カテゴリー: 栄養・食

  • 「解毒にいい食べ物」に、どこまで根拠があるか

    「解毒にいい食べ物」に、どこまで根拠があるか

    「解毒にいい食べ物」の大半は、人で確かめられていません。市販のデトックス食については、有効性を評価した無作為化比較試験が行われていないと2015年の総説が書いています。

    ただし、例外はあります。大気汚染の大きい地域で291人を対象に行われた12週間の無作為化試験で、ブロッコリースプラウト飲料を飲んだ群は、ベンゼン由来の代謝物の尿中排泄が61%、アクロレイン由来が23%増えました(いずれもP≤0.01)1。

    そして、ここを読み違えないことが大事です。増えたのは「尿に出た量」です。病気が減ったかどうかは、この試験では測っていません。

    どこで、誰に、何をした試験か

    ジョンズ・ホプキンス大学などのグループが、中国・江蘇省啓東市の農村部で行った試験です。大気汚染物質への曝露が大きいことで知られる地域で、291人が参加しました1。

    試験の条件1
    内容
    参加者 291人(中国・啓東市 He-He鎮)
    期間 12週間
    設計 無作為化、プラセボ対照
    介入 ブロッコリースプラウト由来の飲料。1日あたりグルコラファニン600µmol、スルフォラファン40µmol
    測ったもの ベンゼン、アクロレイン、クロトンアルデヒドの尿中のメルカプツール酸(液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析)

    メルカプツール酸というのは、第II相でくっつけて水に溶ける形にしたあと、尿から出ていく形の1つです。つまりこの試験は、処理して出す工程が実際に動いたかどうかを、出てきた物質の量で測っています。

    結果

    ブロッコリースプラウト飲料でベンゼン由来代謝物の尿中排泄が61%、アクロレイン由来が23%増えたことを示す図
    プラセボ群と比べた、尿中排泄量の増加。クロトンアルデヒドでは統計的に有意な増加は見られませんでした1。
    尿中排泄量の変化(プラセボ群との比較)1
    物質 結果
    ベンゼン 61%増(P≤0.01)
    アクロレイン 23%増(P≤0.01)
    クロトンアルデヒド 有意な増加は見られなかった

    3つ測って、2つで動き、1つでは動きませんでした。物質によって結果が違う、というところまで出ています。

    そして12週間の投与期間を通じて、スルフォラファン代謝物の生物学的利用能は低下しませんでした1。続けても効きが落ちなかった、という意味です。

    遺伝子型で、差が出た

    この試験には、もう1つ観察があります。

    ベンゼン由来のメルカプツール酸の排泄は、GSTT1という遺伝子を持っている人のほうが、持っていない人より高くなりました。しかもこれは、試験群かプラセボ群かに関係なく見られました1。

    GSTというのは、第II相でグルタチオンをくっつける反応を担う酵素群です。この酵素の遺伝子を持っているかどうかで、同じ曝露でも出ていく量が違ったということになります。

    「同じものを食べても人によって違う」が、この試験の中でも観察されています。

    読み違えやすいところ

    この結果は、いくつかの点で慎重に扱う必要があります。

    この試験が言っていること、言っていないこと
    内容
    言っている 特定の飲料を12週間飲むと、一部の物質の尿中排泄が増える
    言っていない それによって病気が減るか、症状が良くなるか
    言っていない 体内に残っている量が減ったか(測ったのは出てきた量)
    言っていない 日常的に食べるブロッコリーで同じことが起きるか

    特に4つめです。試験で使われたのは1日グルコラファニン600µmolという定量された飲料でした。スーパーで買うブロッコリーを食べることと、同じ条件ではありません。

    著者らの結論も、その範囲で書かれています。「ブロッコリースプラウトによる介入は、一部の大気汚染物質の解毒を高め、それに伴う長期的な健康リスクを軽減する質素な手段を提供しうる」1。「提供しうる(may provide)」です。

    それでも、この試験には意味がある

    ここまで限定をつけたうえで、この試験が示していることは重要です。

    「処理して出す工程は、外から動かせることがある」——それが人で、無作為化試験で、確かめられました。

    「デトックス」という言葉が使いにくいのは、物質名が書かれず、出たかどうかを誰も確かめられないからでした。この試験は逆です。物質名(ベンゼン、アクロレイン、クロトンアルデヒド)があり、測り方があり、比較対象があり、動かなかったものまで報告されています。

    確かめられる形にすれば、ここまで確かめられます。弁当のフタル酸が、入口の特定から通知を経て22分の1になったのと、同じ種類の話です。

    では、今日の食事をどうするか

    この記事から出てくる行動は、控えめです。

    アブラナ科の野菜を食べる理由が1つ増えた、というところまでです。ブロッコリー、キャベツ、大根、芽キャベツ。ビタミンCの供給源としても、これらは上位に来ます。

    飲料と同じ量を食べようとする必要はありません。試験の用量は、日常の食事から狙って摂る水準ではありません。

    そして、順番は変わりません。出口が動いているかを先に見る。食物繊維は目標量に10g近く足りていません。入口は9種それぞれ違い、閉じられるものがあります。

    特定の食品を足すことは、この順番の中では最後のほうにあります。それでも、人で確かめられた試験があるものと、ないものは、区別しておく価値があります。

    参考文献・参考資料

    1. Egner PA, Chen JG, Zarth AT, et al. Rapid and sustainable detoxication of airborne pollutants by broccoli sprout beverage: results of a randomized clinical trial in China. Cancer Prevention Research. 2014;7(8):813-823. doi:10.1158/1940-6207.CAPR-14-0103 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24913818/
    2. Klein AV, Kiat H. Detox diets for toxin elimination and weight management: a critical review of the evidence. Journal of Human Nutrition and Dietetics. 2015;28(6):675-686. doi:10.1111/jhn.12286 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25522674/

    本記事は公開された研究の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の食品・製品・サプリメントの効果を示すものでも、摂取を勧めるものでもありません。引用した試験が測定したのは尿中代謝物の排泄量であり、健康アウトカムの改善を示したものではありません。試験で用いられた用量は、通常の食事から摂取される量とは異なります。

  • 子どもの食事で、アルミニウムをどう見るか

    子どもの食事で、アルミニウムをどう見るか

    アルミニウムの摂取量が上限に近づくのは、体重の軽い子どもです。

    厚生労働省のマーケットバスケット調査(平成23〜24年度)で、暫定耐容週間摂取量(PTWI)に対する比が最も大きかったのは小児(1〜6歳)で約43%でした1。

    そして、ここからが実際に動いた部分です。小児の95パーセンタイル値以上で、PTWI比は100%を超えていました。学童・青年・成人では、99パーセンタイル値でも超えませんでした1。

    これを受けて2018年11月30日、菓子・生菓子・パンに使用基準が新設されました。1kgにつきアルミニウムとして0.1g以下です2。

    上限そのものが、3回動いている

    アルミニウムの上限は、FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)が設定しています。

    暫定耐容週間摂取量(PTWI)の変遷1
    年 PTWI 変えた理由
    1988年 7 mg/kg体重/週 —
    2006年(第67回) 1 mg/kg体重/週 従来のPTWI以下の用量で、生殖系および神経発達に影響を与える可能性を示唆する知見があった
    2011年(第74回) 2 mg/kg体重/週 再度議論を行い変更

    7分の1に下げて、そのあと2倍に戻しています。同じことがBPAでも起きていて、そちらは2023年にEFSAとドイツBfRが1,000倍違う数字を出しました。

    上限の数字は、その時点で何が分かっているかを表しています。物質の性質が変わったわけではありません。

    日本人の摂取量を、実際に測った

    日本では平成23〜24年度に、加工食品と未加工食品からのアルミニウム摂取量がマーケットバスケット方式で調べられました。食品添加物や残留農薬でも使われている方法で、実際に売られている食品を買ってきて、調理して、測ります1。

    アルミニウムの対PTWI比。小児1-6歳の平均は43%だが、95パーセンタイル以上で100%を超える
    年齢層ごとの対PTWI比。平均はどの年代もPTWIを下回りましたが、小児(1-6歳)の95パーセンタイル値以上で100%を超えました1。
    年齢層ごとの結果1
    年齢層 結果
    小児(1〜6歳) 平均で対PTWI比 約43%。95パーセンタイル値以上で100%を超えた
    学童(7〜14歳) 99パーセンタイル値でも100%を超えなかった
    青年(15〜19歳)
    成人(20歳以上)

    寄与が大きかった食品群は、「穀類」と「砂糖類、菓子類」でした1。

    カドミウムで見たのと同じで、平均だけを見ると、上位のほうが見えません。この件では、平均43%と95パーセンタイル100%超のあいだに、対応が必要かどうかの分かれ目がありました。

    なぜ菓子パンに入っているのか

    入口は、ミョウバンです。硫酸アルミニウムカリウム(カリウムミョウバン)と硫酸アルミニウムアンモニウム(アンモニウムミョウバン)。

    資料には、なぜ使われるかまで書かれています。

    膨脹剤の一種で、重曹(炭酸水素ナトリウム)に酸剤であるミョウバン等を配合したもの。重曹は、水分がある状態で加熱されると炭酸ガスが発生し、生地を膨らませる作用を持つが、苦みのあるアルカリ性物質(炭酸ナトリウム)が生成する。これを改良するためにベーキングパウダーには酸剤が配合されており、ミョウバンは酸剤の一種である1

    味のためです。重曹だけだと苦くなる。それを中和するための酸剤の1つが、ミョウバンでした。

    アルミニウムを含む添加物の用途と、対象食品1
    用途 主な対象食品
    膨脹剤(ベーキングパウダー等) 一部の菓子パン(メロンパン等)、焼菓子(スポンジケーキ等)、揚げ菓子(ドーナツ等)、蒸し菓子(小麦饅頭、蒸しパン)
    色止め剤 漬物(ナスの漬物、シソの実漬)
    形状安定剤(煮崩れ防止) たこ、いか、くらげ、うになどの魚介類
    品質安定剤 栗、芋、豆、ごぼう、れんこんなどの煮物
    着色料(アルミニウムレーキ) 食品全般

    なお資料は、「大部分のパンは、パン生地を膨脹させるためにパン酵母を使用している」とも注記しています1。食パンのような酵母で膨らませるパンは、この話の対象ではありません。

    基準ができるまで

    調査結果を受けた対応が、段階的に進みました。

    経緯
    時期 内容
    平成25年6月 審議会が、パン・菓子類へのミョウバンの使用基準改正を検討。あわせて業界に自主的な低減化を通知で依頼1
    平成29年3月 厚生労働省が食品安全委員会にリスク評価を要請
    平成30年11月30日 官報告示。菓子、生菓子及びパンに新たな基準値。1kgにつきアルミニウムとして0.1g以下2

    審議会の資料は、対応の理由をこう書いています。PTWIを超過するおそれがあるのは一部の場合のみだが、①汚染物質では多量摂取者も安全が確保できるよう基準値設定等を行っていること、②コーデックス委員会や諸外国でも見直しが進められていることを踏まえた、と1。

    「平均が下回っているから対応しない」とはしなかったということです。

    これは弁当のフタル酸で起きたことと、同じ形です。測る → 上位の層で上限に届いていると分かる → 入口を特定する → 基準を作る。

    いま、何を見るか

    大人については、この記事の数字がそのまま答えになっています。99パーセンタイル値でも上限を超えませんでした。気にする対象ではありません。

    小さい子どもについては、見る場所が1つあります。原材料表示の「ミョウバン」という文字です。

    膨脹剤には、ミョウバンを使うものと使わないものがあります。表示は「膨脹剤」だけの場合もあれば、「膨脹剤(ミョウバン)」と書かれる場合もあります。

    「膨脹剤」は一括名で表示できる14の用途の1つなので、中身の物質名までは表示されないことがあります。表示から判別しきれないからこそ、制度の側で基準が作られたという順番です。

    そして2018年の基準ができているので、いま売られている菓子・生菓子・パンは、1kgあたり0.1g以下の範囲にあります。調査当時とは条件が違います。

    できることは単純です。菓子パンと焼き菓子が毎日の中心になっていないかを見る。これは添加物全般について言えることと同じで、変えると添加物以外(砂糖、脂質、食物繊維)も同時に動きます。

    9種の金属の中で、この項目がどこにいるか

    検査の蓄積の欄には、アルミニウムが項目として入っています。他の8種と並べると、位置がはっきりします。

    アルミニウムという項目の特徴
    状況
    上限の数字 ある。PTWI 2 mg/kg体重/週
    日本人の摂取量 ある。年齢層別・パーセンタイル別まで
    入口 特定されている。ミョウバン(膨脹剤・色止め・形状安定・着色)
    規制 ある。2018年に菓子・生菓子・パンへ基準値
    皮膚からの入口 日本皮膚科学会のガイドラインは、感作源として化粧品、歯磨き、ベーキングパウダー、医薬品を挙げています3

    9種のなかで、いちばん材料がそろっている項目のひとつです。上限も、摂取量も、入口も、規制もあります。そのどれもないものと比べると、位置づけが違います。

    そして今回の経緯が示しているのは、平均で見ると見えないものが、体重の軽い層では見えるということでした。同じ食品を食べていても、体重で割ると数字が変わります。

    参考文献・参考資料

    1. 薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会添加物部会「アルミニウムを含有する添加物への対応について」平成25年6月21日 資料2-1(消費者庁「アルミニウムに関する情報」に掲載) https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/food_additives/aluminium/assets/0000140250.pdf
    2. 硫酸アルミニウムアンモニウム及び硫酸アルミニウムカリウムの使用基準改正(平成30年11月30日官報告示)。菓子、生菓子及びパンについて、1kgにつきアルミニウムとして0.1g以下 https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/food_additives/aluminium
    3. 日本皮膚科学会接触皮膚炎診療ガイドライン改定委員会「接触皮膚炎診療ガイドライン2020」日本皮膚科学会雑誌 2020;130(4):523-567. 表12「種々の金属による病型・症状とその感作源」 https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/130_523contact_dermatitis2020.pdf

    本記事は公的資料の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の食品の安全性や危険性を示すものでも、摂取を勧めるものでも、避けるよう勧めるものでもありません。乳幼児の食事については、個別の指示が優先されます。

  • 糖質を減らすとき、一緒に減るものへの備え

    糖質を減らすとき、一緒に減るものへの備え

    糖質を減らすと、体から出す経路のひとつが細ります。米・パン・麺・いも・果物は、日本人の食物繊維の主な供給源だからです。

    体の出口は尿だけではありません。肝臓は胆汁をつくり、尿からは出せない物質を便の側へ送り出しています。その便の通過に関わるのが食物繊維です。

    そして日本人は、すでに食物繊維の目標量に届いていません。30〜49歳男性で目標22gに対し、実際は12.45gでした。

    目標量が「残り」である、ということ

    『日本人の食事摂取基準(2025年版)』は、炭水化物の目標量をこう説明しています。炭水化物がエネルギー源として重要な役割を担っていることから、たんぱく質及び脂質の残余として目標量(範囲)を設定した1。

    たんぱく質13〜20%と脂質20〜30%を決めたあと、残りが炭水化物50〜65%になることを示す図
    たんぱく質13〜20%、脂質20〜30%。この2つを引いた残りが炭水化物の範囲になります1。

    順番が逆なのが要点です。「炭水化物はこれだけ必要だ」という研究から50〜65%が出たのではありません。他の2つを決めた結果、そこが空いた。

    だから、この範囲を下回ったときに何が起きるかについて、基準は答えを持っていません。線が引かれていないことと、下回って大丈夫なことは別です。

    なお、この%エネルギーにはアルコールから摂ったエネルギーも含まれます(基準表の脚注に明記されています)1。飲む人は、炭水化物の枠の一部を酒が占めていることになります。

    砂糖にも、目標量はない

    糖質制限の話で真っ先に減らされるのは砂糖ですが、糖類(単糖及び二糖類)に目標量は設定されていません。

    報告書は理由を書いています。糖類の過剰摂取が肥満や齲歯の原因となることは広く知られているが、諸外国で指標の設定に多く用いられている added sugar 及び free sugar の摂取量の把握が日本において現状では困難であること、及び他国と日本における糖類摂取状況が大きく異なる可能性があることから、目標量は設定しなかった1。

    害がないから設定しなかったのではありません。日本人が実際にどれだけ摂っているかを測る仕組みが、まだないからです。

    減るのは、糖質だけではない

    ここが、この記事でいちばん実務的な部分です。

    糖質を減らすと、米・パン・麺・いも・果物が減ります。これらは日本人の食物繊維の主な供給源です。

    そして食物繊維が関わっているのは、便の通過です。体が不要なものを処理して外へ出すとき、出口は尿だけではありません。肝臓の主な働きの一つが「胆汁をつくる」ことで、その役割は尿からは出せない物質を便側へ送り出すことでした。

    つまり糖質を減らすという選択は、入れる側の話に見えて、出す側にも届きます。入れる側と出す側を一緒に見るのは、そのためです。

    その食物繊維には、はっきりした目標量があります。

    食物繊維の目標量と実際の摂取量。30〜49歳男性は目標22gに対し摂取12.45g、女性は18gに対し11.5g
    30〜49歳の目標量と、摂取量の中央値1。目標量の算定に用いられたのは平成30年・令和元年の国民健康・栄養調査の値です。
    食物繊維の目標量(g/日)
    年齢 男性 女性
    18〜29歳 20以上 18以上
    30〜64歳 22以上 18以上
    65〜74歳 21以上 18以上
    75歳以上 20以上 17以上

    さらに、この目標量は理想の量ではありません。報告書は、成人の理想的な目標量は25g/日以上と考えられるが、現在の日本人の摂取実態を鑑み、実行可能性を考慮してこれよりも低く設定されていると書いています1。

    効果の大きさについても数字があります。観察研究を含むメタ・アナリシスでは、25〜29g/日の摂取量で最も顕著な効果が観察されたと報告されています1。

    つまり、下げられている目標量にすら届いていないところから、さらに糖質を減らすことになります。

    減らすなら、どこから入れ直すか

    糖質を減らすこと自体を止めるものではありません。減った食物繊維をどこから入れるかを、先に決めておきます。

    穀類以外の供給源は、豆類、海藻、きのこ、野菜、ナッツです。ここを増やさずに主食だけ減らすと、目標量からの距離が開きます。

    ただし、一度に大きく増やすと張りや不快感が出ます。報告書も、便秘の重症化予防を目的とした食物繊維の追加摂取について、1日10g・少なくとも4週間にわたる追加が勧められていること、腸にガスがたまるといった症状の悪化も報告されていることから、慎重に判断されるべきだとしています1。

    成分表の版が変わると、数字も変わる

    食物繊維の数字を扱うときの注意が1つあります。

    日本食品標準成分表が七訂から八訂になったとき、測定法が変わりました。精白米は0.3g→1.5g、食パンは2.3g→4.2g(可食部100gあたり)。食品が変わったのではなく、測り方が変わったためです1。

    そして目標量のほうは、七訂相当の測定法で算定されています。八訂を使ったアプリで計算すると、実際より高めの値が出ます。報告書も「八訂を用いた場合の値は高めに算出されることを考慮すべきである」と書いています1。

    線が引かれていない場所と、引かれている場所

    もう1つ、食物繊維が関わる場所があります。通過そのものです。

    ニッケルの場合、経口で入った量のうち腸から吸収されるのは1〜10%で、90〜99%は吸収されずに便として出ていきます2。加えて肝臓が胆汁に出したものも腸へ送られてきます。医学の教科書は、そこへ出されるものに重金属を名指しで挙げています。

    つまり便として出る経路は、栄養の話であると同時に、入ってきたものが体を通り抜ける経路でもあります。糖質を減らすと食物繊維も一緒に減る、という構造が効いてくるのは、こちら側でもあります。

    目標量22g・18gに対して、実際は12.45gと11.5g。出口が先で、上流があとという順番の中で、いちばん数字がはっきりしているのがこの差です。

    炭水化物の目標量は、他の2つを決めた残りでした。糖類には目標量そのものがありません。「何%から制限なのか」に、日本の基準は答えを持っていません。

    数字があるのは食物繊維です。30〜64歳の男性で22g、女性で18g。実際の摂取量は12.45gと11.5g。しかもこの目標量は、理想とされる25gから実行可能性を考慮して下げた値でした。

    糖質をどれだけ減らすかは自分で決めることになります。そのとき手元にある唯一の数字が、食物繊維です。

    そして食物繊維は、入れる側の項目でありながら、出す側の経路にも関わっています。減らした分をどこから入れ直すかは、その両方を動かす選択になります。

    参考文献・参考資料

    1. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 各論 エネルギー・たんぱく質 1-4 炭水化物 https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316464.pdf(食物繊維の摂取量 p.135、測定法の変更 p.136、便秘と食物繊維 p.137、概要 p.138、炭水化物の基準表 p.143、食物繊維の基準表 p.144)
    2. 足立厚子「金属アレルギーの対処法〜全身型金属アレルギーを中心に〜」アレルギー 2020;69(3):169-173. https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/69/3/69_169/_pdf

    本記事は公的な基準の整理であり、個別の診断・治療・栄養指導に代わるものではありません。特定の食品・製品・食事法の効果を示すものでも、実施を勧めるものでもありません。必要量には個人差があり、記載の数値がそのまま当てはまるとは限りません。糖尿病などで食事療法を受けている方は、量が個別に決められています。この記事の範囲の外です。

  • たんぱく質を、どこまで増やす意味があるか

    たんぱく質を、どこまで増やす意味があるか

    たんぱく質に、耐容上限量は設定されていません。健康な人で腎機能を悪くすると言える報告が足りない、というのがその理由です。

    同じ報告書が、逆のことも書いています。1.6 g/kg体重/日を超えて摂っても、除脂肪量はそれ以上増えない可能性が高い。

    「飲みすぎると腎臓に悪い」も「多いほどいい」も、日本の公的な基準のなかでは根拠が乏しいとされていました。

    必要量には、具体的な数字がある

    『日本人の食事摂取基準(2025年版)』は、たんぱく質の推奨量を年齢と性別ごとに示しています1。

    たんぱく質の推奨量と目標量(g/日、%エネルギー)
    年齢 推奨量 男性 推奨量 女性 目標量(男女共通)
    18〜49歳 65g 50g 13〜20%エネルギー
    50〜64歳 65g 50g 14〜20%エネルギー
    65歳以上 60g 50g 15〜20%エネルギー

    この数字の出どころは、たんぱく質維持必要量 0.66 g/kg体重/日です。15〜84歳を対象にした28研究・計348人のメタ・アナリシスで得られた値で、95%信頼区間は0.64〜0.68。性差も、若年・中年と高齢者の差も認められませんでした1。

    推奨量は、ここに参照体重と個人差の係数を掛けて出しています。

    日本人の平均は、すでに推奨量を上回っている

    では、実際にどれくらい食べているのか。令和5年(2023年)の国民健康・栄養調査では、20歳以上の1日あたり平均摂取量は男性77.7g、女性65.7gでした2。

    たんぱく質の推奨量と実際の摂取量。男性は推奨量65gに対し摂取量77.7g、女性は推奨量50gに対し65.7g
    20歳以上の1人1日あたり平均摂取量と、18〜64歳の推奨量21。80歳以上でも男女計67.1gで、推奨量を下回ってはいません。

    もちろんこれは平均です。平均に一致する人がどれだけいるかは別の話で、少ない人はいます。ただ、「日本人全体としてたんぱく質が不足している」と言える状況ではありません。

    上限が設定されていない理由

    ここが、この記事でいちばん重要な部分です。

    食事摂取基準は、栄養素ごとに「これ以上は健康被害のリスクが上がる」という耐容上限量を定めます。たんぱく質には、どの年齢区分にも設定されていません1。

    報告書は、その検討過程をそのまま書いています。もっとも関連が深いと考えられたのは腎機能への影響でした。そこで調べた結果が、次の3つです1。

    健康な人での、たんぱく質摂取と腎機能に関する報告
    研究 結果
    健康な人で摂取量を変えて腎機能を検討した試験のシステマティック・レビュー 35%エネルギー未満であれば腎機能を低下させることはないだろうと結論
    20%エネルギー以上(1.5 g/kg体重/日以上または100 g/日以上)の高たんぱく質摂取が糸球体濾過率に与える影響のメタ・アナリシス 通常または低たんぱく質摂取と比べて有意な違いは観察されなかった
    たんぱく質摂取量と腎疾患リスクをまとめた2023年のアンブレラレビュー 観察期間が短いなどの課題は残るが、発症リスクを高めるという結論には至らなかった

    これらを踏まえて、報告書はこう書いています。「現時点でたんぱく質の耐容上限量を設定し得る十分かつ明確な根拠となる報告はない」1。

    読み違えやすいところなので分けておきます。上限が設定されていないことは、「いくらでも大丈夫」という意味ではありません。調べた範囲では健康な人の腎機能を悪くすると言える結果が出ていない、というところまでです。

    そして、これは健康な人の話です。慢性腎臓病(CKD)では、腎臓の保護を目的にたんぱく質摂取量の制限が食事療法の主眼に置かれています1。すでに腎機能を指摘されている人は、この記事の範囲の外にいます。

    ただし、「多いほどいい」の根拠もない

    同じ報告書が、逆の方向についても書いています。

    レジスタンストレーニング期にある成人を対象に、たんぱく質の除脂肪量への効果を検証した研究のメタ・アナリシス。そこでは、1.6 g/kg体重/日以上摂取しても、除脂肪量の増大への効果は得られない可能性が高いと報告されています1。

    体重あたりのたんぱく質量。維持必要量0.66、推奨量約1.1、高齢者で検討された1.2、筋量の頭打ち1.6 g/kg体重/日
    報告書に出てくる体重あたりの量を並べたもの1。推奨量は体重60kgの成人男性(65g/日)を目安に換算した値です。

    さらに、推奨量以上の摂取によって他の健康指標に有益な影響が得られるという根拠も乏しいとされています。報告書は、「上限のないたんぱく質の摂取が健康増進に有益な効果をもたらすわけではない点には注意が必要である」と明記しました1。

    血圧との関連も、骨密度との関連も、レビューの結果は一貫しておらず十分な結論は出ていません1。

    例外は、65歳以上

    年齢によって、話の向きが変わります。

    2025年版では、65歳以上の目標量の下限が15%エネルギーに引き上げられています(1〜49歳は13%、50〜64歳は14%)。理由は、フレイルとサルコペニアの発症予防です1。

    報告書は、高齢者については推奨量の値よりも多め(1.2 g/kg体重/日以上)に摂取するほうが、フレイル及びサルコペニア発症を予防できる可能性があると書いています1。

    根拠のひとつが、70歳以上の高齢男性を対象にした10週間の無作為化比較試験です。0.8 g/kg体重/日を摂る群では四肢の筋量が減少し、その2倍の1.6 g/kg体重/日を摂る群では維持されました1。

    若年成人でも、エネルギー摂取量を増やしたうえで比べた試験で、0.68 g/kg体重/日の群は除脂肪量が減り、1.8 g/kg体重/日の群は増えたと報告されています1。

    つまり、「生きるのに足りる量」と「筋量を保つ量」は別の数字だということです。推奨量は前者を満たすための値でした。

    目標量の上限、20%エネルギーの意味

    耐容上限量はありませんが、目標量には上限があります。1歳以上の全年齢区分で20%エネルギーです1。

    報告書は、この線を引いた理由も書いています。20〜23%エネルギー前後の摂取について、成人では各種の代謝変化への影響が、高齢者では腎機能に好ましくない影響が、検証すべき課題として残されているとシステマティック・レビューが結論づけているためです。そのうえで「十分な科学的根拠はまだ得られていないものの」と添えられています1。

    目標量のエビデンスレベルはD2とされています1。根拠の強さを示す記号で、基準の中でも確実性が高いほうではありません。

    参考までに、日本人20歳以上の実際のたんぱく質エネルギー比率は、調査の脂質・炭水化物の比率から逆算すると約15%になります2。目標量の範囲のなかにあります。

    自分がどこにいるか

    整理すると、数字はこう並びます。

    足りているかどうか。日本人の平均は推奨量を超えています。まず、自分が平均から大きく外れていないかを見ます。栄養素には血液で確かめられるものと、食べている量から見るものがあり、たんぱく質は後者です。

    増やす理由があるかどうか。筋量を保ちたい、あるいは65歳以上である。この場合は、推奨量より多い側に理由があります。

    どこで止まるか。筋量については1.6 g/kg体重/日。それ以上の効果は確かめられていません。

    もう1つ、筋肉とは別の使い道があります。体が異物を処理して外へ出すとき、第II相でくっつける材料はアミノ酸から作られます。グリシン、タウリン、グルタミン酸、そして硫酸は含硫アミノ酸から。解毒の材料は、特別な物質ではなくアミノ酸と糖です。

    ただし、ここから「たんぱく質を増やせば処理が速くなる」とは言えません。足りていない状態から足したときと、足りている状態から足したときでは、起きることが違います。そして日本人の平均は、すでに推奨量を超えています。

    「たんぱく質は多いほどいい」も「たんぱく質は腎臓に悪い」も、同じ報告書のなかで根拠が乏しいとされていました。足すかどうかは、その前に自分の目的を決めてからになります。

    参考文献・参考資料

    1. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 各論 エネルギー・たんぱく質 1-2 たんぱく質 https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316462.pdf(維持必要量 p.87、耐容上限量 p.93、推奨量以上の摂取 p.94、高齢者とフレイル pp.94-95、目標量 pp.95-96、CKD p.96、概要 p.97、基準表 p.103)
    2. 厚生労働省「令和5年 国民健康・栄養調査結果の概要」栄養素等摂取量(表3・表4) https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001338334.pdf

    本記事は公的な基準と統計の整理であり、個別の診断・治療・栄養指導に代わるものではありません。特定の食品・サプリメント・製品の効果を示すものでも、使用を勧めるものでもありません。必要量には個人差があり、記載の数値がそのまま当てはまるとは限りません。

  • 「代謝が落ちた」と感じたとき、何を確かめるか

    「代謝が落ちた」と感じたとき、何を確かめるか

    二重標識水法で実際に測ったデータでは、20歳から60歳のあいだ、代謝は落ちていませんでした。体組成で調整した総エネルギー消費量は、この40年間ほぼ一定です。

    下がり始めるのは60歳以降でした。「30代から代謝が落ちる」という説明とは、正面からぶつかります。

    では、体重が増えたことや、疲れやすくなったことは何だったのか。「落ちた」と感じるものの正体と、代わりに何を確かめられるのかを順にたどります。

    年齢で一直線に落ちる、とは言えない

    代謝は年齢とともに下がり続ける。長くそう考えられてきました。

    2021年、生後8日から95歳までのデータを集めた解析が報告されました。結果は、その形をしていませんでした2。

    除脂肪量で調整したエネルギー消費量は、20歳から60歳まで安定していた
    脂肪を除いた体重(除脂肪量)あたりで比べたものです。1歳ごろに成人の約50%高い水準まで上がり、20歳ごろに成人の値へ下がる。そこから60歳までは安定し、低下が始まるのはそのあとでした。妊娠中も例外ではありませんでした2。

    成人期のあいだ、下がっていませんでした。下がり始めるのは60歳を過ぎてからです。

    日本の『食事摂取基準(2025年版)』にも、近い数字が載っています。同じ測定法を使った世界139の研究では、20〜70歳の範囲は、ほぼ全てが体重1kgあたり30〜40 kcal/日に収まっていました1。年齢が上がるほど下がる、という並びにはなっていません。

    では、なぜ「落ちた」と感じるのか

    感覚は外れていません。体重あたりで見ると、実際に少しずつ下がります。

    基礎代謝基準値(kcal/kg 体重/日)。日本人の実測データから求められたもの1
    年齢 男性 女性
    18〜29歳 23.7 22.1
    30〜49歳 22.5 21.9
    50〜64歳 21.8 20.7
    65〜74歳 21.6 20.7
    75歳以上 21.5 20.7

    ただし、18〜29歳と50〜64歳の差は男性で約8%です。体重60kgなら、1日あたり110kcalほど。おにぎり半分くらいの差で、体型が大きく変わることの説明にはなりません。

    そして、この8%の原因も年齢ではありません。この表は体重あたりの数字で、さきほどの解析は脂肪を除いた体重あたりでした。同じ体重でも脂肪の割合が増えれば、体重あたりの数字は下がります。

    つまり、下がって見える分のかなりは、体の組成が変わったことで説明されます。年齢は変えられませんが、こちらは変えられます。

    体組成計の「基礎代謝」は、測った値ではありません

    体組成計や健康アプリが基礎代謝量を表示します。あれは実測値ではなく、身長・体重・年齢・性別などから計算した推定値です。

    しかも計算式は一つではありません。食事摂取基準は主なものとして4つの式を挙げています1。式が違えば、同じ人でも出てくる値が変わります。

    去年より数字が下がっていても、体重や体脂肪率の入力が変わっただけのことがあります。1回の値ではなく、動き方で見るという考え方は、ここでも同じです。

    「食べていないのに太る」と感じるとき

    代謝の話とセットで出てくるのが、この訴えです。ここには、繰り返し確かめられた答えがあります。

    食事の記録は、実際より少なく出ます。食事調査で得られた摂取量と、実測した消費量を突き合わせた100の研究では、ほとんどで申告のほうが下回っていました。そしてBMIが大きいほど、その差が大きくなる傾向がありました1。

    嘘の申告ではありません。記録が難しいだけです。

    習慣的なエネルギー摂取量を±5%以内で知るために必要な調査日数は52〜69日
    日本人成人を対象とした研究の報告です。摂取量が2,000 kcal/日の人なら、1,900〜2,100 kcal/日の範囲に観察値の95%信頼区間を収めるために、これだけの日数が必要でした1。

    報告書は、摂取量と消費量は測り方がまったく違うため両者を比較する意味は乏しいとも書いています1。アプリの摂取カロリーから時計の消費カロリーを引いても、そこから分かることは限られます。

    かわりに挙げられているのが、体重とBMIの変化を見ることです1。摂取と消費の差は、最後にそこへ現れます。記録の誤差を積み上げるより、結果の側を測るほうが確かだ、という整理です。記録から自分について何がどこまで分かるのかは、別の記事で整理しました。

    医療で確かめられるのは、甲状腺

    「代謝」という総合点を測る検査はありません。ただし、甲状腺の働きは血液検査で確かめられます。

    甲状腺ホルモンの分泌が低下する病態を、甲状腺機能低下症といいます。日本甲状腺学会の診断ガイドラインは、その臨床所見として無気力、易疲労感、眼瞼浮腫、寒がり、体重増加、動作緩慢、嗜眠、記憶力低下、便秘、嗄声を挙げています。検査所見は遊離T4(FT4)が低値で、TSHが高値であることです3。

    症状のどれかが続いていて心当たりがあるなら、確かめる価値があります。

    ただし、この一覧を読んで「当てはまる」と感じただけでは、判断できません。こうした症状は、そもそも多くの人に当てはまります。決めるのは症状ではなく、検査の値のほうです。

    自分で確認できること

    先に1つ。「代謝の低下による体重増加」という一文は、いろいろな説明に登場します。検査結果の症状一覧にも、広告にも入っています。

    ただ、この記事の冒頭で見たとおり、二重標識水法で実測すると、20歳から60歳のあいだ代謝は落ちていませんでした。実測データと正面からぶつかる説明です。

    そして「代謝」という言葉自体が、エネルギー消費と、物質の作り変えという別の2つを指しています。肝臓が異物を処理して外へ出す反応も「代謝」と呼ばれますが、そちらは体重とは別の話です。同じ言葉で呼ばれているだけで、測っているものが違います。

    「代謝が落ちた」と感じたときに、見られるもの
    状況
    年齢 脂肪を除いた体重あたりで見ると、20〜60歳は安定していた
    体の組成(筋肉など) 体重あたりの数字が下がる主な理由。食事と運動で動く
    活動量 消費量のうち、日ごとに最も変わる部分
    食事 記録は実際より少なく出る。体重の変化のほうが確か
    甲状腺 TSH・FT4 で確かめられる
    体組成計の「基礎代謝」 推定値。式によって変わる

    年齢は変えられませんが、上の4つは記録できます。そして「代謝を上げる」という言い方で語られるものには、「免疫力を上げる」と同じ問題があります。上がったかどうかを何で判定するのかが決まっていないため、効くとも効かないとも言えません。

    体重が意図せず減っている、または短期間に大きく増えた。強い倦怠感が続いている。極端に寒がりになった、または暑がりになった。脈が速い、または遅い。これらは生活の工夫で動く範囲にありません。そして、上に書いたTSHとFT4で確かめられる側でもあります。

    年齢のせいにする前に

    「代謝が落ちたから」は、便利な説明です。原因がはっきりして、しかも自分では変えられないことになるので、そこで話が終わります。

    ただ、測られた結果はそこまで単純ではありませんでした。20歳から60歳まで、脂肪を除いた体重あたりで見た消費量は安定していた。変わったのは、体の組成と、活動量と、食事のほうです。

    40代・50代であれば、更年期のほうも同じ症状で重なります。どちらも、確かめる順番は決まっています。そして甲状腺は、血液検査で実際に確かめられます。検査が答えている問いはいつも狭いとしても、答えられる問いには答えが出ます。

    参考文献・参考資料

    1. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 各論 エネルギー(pp.53、63-66) https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316461.pdf
    2. Pontzer H, Yamada Y, Sagayama H, et al. Daily energy expenditure through the human life course. Science. 2021;373(6556):808-812. doi:10.1126/science.abe5017 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34385400/
    3. 日本甲状腺学会「甲状腺疾患診断ガイドライン2024」甲状腺機能低下症の診断ガイドライン(2024年11月21日改定) https://www.japanthyroid.jp/doctor/guideline/japanese.html

    本記事は公的な基準と研究状況の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の食品・サプリメント・機器の効果を示すものでも、使用を勧めるものでもありません。甲状腺疾患の診断と治療は医師の判断によります。

  • 食品添加物が心配なとき、何を見れば位置が分かるか

    食品添加物が心配なとき、何を見れば位置が分かるか

    日本では、添加物ごとに一日摂取許容量(ADI)が決まっていて、実際に日本人がどれだけ摂っているかも毎年調べられています。その結果は公開されています。

    「避けたほうがいい」かどうかを決める前に、自分が実際にどのあたりにいるかを見られる、ということです。推測で避ける必要はありません。

    ADIは、100で割って作られている

    同じ考え方で測られているものが、ほかにもあります。残留農薬は対ADI比で最大2.954%、カドミウムは耐容量に対して平均35%・95パーセンタイルで67%でした。並べると、距離が違います。

    日本では、添加物の安全性評価を内閣府の食品安全委員会が行います。動物を用いた毒性試験の結果をもとに、一日摂取許容量(ADI)が添加物ごとに設定されます1。

    ADIの作り方は、意外に単純です。

    動物実験で害の出なかった量を安全係数100で割って一日摂取許容量が決まる
    食品安全委員会の説明によれば、毒性試験から導き出される無毒性量を、安全係数100で割ってADIを算出します2。動物と人の違い、人どうしの個人差を見込んだ係数です。

    そのうえで厚生労働省が、薬事・食品衛生審議会で審議し、食品ごとの使用量と使用の基準を設定します1。ADIは目標ではなく、超えないようにする側の線です。

    実際に、どれだけ摂っているか

    基準を決めるだけでは、実際にどれだけ摂っているかは分かりません。そこで、摂取量の調査が継続して行われています。

    方法はマーケットバスケット方式と呼ばれます。スーパー等で200〜300種類の食品を実際に購入し、食品群ごとに混ぜて分析し、それに食品摂取量の調査データを掛け合わせて一日の摂取量を推定します1。表示ではなく、買ってきた食品の実測から積み上げる形です。

    推定された一日摂取量がADIに対して占める割合。最も高いトコフェロールで17.2%、リン化合物6.7%、プロピレングリコール1.1%
    2006〜2008年度の推定。ADIに対する割合が最も高かったのはトコフェロールで17.2%、リン化合物は6.7%(MTDIに対して)、プロピレングリコールは1.1%でした3。

    17.2%という数字の受け取り方には、少し注意がいります。ADI自体が無毒性量を100で割った値なので、ADIの17.2%は、動物実験で害の出なかった量の約580分の1にあたります。

    「複数を同時に摂ったら」はどうなのか

    ここは、当然出てくる問いです。ADIは物質ごとに設定されます。では、いくつも同時に摂ったときはどうなるのか。

    この点も検討されています。食品安全委員会の2006年度の調査報告は、複数の添加物を同時に摂ったときの影響について、実際に問題となる可能性は極めて低く、理論的な可能性の推定にとどまるとしたうえで、こう結論しています2。

    個々の食品添加物の評価を十分に行うことで、食品添加物の複合影響についても実質的な安全性を十分確保することが可能

    理由として挙げられているのは、医薬品との違いです。医薬品は体に作用を及ぼすことを目的としているため相互作用が問題になりますが、添加物はそもそも体に作用させることを目的としておらず、かつ使用基準の範囲内でしか使われないため、複合摂取時の相互作用は現れにくいとされています2。

    ただし、相互作用の実例はあります。清涼飲料水で、アスコルビン酸と安息香酸ナトリウムが反応してベンゼンが生じた例が知られています。現在の摂取レベルでのリスクは非常に低いと評価されていますが、「何も起きない」ではなく「調べたうえで、問題になる水準ではないと判断されている」ということです2。

    「添加物を減らす」が、実際に意味していること

    添加物を減らそうとすると、実際に減るのは加工食品の割合です。そして加工食品の割合が下がると、添加物以外のものも同時に動きます。食塩、脂質、糖、食物繊維。

    体調に変化があったとして、それが添加物によるものなのか、食塩や食物繊維によるものなのかは、この方法では分けられません。一度に一つだけ変えるという原則が、ここでも効いてきます。

    つまり「添加物を避ける」という言い方は、実際には食事全体の構成を変えることを指しています。目的が食事の質なら、そちらを直接見るほうが早く進みます。

    「E621」は、EUの番号である

    検査結果や輸入食品の表示に、E621、E102、E250といった記号が並ぶことがあります。これはEUの食品添加物番号です。

    EU規則1333/2008に基づき、欧州食品安全機関(EFSA)の評価を経て承認された添加物に付されます4。Eは「Europe」です。日本の表示制度には存在しない記号なので、そのままでは意味が取れません。

    最初の数字が、用途を表しています。

    E番号の範囲と用途
    範囲 用途 例
    E100番台 着色料 E102(黄色4号)、E123(赤色2号)、E124(赤色102号)、E127(赤色3号)
    E200番台 保存料・酸化防止剤・発色剤 E220(二酸化硫黄)、E249(亜硝酸カリウム)、E250(亜硝酸ナトリウム)、E251(硝酸ナトリウム)
    E500番台 pH調整剤・固結防止剤 E535(フェロシアン化ナトリウム)
    E600番台 調味料・うま味 E621(グルタミン酸ナトリウム)、E627(グアニル酸ナトリウム)、E640(グリシン)

    日本語の表示に直すと、見え方が変わります。E621は「調味料(アミノ酸等)」、E102は「着色料(黄4)」、E250は「発色剤(亜硝酸Na)」。日本の食品表示で毎日見ている名前です。

    なお、日本で実際に使用基準が動いた例もあります。ミョウバン(硫酸アルミニウムカリウム等)は、小児の上位層で上限を超えていたことが調査で分かり、2018年に菓子・生菓子・パンへ1kgあたり0.1g以下の基準が新設されました。

    つまりE番号が並んでいても、特別な物質が並んでいるわけではありません。普段見ている表示を、別の記号で書いたものです。そして前の節で見たとおり、日本ではこれらの摂取量が毎年推定されていて、一日摂取許容量に対する割合が最も高かったもので17.2%でした。

    検査結果に添加物の名前が出た場合

    まず、これは中毒の診断ではありません。そして、体内の添加物の量を測る一般的な臨床検査は存在しません。鉛や水銀のように、入口を1つに絞れるという構造にもなっていません。

    用途ごとの数字もあります。甘味料7種の対ADI比は0.002〜0.25%でした。

    表示の読み方には、決まった手順があります。原材料名欄の「/」の右側が添加物で、重量の多い順に並んでいます。ただし一括名で書かれるものの中身と、加工助剤・キャリーオーバーは表示されません。

    できるのは、何がどれだけ入っているかを見ることです。加工食品を食べる頻度、飲料の種類、間食の内容。記録すれば分かることであって、検査を追加しなくても手がつけられます。

    そして、結果に添えられた症状の一覧を見て、当てはまると感じたときは、その症状がそもそもどれくらいありふれているかを先に確かめてください。

    調べられていることと、いないこと

    この記事で確かめたのは、次の3つです。

    食品添加物について、調べられていること
    状況
    個別の安全性 物質ごとにADIが設定されている(無毒性量÷100)
    実際の摂取量 継続して推定されている。最も高いものでADIの17.2%
    複合影響 検討され、個別評価で実質的な安全性は確保できるとされている
    体内の量を測る検査 一般の臨床検査には存在しない

    避けるかどうかは、最終的にはその人が決めることです。ただ、「調べられていない」と「調べたうえで問題になる水準ではないとされている」は別のものです。この区別は、健康情報を読むときにくり返し出てきます。

    参考文献・参考資料

    1. 厚生労働省「食品添加物 よくある質問(消費者向け)」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuten/qa_shohisya.html
    2. 内閣府食品安全委員会「添加物に関する質問に川西徹委員がお答えします」 https://www.fsc.go.jp/foodsafetyinfo_map/tenkabutsu_anzen.html 引用元:食品安全委員会「平成18年度食品安全確保総合調査 食品添加物の複合影響に関する情報収集調査 報告書」平成19年3月
    3. 河﨑裕美, 高木繁行, 大西有希子ほか. マーケットバスケット方式による食品添加物の一日摂取量の推定(2006-2008年度). 日本食品化学学会誌. 2011;18(3):150-162. doi:10.18891/jjfcs.18.3_150 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjfcs/18/3/18_KJ00007729478/_article/-char/ja/
    4. Regulation (EC) No 1333/2008 on food additives(EU 食品添加物規則)。EUで評価・承認された添加物に付される番号体系 https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2008/1333/oj/eng

    本記事は日本の制度と調査結果の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の食品・製品の推奨や否定を目的とするものでもありません。食物アレルギーや特定の成分で症状が出る場合は、この記事の一般的な整理は当てはまりません。

  • 「体にいい」表示を、棚の前で読み分ける

    「体にいい」表示を、棚の前で読み分ける

    機能性表示食品は、その商品を人で試していなくても表示できます。含まれる成分について過去に行われた研究をまとめれば、届け出られるからです。

    そして消費者庁は「トクホと異なり、国が審査を行いません」と明記しています。同じ棚に並んでいても、裏にあるものが違います。その違いは、パッケージのどこかに書いてあります。

    ただし書き方が制度ごとに違い、しかも2026年9月に表示ルールの経過措置が終わったばかりで、店頭には新旧のパッケージが混在しています。

    まず、3つしかない

    食品に健康に関する機能を表示できるのは、保健機能食品と呼ばれる3種類だけです。それ以外の食品に「特定の保健の目的が期待できる」と書くことは、食品表示基準第9条で禁じられています1。

    「国が審査していない」は、パッケージに書いてある

    機能性表示食品について、消費者庁はこう説明しています。事業者が科学的根拠などを販売前に届け出れば機能性を表示できる制度であり、「特定保健用食品(トクホ)と異なり、国が審査を行いませんので、事業者は自らの責任において、科学的根拠を基に適正な表示を行う必要があります」3。

    そしてこの趣旨は、パッケージへの記載が義務づけられています。食品表示基準が定める現行の文言はこうです1。

    本品は、特定保健用食品と異なり、機能性及び安全性について国による評価を受けたものではありません。届け出られた科学的根拠等の情報は消費者庁のウェブサイトで確認できます。

    トクホとの違いは、消費者庁自身が1分の動画にまとめています。


    この文言は改正されたもので、経過措置が終わって完全に適用されたのは2026年9月1日です4。それ以前の表示は「消費者庁長官による個別審査を受けたものではありません」という書き方でした。いま店頭にある商品には、両方が混在しています。

    なお「個別審査を受けたものではありません」という文言は、現在は栄養機能食品の表示として残っています1。同じ言い回しが別の制度を指すことになったので、ここは混同しやすいところです。

    届出の根拠は、その商品の試験とは限らない

    ここが、読み解きの実務で最も効く点です。

    消費者庁の「機能性表示食品の届出等に関する手引き」によれば、機能性の根拠として認められるのは、その商品を人で試した臨床試験だけではありません。過去の研究を決められた手順で集めて総合する方法も認められています。システマティックレビューと呼ばれるもので、しかも対象は「その商品について」と「含まれている成分について」の二通りが認められています5。

    3つ目は、その商品を人で試していなくても届け出られるということです。含まれる成分について過去に行われた研究をまとめれば足ります。

    実際の内訳が調べられています6。

    機能性表示食品の根拠の内訳。システマティックレビュー87%、メタ解析10%、臨床試験3%。さらにそのレビューの39%は組み入れ論文が1本だけ
    2022年4〜8月の届出398製品・611の機能性表示を分析したもの6。制度はその後改正され、2025年4月からは、研究の集め方を国際的な手順に沿って報告することが求められています。

    システマティックレビューは本来、研究の中でも確実性の高い位置にあります。ただしそれは、集めた研究が十分にあり、方法が適切であることが前提です。組み入れ論文が1本のレビューは、実質的にその1本の研究と同じ重みしか持ちません。

    なお、これは2022年時点のデータです。制度はその後改正され、2025年4月からは、研究の集め方と選び方を国際的な手順に沿って報告することが求められるようになりました7。

    「国が認めた」と書いてあったら、それは違反である

    制度が禁じている表現も、はっきりしています。

    食品表示基準第9条は、機能性表示食品について「疾病の治療効果又は予防効果を標榜する用語」と「消費者庁長官の評価、許可等を受けたものと誤認させるような用語」の表示を禁じています1。

    そして実際に、これを理由とする処分があります。2023年11月、消費者庁はある機能性表示食品について景品表示法に基づく措置命令を出しました。認定された不当表示には、効果の裏づけ不足に加えて、次のものが含まれています8。

    「消費者庁が認定した機能性表示食品です。」
    「国が痩せると認めたサプリ」

    命令書には「実際には、消費者庁又は国が本件商品に……効果が得られることについて、認めた事実はない」と記されています8。

    消費者庁自身も、この件を代表例として「公表されている届出内容を超えた広告を鵜呑みにしないよう御注意いただきますようお願いします」と注意喚起しています3。

    根拠がひとつ崩れると、88件が連鎖した

    届出制がどう機能するかを示した出来事があります。

    2023年6月、別の事業者の機能性表示食品2商品に措置命令が出されました。消費者庁は表示の裏づけとなる資料の提出を求めましたが、提出された資料は合理的な根拠を示すものとは認められませんでした9。

    注目すべきはその後です。消費者庁は、この2商品と同一成分で科学的根拠が同一だった他の88件の届出について、疑義を指摘し回答を求めました。結果は、科学的根拠があると主張したもの0件、撤回の申出88件でした3。

    ひとつの根拠が多数の商品で共有されていた、ということでもあります。パッケージが違っても、後ろにある研究が同じことはありえます。

    制度は「一つの成分に、一つの機能」しか扱えない

    ここまでの話には、前提として置かれている構造があります。

    届出には機能性関与成分を特定できることが必要で、表示できるのは「特定の保健の目的」です。この制度に載せるには、あらかじめ「どの成分が、どの指標に、どう働くか」の形に整理されていなければなりません。

    これは制度の欠陥ではありません。検証可能にするには、そう切り分けるほかないからです。

    ただし、読む側にとっては意味があります。表示されているのは、その成分がその指標に対して示した結果であって、その人の体調全体についての主張ではありません。「脂肪の吸収を抑える」は、脂肪の吸収という一点についての届出であり、体重や体調がどうなるかは別の話です。

    体調は多くの場合、食事・睡眠・活動量・ストレス・服薬などが同時に関わって動きます。制度上表示できる形になった時点で、その複数性は落とされています。だから表示を読むときは、何が測られたのかと、自分が変えたいことが同じかどうかを分けて見ることになります。

    棚の前で、確かめられること

    先に1つ。「無添加」を根拠にした健康や安全の主張は、書けなくなりました。2022年のガイドラインが、不使用表示を健康・安全と関連付ける表示を類型の1つに挙げています。理由は「事業者が独自に健康及び安全について科学的な検証を行い、それらの用語と関連付けることは困難」だからです。

    ここまでを踏まえると、確認できることは絞られます。

    表示から読み取れること
    見る場所 分かること
    「機能性表示食品」「特定保健用食品」「栄養機能食品」の別 国が審査したのか、事業者が届け出たのか
    届出番号 消費者庁のデータベースで根拠を辿れる
    届出情報の「機能性の科学的根拠」欄 臨床試験か、システマティックレビューか。後者なら何本の論文を組み入れたか
    表示されている機能性の文言 届出された範囲を超えた広告になっていないか

    届出情報は消費者庁のサイトで誰でも検索できます。組み入れられた論文の本数まで書かれています。

    そのうえで実際に足すかどうかを決めるなら、その前に片づく問いがいくつかあります。

    「根拠がある」の中身が、制度ごとに違う

    最後に、制度の外側があることを書いておきます。

    「デトックス」「解毒」「毒素を出す」という表示には、機能性表示食品のような届出制度が対応していません。何という物質が、どれだけ減ったのかを示さないため、そもそも届出の形式に乗りません。

    2015年の総説は、市販のデトックス食について「これを支持する臨床的な根拠はきわめて乏しい」とし、有効性を評価した無作為化比較試験は行われていないと書いています。

    棚の前で確かめられることは、ここでも同じです。何が、どれだけ変わると書いてあるか。物質名も数字もないとき、それは根拠の水準が低いのではなく、確かめようがないということです。

    一方で、体が不要なものを外へ出す経路そのものは、生理学の教科書に物質名まで書かれています。仕組みが実在することと、ある商品がその仕組みを高めることは、別の主張です。

    この制度は、機能性の表示を可能にすると同時に、その根拠を公開させる仕組みでもあります。パッケージの一文だけを見ると差が見えませんが、後ろにあるものは大きく違います。

    国が個別に審査したのか。事業者が届け出たのか。届け出たとして、その商品を人で試したのか、成分についての過去の研究をまとめたのか。まとめたとして、何本あったのか。

    「根拠がある」は、ここまで分解できます。分解しないまま受け取ると、根拠の強さの差が消えます。

    参考文献・参考資料

    1. 食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)第9条ほか。e-Gov法令検索
    2. 消費者庁 食品表示課「機能性表示食品の今後について」令和6年9月(数値は令和6年8月2日時点) PDF
    3. 消費者庁「機能性表示食品について」 https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_function_claims/
    4. 消費者庁「食品表示基準の一部改正の施行に関するタイムスケジュール」(公布 令和6年8月23日/施行 令和7年4月1日/適用 令和8年9月1日) PDF
    5. 消費者庁「機能性表示食品の届出等に関する手引き」(制定 令和7年3月25日 消食表第273号/一部改正 令和7年10月1日 消食表第711号) PDF
    6. 鈴木郁功, 千葉 剛, 吉松嘉代, 竹林 純. 機能性表示食品の届出情報における機能性の科学的根拠に関する調査. 食品衛生学雑誌. 2024;65(2):31-39. doi:10.3358/shokueishi.65.31 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38658345/
    7. 消費者庁「機能性表示食品の届出情報検索」(令和7年4月1日からPRISMA声明2020準拠) https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_function_claims/search/
    8. 消費者庁「株式会社アリュールに対する景品表示法に基づく措置命令について」令和5年12月5日公表 https://www.caa.go.jp/notice/entry/035547/index.html
    9. 消費者庁「さくらフォレスト株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令について」令和5年6月30日 https://www.caa.go.jp/notice/entry/033865/

    本記事は表示制度と公表情報の整理であり、特定の商品の評価や推奨を目的としたものではありません。また、疾病の診断・治療・予防に関する情報を提供するものでもありません。制度は改正されることがあるため、最新の内容は消費者庁の公表資料をご確認ください。

  • サプリを買う前に、片づけておきたい問い

    サプリを買う前に、片づけておきたい問い

    「どれにするか」から始めると、選択肢は無数にあって決まりません。「足りていないのか」から始めると、多くの場合、候補は数個に絞られます。

    そして栄養素によって、足りているかの確かめ方が違います。血液の数値で線が引けるもの、食べている量から見るもの、尿から推定するもの。順番は、確かめ方を選ぶところからです。

    1. そもそも足りていないのか

    サプリメントは、足りないものを補うための手段です。だとすれば、最初の問いは「自分に足りていないのか」になります。

    日本の状況は、公的な調査で数字が出ています12。

    20〜40代女性のカルシウム・鉄・ビタミンDの摂取量が、いずれも食事摂取基準の推奨量/目安量を下回っていることを示す棒グラフ
    20〜40代女性の1日あたり摂取量と、食事摂取基準2025年版が示す量12。調査と基準で年齢区分が異なり、ビタミンDは推奨量ではなく目安量です。

    ただし、ここには注意がいります。この調査は1日の食事記録に基づいています1。

    足りているかどうかは、栄養素によって事情が違います。骨から補われて値が動かないものもあり、体の中での使われ方も栄養素ごとに分かれます。順番の2番目が効いてくるのは、ここです。

    鉄については、フェリチンは炎症で上がるため、一点の数値だけでは読めません。

    2. 足りている人が足したら、どうなるのか

    ここが、順番として2番目に来る理由になります。

    欠乏のない成人を対象にした試験を集めた系統的レビュー(84研究、739,803人)は、ビタミン・ミネラルの補充について「がん・心血管疾患・死亡の予防に、ほとんどまたはまったく利益がない」と結論しています3。

    「効果がない」と言い切っているのではありません。βカロテンとビタミンEについては推奨しないとし、マルチビタミンについては判断できるだけの材料がないとしています。この二つは違います。「エビデンスがない」が意味することの整理は、ここでそのまま効いてきます。

    3. 増やすと不利になる場合がある

    足りている人が足すことの問題は、「無駄になる」だけではありません。

    フィンランドで行われたATBC試験は、50〜69歳の男性喫煙者29,133人にβカロテンを投与しました。想定は肺がんの予防です。結果は逆で、βカロテン群では肺がんの罹患が18%(95%信頼区間 3〜36%)多くなりました4。

    米国のCARET試験も同じ方向を示し、予定より21か月早く中止されています5。

    高用量のビタミンEについては、35,533人を対象にした試験で、前立腺がんが17%多く起きたと報告されました6。対象は健康な男性です。

    いずれも特定の集団・特定の用量での結果であり、すべてのサプリメントに一般化できるものではありません。ただ、「体にいいものだから多いほどいい」という前提が成り立たないことは示しています。

    4. 日本の基準も、同じことを書いている

    この点について、厚生労働省の食事摂取基準2025年版に、かなり踏み込んだ記述があります。

    貧血でない妊婦・授乳婦についても、鉄サプリメントの利用は控えるべきだと書かれています7。

    逆に言えば、鉄欠乏や鉄欠乏性貧血がある場合の補給は必要であり、それは医師の指示に従って行うもの、という整理になります。不足しているかどうかで、答えが正反対になります。だから1番目の問いが最初に来ます。

    5. いま飲んでいる薬はあるか

    ここは順番というより、該当する人には最優先の確認事項です。

    2000年、厚生省はセント・ジョーンズ・ワート(セイヨウオトギリソウ)と医薬品の相互作用について報道発表を行っています。薬物代謝酵素であるチトクロームP450、特にCYP3A4とCYP1A2が誘導されることが理由です8。

    報告された影響は具体的で、抗HIV薬インジナビルの血中濃度の指標が平均43%低下、強心薬ジゴキシンが平均25%低下。免疫抑制薬シクロスポリンでは、心移植後の患者で急性拒絶反応が生じた例が報告されています8。

    この発表では、該当する医薬品として28成分が挙げられ、添付文書の改訂が指示されました。ワルファリン、経口避妊薬、抗てんかん薬、抗不整脈薬などが含まれます8。

    薬を服用中の方は、サプリメントを追加する前に処方医または薬剤師にご確認ください。また、すでに併用している場合、自己判断で急にやめることにも注意が必要とされています。

    6. 順番に並べると、こうなる

    ここまでの順番を並べると、こうなります。

    サプリを足すか迷ったときの、判断の順番
    順 問い 手がかり
    1 薬を飲んでいるか 該当するなら、まず処方医・薬剤師に相談
    2 本当に足りていないのか 1日の食事記録では判定できない。検査値や食習慣の傾向を見る
    3 足りている人で効果は示されているか 栄養素ごとに違う。「不十分」と「推奨しない」を区別する
    4 増やしたときの上限はあるか 耐容上限量が設定されているものと、されていないものがある
    5 何が変わったら、やめると決めるか 始める前に決めておく

    3番目については、パッケージの表示からも辿れます。「体にいい」と書かれているとき、その根拠がどこまで確かめられているかは、制度によって大きく違います。

    5番目が抜けやすいところです。何をもって「効いた」とするかを決めずに始めると、やめる理由も見つからないまま続くことになります。

    期限の置き方には、実例があります。皮膚科が金属制限食を指導するときは「2ヶ月続けて無効であれば速やかに中止する」と決められています。始めるときに、やめる条件を一緒に決めるやり方です。足す側でも、同じ形が使えます。

    そして、栄養素には「不足を埋める」以外の役割もあります。不要なものを処理して外へ出す反応は、材料を消費します。足りなければ滞る。ただしここでも順番は同じで、足りていない状態から足したときと、足りている状態から足したときでは、起きることが違います。「解毒のために足す」も、1番目の問いから外れません。

    そして、判断の材料は「エビデンスがある」という一言の中身によって変わります。同じ「研究で示された」でも、対象が誰で、何と比べて、どれくらいの差だったのかで、意味はまったく違ってきます。

    順番が変わると、迷いの質が変わる

    「どれを選ぶか」から始めると、選択肢は無数にあって決まりません。

    「足りていないものはあるか」から始めると、多くの場合、候補は数個に絞られます。そして「足りていない」と確認できたなら、それは選ぶ根拠になります。確認できなければ、急いで足す理由もありません。

    なお、「免疫力を上げる」という訴求は、この順番に乗りません。「免疫力」という一つの指標が医療にないため、足りているかどうかを確かめる方法がありません。

    公的な基準ですら、鉄については「欠乏でない人が増やしても貧血の予防にはつながらない」と書いています。たんぱく質についても、推奨量以上の摂取で他の健康指標に有益な影響が得られる根拠は乏しいとしています。足すかどうかの前に、足りているかどうか。順番はそちらが先です。

    参考文献・参考資料

    1. 厚生労働省「令和6年国民健康・栄養調査報告」第1部 栄養摂取状況調査の結果 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/r6-houkoku_00001.html
    2. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html
    3. O’Connor EA, Evans CV, Ivlev I, et al. Vitamin and Mineral Supplements for the Primary Prevention of Cardiovascular Disease and Cancer: Updated Evidence Report and Systematic Review for the US Preventive Services Task Force. JAMA. 2022;327(23):2334-2347. doi:10.1001/jama.2021.15650 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35727272/ 勧告文:US Preventive Services Task Force. JAMA. 2022;327(23):2326-2333. doi:10.1001/jama.2022.8970 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35727271/
    4. The Alpha-Tocopherol, Beta Carotene Cancer Prevention Study Group. The effect of vitamin E and beta carotene on the incidence of lung cancer and other cancers in male smokers. New England Journal of Medicine. 1994;330(15):1029-1035. doi:10.1056/NEJM199404143301501 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8127329/
    5. Omenn GS, Goodman GE, Thornquist MD, et al. Effects of a combination of beta carotene and vitamin A on lung cancer and cardiovascular disease. New England Journal of Medicine. 1996;334(18):1150-1155. doi:10.1056/NEJM199605023341802 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8602180/
    6. Klein EA, Thompson IM, Tangen CM, et al. Vitamin E and the risk of prostate cancer: the Selenium and Vitamin E Cancer Prevention Trial (SELECT). JAMA. 2011;306(14):1549-1556. doi:10.1001/jama.2011.1437 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21990298/
    7. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 ミネラル(微量ミネラル)pp.297-298 https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316469.pdf
    8. 厚生省医薬安全局安全対策課・生活衛生局食品保健課「セント・ジョーンズ・ワート(セイヨウオトギリソウ)と医薬品の相互作用について」平成12年5月10日 https://www.mhlw.go.jp/www1/houdou/1205/h0510-1_15.html

    本記事は公的な基準と研究状況の整理であり、個別の診断・治療・栄養指導に代わるものではありません。特定の商品の効果を示すものでもありません。

  • 「合わない食品」を、思い込みで増やさないために

    「合わない食品」を、思い込みで増やさないために

    同じランチを食べて、片方は午後ずっとお腹が張っている。もう片方は何ともない。この差は、体の強さの差ではありません。

    「合わない食べ物」を探すときは、原因を食品の側に求めることになります。ただ、本人にも研究者にも中身が分からない状態で確かめた研究を並べると、話はもう少し込み入っています。

    自覚と、検査結果は一致しない

    自己申告では約20%が食物不耐があると答えたのに対し、二重盲検の食物負荷試験で確認できたのは1.4〜1.8%だったことを示す棒グラフ
    英国の7,500世帯規模の住民調査と、そこから93名が進んだ二重盲検プラセボ対照食物負荷試験1。対象は8食品、1994年の調査です。

    では、どこでずれるのか。それが分かる試験があります。

    「小麦が合わない」の正体を、どう突き止めるか

    この対応関係のずれが、きれいに検証された例があります。

    自分でグルテンが合わないと考えている人たち(セリアック病は除外済み)を対象に、2013年に、本人にも研究者にも中身が分からないようにした試験が行われました。まず低FODMAP食にすると、参加者全員の消化器症状が一貫して改善しています。ところがその後、グルテンを負荷しても、対照のホエイを負荷しても、同じように症状が悪化しました。グルテンに特異的な反応が見られたのは8%だけです2。

    FODMAPは、小腸で吸収されにくく大腸で発酵する糖のまとまりです。小麦、タマネギ、リンゴ、牛乳などに多く含まれます。

    2018年の試験はさらに踏み込んでいます。同じ集団に、グルテン・フルクタン・プラセボを盲検で割り付けたところ、症状が最も強く出たのはフルクタンで、グルテンとプラセボのあいだには差がありませんでした3。

    個人ごとに最も症状が重かった条件の内訳。グルテン13名、フルクタン24名、プラセボ22名を示す棒グラフ
    自己申告のグルテン不耐59名に、グルテン・フルクタン・プラセボを盲検で割り付けた試験3。プラセボで最も症状が重かった人が22名いました。

    「出るかもしれない」という予想が、症状を作る

    この「プラセボでも症状が出る」現象は、ノセボ効果と呼ばれます。

    グルテン負荷を行った二重盲検試験10件(成人1,312名)をまとめた解析では、グルテン不耐を自認する231名のうち、グルテン特異的な症状を示したのは38名(16%)でした。そしてそのうち約40%は、プラセボでも同等かそれ以上の症状を示していました4。

    期待は、実際に症状を生みます。プラセボが「気のせい」で片づかないのと同じです。

    反応が分かれるのは、不調に限りません。食後に眠くなるかどうかも、同じ食事で人によって違うことが観察されています。

    食品ではなく、量の問題であることが多い

    もうひとつ、見落とされやすい軸があります。量です。

    果糖吸収不良を伴う過敏性腸症候群の患者を対象にした無作為化プラセボ対照試験では、果糖・フルクタンの再負荷で症状が誘発され、その出方は用量に依存していました5。

    「合う/合わない」の二択で考えると、少量なら平気だった可能性が見えなくなります。乳糖不耐症で閾値を探るのと同じ考え方が、ここでも使えます。

    では、なぜ人によって違うのか

    ここまでを踏まえると、個人差を生む要素は少なくとも4つあります。

    同じものを食べて反応が分かれる理由
    要素 内容
    量 閾値は人によって違う。同じ食品でも、食べた量で結果が変わる
    消化・吸収の能力 酵素の働きや吸収の効率に個人差がある
    腸内細菌 吸収されなかった糖質を何がどう発酵させるかで、発生するガスが変わる
    感じ方 同じ刺激でも、それをどれくらい強く感じるかに差がある

    4つ目は軽視されやすいのですが、実測されています。不安や過敏性腸症候群に伴う内臓知覚過敏がある人は、消化能力とは独立に、症状が出るリスクが高くなります6。

    原因は、食品の中だけにあるわけではありません。「食べると不調」を一つの現象として扱えない理由は、ここにもあります。

    自分で確かめるときの、最低条件

    研究の設計をそのまま真似することはできませんが、考え方は借りられます。

    一度に一つだけ変える。パンとコーヒーを同時にやめれば、どちらが効いたのか分かりません。

    やめて終わりにせず、戻して再現するかを見る。改善が偶然や体調の波でないことは、この手順で確かめられます。

    ゼロか百かにしない。量を変えて、どこから症状が出るかを見ます。

    そして記録する。何を、どれくらい、いつ食べて、いつ症状が出たか。記憶は都合よく編集されます。

    除去食を試す枠に入らないもの

    体重が意図せず減っている。血便がある。飲み込みにくい。夜間に症状で目が覚める。発熱を伴う。これらは食物不耐の枠に収まりません。除去食で確かめようとすると、原因が別にあるまま時間だけが過ぎます。

    また、複数の食品を長期に除去すると栄養が偏ります。確かめる範囲を広げすぎないほうが、結果として早く終わります。

    処理の速さにも、差がある

    この記事で見てきたのは、量・消化・腸内細菌・感じ方の違いでした。もう1つ、入ったものを処理する酵素の働きにも、遺伝子型による差があります。

    ただし確立しているのは薬とアルコールについてで、食品一般に同じように当てはめられる段階ではありません。

    犯人が一人とは限らない

    候補が何十品目も並んだときは、なおさらです。

    除去を実際に運用している診療科には、期限があります。皮膚科が金属制限食を指導するときは「2ヶ月続けて無効であれば速やかに中止する」と決められています。理由は、制限の対象に必須の栄養素が含まれるからです。

    1品目ずつ、期限を決めて、やめて戻す。候補が多いほど、この形を崩さないほうが早く終わります。全部を一度に外すと、当たっていても外れていても、同じ結果に見えます。

    「あの食品が合わない」という説明は分かりやすい。原因が一つに定まり、対処も決まります。

    けれど盲検下で調べると、量・消化・腸内細菌・感じ方が絡み合っていて、さらに「出るかもしれない」という予想までが症状を作っていました。

    同じものを食べて平気な人がいるのは、その人が丈夫だからではなく、この4つの組み合わせが違うからです。自分の組み合わせを知るほうが、犯人の名前を一つ決めるより役に立ちます。

    参考文献・参考資料

    1. Young E, Stoneham MD, Petruckevitch A, Barton J, Rona R. A population study of food intolerance. The Lancet. 1994;343(8906):1127-1130. doi:10.1016/s0140-6736(94)90234-8 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7910231/
    2. Biesiekierski JR, Peters SL, Newnham ED, Rosella O, Muir JG, Gibson PR. No effects of gluten in patients with self-reported non-celiac gluten sensitivity after dietary reduction of fermentable, poorly absorbed, short-chain carbohydrates. Gastroenterology. 2013;145(2):320-328.e3. doi:10.1053/j.gastro.2013.04.051 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23648697/
    3. Skodje GI, Sarna VK, Minelle IH, et al. Fructan, Rather Than Gluten, Induces Symptoms in Patients With Self-Reported Non-Celiac Gluten Sensitivity. Gastroenterology. 2018;154(3):529-539.e2. doi:10.1053/j.gastro.2017.10.040 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29102613/
    4. Molina-Infante J, Carroccio A. Suspected Nonceliac Gluten Sensitivity Confirmed in Few Patients After Gluten Challenge in Double-Blind, Placebo-Controlled Trials. Clinical Gastroenterology and Hepatology. 2017;15(3):339-348. doi:10.1016/j.cgh.2016.08.007 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27523634/
    5. Shepherd SJ, Parker FC, Muir JG, Gibson PR. Dietary triggers of abdominal symptoms in patients with irritable bowel syndrome: randomized placebo-controlled evidence. Clinical Gastroenterology and Hepatology. 2008;6(7):765-771. doi:10.1016/j.cgh.2008.02.058 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18456565/
    6. Misselwitz B, Butter M, Verbeke K, Fox MR. Update on lactose malabsorption and intolerance: pathogenesis, diagnosis and clinical management. Gut. 2019;68(11):2080-2091. doi:10.1136/gutjnl-2019-318404 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31427404/

    本記事は研究状況の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。自己判断で複数の食品を長期に除去すると栄養が偏ることがあります。

  • 牛乳でお腹がゆるむとき、やめる前に確かめること

    牛乳でお腹がゆるむとき、やめる前に確かめること

    牛乳を飲むとお腹がゴロゴロする。同じものを同じ量だけ飲んで、何ともない人がいます。この差がどこから来るのかは、はっきり分かっています。

    この差はどこから来るのでしょうか。乳糖不耐症は、機序がはっきり分かっている数少ない「食べると不調」の例で、しかも人類の歴史とつながっています。少し寄り道しながら見ていきます。

    大人になると、酵素は減るのが標準だった

    大人になって乳糖を分解しにくくなるのは、異常ではありません。標準的な発達の経過にあたります。

    乳糖を分解する酵素はラクターゼと呼ばれ、小腸で作られます。哺乳類はどの種も、乳を飲む乳児期にはこの酵素を活発に作り、離乳後はその働きが低下していきます。これが本来の姿です。

    むしろ、大人になってもラクターゼを作り続ける体質のほうが、後から生じた変化です。この体質は「ラクターゼ持続(lactase persistence)」と呼ばれています。

    言葉の順序が逆転していることに気づくと、この話は見え方が変わります。「乳糖不耐症」という呼び名は、飲めることを基準にした呼び方になっています。

    よく見る「世界の3分の2」を、そのまま使えない理由

    「乳糖を分解できない人は世界人口のおよそ3分の2」。日本語の記事で頻繁に見かける数字ですが、その出典となった2017年のメタ解析は2025年1月に撤回されています3。そのため、この記事では世界全体の推定値を挙げません。

    ここで言葉を分けておきます。乳糖吸収不良(lactose malabsorption)は乳糖が消化吸収されない状態を指し、乳糖不耐症(lactose intolerance)はそれによって症状が出ている状態を指します。吸収不良があっても症状が出ない人はいます。この二つは同じではありません。

    体質の違いは、遺伝子の一箇所から

    なぜ人によって違うのか。この問いには、かなり具体的な答えがあります。

    エナッタらは2002年、フィンランドの家系を調べ、この体質を決めている場所をゲノム上のごく狭い区間まで絞り込みました。見つかったのは、ラクターゼを作る遺伝子そのものではなく、その少し手前にあるDNAの一箇所の違いです。この一箇所が、大人になっても酵素を作り続けるかどうかとぴたりと対応していました2。

    興味深いのは次の点です。この多型が互いに遠縁の複数の集団に見られることから、著者らはこの変異が非常に古いものだと述べています2。

    この体質は、酪農が始まったあとに広がったものです。約7,500年前の中央ヨーロッパあたりが起点と推定されています。体質の分布に、歴史がそのまま残っている形です。

    牛乳で不調になることは、その人の体に問題があることを意味しません。祖先がどこで暮らしていたかの反映という側面があります。

    同じ体質でも、症状の出方が違う理由

    ここまでは遺伝子の話ですが、実際の症状はそれだけでは決まりません。

    ミッセルヴィッツらは2019年、Gut に乳糖吸収不良と乳糖不耐症についての総説を発表しています。そこでは、乳糖不耐症が起こる可能性は乳糖の量・ラクターゼの発現・腸内細菌によって決まる、と整理されています1。遺伝子は3つのうちの1つでしかありません。

    ひとつは量の問題です。ラクターゼの働きが弱くても、少量なら処理できます。コップ1杯で症状が出る人もいれば、コーヒーに入れる程度なら問題ない人もいる。免疫が関わる食物アレルギーとは違い、不耐症は量に依存しやすいのです。

    もうひとつは、一緒に食べるものです。食事と一緒に摂ると、胃からの排出が緩やかになり、症状が出にくくなることが知られています。

    そして、分解されなかった乳糖は大腸に届き、腸内細菌によって発酵されます。ここで生じるガスや短鎖脂肪酸が症状に関わります。だとすれば、どういう細菌がいるかによって出方が変わることになります。実際、乳製品を継続して摂ることで症状が軽くなる場合があると報告されていますが、この適応の仕組みや再現性については、まだ検討の途上にあります。

    もうひとつ、乳糖の消化とは別の経路があります。ミッセルヴィッツらの総説は、不安や過敏性腸症候群に伴う内臓知覚過敏がある人は、乳糖の消化能力とは独立に、乳糖不耐症の症状が出るリスクが高いと述べています1。同じ量のガスが発生しても、それをどれくらい強く感じるかには個人差がある、ということになります。

    これも踏まえたうえで、同じ総説はこうも書いています。自己申告の乳糖不耐と、客観的な検査所見と、食事を変えたときの実際の結果。この三つの関連にはばらつきがある1。「牛乳が合わない気がする」という実感が、そのまま検査結果と一致するとは限りません。逆もまた同じです。

    確かめようがある、という利点

    乳糖不耐症について特筆すべきなのは、機序が分かっていて、確認する手段があることです。

    水素呼気試験のような検査もありますし、自分で確かめる余地も大きい。乳糖を含む食品を一定期間やめてみて、症状が変わるかを見る。戻して再現するかを見る。量を変えて閾値を探る。

    一度に複数のことを変えないという原則はここでも効いてきます。牛乳とパンを同時にやめれば、どちらが効いたのか分からなくなります。

    また、乳製品を完全にやめる前に考えたいのは、カルシウムなど他の栄養をどう補うかです。多くの場合、量を減らす、発酵乳製品に変える、乳糖を分解した製品を使う、といった調整で対応できます。全部やめる必要があるかどうかは、閾値を確かめてから決めても遅くありません。

    同じ構造の糖が、ほかにもある

    乳糖は二糖類です。小腸で吸収されずに大腸へ届き、腸内細菌が発酵してガスを出し、浸透圧で水分を引き込む——この構造を持つ糖は、ほかにもあります。オリゴ糖、単糖類、糖アルコール。まとめてFODMAPと呼ばれます。

    日本消化器病学会のガイドラインは、乳糖不耐症の患者についてラクトース制限食を6週間摂取することで症状が有意に改善したという報告を挙げています。乳糖を外して症状が軽くなるかどうかは、確かめられる範囲にあります。

    「合わない」の中身が分かるということ

    この記事で見てきたものを並べると、乳糖不耐症は珍しい位置にいます。酵素の名前、遺伝子の位置、症状が出る量、確かめる検査。全部そろっています。

    「合わない食品」の多くは、ここまでそろいません。「遅延型フードアレルギー検査」が示しているのは、その食品にさらされたことまでで、欧州アレルギー臨床免疫学会は不耐症の診断には使えないとしています。

    だから、合わない食品の候補が何十品目も並んだときにやることは、この記事と同じ形に近づけることです。1品目を選ぶ。量を決める。やめて、戻す。期限を先に決めて、変化を比べる。

    乳糖不耐症で分かっているのは「乳製品がダメ」ではなく、「この量までなら出ない」という線でした。他の食品でも、探しているのは同じ形の線です。

    食べ物で不調が出るとき、原因が特定できることは実は多くありません。多くは、症状のパターンから推測するところで止まります。

    乳糖不耐症は、その中で例外的に、酵素の働き、遺伝子の多型、症状が出る条件、確認の手段が揃っています。だからこそ、他の「なんとなく合わない」と同列に置かないほうがいいでしょう。

    同じものを食べて反応が違うという現象そのものは、乳糖に限りません。量・消化吸収・腸内細菌・感じ方という4つの要素のうち、乳糖不耐症は消化吸収の部分がはっきり分かっている例にあたります。アルコールを分解する酵素にも同じ構造があり、日本人の4割強が働きの低い側にいます。

    そして冒頭で見たとおり、大人になって酵素が減ることのほうが、哺乳類としては標準的な経過でした。自分の体を標準から外れたものとして扱うか、単に違うものとして扱うか。そこで、その後の対応も変わってきます。

    確かめられるのは、量との関係です。牛乳をやめるかどうかの前に、コップ半分なら平気か、1杯で来るかを分けます。ヨーグルトやチーズでは出ないなら、乳糖の量が違うためです。

    そして牛乳を減らすなら、カルシウムの供給源が1つ抜けます。日本人の平均摂取量は推奨量の65%(成人男性)で、もともと余裕がありません。小魚・大豆製品・青菜のどれかで置き換えるところまでを、同時に決めます。

    参考文献・参考資料

    1. Misselwitz B, Butter M, Verbeke K, Fox MR. Update on lactose malabsorption and intolerance: pathogenesis, diagnosis and clinical management. Gut. 2019;68(11):2080-2091. doi:10.1136/gutjnl-2019-318404 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31427404/
    2. Enattah NS, Sahi T, Savilahti E, Terwilliger JD, Peltonen L, Järvelä I. Identification of a variant associated with adult-type hypolactasia. Nature Genetics. 2002;30(2):233-237. doi:10.1038/ng826 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11788828/
    3. 【撤回済み】Storhaug CL, Fosse SK, Fadnes LT. Country, regional, and global estimates for lactose malabsorption in adults: a systematic review and meta-analysis. The Lancet Gastroenterology & Hepatology. 2017;2(10):738-746. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28690131/
      撤回通知:Retraction—Country, regional, and global estimates for lactose malabsorption in adults. The Lancet Gastroenterology & Hepatology. 2025;10(1):13. doi:10.1016/S2468-1253(24)00398-4 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39674208/

    本記事は機序と研究状況の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。