丈夫」は、いちばん数えやすい項目だけを見ている、ということになります。

    診断基準では、回数は6つのうちの1つ

    広く使われている Rome IV(2016年)では、次の6項目のうち2つ以上を満たすと機能性便秘と診断されます1。

    Rome IV における機能性便秘の項目(2つ以上を満たす)
    項目 頻度の条件
    いきみ 排便の4回に1回以上
    硬い便 排便の25%以上
    残便感 排便の25%以上
    肛門直腸の閉塞感 排便の25%以上
    指などで助ける必要がある 排便の25%以上
    排便回数が週3回未満 —

    毎日出ていても、いきみが強く、硬く、残便感があるなら、基準上は便秘に該当しえます。「毎日出ているから大丈夫」という判断は、6項目のうち1つだけを見ていることになります。

    「毎日」は目標値ではない

    回数の正常範囲は、思われているより幅があります。週3回から1日3回程度までが、症状を伴わなければ通常の範囲として扱われることが多いとされます。

    この幅の広さは、裏を返せば「何回が正しいか」が個人によって違うということでもあります。集団の平均を個人にそのまま当てはめるときに残る隙間は、ここにもあります。

    大事なのは絶対的な回数より、その人にとっての普段と比べてどうか、でしょう。長年週4回で不便を感じていない人が、急に週1回になったなら、それは変化です。逆に、もともと毎日ではない人が「毎日にしなければ」と考える理由は、特にありません。

    回数と腸内細菌の関係も、単純ではない

    「排便があれば腸内環境が良い」という言い方には、もう一段の飛躍があります。

    排便の回数や性状は、主に腸の運動と、便が大腸を通過する時間を反映しています。腸内細菌の構成は通過時間から影響を受けますが、通過時間だけでは決まりません。

    そもそも健康な腸内細菌叢とは何かについて、合意された定義はまだないのです。何を「良い」とするかが定まっていない以上、排便という一つの指標から腸内細菌の状態を読み取ることには、原理的な限界があります。

    同じ理由で、善玉菌が増えたから毎日出るようになったという説明も、もう少し慎重に扱ったほうがよさそうです。

    回数以外に見ておけること

    もう一つ、回数とは別に効いてくる話があります。便は、金属の主要な出口でもあります。

    ニッケルの場合、経口で入った量のうち腸から吸収されるのは1〜10%。残りの90〜99%は、吸収されずに便として出ていきます2。吸収された分だけが、尿・汗の側へ回ります。

    つまり便通は、お腹の快適さだけの話ではありません。肝臓が処理して尿からは出せないと判断したものも、胆汁に乗って腸へ送られてきます。通過が滞れば、そこに置かれている時間が延びます。

    診断基準の項目立てが示しているのは、回数より過程と感覚が重視されている、ということです。

    いきむ必要があるか。硬さはどうか。出しきった感じがあるか。この3つは、毎日記録しなくても、なんとなく思い出せる範囲で振り返る価値があります。

    そして、変化があったかどうか。回数、硬さ、時間帯、どれでも構いません。普段と違う状態がいつから続いているか。これは診察の場でも役に立つ情報になります。

    回数を数えても意味がない場合

    次の場合は、回数を数えても答えが出ません。便通の読み方ではなく、別の枠の話になります。

    便に血が混じる。黒い便が続く。急に排便の習慣が変わり、それが続いている。体重が意図せず減っている。腹痛が続く。50歳以上で新たに便通の変化が生じた。

    これらは機能性の問題以外の可能性も含むため、自己判断や市販薬での対応の前に確認したほうがいい領域です。

    ひとつの数字に、多くを背負わせない

    「毎日出ているか」は分かりやすく、記録もしやすい。だからこそ、腸の状態全体を代表する指標のように扱われやすくなります。

    実際には、診断基準ですら6項目のうち1つとしてしか扱っていません。分かりやすい指標が、必ずしも重要な指標とは限らない。その一例です。

    そして便は、消化のあとの残りかすだけではありません。肝臓が処理して、尿からは出せないと判断したものが胆汁に乗って送られてくる先でもあります。通過が滞れば、腸に置かれている時間が延びます。

    便通に手をつけるなら、食物繊維には公的な目標量があります。日本人成人の摂取量の中央値との差は、はっきり分かっています。

    参考文献・参考資料

    1. Lacy BE, Mearin F, Chang L, et al. Bowel Disorders. Gastroenterology. 2016;150(6):1393-1407.e5. doi:10.1053/j.gastro.2016.02.031 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27144627/
    2. 足立厚子「金属アレルギーの対処法〜全身型金属アレルギーを中心に〜」アレルギー 2020;69(3):169-173. https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/69/3/69_169/_pdf

    本記事は診断基準と研究状況の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。

  • お腹の張りに、食事制限以外でできること

    お腹の張りに、食事制限以外でできること

    お腹が前に出ているとき、増えているのは中身の量ではなく、お腹の形のほうです。姿勢に関わる筋肉が、通常とは逆向きに動いています。

    だから「ガスを減らす」という方向は、多くの場合ずれています。張っている感じと、実際にお腹の中にある量は、測ってみるとあまり一致しません。

    「膨満感」と「実際にふくらむこと」は別

    張っている感じが強いのに腹囲は変わっていない人もいれば、その逆もいます。関わっている仕組みも別のものです。

    ふくらみの多くは、中身が増えたからではない

    起きているのは、姿勢に関わる筋肉の反応です。通常、お腹の中の容量が増えると、横隔膜は上に上がり、腹壁は緊張して形を保ちます。ところが、この反応が逆向きに起きることがある。横隔膜が下がり、前方の腹壁がゆるむ。結果として、量は変わらないのに、お腹が前に突き出します1。

    これは腹横隔膜協調不全(abdominophrenic dyssynergia)と呼ばれます。機能性の消化管障害でみられる腹部膨隆は、その大部分がこれによると報告されています1。

    この反応は、わずかなガスによる刺激に対しても起こりうるとされています1。ガスの量そのものより、それに対する体の反応のほうが、見た目の変化を作っている場合があります。

    「ガスを減らせば治るはず」という発想がうまくいかないことがあるのは、この構造で説明できる部分があります。

    感じ方の側にも、別の要因がある

    膨満感のほうには、内臓知覚過敏という要因が関わるとされます。同じ量の刺激でも、それを強く感じ取る状態です。

    これも「気のせい」ではありません。感覚の閾値が実際に下がっていれば、本人にとっては確かに苦しい。量の問題ではなく、受け取り方の問題だ、というだけです。

    興味深いのは、膨満感と腹部膨隆で関連する要因が異なる点です。膨満感は内臓知覚過敏と結びつきやすく、腹部膨隆はむしろ知覚の鈍さや通過の遅れと関連しやすいという整理があります。同じ「お腹が張る」でも、中で起きていることは一様ではありません。

    食べ物との関係は、どこまで言えるのか

    とはいえ、特定の食品で症状が出るという体験自体は否定されません。

    分解されにくい糖質が大腸に届き、腸内細菌によって発酵されればガスは生じます。乳糖を分解する酵素の働きが弱ければ、乳製品でそれが起きやすくなります。この経路は乳糖不耐症のところで整理したとおり、機序がはっきりしています。

    ただ、そこで生じたガスの量と、感じる苦しさや見た目の変化は比例しません。同じ量でも反応が違う。だから「この食品が悪い」と特定しても、量を減らすだけでは足りません。

    切り分けるための三つの観点

    自分の場合を考えるとき、次の三つを分けてみると整理しやすくなります。

    感覚か、見た目か。張っている感じだけなのか、実際に腹囲が変わっているのか。朝と夕方でベルトの穴が変わるか、同じスカートのホックが夕方だけきついか。見た目まで変わっているなら、量とは別の要素が絡んでいる可能性があります。

    食べ物との対応があるか。特定のものを食べた後に限って起きるのか、食事と関係なく起きるのか。牛乳を控えた週とそうでない週で違うのか、量を半分にしただけでも変わるのか。一度に複数を変えると分からなくなるので、ひとつずつ確かめるほうが早く進みます。

    いつからか、変化しているか。昔からある症状なのか、この数か月で始まったのか。同じままなのか、強くなってきているのか。ここは、受診するかどうかの判断に直結します。

    この6つは、張りの話ではない

    膨満感は日常的な症状ですが、次のような場合は自己判断で済ませないほうがいいでしょう。

    体重が減っている、便に血が混じる、貧血を指摘された、症状が急に始まった、夜間に痛みで目が覚める、発熱を伴う。この6つは、お腹の張りを切り分ける話とは別の枠に入ります。腹部膨満は機能性の問題だけでなく、他の疾患の症状としても現れるためです。当てはまるなら、上の三つの観点を試す段階ではありません。

    「量を減らす」以外の方向

    機序の側でも、分かっていることがあります。小腸で吸収されなかった糖が大腸に達し、腸内細菌がすばやく発酵してガスを出し、浸透圧で水分を引き込みます。日本消化器病学会のガイドラインに記載があります。増えているのは、食べたものの体積ではありません。

    もう1つ、張りとは別の軸で見られるものがあります。通過です。

    便秘の国際的な診断基準は6項目で、回数はそのうちの1つにすぎません。いきみ、硬さ、残便感、閉塞感。張りを感じている日に、この6項目のどれが当てはまっているかは、感覚ではなく数えられます。

    そして腸は、肝臓が処理して尿からは出せないと判断したものが送られてくる先でもあります。通過は、お腹の快適さだけの話ではありません。

    この分野で分かってきたのは、お腹の張りが「入っている量」だけの問題ではない、ということでした。姿勢や筋肉の反応、感覚の閾値といった要素が絡んでいます。

    だとすれば、食事の内容を調整することは有効な手がかりのひとつではあっても、それだけで説明しきれない場合があります。うまくいかないとき、除去する食品を増やし続けるより、別の方向を考える余地があります。

    今日試せるのは、張っているときの姿勢を確かめることです。立って鏡を横から見る。お腹が前に出ていて、同時に肋骨の下が広がっていないか。そこが動いているなら、増えているのは中身ではなく形のほうです。

    食べた量との関係を見るなら、小麦・タマネギ・豆類・リンゴ・牛乳のうち1品目だけを2週間外して、戻して比べます。全部を一度にやめないのは、何が効いたか分からなくなるからです。

    参考文献・参考資料

    1. Damianos JA, Tomar SK, Azpiroz F, Barba E. Abdominophrenic Dyssynergia: A Narrative Review. American Journal of Gastroenterology. 2023;118(1):41-45. doi:10.14309/ajg.0000000000002044 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36191283/

    本記事は研究状況の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。

  • 「善玉菌を増やす」の前に、知っておきたいこと

    「善玉菌を増やす」の前に、知っておきたいこと

    いまの研究は、「善玉と悪玉に分ける」という前提そのものを外して進んでいます。

    「善玉菌を増やして、悪玉菌を減らす」。日本の腸の情報は、たいていこの形で書かれています。分かりやすく、何をすればいいかもはっきりします。

    この分け方は日本で広く定着していて、分かりやすさの点ではよく働いてきました。何が変わったのかを見ていきます。

    まず、この分け方が広まった理由

    否定から入る前に、なぜこの区分が使われてきたのかを確認しておきます。

    腸の中は見えません。数百種類とも言われる細菌がいて、それぞれの働きも複雑に絡み合っています。この状態をそのまま説明しようとすると、話が始まりません。

    そこで、体に良い働きをするグループと、そうでないグループに分ける。ビフィズス菌や乳酸菌は前者、ウェルシュ菌などは後者、という具合に。この単純化があったから、腸内細菌という存在自体が一般に知られるようになった面はあります。

    分かりやすさのために作られた区分です。それをそのまま判断の基準に使い続けると、無理が出ます。

    「バランスが崩れている」という言い方への批判

    研究の側で議論になっているのが、「ディスバイオシス(dysbiosis)」という言葉です。腸内細菌のバランスが崩れた状態、といった意味で使われています。

    オルセンとアルムは2016年、Nature Microbiology に「Dysbiosis is not an answer(ディスバイオシスは答えではない)」という論考を発表しました1。彼らの主張は、微生物の不均衡という発想が科学以前の思考の名残であり、体液のバランスで健康を説明しようとした古い理論に似ている、というものです。バランスという概念は、有用な微生物研究にとって無関係であるばかりか、むしろ注意をそらしかねない、とされています1。

    翌2017年、フックスとオマリーは mBio で、この言葉が実際にどう使われているかを大量に集めて分析しています。彼らは定義と概念的な記述を分類し、ディスバイオシスの使われ方が持つ問題含みの含意を、とくに因果に関する仮説と、正常・異常の区別の点から指摘しました2。

    この言葉が抱える困りごとは、次のように整理できます。ある人の細菌叢(腸にいる細菌の集まり)が「崩れている」と言うためには、崩れていない状態が定義されている必要がある。ところが健康な腸内細菌叢の定義は、まだ合意されていません。基準がないまま、差異があること自体が「崩れ」と呼ばれてしまいます。

    もうひとつは因果の方向です。病気の人と健康な人で細菌叢が違うという観察は、どちらが先かを教えてくれません。関連と因果の距離が、ここでも問題になります。

    菌は、文脈によって働きが変わる

    二つに分けにくいもうひとつの理由は、同じ菌でも条件で振る舞いが変わることです。

    同じ菌種でも、株が違えば性質が異なります。プロバイオティクス(生きた菌を摂る製品)の効果が菌株ごとに評価されるのは、この違いが実際に効いてくるからです。

    また、単独では問題を起こさない菌が、宿主の状態や他の菌との関係によって振る舞いを変える場合があります。腸のバリアが健全なときと、そうでないときで、同じ菌の意味合いが変わります。

    「良い菌」「悪い菌」という固定的なラベルは、この条件依存性を落としてしまう。落としているからこそ分かりやすいのですが、その分かりやすさが判断を歪めることもあります。

    では、何も言えないのか

    ここまで批判ばかり並べましたが、分かっていることもあります。

    特定の病原体が問題を起こすことははっきりしています。抗菌薬の使用が細菌叢に大きな変化をもたらすことも観察されています。食物繊維の摂取量が構成と代謝に影響することも、繰り返し報告されています。

    批判されているのは、これらの個別の知見ではなく、「善玉が多くて悪玉が少ない状態が良い」という一元的な物差しのほうです。ブリュソウは2020年の総説で、この概念の曖昧さを整理しつつ、その使い方に注意が必要だと論じています3。

    実際、一般向けの解説では「良い菌を取り入れる」という言い方がよく使われます。次の動画は、医薬基盤・健康・栄養研究所の國澤純副所長が、発酵食品と食物繊維、そして菌がつくる物質までを12分で話しているものです。55万回以上見られています。


    ここで話されている中身は、食物繊維が何を増やし、その菌が何をつくるか、という「何をしているか」の話です。分けて聞くなら、「良い菌」という言い方は入口の言葉で、中身は菌の働きの話をしているということになります。

    フックスとオマリーの結論も、言葉を捨てろというものではありません。この分野が予測の範囲と説明の深さを高めていくために、研究者はディスバイオシスをどう語るかを注意深く省みるべきだ、というものです2。

    日常での受け取り方

    「ガスが溜まって張る」という症状を例にとると、菌の善悪では説明しきれません。ふくらみの多くは、中身が増えたからではないと報告されています。

    この話が実際に効いてくるのは、製品や検査の説明を読むときでしょう。

    「悪玉菌が多い」と示されたとき、何と比べて多いのかが問題になります。比較の基準になる「正常な状態」が定義されていなければ、その判定は解釈の一つにとどまります。

    また、「善玉菌を増やす」とうたわれている場合、どの菌をどれだけ増やすと何が変わるのかまで示されているかを見たい。菌種名だけでなく株名が書かれているか、その株で何が調べられているか。ここまで辿れると、話の解像度が上がります。

    そして、菌の数を直接動かそうとするより、食事の内容や薬の使用といった、自分で把握できる要因から考えるほうが、いまの研究水準とは相性がいい。細菌叢は結果として動くもので、つまみを直接回せる対象ではありません。

    単純な物語を手放したあとに

    手放したあとに残るものがあります。菌の善悪は決着していませんが、腸が出口であることは決着しています。

    医学の教科書は、胆汁を「腎臓でろ過または排泄できない脂溶性物質の主要排泄経路」とし、そこへ出されるものに重金属を名指しで挙げています。そして経口で入った金属の大部分は、そもそも吸収されずに便として通過します。

    「腸内環境」という言葉のうち、いま数字で確かめられるのは、菌の構成ではなく通過のほうです。

    善玉と悪玉という物語には、はっきりした利点があります。何が起きているかを説明でき、何をすればいいかも決まる。それを手放すと、しばらく落ち着きません。

    ただ、その落ち着かなさは、実際の複雑さに近づいたことの反映でもあります。腸の中で起きていることは、まだ研究者にとっても輪郭がはっきりしていません。分かりやすい図式のほうが先にあって、実態の理解が追いついていない、という順序になっています。

    「腸活」という言葉には、確かめられる度合いの違う4つの目的が混ざっています。分けると、公的な目標量があるものと、判定する物差しがまだないものに分かれます。

    参考文献・参考資料

    1. Olesen SW, Alm EJ. Dysbiosis is not an answer. Nature Microbiology. 2016;1:16228. doi:10.1038/nmicrobiol.2016.228 https://www.nature.com/articles/nmicrobiol2016228
    2. Hooks KB, O’Malley MA. Dysbiosis and Its Discontents. mBio. 2017;8(5):e01492-17. doi:10.1128/mBio.01492-17 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29018121/
    3. Brüssow H. Problems with the concept of gut microbiota dysbiosis. Microbial Biotechnology. 2020;13(2):423-434. doi:10.1111/1751-7915.13479 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7017827/

    本記事は概念と研究状況の整理であり、特定の製品・検査の推奨や否定、個別の診断・治療に代わるものではありません。

  • 「腸内環境を整える」で、実際に何をすればいいか

    「腸内環境を整える」で、実際に何をすればいいか

    「腸内環境を整える」とよく言われます。ただ、整った状態が何を指すのかは、たいてい書かれていません。研究がどこまで来ていて、何なら言えるのかを整理します。

    この言い方は、ヨーグルトの広告にも、食物繊維の話にも、体調が優れないときの助言にも出てきます。

    ただ、整えた先にどういう状態を目指しているのかは、たいてい書かれていません。何が「整った」状態なのか。それは誰が、どうやって決めているのか。この問いは素朴に見えて、研究者のあいだでも決着していません。

    「健康な腸内細菌叢」の定義が、まだない

    「健康な腸内細菌叢」に、合意された定義はまだありません。

    「健康なマイクロバイオームとは何か」を正面から検討した2021年の総説は、こう締めくくっています。重要で一見単純に見える問いだが、その答えは複雑で、絶えず精緻化を必要としている1。2024年の検討も同じ困難を指摘しました2。

    理由のひとつは、比べる相手が定まらないことです。見かけ上健康な人どうしでも細菌叢はかなり違い、年齢・食事・薬・住む場所でも変わります1。もうひとつは、まだ見えていない住人がいることです。腸内にはウイルスや真菌など、特徴づけられていない微生物が多数いて、それらの役割はほとんど分かっていません1。

    「どういう菌がいるか」から「何をしているか」へ

    定義は決まっていませんが、研究は止まっていません。「どういう菌がいるか」ではなく「何をしているか」で捉えようとする方向が、近年の一つの流れになっています。

    腸内細菌は誰がいるかは人によって大きく違うが、何をしているかはそれほど違わないことを示す比較図
    菌の種類の構成は人によって大きく違う一方、その集団が果たしている機能の構成は個人差が小さいことが、複数の解析で報告されています。だから「誰がいるか」より「何をしているか」で見るという発想が出てきました。

    もう一つよく用いられるのが、外部からの撹乱にどれだけ耐え、元の状態にどれだけ戻れるかという見方です。抗菌薬や食生活の急変といった揺さぶりを受けたあと、どの程度復元するか。どんな菌がいるかより、揺さぶられたあとに元へ戻れるかを見る、ということです。

    いずれも有力な考え方ですが、確立した基準として使えるところまでは来ていません。「あなたの腸内環境は整っている/いない」を判定する物差しは、いまのところないのです。

    「何をしているか」で見るとはどういうことか。腸内細菌研究の内藤裕二教授が、短鎖脂肪酸と胆汁酸を軸に12分で話しています。


    「善玉菌・悪玉菌」で考えると、何を見落とすか

    日本で広く使われているこの区分は、分かりやすく、長く使われてきました。ただ、実際の菌はそれほど単純に振る舞いません。

    同じ菌種でも、株が違えば性質が変わります。宿主の状態や、共存する他の菌との関係によって、働きが変わることもあります。同じ菌が、条件によって役に立ったりそうでなかったりします。善玉・悪玉という固定的な二分法は、そうした条件依存性を捨象しています。この分け方が研究の側でどう問い直されているかは別に詳しく書きました。

    そう考えたくなる理由はよく分かります。腸の中は見えないし、単純な区分がないと話しようがない。ただ、この区分を前提にすると「善玉菌を増やせば整う」という結論に自動的につながってしまいます。実際には、増やすべき菌が一意に決まっていないことのほうが、現状に近いのです。

    プロバイオティクスは、菌株ごとに別のもの

    ここが、製品を選ぶときにいちばん効いてきます。

    国際プロバイオティクス・プレバイオティクス学会(ISAPP)が2014年にまとめた合意声明は、プロバイオティクスを「適切な量を摂取したときに宿主に健康上の利益をもたらす生きた微生物」と定義しました3。

    この声明が強調しているのが、効果の菌株特異性です。病原体の抑制のように多くの株に共通する機構もありますが、それ以外の効果は株ごとに異なるため、株それぞれについて根拠が必要になります。同時にパネルは、乳酸や酢酸といった有機酸の産生のように、ビフィズス菌属や乳酸桿菌属の大半の種に共通する機構もあることを認めています3。

    また、プロバイオティクスと呼ぶには、意図された用途において安全であり、株レベルで同定できる明確な実体でなければなりません。定義されていない混合物は含まれないのです3。

    ここから導かれることは、日常の判断にそのまま効きます。ある菌株で示された結果は、同じ菌種の別の株には自動的には当てはまりません。「乳酸菌がいい」という言い方は、株の違いをまたいだ一般化になっています。

    製品を見るときに確かめられるのは、菌種名だけでなく株名まで書かれているかどうかです。株名まで特定できれば、その株について何が調べられているのかを辿れます。

    まだ分かっていないこと

    この分野は動きが速く、確定した部分より流動的な部分のほうが多くあります。とくに大きいのが二つです。

    原因なのか、結果なのか。細菌叢の変化が病気を起こしているのか、病気の結果として変化しているのかは、多くの疾患でまだ決着していません。関連が見つかることと、原因だと分かることのあいだの距離が、この領域には特に色濃く出ます。

    誰に効くのかが読めない。同じ食品を摂っても、細菌叢の反応は人によって異なることが観察されています。事前に予測する方法は、まだ確立していません。

    それでも言えそうなこと

    ここまで「決まっていない」が続きましたが、分かっていることもあります。

    食物繊維の摂取量が細菌叢の構成と代謝に影響することは、繰り返し観察されています。抗菌薬が一時的に大きな変化をもたらすことも分かっています。極端に偏った食事が細菌叢の多様性を下げることも報告があります。方向性としては、ある程度の一致があります。

    ただ、それは「特定の製品を摂れば整う」という主張とは別の話です。前者は集団で観察された傾向で、後者は個人への効果の約束になっています。

    言葉を、少しだけ具体的にしてみる

    もう1つ、「整える」の中に入れられていないのに、はっきり分かっている働きがあります。腸は、出口です。

    ニッケルの場合、経口で入った量のうち腸から吸収されるのは1〜10%で、90〜99%は吸収されずに便として出ていきます4。加えて、肝臓が処理して尿からは出せないと判断したものも、胆汁に乗って腸へ送られてきます。医学の教科書は、そこへ出されるものに重金属を名指しで挙げています。

    菌の構成が「良い状態」かは決着していませんが、通過が滞っているかどうかは、決着を待たずに分かります。国際的な診断基準は、回数・いきみ・硬さ・残便感など6項目で見ています。

    「腸内環境を整える」の中で、いま数字で確かめられるのはこちら側です。

    「腸内環境を整えたい」と思ったとき、その中身を一段具体的にできると、考えやすくなります。

    便通のことなのか、食後の張りのことなのか、体調全般のことなのか。特定の食品を食べたときに決まって起きる不調であれば、アレルギーと不耐症の区別から入ったほうが早い場合もあります。目指しているものが違えば、確かめるべき研究も変わります。「腸内環境」という一語で括られているあいだは、何が改善したのかも判定できません。

    そして、菌の名前で考えるより、食事の内容や薬の使用歴といった、自分で把握できることから見ていくほうが、いまの研究水準では確実です。細菌叢は結果として動くもので、直接つまみを回せる対象ではないからです。

    整えるという言葉は、どこかに正解の状態があることを前提にしています。研究の現状はまだそこまで来ていません。何を良くしたいのかを自分の言葉にするところから始めて、十分です。

    参考文献・参考資料

    1. Shanahan F, Ghosh TS, O’Toole PW. The Healthy Microbiome—What Is the Definition of a Healthy Gut Microbiome? Gastroenterology. 2021;160(2):483-494. doi:10.1053/j.gastro.2020.09.057 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33253682/
    2. Joos R, Boucher K, Lavelle A, et al. Examining the healthy human microbiome concept. Nature Reviews Microbiology. 2025;23(3):192-205. doi:10.1038/s41579-024-01107-0 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39443812/
    3. Hill C, Guarner F, Reid G, et al. The International Scientific Association for Probiotics and Prebiotics consensus statement on the scope and appropriate use of the term probiotic. Nature Reviews Gastroenterology & Hepatology. 2014;11(8):506-514. doi:10.1038/nrgastro.2014.66 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24912386/
    4. 足立厚子「金属アレルギーの対処法〜全身型金属アレルギーを中心に〜」アレルギー 2020;69(3):169-173. https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/69/3/69_169/_pdf

    本記事は用語と研究状況の整理であり、特定の製品・食品の推奨や否定、個別の診断・治療に代わるものではありません。