カテゴリー: 検査・データ

検査値の読み方、基準値、健康データの扱い

  • 浄水器を選ぶとき、表示のどこを見るか

    浄水器を選ぶとき、表示のどこを見るか

    浄水器のパッケージにある「除去物質 13物質」という表示は、家庭用品品質表示法で義務づけられたものです1。メーカーが自分で決めた数字ではありません。

    そして、その12項目の法定物質のなかに「溶解性鉛」と「総トリハロメタン」が入っています。検査の説明資料が水道水の入口として挙げているのは、まさにこの2つです。

    見る場所は決まっています。パッケージの「除去物質」の欄と、「総ろ過水量」の数字。

    「除去物質12」が、何を除いてくれるのか

    家庭用品品質表示法(昭和37年法律第104号)は、家庭用品の品質表示を適正化して消費者の利益を保護することを目的とした法律です。浄水器は、その対象品目に指定されています1。

    表示すべき内容は、雑貨工業品品質表示規程で決まっています。除去対象物質の用語も、そこに定められています。

    法定の除去対象物質(12項目)
    物質 何か
    遊離残留塩素 消毒のために水道水に残されているもの
    濁り 微粒子
    クロロホルム 塩素と有機物が反応してできる消毒副生成物(トリハロメタン類)
    ブロモジクロロメタン
    ジブロモクロロメタン
    ブロモホルム
    総トリハロメタン 上の4つの合計
    テトラクロロエチレン 工業用の溶剤。地下水汚染で問題になってきた
    トリクロロエチレン
    CAT 農薬(シマジン)
    2-MIB カビ臭の原因物質
    溶解性鉛 水に溶けた鉛。古い給水管に由来する

    このほかに、JIS S 3201 で定められた任意の項目(1,2-DCE、ベンゼン、陰イオン界面活性剤、フェノール類、ジェオスミン)や、業界の自主規格による項目(鉄、アルミニウム)があります。「13物質」「15物質」といった数の違いは、任意項目を何個足したかの違いです。

    規制されている物質が、規格から消えた話

    2020年10月1日に、この規程が改正されました。除去対象物質から1,1,1-トリクロロエタンが削除されています。

    理由が具体的です。この物質は、国際的な環境課題を議論するモントリオール議定書によって製造及び輸入が規制されており、国内市場に流通していないことから、試験の対象から消除する改正が行われた1。

    水から消えたのではなく、そもそも作られなくなったので、試験する意味がなくなったということです。

    規格の項目数は、危険の順位ではありません。何が測られているかは、そのときの状況で決まっています。

    いちばん見落とされているのは「総ろ過水量」

    ここが、この記事でいちばん実務的な部分です。

    浄水器のパッケージには、除去物質のほかに総ろ過水量が書かれています。「約900L」「約200L」といった数字です。カートリッジの交換目安として案内されています。

    この数字の定義が、規程にあります。

    ろ過流量が50%に低下するまでの期間と、除去率が80%に低下するまでの期間とを比較し、いずれか早い方の総ろ過水量を表示させる1

    総ろ過水量は、ろ過流量が50%に落ちるまでと除去率が80%に落ちるまでの、早いほうで決まることを示す図
    2つの線のうち、先に来たほうが総ろ過水量になります1。

    ここが重要です。2つの条件のうち、先に来たほうで決まっています。

    そして2020年の改正で、この規定は連続式だけでなくすべての浄水器に適用されるようになりました1。

    つまり、水の出が悪くなっていなくても、除去率のほうが先に落ちている場合があります。逆に、除去率は保たれているのに出が悪くなることもあります。どちらが先に来るかは製品によって違い、その早いほうが数字になっています。

    だから交換の目安は、味でも、出の勢いでもありません。使った水量です。

    数えられる形にする

    とはいえ、使った水量を正確に数えるのは難しい話です。

    実用的なのは、1日に使うおよその量で割ることです。総ろ過水量900Lの製品で、1日3L使うなら300日。1日6L使うなら150日。

    多くの製品が「3か月」のような期間で案内していますが、これは標準的な使用量を前提にした換算です。使う量が多ければ、期間は短くなります。

    そして記録が効くのはここでも同じで、交換した日をどこかに書いておくだけで、次の判断が決まります。

    水道水そのものは、基準内で運用されている

    前提として、日本の水道水には水質基準があります。鉛及びその化合物は0.01mg/L以下、総トリハロメタンは0.1mg/L以下と定められています2。

    つまり浄水器は、基準を満たしていない水を基準内にするための装置ではありません。基準内の水から、さらに減らすためのものです。

    そのうえで、鉛については配管の側の事情があります。皮膚科が金属制限食を指導するときの項目に「水道水は流し始めの5分間は使用しないこと」が入っているのは、止まっていた水が管に長く接していたぶんを避けるためです。

    この2つは、やっていることが違います。最初の水を流すのは、管の中に溜まっていた分を捨てること。浄水器は、通る水から成分を減らすこと。

    入口の一覧の中で、どこにいるか

    検査の説明資料は、蓄積の入口の1つとして水道水を挙げ、トリハロメタン類(クロロホルムなど)、鉛を具体名で書いています。そして「浄水処理副生成物として基準値内ながら検出」と添えています3。

    この記述は正確です。そして、入口の一覧の中でこの項目が珍しいのは、対策側にも法定の表示があるという点です。

    水道水という入口の、特徴
    状況
    水の側の基準 ある。鉛0.01mg/L以下、総トリハロメタン0.1mg/L以下
    対策側の表示 ある。家庭用品品質表示法で、除去対象物質と総ろ過水量の表示が義務
    今日できること 最初の数分を流す/パッケージの除去物質と総ろ過水量を見る

    缶のBPAには、そもそも日本の耐容量がありません。マイクロプラスチックには、評価そのものがありません。水道水は、入る側にも対策側にも数字がある、数少ない入口です。

    だから、ここは判断ができます。買うか買わないかではなく、買うなら何が書いてあるものを買い、いつ交換するかまで、表示から決められます。

    参考文献・参考資料

    1. 消費者庁表示対策課「雑貨工業品品質表示規程の一部を改正する告示について(概要)」令和2年10月1日 https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/household_goods/law/kaisei/assets/kaisei_201001_0002.pdf 除去対象物質の区分は、家庭用品品質表示法の法定物質・JIS S 3201の任意物質・業界自主規格による項目に分かれます。
    2. 水質基準に関する省令(平成15年厚生労働省令第101号)。鉛及びその化合物 0.01mg/L以下、総トリハロメタン 0.1mg/L以下 https://laws.e-gov.go.jp/law/415M60000100101/
    3. RESONA-LAB 検査結果報告書(人用・試供品サンプル)の記載による。報告書の見本は公式サイトで公開されています https://resona-lab.com/humans

    本記事は法令・公的告示の整理であり、特定の製品の効果を示すものでも、購入を勧めるものでもありません。個別の診断・治療に代わるものでもありません。表示の内容は製品ごとに異なります。実際の交換時期は、各製品の取扱説明書の指示が優先されます。

  • どの検査を受ければいいか、迷わないために

    どの検査を受ければいいか、迷わないために

    検査はそれぞれ違う問いに答えています。一つで全部が分かる検査はありません。

    健康について調べていると、いくつもの検査が出てきます。健康診断、遺伝子検査、腸内フローラ検査、アレルギー検査。

    検査はそれぞれ違う問いに答えています。一つで全部が分かる検査はありません。

    知りたいことがはっきりすれば、選ぶものも決まります。逆に、問いを決めずに受けると、結果を受け取ってから「これは何を意味するのか」で止まります。

    検査ごとに答えている問いが違うことを示す図。健康診断は今の異常の兆候、遺伝子は生まれ持った傾向、フローラは腸の構成、アレルギーは特定の免疫反応
    同じ「検査」でも、見ている対象と時間軸が違います。生まれつきのものが対象なのか、いまの状態が対象なのか。全身を見るのか、特定の部位を見るのか。

    健康診断 ── いま、対処が必要な兆候があるか

    健康診断は、症状が出る前の段階で、対処できる病気を拾うための仕組みです。40歳から74歳を対象とする特定健康診査は、高齢者の医療の確保に関する法律で保険者に実施が義務づけられています1。

    ここで重要なのは、測っている項目が決まっていることです。測っていない項目については、何も言えません。

    そして「異常なし」は健康の証明ではありません。基準範囲は、健康な人を集めて測ったときの中央95%が入る範囲として作られています2。健康な人でも20人に1人は外れる設計です。

    この検査が答えている問いの狭さは、別の記事で詳しく整理しました。

    遺伝子検査 ── 生まれ持った傾向。生涯変わらない

    遺伝情報には、他の検査結果にはない特性があります。日本医学会のガイドラインは、次を挙げています3。

    遺伝情報の特性(日本医学会ガイドライン)3
    特性 意味すること
    生涯変化しない 一度調べれば、結果は変わらない
    血縁者間で一部共有されている 自分の結果が、家族の情報にもなる
    あいまい性が内在している 下に説明します

    3つ目の「あいまい性」について、ガイドラインはこう説明しています。結果の意義の判断が変わりうること、予測される発症の有無・時期・症状・重症度に個人差がありうること、医学の進歩とともに有用性が変わりうること3。

    つまり、変わらないのは遺伝情報のほうで、その読み方は変わります。「生涯変わらない結果」と「生涯変わらない意味」は、別のことです。

    そして遺伝子が答えているのは、生まれ持った傾向です。いま何が起きているかは、この検査の対象ではありません。

    腸内フローラ検査 ── 腸内細菌の構成

    便から腸内細菌の構成を調べる検査です。何がどれだけいるかを見ます。

    ただし、ここには前提があります。「健康な腸内細菌叢」の定義が、まだ決着していません。正面から検討した2021年の総説は、定義できるかどうか自体が複雑な問いだと結論しています4。

    構成は測れます。ただし、その構成が良いのか悪いのかを判定する物差しが、まだありません。この状況は別の記事で整理しました。

    アレルギー検査 ── 特定の免疫反応があるか

    血液中の特異的IgE抗体を測るか、皮膚に少量つけて反応を見ます。免疫が関わる反応があるかどうかを、医学的に確認するための検査です。

    注意が要るのは、IgEが陽性であることと、実際に症状が出ることは別だという点です。だから医療の現場では、実際に少量から食べて確かめる食物経口負荷試験まで行います。

    一方、食物に対するIgG抗体を測る検査は、欧州アレルギー・臨床免疫学会のタスクフォースが2008年、食物アレルギーの診断ツールとして推奨しないという立場を示しています5。IgGは、その食品を食べていることを反映する正常な反応でもあるためです。

    並べてみる

    それぞれが答えている問い
    検査 答えている問い 答えていないこと
    健康診断 決められた項目に、対処が必要な兆候があるか 測っていない項目のこと
    遺伝子検査 生まれ持った傾向はどうか いま何が起きているか
    腸内フローラ検査 腸内細菌はどういう構成か その構成が良い状態かどうか
    アレルギー検査 特定の免疫反応があるか 免疫が関わらない不調の原因
    バイオレゾナンス検査
    (RESONA-LAB)
    4つの欄がある。食品不耐性(消化難)、体内蓄積、解毒機能、不足ビタミン・ミネラル6 疾病の診断。報告書自身が「本検査は疾病の診断や治療を目的とするものではなく、健康管理の参考情報を提供するもの」と記しています6

    並べると、ひとつの検査で全部が分かるものはないことが見えてきます。時間軸も違います。遺伝子は生まれつき、健康診断はいま、フローラは日々変わるもの。

    採るものと、待つ時間も違う

    答えている問いのほかに、実務的な違いもあります。

    検体と、結果が出るまで
    検査 採るもの 結果まで
    健康診断 血液、尿。採血を伴う 数日〜2週間程度
    遺伝子検査 唾液、口腔粘膜 数週間
    腸内フローラ検査 便 数週間
    アレルギー検査 血液、または皮膚(パッチテスト・プリックテスト) 血液は数日、パッチテストは判定に7日程度
    バイオレゾナンス検査 毛髪と口腔粘膜。採血を伴いません 返送から約1週間6

    採血の有無は、受けやすさに直結します。ただし採るものが違えば、答えられる問いも違います。血液でしか分からないことは、血液でしか分かりません。

    たとえばビタミンD・亜鉛・鉄・葉酸は血液の数値で線が引けますが、カルシウムとマグネシウムは血液では分かりません。骨や細胞内から補われて、血中の値が動かないためです。これは検査の優劣ではなく、栄養素の側の性質です。

    知りたいことから決める

    だから、順番は逆になります。検査を選んでから何が分かるかを知るのではなく、知りたいことを決めてから、それに答える検査を選ぶ。

    知りたいことと、それに答えるもの
    知りたいこと 見るもの
    いま、治療が必要な病気があるか 健康診断、医療機関の検査
    家系に多い病気の傾向があるか 遺伝子検査(遺伝カウンセリングを伴うもの)
    この食品で症状が出るのはなぜか アレルギー検査、経口負荷試験
    疲れの原因が鉄かどうか ヘモグロビンとフェリチン

    「なんとなく体調が悪い」のままだと、どの検査を受けても結果の読み方が決まりません。問いを具体的にするところから始めるほうが、結局は早く進みます。

    そして、検査で説明がつかないことは珍しくありません。そのときに次の検査を足すのか、記録して確かめるのかは、また別の判断になります。

    参考文献・参考資料

    1. 高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号)第18条・第20条 e-Gov法令検索
    2. 日本臨床検査標準協議会 基準範囲共用化委員会「日本における主要な臨床検査項目の共用基準範囲 ―解説と利用の手引き―」2022年10月版 https://www.jccls.org/wp-content/uploads/2022/10/kijyunhani20221031.pdf
    3. 日本医学会「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」2022年3月改定 2. 遺伝学的検査・診断を実施する際に考慮すべき遺伝情報の特性 https://jams.med.or.jp/guideline/genetics-diagnosis_2022.pdf
    4. Shanahan F, Ghosh TS, O’Toole PW. The Healthy Microbiome—What Is the Definition of a Healthy Gut Microbiome? Gastroenterology. 2021;160(2):483-494. doi:10.1053/j.gastro.2020.09.057 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33253682/
    5. Stapel SO, Asero R, Ballmer-Weber BK, et al. Testing for IgG4 against foods is not recommended as a diagnostic tool: EAACI Task Force Report. Allergy. 2008;63(7):793-796. doi:10.1111/j.1398-9995.2008.01705.x https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18489614/
    6. RESONA-LAB 検査結果報告書(人用・試供品サンプル)の記載による。報告書の見本は公式サイトで公開されています https://resona-lab.com/humans

    本記事は各検査の位置づけの整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の検査の受検を勧めるものでも、否定するものでもありません。遺伝学的検査は、遺伝カウンセリングを含む体制のもとで受けることが推奨されています。

  • 限られた診察時間を、自分の体の話に使うために

    限られた診察時間を、自分の体の話に使うために

    最初の一言で、その日の診察時間の使われ方が変わります。

    限られた診察時間を、自分の体の話に使うためのものを4つ挙げます。いちばん抜けやすいのは、飲んでいるサプリメントです。

    「この検査で異常と言われました」から始めない

    この一文から入ると、話はその検査についての議論になります。医師はその検査を知らないかもしれず、知っていても、その妥当性をどう説明するかに時間が使われます。

    そして、いちばん大事なことが後回しになります。あなたにいま何が起きているかです。

    伝え方を変えるだけで、同じ情報が違う働きをします。

    同じことを伝えるときの、二つの言い方
    言い方
    時間が検査の話に使われる 「この検査で肝臓が悪いと言われました」
    自分の体の話に使える 「半年ほど疲れが抜けません。肝臓のことが気になっているのですが、確かめられる検査はありますか」

    持っていくのは、四つ

    1. 症状の記録

    いつから、どんなときに、どれくらいの頻度で。「なんとなくだるい」より「先月から、午後になると集中が続かない日が週に3日ほどある」のほうが、次に何を調べるかを一緒に考えやすくなります。記録で何が分かり、何が分からないのかも、知っておくと役に立ちます。

    2. これまでの経過

    健康診断の結果票を持っていきます。肝臓と腎臓については、そこに答えの出ている項目があります。過去数年分を並べられれば、値が動いているのか横ばいなのかも分かります。

    3. 試したこと

    何を、いつから、どれくらい続けて、どうだったか。効かなかったことも情報です。食品を外して戻した記録があれば、それも持っていきます。

    4. 飲んでいるもの、すべて

    ここが最も抜けやすい項目です。処方薬、市販薬、サプリメント、ハーブ、健康食品。全部です。

    サプリメントを、必ず申告する理由

    日本のがん専門施設で行われた調査があります。16のがんセンターと40の緩和ケア病棟の患者3,461人から回答を得たもので、補完代替医療を利用していた人のうち60.7%が医師に相談せずに使っていました。そして利用者の5.3%が有害反応を報告しています1。

    申告が必要なのは、飲み合わせが実際に問題になるからです。セイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)については、厚生省が2000年に注意喚起を出しています。肝臓の薬物代謝酵素を誘導し、併用した薬の血中濃度を下げるためです2。

    「サプリだから薬ではない」という理由で伝えないと、医師は不完全な情報で判断することになります。

    「確かめられる検査はありますか」と聞く

    この聞き方が効くのは、検査の側が科ごとに分かれているからです。

    たとえば金属アレルギーなら、確かめるのはパッチテストで、行うのは皮膚科です。背中に貼って48時間後に剝がし、その1時間後、24〜48時間後、120時間後に判定する——判定まで7日かかります3。手順が決まっている検査です。

    食物アレルギーなら、確定は食物経口負荷試験。鉄なら、ヘモグロビンとフェリチン。検査はそれぞれ違う問いに答えているので、「何を確かめたいか」を先に言えば、検査の側から選んでもらえます。

    そして、食事を大きく制限している場合は、それも申告してください。金属制限食のように医療の中で行われる除去にも、「必ず医師の指導のもとで行う」「2ヶ月続けて無効なら中止する」という条件が置かれています3。理由は、制限の対象に必須の栄養素が含まれるからです。自己判断の除去も、同じ条件の中にあります。

    この聞き方には利点があります。判断を医師に委ねつつ、自分が何を気にしているかは正確に伝わるからです。

    そして、確かめられるものは実際にあります。ビタミンDや亜鉛には学会の判定指針があり、血液で確かめられます。鉛と水銀も測定できます。一方で、血液では蓄えが分からない栄養素もあります。

    「全部測ってください」と頼むのは、あまりうまくいきません。項目が増えるほど、健康な人でもどこかが基準から外れる確率は上がります。気になっている症状を一つ挙げて、そこから決めてもらうほうが早く進みます。

    どこに行くか

    特別な事情がなければ、かかりつけ医か一般内科から始めます。症状に応じて、必要な科へ紹介してもらう流れが確実です。

    次のような症状は、検査結果を読んでいる場合ではありません。結果より先に来ます。

    検査結果より先に来る症状
    症状
    体重が意図せず減っている
    発熱が続いている
    皮膚や白目が黄色い
    尿の量が減った、むくみが続いている
    血便がある、便が黒い
    症状が日ごとに悪化している

    結果は、話を始めるための材料

    どんな検査結果も、それ単体で答えを出すものではありません。値は、症状や経過と合わせて初めて意味を持ちます。検査ごとに答えている問いが違うのも、同じ理由です。

    診察で効くのは、どこかに書かれた判定より自分の側にある記録のほうです。症状の記録、健診の推移、試したこと、飲んでいるもの。この四つが揃っていれば、話は具体的なところから始められます。

    参考文献・参考資料

    1. Hyodo I, Amano N, Eguchi K, et al. Nationwide survey on complementary and alternative medicine in cancer patients in Japan. Journal of Clinical Oncology. 2005;23(12):2645-2654. doi:10.1200/JCO.2005.04.126 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15728227/
    2. 厚生省医薬安全局安全対策課・生活衛生局食品保健課「セント・ジョーンズ・ワート(セイヨウオトギリソウ)と医薬品の相互作用について」平成12年5月10日 https://www.mhlw.go.jp/www1/houdou/1205/h0510-1_15.html
    3. 足立厚子「金属アレルギーの対処法〜全身型金属アレルギーを中心に〜」アレルギー 2020;69(3):169-173. https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/69/3/69_169/_pdf

    本記事は医療機関で相談するときの整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の検査・製品の効果を示すものでもありません。受診の要否と必要な検査は医師の判断によります。服用中の薬を自己判断で中止・変更しないでください。

  • 解毒機能のA〜Eを、どう読んで何をするか

    解毒機能のA〜Eを、どう読んで何をするか

    レポートには、A〜Eの意味が書いてあります。A 理想的な状態/B 軽い改善が必要/C 低下している状態/D 早急な改善が必要/E 緊急に改善が必要。解毒機能を、どれだけ早く整えたほうがいいかの段階です。

    そして評価は1つではありません。総合評価とは別に、腸・肝臓・腎臓それぞれにA〜Eが付きます。どこが足を引っ張っているかは、そちらで分かれます。

    健康診断にも同じA〜Eがありますが、答えている問いが違います。健診のDは「要精密検査・治療」。こちらのDは「解毒機能の改善が早急に必要」です。

    5段階が、何を刻んでいるか

    解毒機能の評価基準(レポート記載)
    記号 状態
    A 解毒機能が理想的な状態
    B 軽い改善が必要な状態
    C 解毒機能が低下している状態
    D 早急な改善が必要な状態
    E 緊急に改善が必要な状態

    刻まれているのは、解毒機能をどれだけ早く整えたほうがいいかです。病名ではありません。

    レポート自身が冒頭でこう記しています。「本検査は疾病の診断や治療を目的とするものではなく、健康管理の参考情報を提供するものです」。Dが付いていても、病気が見つかったということではありません。

    腸・肝臓・腎臓は、別々に付く

    総合評価のほかに、腸・肝臓・腎臓のそれぞれにA〜Eが付きます。3つが同じとは限りません。総合がDでも、内訳を見ると1つだけ低い、ということが起こります。

    レポートが記している、それぞれが低下したときに現れるもの
    低下すると
    腸 栄養吸収不良、免疫力低下、全身の炎症、脳機能や肌にまで影響する。全身健康の要とされています
    肝臓 解毒力が弱まり、疲労感、消化不良、皮膚トラブルが現れ、全身に毒素が蓄積する
    腎臓 老廃物や余分な水分の排出が滞り、むくみ、高血圧、貧血などの全身症状が現れる

    3つとも「出す」に関わりますが、担当している出口が違います。腎臓は尿として、腸は便として。そして肝臓は、尿から出せないものを胆汁に乗せて腸へ送り出す側です。

    だから順番があります。肝臓が送り出しても、腸の通過が滞っていれば出ていきません。3つの評価が違うときは、出口に近いほうから見ます。

    同じA〜Eでも、答えている問いが違う

    健康診断の結果にも、A〜Eの判定がついています。記号は同じですが、測っているものが違います。

    同じA〜Eが、それぞれ答えていること
    答えている問い Dの意味
    健康診断 いま、治療や精密検査が必要な異常があるか 要精密検査・治療1
    この検査 処理して外へ出す働きが、どの状態にあるか 早急な改善が必要な状態

    健診の判定区分は、A異常なし/B軽度異常/C要再検査・生活改善/D要精密検査・治療/E治療中です1。

    どちらも「早く手を打つほうがいい順」ですが、対象が違います。健診が並べているのは疾患の疑い。こちらが並べているのは解毒機能の状態です。検査ごとに答えている問いが違うのは、ここでも同じです。

    レポートが挙げている、整え方

    レポートは、解毒機能を整える方法として3つを挙げています。

    解毒機能を整える方法(レポート記載)と、詳しく書いた記事
    レポートの記述 詳しく
    不足栄養素を補う 検査で測るビタミン・ミネラルは、排出経路に関わる栄養素です
    不耐性食品を避けた食生活 全部やめてはいけません。1品目ずつ確かめます
    蓄積が多いモノを避ける 金属は入口が分かっています。大型の魚、古い水道管など

    3つとも、入ってくる側と、材料の側です。「解毒機能を直接鍛える」という項目は入っていません。

    処理そのものは、常時動いている工程です。止めたり再開したりするものではなく、材料が足りているかと、出口が詰まっていないかで変わります。

    記号から、最近の生活を振り返る

    レポートには「解毒機能不全による影響」として、思考がぼんやりする、すっきりしない朝が増える、代謝の低下による体重増加、免疫力の低下による体調不良、が挙げられています。

    読むと当てはまる感じがします。ただしありふれた症状を並べたリストは、たいていの人に当てはまります。当てはまったことは、原因がそれだと示していません。

    使い道があるのは、そちらではありません。総合評価の記号ではなく、腸・肝臓・腎臓の3つのうちどれが低いかを見ます。

    3つとも「出す」に関わりますが、担当している出口が違います。だから見る順番が決まります。

    低かった欄と、先に見る場所
    低かったのは 先に見る
    腸 便通の回数と形。基準は週3回未満です
    肝臓 お酒の量と、飲んでいる薬・サプリの数
    腎臓 水分の量と、むくみが出る時間帯

    3つが同じ記号のときは、出口に近いほうからです。肝臓が胆汁に出したものは、いったん腸に置かれます。そこが滞っていれば、上流を動かしても行き場がありません。

    今日できるのは、低かった欄を1つ選んで、その行の項目を1週間だけ記録することです。記号は月単位でしか動きませんが、便通も、酒量も、水分も、今日から数えられます。

    参考文献・参考資料

    1. 厚生労働省「標準的な健診・保健指導プログラム」ほか、健診の判定区分(A〜E)の一般的な運用による https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001231392.pdf

    本記事は検査レポートの記載事項の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。検査は疾病の診断や治療を目的とするものではなく、健康管理の参考情報を提供するものです。特定の製品・サプリメントの効果を示すものでも、使用を勧めるものでもありません。

  • 金属の蓄積に、今日から手を打つ方法

    金属の蓄積に、今日から手を打つ方法

    パラジウム、銀、プラチナ、カドミウム、金、水銀、鉛、アルミニウム、ニッケル。検査に並ぶこの9つは、日本人の生活の中で体へ入ってくる入口の順に近い並びです。

    有名なのは鉛・水銀・カドミウムの3つですが、残る6つにも根拠があります。パラジウム・銀・プラチナ(白金)・金・アルミニウム・ニッケルは、日本皮膚科学会のガイドラインが、体に入って症状を起こす金属として名指ししている顔ぶれです5。入口は、歯科治療、装身具、眼鏡フレーム、化粧品、たばこ。

    そしていちばん使える事実は、こちらです。溜まった量は固定ではありません。厚生労働省は水銀について、「体内に取り込まれた量が半分にまで減少する期間は約2ヶ月」と書いています4。入口を変えれば、体内の量は動きます。

    なぜ、この9つなのか

    重金属というと、水俣病やイタイイタイ病の水銀・カドミウム、あるいは鉛が思い浮かびます。金やプラチナが並んでいると、場違いに見えます。

    ところが皮膚科の側から見ると、並びが変わります。日本皮膚科学会の『接触皮膚炎診療ガイドライン2020』は、金属が皮膚からだけでなく「生体内に吸収されることにより」全身に症状を起こす型を「全身型金属アレルギー」として扱い、原因になりうる金属を挙げています5。

    検査に並ぶ9つの金属と、学会ガイドラインが挙げている感作源5
    金属 ガイドラインが挙げている主な入口
    パラジウム 眼鏡フレーム、腕時計、電気製品。歯科金属
    銀 装身具、メッキ、貨幣、食器。歯科用
    プラチナ(白金) 貴金属装飾品、貴金属回収作業、メッキ。歯科用
    金 貴金属装飾品、貴金属回収作業、メッキ。歯科用
    水銀 化粧用クリーム(保存剤としてまれに)、消毒剤、乾電池。歯科用(アマルガム。2034年に世界的に廃止)
    アルミニウム 化粧品、歯磨き、ベーキングパウダー、医薬品、顔料。食品側は上限も摂取量調査もあり、2018年に基準ができた
    ニッケル バックル、腕時計バンド、イヤリング、ネックレス、メッキ、乾電池
    カドミウム (皮膚のガイドラインでは汚染金属として扱われる。入口は主食と、たばこ)
    鉛 (同上。入口は職業上の取り扱い、古い塗料、古い水道管)

    9つのうち7つが、日常の持ち物と口の中に入口を持っています。これが、金やプラチナが並んでいる理由です。

    ガイドラインははっきりこう書いています。「歯科金属はパラジウム、金、水銀、錫などを含有することが多く、時にニッケル、クロム、コバルトなども含む」5。日本の保険診療で広く使われてきた銀歯は金銀パラジウム合金で、ガイドラインの付表にも、この合金名がそのまま載っています5。

    ここで分かるのは、入口がどこにあるかだけです。症状が出るかどうかは別で、金属アレルギーの診断はパッチテストなどによって皮膚科で行われます。

    溜まった量は、固定ではない

    「蓄積」という言葉は、一度入ったら出ていかないような印象を与えます。実際は違います。

    厚生労働省は、魚介類の水銀についての注意事項の中で、同じ文を3回繰り返しています。「体内に取り込まれた水銀は代謝、排泄されます。その体内に取り込まれた量が半分にまで減少する期間は約2ヶ月です」4。

    だから同じ文書は、妊娠に気づくのが遅れた場合について、「妊娠に気づいた段階から水銀の摂取量をコントロールすることで一定の効果が期待される」と書いています4。

    ただし、この速さは物質によってまったく違います。カドミウムは腎皮質での半減期が20〜50年、鉛は血液で約28〜36日ですが骨に移った分はずっと長い。溜まる場所が違うからです。

    入口を変えれば、体内の量は動きます。これが、蓄積の欄を見たときにいちばん効く事実です。溜まっているかどうかを心配するより、どこから入っているかを1つ特定するほうが、実際に量を変えます。

    入口は、金属ごとに違う

    検査の説明資料は、蓄積の入口として次を挙げています。それぞれ、公的な基準や調査がどこまであるかが違います。

    挙げられている入口と、公的な基準・調査の有無
    入口 入るもの 公的な基準・調査
    大型の魚 メチル水銀 妊婦向けの摂食目安(魚種ごと・g単位)4
    水道水 鉛、トリハロメタン類 水質基準。鉛0.01mg/L以下、総トリハロメタン0.1mg/L以下6。浄水器側の表示も法定
    主食(米・小麦・大豆) カドミウム 耐容週間摂取量に対して平均35%
    歯科治療 パラジウム、銀、金、水銀 JIS規格で組成が決まっている
    装身具・眼鏡・腕時計 ニッケル、パラジウム 学会ガイドラインの感作源リスト5
    化粧品・日焼け止め 酸化チタン、酸化亜鉛(ナノ粒子) 塗る形では角層より奥へ入ったという報告が大半ではない。EUは25%まで安全としている
    たばこ カドミウム、ニッケル 1本に1.8〜2.8µg、20本で2〜4µgの吸入。吸入は肝臓を通らない
    缶 ビスフェノールA 溶出は業界自主基準で規格の1/250以下。ただし日本に耐容量はない
    プラスチック容器 フタル酸エステル類 2025年6月からポジティブリスト制度が完全施行。物質ごとにTDIもある
    プラスチック(微細) マイクロプラスチック 健康リスク評価そのものが未了
    撥水加工・フライパン PFAS 日本のTDIは20 ng/kg体重/日
    職業上の取り扱い 鉛ほか 鉛中毒予防規則による法定健康診断1

    なお鉛については、日本を含む多くの国で、環境や食品からの曝露がこの数十年で大きく減っています。CDCの報告も、環境と食事からの鉛曝露が過去30年で大幅に減少し、集団の血中鉛濃度も相応に下がったことを前提に書かれています2。

    並べると分かるのは、基準の細かさが入口によって全然違うことです。魚は魚種ごとにg単位で目安がある。PFASは数字が1つある。プラスチックは評価自体が終わっていません。

    鉛と水銀は、実際に医療で測れる

    労働衛生の分野では、鉛を扱う作業者に定期的な測定が義務づけられています。鉛中毒予防規則第53条に基づくもので、検査項目には血液中の鉛の量と、尿中のデルタアミノレブリン酸の量が含まれます1。体内に入った鉛の量を、数値で追う仕組みが動いています。

    水銀については、厚生労働省が「一般に体内の水銀濃度は毛髪で測定します」と書いています4。同時に、「妊婦であっても毛髪の水銀濃度等を測定することは必要ないと考えています」とも書いています。測る方法が確立していることと、全員が測る必要があることは別だ、という立場です4。

    そして同じ文書は、日本人の平均摂取量を示しています。1日あたり8.2µg。妊婦を対象とした耐容量の57%です4。うち88.1%(7.18µg/日)が魚介類からでした。

    「出す」より先に、入口を見る

    キレート剤は、金属と結合して尿から排出させる薬です。これは中毒と診断がついた場合の治療薬で、診断のないまま使われて死亡した例が報告されています2。

    汗については、尿に匹敵する排泄が報告されている一方で、測り方が確立していません。市販の「デトックス」をうたう食品やプログラムについては、そもそも有効性を評価した無作為化比較試験が行われていません3。効くかどうか以前に、確かめられていません。

    一方、体が常時行っている処理のほうは、経路が分かっています。医学の教科書は胆汁を「腎臓でろ過または排泄できない脂溶性物質の主要排泄経路」とし、そこへ出されるものに重金属を名指しで挙げています。

    魚を、やめないでください

    水銀と聞いて最初に浮かぶのが魚です。ここで「では魚をやめよう」と進む前に、公的な注意事項が誰に向けて何を言っているかを見ておく価値があります。

    厚生労働省は、魚介類と水銀について注意事項を公表しています。ただしこれは妊婦に向けたものです。同じ文書に、こう書かれています。

    今回の注意事項は胎児の健康を保護するためのものです。子供や一般の方々については、通常食べる魚介類によって、水銀による健康への悪影響が懸念されるような状況ではありません。

    さらに同じ文書は、「魚介類を全く食べない集団では、高度不飽和脂肪酸が欠乏し、小児の知能低下や成人の心臓病のリスクが上昇することが報告されています」とも記しています4。

    魚を減らせば安全、とは言い切れない。公的な文書自身がそう書いています。

    妊娠中の方への目安

    妊娠している方、その可能性がある方については、魚種ごとに「1回約80gとして週に何回まで」という目安が示されています。キンメダイやメカジキは週1回まで、キハダ・ビンナガ・ツナ缶は通常どおりで差し支えない、といった区分です4。

    そして注意事項自体が、「本注意事項は、妊婦の方々に水銀濃度が高い魚介類を食べないように要請するものではありません」と書いています4。減らすのは特定の魚種を食べる回数で、魚をやめることではありません。

    添加物の欄が該当した場合

    体内蓄積の欄には、重金属とは別に添加物の項目があります。こちらには、金属とは違う点が二つあります。

    ひとつは、体内の添加物の量を測る一般的な臨床検査がないこと。鉛や水銀のように、入口を1つに絞れるという構造にはなっていません。

    もうひとつは、摂取量の側が継続して調べられていることです。日本では添加物ごとに一日摂取許容量が設定され、実際の摂取量も推定されています。2006〜2008年度の調査では、許容量に対する割合が最も高かったもので17.2%でした。

    できるのは、加工食品の頻度を記録することです。ただしそれを変えると、添加物以外(食塩・脂質・食物繊維)も同時に動きます。何が効いたのかを見るには、そこも踏まえる必要があります。

    確かめたいときは、何を伝えるか

    気になる曝露に心当たりがある場合は、確かめる価値があります。たとえば、鉛やその化合物を扱う仕事をしている。古い建物の改修に関わっている。輸入品の民間薬や食器を日常的に使っている。

    医療機関で伝えるのは、「検査で異常と言われた」ではなく「この曝露に心当たりがあります」のほうです。曝露の内容と期間が分かれば、必要な検査を選んでもらえます。

    原因不明の腹痛、手足のしびれ、貧血、集中力の持続的な低下。これらが続いているなら、金属の話とは別の枠です。入口を減らしても動きません。

    入口を1つ決めて、2ヶ月待つ

    結果には「蓄積による体の影響」として、集中力の低下、疲労感、ホルモンバランスの乱れといった症状が添えられています。読むと当てはまりますが、これらはもともと、一般の人の3割前後が今週経験している症状です。当てはまったことは、原因の特定にはなりません。

    使えるのは、そちらではありません。上の入口の表から、自分に当てはまるものを1つ選ぶほうです。

    口の中に金属が入っているか。眼鏡フレームや腕時計が肌に当たり続けているか。たばこを吸うか。缶飲料を毎日飲むか。大型の魚を週に何回食べているか。どれも、思い出すのではなく、今日その場で確認できます。

    そして選んだ1つを変えたら、2ヶ月です。厚労省が水銀について書いている半減期がその長さで、そのあいだ入口を変えていれば、体内の量は半分に近づく側にあります4。1週間で結果を見ようとすると、何も起きていないように見えます。

    出す側についても、経路は分かっています。医学の教科書は胆汁を「腎臓で排泄できない物質の主要排泄経路」とし、そこへ出されるものに重金属を名指しで挙げています。そして腸が詰まっていれば、胆汁に出されたものは行き場がありません。入口を1つ閉じることと、出口を動かすことは、同時にできます。

    そして、閉じるのでも閉じないのでもなく、減らせる入口もあります。乾燥ヒジキの無機ヒ素は、ゆでこぼしで9割減ります。鉄・カルシウム・食物繊維は7割以上残ります。食べ続けながら減らせます。

    なお日本人が許容量にいちばん近づいている金属は、主食から入るカドミウムです。平均で耐容週間摂取量の35%、95パーセンタイルで67%でした。これは主食なので、入口を閉じる対象にはなりません。閉じられる入口と、閉じられない入口を分けることが、最初の作業です。

    入口ごとにどこまで数字があるかは、入ってくるものと、出す力に一覧で並べています。

    そのうえで、測る前に始める「排出」には、効果が確かめられていないものと、診断なしに使えば命に関わるものが混ざっています。結果を受け取ったあとに確かめる項目のなかで、ここがいちばん実害に近い場所です。

    参考文献・参考資料

    1. 鉛中毒予防規則(昭和47年労働省令第37号)第53条(健康診断) https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000037/
    2. Centers for Disease Control and Prevention. Deaths associated with hypocalcemia from chelation therapy–Texas, Pennsylvania, and Oregon, 2003-2005. MMWR Morbidity and Mortality Weekly Report. 2006;55(8):204-207. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16511441/
    3. Klein AV, Kiat H. Detox diets for toxin elimination and weight management: a critical review of the evidence. Journal of Human Nutrition and Dietetics. 2015;28(6):675-686. doi:10.1111/jhn.12286 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25522674/
    4. 日本皮膚科学会接触皮膚炎診療ガイドライン改定委員会「接触皮膚炎診療ガイドライン2020」日本皮膚科学会雑誌 2020;130(4):523-567.(全身型金属アレルギー、表12「種々の金属による病型・症状とその感作源」、付表5「アレルゲン金属と使用可能な歯科金属との対応表」) https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/130_523contact_dermatitis2020.pdf
    5. 水質基準に関する省令(平成15年厚生労働省令第101号)。鉛及びその化合物 0.01mg/L以下、総トリハロメタン 0.1mg/L以下 https://laws.e-gov.go.jp/law/415M60000100101/
    6. 薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会乳肉水産食品部会「妊婦への魚介類の摂食と水銀に関する注意事項」平成17年11月2日(平成22年6月1日改訂) https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/suigin/dl/index-a.pdf パンフレット:これからママになるあなたへ

    本記事は公的資料と研究状況の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の製品・サプリメント・治療の効果を示すものでも、実施を勧めるものでもありません。キレート剤を含む医薬品は、医師の診断と処方のもとで使用されるものです。自己判断で入手・使用しないでください。

  • 「不足」と出た栄養素を、少ない手数で埋める

    「不足」と出た栄養素を、少ない手数で埋める

    「不足」と出た栄養素は、出す側にも効いています。足りない分を補うだけの話ではありません。

    体が不要なものを処理して外へ出すとき、第II相で別の分子をくっつけて水に溶ける形に変えます。そのくっつけるものは、グルクロン酸ならグルコース、メチル基ならメチオニン、硫酸なら含硫アミノ酸。すべて糖とアミノ酸から作られます。

    つまり足りなければ、処理が滞ります。「不足」の欄は、入れる側の話に見えて、出す側の材料の話でもあります。

    なぜ、測っても分からないのか

    カルシウムとマグネシウムは、血液検査で測れます。それでも、その値からは足りているかが分かりません。理由は、体の作りにあります。

    カルシウムの99%は骨と歯にあり、血液中は約1%。血中が下がると骨から溶け出して元に戻るため、血液の値は保たれる
    『日本人の食事摂取基準(2025年版)』は、カルシウムの99%が骨及び歯に存在し、血中濃度が低下すると副甲状腺ホルモンの分泌が増えて主に骨から溶け出し、元の濃度に戻ると記しています1。

    血液中のカルシウム濃度は8.5〜10.4 mg/dLという狭い範囲に保たれています。下がりそうになると、骨から補われて元に戻ります。つまり血液の値は、蓄えが減っていても正常のままでいられます。

    マグネシウムも同じ構造です。体内には約25gあり、その50〜60%が骨に存在します。血清濃度が低下すると、腎臓での再吸収が増えると同時に、骨からマグネシウムが遊離して使われます1。

    だから食事摂取基準は、これらの必要量を血液検査からではなく、体内蓄積量・尿中排泄量・経皮的損失量を積み上げる方法や、摂った量と出た量の差を測る出納試験から算出しています1。

    報告書はマグネシウムについて、「マグネシウムの不足や欠乏を招く摂取量を推定することは難しい」とはっきり書いています1。

    この3つは、測れば答えが出る

    血液の値が蓄えをよく反映する栄養素もあります。こちらには、学会が定めた判定の基準まであります。

    ビタミンD

    血中25(OH)D濃度を測ると、足りているかどうかが数値で分かります。30 ng/mL以上で充足、20 ng/mL未満で欠乏。日本内分泌学会と日本骨代謝学会が2017年に公表した判定指針の線引きです2。

    亜鉛

    日本臨床栄養学会の『亜鉛欠乏症の診療指針2024』は、血清亜鉛値について60 µg/dL未満を亜鉛欠乏症、60〜80 µg/dL未満を潜在性亜鉛欠乏としています3。測定は早朝空腹時が望ましいとされています。時間帯や食事で値が動くためです。

    鉄

    鉄には二段構えの指標があります。ヘモグロビンが貧血の有無を、フェリチンが貯蔵鉄の量を反映します。ヘモグロビンが正常でも貯蔵鉄が減っている状態はありうるため、この二つは別に見ます。

    ただしフェリチンは炎症や感染で上がるため、一点の数値だけでは読めません。読める人と一緒に見る意味がある検査です。

    葉酸

    葉酸も血液で測れますが、何を測るかで意味が変わります。食事摂取基準は、体内の葉酸の栄養状態を表す指標として「短期的な指標である血清中葉酸ではなく、中長期的な指標である赤血球中葉酸濃度」に関する報告を基に検討した、と記しています4。

    直前に食べたものが血清の値を動かします。習慣的に足りているかを見るなら、赤血球のほうです。

    一覧にすると、こうなる

    栄養素ごとの、医療機関での確かめ方
    栄養素 血液の値で足りているか分かるか 測る項目・注意
    ビタミンD 分かる 血中25(OH)D。学会の判定指針あり
    亜鉛 分かる 血清亜鉛。早朝空腹時。診療指針あり
    鉄 分かる ヘモグロビンとフェリチン。炎症で上がる
    葉酸 条件つき 血清は短期、赤血球は中長期の指標
    銅 条件つき 血清銅、セルロプラスミン
    カルシウム 分からない 血中は狭い範囲に保たれ、骨から補われる
    マグネシウム 分からない 同じく、腎での再吸収と骨からの遊離で保たれる
    カリウム・ナトリウム 分からない 血液の値は調節の結果。摂取量は尿から推定する
    ビタミンA・C・E — 一般の診療で測ることは多くない

    ナトリウムについては、確かめる方法が別にあります。食事摂取基準は、24時間尿中ナトリウム排泄量からナトリウム摂取量を推定することができると記しています1。血液ではなく尿を見る、という切り替えです。

    カルシウムとマグネシウムは、確かめようがない

    ここは、はっきりさせておいたほうがいい部分です。

    血液では分かりません。では食事記録ではどうか。こちらも、個人が自分でやって足りているかを判定できる精度にはなりません。食事摂取基準そのものが、これらの必要量を血液検査からではなく、体内蓄積量・尿中排泄量・経皮的損失量を積み上げる方法や出納試験から算出しています1。研究の設備で行う方法です。

    報告書はマグネシウムについて、「マグネシウムの不足や欠乏を招く摂取量を推定することは難しい」とはっきり書いています1。

    できるのは1つだけです。骨の状態が気になるなら、骨密度を測る。血液のカルシウム値ではなく、骨そのものを見る検査で、数値が出ます。

    測れないものは、入れる側から見る

    カルシウムとマグネシウムのように、血液で足りているかが分からない栄養素があります。そこで止まると、できることがなくなります。

    確かめられないなら、入れる側を決めるほうが早い。栄養素ごとに、主な供給源は決まっています。

    12の栄養素と、主な供給源5
    栄養素 主な食品
    ビタミンA にんじん、かぼちゃ、レバー
    ビタミンC 柑橘類、ピーマン、ブロッコリー
    ビタミンD 魚(鮭・いわし)、卵黄、きのこ類
    ビタミンE ナッツ、植物油、アボカド
    葉酸 緑黄色野菜、豆類、レバー
    カルシウム 乳製品、小魚、大豆製品
    マグネシウム ナッツ、海藻、豆類
    カリウム 果物(バナナ・メロン)、いも類、豆類
    ナトリウム 食塩、味噌、漬物
    鉄 赤身肉、レバー、ほうれん草
    亜鉛 牡蠣、肉、ナッツ
    銅 レバー、ナッツ、シーフード

    並べると、同じ食品が何度も出てきます。レバー、ナッツ、豆類、魚、海藻。数えると、この5つで12のうち10に関わっています。関わっていないのは、ビタミンC(柑橘類・ピーマン・ブロッコリー)とナトリウムだけです。

    重なっている食品と、関わる栄養素
    食品 関わる栄養素
    レバー ビタミンA、葉酸、鉄、銅
    ナッツ ビタミンE、マグネシウム、亜鉛、銅
    豆類 葉酸、カルシウム(大豆製品)、マグネシウム、カリウム
    魚 ビタミンD、カルシウム(小魚)
    海藻 マグネシウム

    埋める対象が12あるのではなく、重なっている5つを先に置くほうが早いということになります。血液で確かめられるかどうかに関係なく、入れる側は同じです。

    注意点が1つ。ナトリウムは日本人の場合、足りないより多い側にあるのが通常です。ここだけは増やす対象になりません。

    全部をどうにかしようとしない

    「不足」の欄に複数の栄養素が並んでいると、全部を埋めたくなります。

    そこは止めたほうがいい理由があります。結果に添えられた「不足するとこうなる」という症状の一覧は、ありふれた症状を並べたもので、たいていの人に当てはまります。当てはまったことは、原因がそれだと示していません。

    そして足すかどうかの前に、足りているかどうかという順番があります。並んだ項目を上から埋めても、どれが効いたのかは分かりません。一度に一つだけ変えるのは、ここでも同じです。

    「不足」と「出す力」は、同じ材料の話

    ここまでで、栄養素ごとの事情は分かれました。血液に反映されるもの、骨から補われて反映されないもの、尿から推定するもの。

    ただ、体の中での使われ方には共通するところがあります。

    不要なものを処理して外へ出すとき、くっつける材料は糖とアミノ酸から作られます。特別な物質は一つも出てきません。つまり「不足」の欄と「解毒機能」の欄は、同じ材料を見ています。

    そして出す側には順番があります。上流の材料が足りていても、出口が滞っていれば行き場がない。逆に出口が動いていても、材料が足りなければ処理が進まない。

    「不足」は、足りない分を補う話であると同時に、出す力の話でもあります。結果の4つの欄が別々の採点ではないのは、こういうところです。

    12個を1つずつ埋めない

    ここから先は、実際に何を見るかです。12の栄養素を1つずつ埋めようとすると、サプリメントが12本必要になります。そうはなりません。上の表のとおり、供給源が重なっているからです。

    「不足」の欄に4つ5つ並んでいても、動かす場所は1つか2つで足りることが多いということです。

    今日できるのは、「不足」に並んだ名前を、重なっている食品の表に当てることです。レバー・ナッツ・豆類・魚・海藻のうち、自分の「不足」にいちばん多く関わっている行が1つ見つかります。そこが、いちばん少ない手数で動く場所です。

    参考文献・参考資料

    1. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 各論 ミネラル(多量ミネラル) https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316468.pdf(ナトリウム、カルシウム pp.255-256、マグネシウム pp.261-262)
    2. 日本内分泌学会・日本骨代謝学会・厚生労働省難治性疾患克服研究事業ホルモン受容機構異常に関する調査研究班. ビタミンD不足・欠乏の判定指針. 日本内分泌学会雑誌. 2017;93(Suppl):1-10. https://jsbmr.umin.jp/guide/pdf/vitaminDmanual2017.pdf J-STAGE
    3. 日本臨床栄養学会編『亜鉛欠乏症の診療指針2024』 https://www.jscn.gr.jp/pdf/aen2024.pdf
    4. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 各論 ビタミン(水溶性ビタミン)葉酸 p.208 https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316467.pdf
    5. RESONA-LAB 検査結果報告書(人用・試供品サンプル)の記載による。報告書の見本は公式サイトで公開されています https://resona-lab.com/humans

    本記事は栄養素の指標と検査項目の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の検査・製品・サプリメントの効果を示すものでも、実施や使用を勧めるものでもありません。どの検査が必要かは症状と状況によって異なります。

  • 合わない食品が何十品目も出ても、全部やめてはいけない

    合わない食品が何十品目も出ても、全部やめてはいけない

    合わない食品が何十品目も出ても、すべてを一度にやめてはいけません。やめること自体に、栄養・生活・再開のしやすさという三方向のコストがあるためです。

    とくに三つめが知られていません。食べない期間が長引くほど、再開のハードルは上がります。

    やることは逆で、1品目ずつ、やめて、戻して確かめる。手順は単純です。

    この記事は食品の欄だけを扱います。結果全体をどう受け取るかは、別の記事で整理しました。

    「不耐性」は、アレルギーとは別のもの

    食べ物で起きる不調は、免疫が関わるものと、関わらないものに分かれます。この分かれ方は別の記事で整理しました。

    命に関わる反応が起きるのは、免疫が関わる側です。じんましん、唇や喉の腫れ、息苦しさ、繰り返す嘔吐。これらは不耐性ではなく、免疫が関わる側の反応です。この記事の「やめて、戻して確かめる」手順は、そこには使えません。少量から試すという方法そのものが危険になります。

    やめることには、コストがある

    「合わないなら、やめておけば安全」と考えたくなります。ただ、除去には三方向のコストがあります。

    栄養。野菜・果物・魚・肉・穀物にまたがって除くと、そこから摂っていたものが同時に抜けます。何十品目を一度に外すと、残る選択肢はかなり狭くなります。

    生活。外食、会食、家族と同じ食卓、旅行。食べられないものが増えるほど、日常の選択肢が減ります。検査値には出ませんが、毎日効いてきます。

    戻しにくくなること。食べない期間が長引くほど、再開のハードルは上がります。

    確かめられているのはアレルギーの領域で、不耐性そのものではありません。それでも、避け続けることの向きを示す結果ではあります。ピーナッツアレルギーのリスクが高い乳児640名を、生後11か月未満から「食べる群」と「避ける群」に無作為に分けた試験では、5歳時点のアレルギー発症率は避けた群のほうが高くなりました1。

    これは乳児のアレルギー発症を防ぐ話で、大人が食品を外して戻す話ではありません。そのまま当てはめることはできません。ただ、避けることが自動的に安全側とは限らない、という考え方が医療の中にあることは知っておく価値があります。

    診療の側は「全部やめない」方向へ動いている

    もう一つ、除去を実際に運用している診療科の手順があります。金属アレルギーの金属制限食です。

    皮膚科では、金属アレルギーが疑われる患者にニッケル・コバルト・クロムを減らした食事を指導することがあります。その運用に、3つの条件が書かれています6。

    金属制限食に置かれている条件
    条件 理由
    2ヶ月続けて無効なら、速やかに中止する 効かない除去を続ける理由がない
    厳格すぎる制限は避ける 微量元素欠乏症をきたす可能性がある
    必ず医師の指導のもとで行う 制限する対象に必須金属が含まれるため

    ここに「期限」があることに注目してください。始めるときに、やめる条件が決まっています。

    制限の対象になるのは、豆類、木の実、穀類、チョコレート、ココア、紅茶、貝類、レバー、胚芽6。そのまま鉄・亜鉛・銅の供給源です。減らす対象が、そのまま栄養の供給源になっている。だから期限が要ります。

    不耐性の欄に何十品目も並んだときも、構造は同じです。金属の側でも、この順番が決まっています——先に食事を2ヶ月、それで動かなければ次を考える。先に全部を外す、という手順はどこにも出てきません。

    日本小児アレルギー学会の『食物アレルギー診療ガイドライン2021』は、食物経口負荷試験によって完全除去を回避することを推奨度1として示しています2。食物経口負荷試験とは、医療機関で少量から実際に食べてみて、どこまでなら症状が出ないかを確かめる検査です。

    そこで使われるのは、食べるか食べないかの二択ではなく、量の段階です。

    食物経口負荷試験で使われる量の段階。少量・中等量・日常摂取量の三段階で確かめる
    「食物経口負荷試験の手引き2020」による総負荷量の例。牛乳なら少量1〜3mL、中等量10〜50mL、日常摂取量100〜200mLと段階が置かれています2。

    診断がついたアレルギーですら、いま目指されているのは「全部やめない」ことです。

    これは不耐性についての推奨ではありません。ただ、確かめる手段があって診断もついている側でさえ完全除去を避ける方向にあるなら、診断のついていない「合わない」に対して、いきなり完全除去から入る理由は見当たりません。

    自分の感覚だけでは、犯人を決められない

    「この食品で不調になる」という自覚が、実際にその食品によるものかどうか。ここは、思っているより難しいところです。

    英国で成人20,000人に尋ねた調査では、食物不耐性を自覚していた人は約20%でした。そのうち希望者に対して、本人にも研究者にも中身が分からない状態で確かめたところ、実際に再現性のある反応が出たのは1.4〜1.8%でした3。

    グルテンでも同じことが起きています。自分でグルテンが合わないと考えている人を対象にした試験で、グルテンに特異的な反応が確認できたのは8%でした4。この構造は別の記事で詳しく扱いました。

    症状は実際に起きています。難しいのは、そこから原因を一つに名指しするところです。

    だから、確かめる手順が要ります。思い当たった食品をそのまま犯人と決めて除去を広げると、症状は残ったまま、食べられるものだけが減ります。

    結果に並んだ品目も同じです。そのまま除去リストとして使うのではなく、どれから確かめるかの順番を決める手がかりとして使うほうが、外れが少なくなります。

    では、どう確かめるか

    この手順には、診療ガイドラインに載っている形があります。低FODMAP食は、続ける食事ではなく、合わないものを見つけるための手順です。期間を決めて減らし、1つずつ戻して比べます。

    手順は単純です。

    1. いま実際に困っている症状があるか

    ここから始めます。症状がなく日常生活で困っていない場合は、結果だけを理由に食生活を一度に大きく変える必要はありません。検査結果に項目が並んでいることと、症状があることは別です。

    2. 心当たりのある1〜2品目に絞る

    結果に並んだ順ではなく、自分の実感で選びます。同時に複数を変えると、何が効いたのか分からなくなります(一度に一つだけ変える)。

    3. やめて、戻して、比べる

    外して記録し、そのあと戻して記録します。1回では偶然と区別がつきません。可能なら、もう一度繰り返します。

    外す期間に決まった正解はありません。日をまたいで出る症状なら2週間ほどが実務的な目安になりますが、大事なのは長さより、戻したときに症状が返ってくるかどうかまで見ることです。やめて楽になっただけでは、その食品のせいだと決められません。

    見るのは三つです。量(少しなら平気か、たくさんだと出るか)、時間差(食べてすぐか、翌日か)、再現性(毎回同じことが起きるか)。この三つが揃うと、対応関係の確からしさが上がります。

    4. 記録は日付と時刻で残す

    「なんとなく調子が悪い」では比べられません。何を、いつ、どれだけ食べて、いつ、どんな症状が出たか。検査値が動いていないとき、記録できるのは症状のほうだけです。

    自分で試さないほうがいい場合

    次に当てはまる場合は、この手順を自分で行わないでください。

    自己判断で除去・再開を行わないほうがよい場合
    状況 理由
    じんましん、唇や喉の腫れ、息苦しさ、繰り返す嘔吐がある 免疫が関わる反応の可能性。再開時に強い反応が出ることがある
    子どもの食事 除去が成長と栄養に影響しうる。医師・管理栄養士と決める
    妊娠中・授乳中 必要量が変わる時期にあたる
    すでに食べられる食品が少ない さらに外すと栄養の幅が確保できない
    体重が意図せず減っている、発熱が続く、血便がある 食品とは別の原因を先に確かめる必要がある

    免疫が関わる側は、別の枠になる

    「合わない」の中身が免疫の側なら、確かめ方も対応も変わります。検査ごとに答えている問いが違うのは、ここでも同じです。

    食品との関係を確かめる主な方法
    調べたいこと 方法
    免疫が関わるアレルギーか 特異的IgE検査、皮膚プリックテスト
    どこまでなら食べられるか 食物経口負荷試験
    乳糖を分解できているか 呼気水素試験
    セリアック病か 血液の抗体検査、内視鏡

    一方、食物に対するIgG抗体を測る検査を見かけることがありますが、欧州アレルギー・臨床免疫学会のタスクフォースは2008年、これを食物アレルギーの診断ツールとして推奨しないという立場を示しています5。IgGは、その食品を食べていることを反映する正常な反応でもあるためです。

    減らすのではなく、絞る

    検査結果に多くの品目が並ぶと、選択肢が減ったように感じます。ただ、そこに書かれているのは「食べてはいけないもの」の一覧ではありません。

    実際に困っている症状があるなら、確かめる対象は1つか2つで足ります。症状がなければ、結果だけを理由に食生活を一度に大きく変える必要はありません。乳糖不耐症のように機序がはっきりしている例でも、量によって出方が変わります。

    食べられるものを減らす方向ではなく、対象を絞る方向へ。結果の使い方としては、そちらのほうが手戻りがありません。

    参考文献・参考資料

    1. Du Toit G, Roberts G, Sayre PH, et al. Randomized trial of peanut consumption in infants at risk for peanut allergy. New England Journal of Medicine. 2015;372(9):803-813. doi:10.1056/NEJMoa1414850 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25705822/
    2. 海老澤元宏. ガイドラインのワンポイント解説「食物アレルギー診療ガイドライン2021 小児〜成人まで」. アレルギー. 2022;71(10):1195-1200. https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/71/10/71_1195/_pdf/-char/ja ガイドライン本体:日本小児アレルギー学会『食物アレルギー診療ガイドライン2021』協和企画, 2021年(Minds)
    3. Young E, Stoneham MD, Petruckevitch A, Barton J, Rona R. A population study of food intolerance. Lancet. 1994;343(8906):1127-1130. doi:10.1016/s0140-6736(94)90234-8 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7910231/
    4. Biesiekierski JR, Peters SL, Newnham ED, Rosella O, Muir JG, Gibson PR. No effects of gluten in patients with self-reported non-celiac gluten sensitivity after dietary reduction of fermentable, poorly absorbed, short-chain carbohydrates. Gastroenterology. 2013;145(2):320-328.e3. doi:10.1053/j.gastro.2013.04.051 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23648697/
    5. Stapel SO, Asero R, Ballmer-Weber BK, et al. Testing for IgG4 against foods is not recommended as a diagnostic tool: EAACI Task Force Report. Allergy. 2008;63(7):793-796. doi:10.1111/j.1398-9995.2008.01705.x https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18489614/
    6. 足立厚子「金属アレルギーの対処法〜全身型金属アレルギーを中心に〜」アレルギー 2020;69(3):169-173. https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/69/3/69_169/_pdf

    本記事は検査結果の扱い方と、確かめ方の手順を整理したものであり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の製品・サプリメントの効果を示すものでもありません。

  • 検査結果を受け取ったら、まず何から手をつけるか

    検査結果を受け取ったら、まず何から手をつけるか

    レポートは4つの欄に分かれていますが、答えている問いは1つです。報告書の最後に、こう書かれています。

    検査で測るビタミン・ミネラルは、排出経路の鍵を握る栄養素。つまり、「何が溜まっているか」だけでなく、出す力(排出力)が足りているかまでわかります。1

    入ってくるものと、出す力。4つの欄は、この2つを別々の角度から見たものです。だから「不足栄養素」と「解毒機能」は、別々の採点ではありません。

    入ってくるものと、処理して出す力の両方で体に残る量が決まることを示す図
    同じものを同じだけ食べても、体に残る量は人によって変わります。入れた量だけを数えても、いま自分の中にどれだけあるかは決まりません。

    欄ごとに、どこまで数字があるか

    4つの欄は、公的な基準や調査がどこまで存在するかが、それぞれ違います。同じ「該当あり」でも、次に何ができるかが変わります。

    欄ごとの、外にある数字
    欄 外にある公的な数字
    食品不耐性(消化難) 診療ガイドラインは完全除去を回避することを推奨度1で示している
    体内蓄積(重金属) 魚種ごとの摂食目安、水質基準、耐容週間摂取量。水銀は体内の量が半分になるまで約2ヶ月
    体内蓄積(添加物) 一日摂取許容量。日本人の実際の摂取量は、最も高いものでその17.2%
    体内蓄積(プラスチック) ない。報告書の欄も「準備中・・・」
    解毒機能 生理学として経路が確立。胆汁が重金属の主要排泄経路
    不足ビタミン・ミネラル 食事摂取基準。ただし血液で確かめられるものと、できないものがある

    欄ごとの詳しい記事は、この記事の最後にまとめています。

    並べると、プラスチックの欄だけが空いていることが見えます。これは体の側ではなく、測る技術の側の話です。

    解毒機能は、3つに分かれている

    解毒機能の欄には、総合評価のほかに腸・肝臓・腎臓それぞれのA〜Eがあります1。3つが同じとは限りません。

    この3つは、担当している出口が違います。腎臓は尿、腸は便。そして肝臓は、尿から出せないものを胆汁に乗せて腸へ送り出す側です。

    だから順番があります。肝臓が送り出しても、腸の通過が滞っていれば出ていきません。3つの評価が違うときは、出口に近いほうから見ます。

    「不足」の欄は、出す力の欄でもある

    報告書は、各栄養素について「解毒への関与」という欄を設けています1。12の栄養素すべてにあります。

    つまり不足の欄と解毒機能の欄は、同じものの両側です。処理して外へ出す反応には材料が要る。その材料が、測っている栄養素だということです。

    反応の中身は物質名まで分かっています。第I相はシトクロムP450による酸化、第II相でグルクロン酸や硫酸、アミノ酸をくっつけて水に溶ける形にする。特別な物質は一つも出てきません。糖とアミノ酸です。

    だから「不足」の欄は、12個を1つずつ埋めるものではありません。重なっている供給源を先に置くほうが早く届きます。

    報告書の「やること」を、数字に置き換える

    報告書には、欄ごとに「〜する方法」が書かれています。どれも方向だけで、数字はありません。その数字がどこにあるかを並べます。

    報告書の記述と、対応する数字
    報告書の記述 数字がある場所
    不足栄養素を補う 血液で線が引けるのはビタミンD・亜鉛・鉄・葉酸。カルシウムとマグネシウムは食品の側から
    不耐性食品を避けた食生活 全部やめない。1品目ずつ、やめて戻す。期限を先に決める
    蓄積が多いモノを避ける 入口は9種それぞれ違います。歯科金属、装身具、たばこ、缶、魚、水道
    水分をしっかり摂る 日本に水の目安量はない。見るのは渇きと尿の色。そして蛇口の最初の5分
    適度な運動で汗をかく 汗中の濃度は報告されている。ただし出どころが血液と皮膚の2つあり、分けられない
    肝機能を高める食事 上流だけ速めると中間代謝物が溜まります。出口が先です。人での試験があるものは限られます

    最後の2つは、はっきりさせておく価値があります。「汗で出す」と「肝機能を高める」は、方向としては挙げられていますが、どちらも人で確かめられた手順があるわけではありません。

    入口は、今日その場で数えられる

    結果を受け取ったあとに、いちばん早く動くのは蓄積の欄です。入口が分かっているからです。

    報告書の説明ページには、10の入口が挙げられています。水道水、大型の魚、化粧品・日焼け止め、プラスチック容器、缶、加工食品、撥水加工の生活用品、歯の治療、医療処置、喫煙1。

    このうち、思い出すのではなく、今日その場で確認できるものがあります。

    いま確認できる入口
    確認すること どこを見るか
    口の中に金属があるか 鏡。保険診療の銀歯は金12%・パラジウム20%・銀40%以上の合金
    肌に当たり続けている金属があるか 眼鏡フレーム、腕時計、バックル、ピアス
    缶の飲料を毎日飲むか この1週間の本数。公的に書かれているのは「毎食缶詰を中心にしない」まで
    大型の魚を週に何回食べるか 妊娠中は魚種ごとに目安があります。それ以外の人への制限はありません
    たばこを吸うか この1週間の本数。1本1.8〜2.8µg。吸入は肝臓を通らない
    日焼け止めが散乱剤か吸収剤か 成分表示。血中に出ることが測られているのは吸収剤のほう

    そして変えたら、2ヶ月です。厚生労働省が水銀について書いている体内半減期がその長さで、1週間で見ようとすると何も起きていないように見えます。

    ただしこの速さは物質によって100倍以上違います。カドミウムは腎皮質での半減期が20〜50年です。すでに溜まった分より、これから入る量のほうが動かせます。

    症状の一覧が当てはまったとき、どう受け取るか

    報告書には、欄ごとに「〜が悪いと?」「不足すると」という症状の一覧が添えられています。疲労感、集中力の低下、肌荒れ、眠気。

    これらは、一般の人の9割が週に何個か経験している症状です。調査では、過去7日間に症状がまったくなかった人は10.6%、経験した数の中央値は5個でした。

    実際、報告書の4つの欄は、ほとんど同じ症状を挙げています。1つの欄に当てはまったのではなく、4つ全部に当てはまります。だから当てはまったことからは、どの欄が該当するかは決まりません。

    決まるのは、上の入口の表のほうです。口の中に金属があるかどうかは、当てはまる・当てはまらないではなく、あるかないかです。

    項目ごとに、詳しく

    入口と出口の全体像は、入ってくるものと、出す力にまとめています。

    安全のための補足

    服用中の薬を、自分の判断で減らしたりやめたりしないでください。中止したときに何が起きるかまで含めて、処方した側が判断するものです。

    症状が続いている、悪化している、日常生活に支障が出ている。そういうときは、この結果を読んでいる場合ではありません。体重が意図せず減っている、発熱が続いているときも同じです。検査の結果より、いま起きていることのほうが先です。

    そして自己判断の「排出」は行わないでください。金属を出す薬は中毒と診断がついた場合の治療薬で、診断のないまま使われて死亡した例が報告されています。

    今日、決めること

    4つの欄を同時に動かそうとすると、どれも中途半端になります。今月変えるものを、1つだけ選びます。

    欄ごとの、最初の1つ
    気になった欄 今月の1つ
    食品不耐性 印の付いた中から1〜2品目だけ外して、2週間後に戻す
    体内蓄積 入口の表から、自分に当てはまるものを1つ閉じる
    解毒機能 腸・肝臓・腎臓のうち低かった1つを1週間記録する
    不足栄養素 重なっている供給源を先に置く。12個を1つずつ埋めない

    どれを選んでも構いません。選ばないことだけが、何も変わらない選択です。

    そして結果は、いまの状態の記録です。水銀なら体内の量が半分になるまで約2ヶ月。今月変えたことは、来月以降の数字の側にあります。

    参考文献・参考資料

    1. RESONA-LAB 検査結果報告書(人用・試供品サンプル)の記載による。報告書の見本は公式サイトで公開されています https://resona-lab.com/humans

    本記事は検査結果報告書の記載事項の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。検査は疾病の診断や治療を目的とするものではなく、健康管理の参考情報を提供するものです。特定の製品・サプリメントの効果を示すものでも、使用を勧めるものでもありません。

  • 家庭の血圧計を、どう使えば意味があるか

    家庭の血圧計を、どう使えば意味があるか

    診察室では正常なのに、家で測ると高い。この仮面高血圧が18%に見つかっています。診察室でしか測っていない人は、一生見つかりません。

    もう一つあります。家庭血圧の基準は135/85で、診察室の140/90より5低く設定されています。家で138なら、それは高血圧の範囲です。「140を超えていないから大丈夫」は、家の数値には当てはまりません。

    家庭用の血圧計は、朝は128、夜は141、翌朝は133と、測るたびに違う値を出します。どれも本当の値です。見るのは1回の値ではなく、7日分の平均ひとつだけです。

    測り直すと、これくらい動く

    同じ人を繰り返し測ったときに値がどれくらいばらつくかは、実際に測定されています。

    同じ人を測り直したときの収縮期血圧のばらつき。診察室で1回は11.0mmHg、家庭で2日ぶんは6.9mmHg
    未治療の高血圧者133名で、診察室血圧(5回)・家庭血圧(6日)・24時間自由行動下血圧(2回)の再現性を比較した研究。数値は反復測定差の標準偏差です1。

    診察室で1回測った値は、測り直すと標準偏差で11mmHgほど動きます。128と141の差は、この範囲に収まります。

    家庭血圧のほうがばらつきが小さいのは、環境が一定で、回数を重ねられるからです。

    診察室と家庭では、基準が違う

    ここは知られていないことが多い部分です。

    同じ「138」でも、診察室なら高血圧ではなく、家庭なら高血圧の範囲に入ります。数値を見るときは、どちらで測ったものかを分ける必要があります。

    そして判定が分かれたとき、ガイドラインは家庭血圧による診断を優先するとしています2。診察室血圧が無意味という意味ではなく、リスクの評価には引き続き使われます。

    ずれには、二つの型がある

    診察室と家庭で値がずれること自体に、名前がついています。

    診察室血圧と家庭血圧のずれ
    型 診察室 家庭
    白衣高血圧 高い 正常
    仮面高血圧 正常 高い

    問題になりやすいのは後者です。仮面高血圧は、診察室でしか測っていなければ見つかりません。26研究129,061名を統合した解析では、18%にみられたと報告されています3。

    白衣高血圧のほうも「問題なし」ではありません。11研究をまとめた解析によれば、そのまま高血圧へ進む人が2.85倍多くなっていました4。

    ただしこれは相対的な比較で、元の頻度が示されていません。何%が何%になるのかまでは、この数字からは分かりません。

    共通しているのは、どちらの型も片方だけを測っていると見つからないということです。診察室と家庭の両方があって、初めてずれが見えます。

    何回測れば十分なのか

    この問いには、少し意外な答えが出ています。

    地域住民1,491名を平均10.6年追跡した研究では、家庭血圧から脳卒中の起こりやすさをどれだけ言い当てられるかは、測る回数を増やすほど上がり続け、ここで打ち切ってよいという回数は見つかりませんでした5。初回1回だけの値でも診察室血圧より予測はよく、全測定の平均(平均25回)で最もよくなりました。

    「何回で十分か」ではなく「多いほどよい」というのが、この研究の答えです。

    ガイドラインは実務的な線を引いていて、朝晩それぞれ7日間(最低5日間)の平均で判定するとしています2。

    測り方の条件

    ばらつきを減らすには、条件をそろえることが効きます。ガイドラインが示している条件はこうです2。

    家庭血圧の測定条件
    条件
    朝 起床後1時間以内/排尿後/服薬前/朝食前/座位1〜2分の安静後
    晩 就床時/座位1〜2分の安静後
    回数 原則1機会2回測り、2回の平均をとる
    機器 上腕にカフを巻くタイプ
    姿勢 背もたれのある椅子、脚を組まない、カフは心臓の高さ
    記録 すべての測定値を記録する

    機器について、ガイドラインは上腕式を使うとしています。手首式は、心臓との高さの差の補正が難しく、手首の構造上、動脈を完全に圧迫しにくいため、値が不正確になりやすいと説明されています2。

    「すべての測定値を記録する」も条件に入っています。高い日だけ、あるいは低い日だけを覚えておくと、平均が動いてしまうからです。

    この条件を実際の手つきで見ておくと、自分の測り方のどこがずれているか分かります。


    高い日があっても、その1回では決まらない

    ガイドラインは、高血圧の診断は異なる複数の機会の測定に基づいて行うとしています2。1日高い値が出たことと、高血圧であることは別です。

    だから、1回の数値で決めずに、続けて測ります。朝と晩、同じ条件で記録を残す。それが判断に使える形になります。

    日本では、高血圧のある人のうち相当数が自覚していないと推計されています2。仮面高血圧が家庭でしか見つからないことを考えると、測って記録することは、見つけるための手段でもあります。

    やることは、14回分の平均を出すだけ

    この形——決まった条件で測り、決まった回数を平均し、決まった線と比べる——は、健康の話のなかでは例外的にはっきりしています。

    比べてみると分かります。カルシウムやマグネシウムが足りているかは、血液の数値では判定できません。「免疫力」という一つの数値は、医療の中に存在しません。マイクロプラスチックは、比べられる形で測れていません。

    測れるものは、少ないほうです。だから測れるものについては、測って記録する価値があります。

    朝、起きて1時間以内。トイレを済ませて、朝食と薬の前に、座って1〜2分待ってから2回測る。晩、寝る前に座って2回測る。これを7日。

    その14回の平均が135/85を超えていれば、家庭血圧としては高血圧の範囲です。診察室で何と言われていたかとは別に、この数字は存在します。そして判定が分かれたとき、ガイドラインが優先するのはこちらでした。

    健診の数値は年に一度きりですが、この14回は今週から自分で作れます。1回の値に意味はありません。意味があるのは平均ひとつです。

    参考文献・参考資料

    1. Stergiou GS, Baibas NM, Gantzarou AP, et al. Reproducibility of home, ambulatory, and clinic blood pressure: implications for the design of trials for the assessment of antihypertensive drug efficacy. American Journal of Hypertension. 2002;15(2 Pt 1):101-104. doi:10.1016/s0895-7061(01)02324-x https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11863243/
    2. Ohya Y, Arakawa K, Arata N, et al. The Japanese Society of Hypertension Guidelines for the management of elevated blood pressure and hypertension 2025 (JSH2025). Hypertension Research. 2026;49(1):9-235. doi:10.1038/s41440-025-02462-y https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41476123/ 学会案内:https://www.jpnsh.jp/guideline.html
    3. Zhu H, Li J, Li L, et al. Prevalence and Cardio-Renal Comorbidities of Masked Hypertension: A Meta-Analysis. Journal of Evidence-Based Medicine. 2024;17(4):833-842. doi:10.1111/jebm.12672 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39722158/
    4. Fujiwara T, Matsumoto C, Asayama K, Ohkubo T, Hoshide S. Are the cardiovascular outcomes of participants with white-coat hypertension poor compared to those of participants with normotension? A systemic review and meta-analysis. Hypertension Research. 2019;42(6):825-833. doi:10.1038/s41440-019-0254-2 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30971805/
    5. Ohkubo T, Asayama K, Kikuya M, et al. How many times should blood pressure be measured at home for better prediction of stroke risk? Ten-year follow-up results from the Ohasama study. Journal of Hypertension. 2004;22(6):1099-1104. doi:10.1097/00004872-200406000-00009 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15167443/

    本記事はガイドラインと研究状況の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の製品の効果を示すものでもありません。高血圧の診断、治療の要否と方針は医師の判断によります。降圧薬を服用中の方は、自己判断で中止・変更しないでください。

  • 同じ「LDL 140」が、人によって目標内にも目標超えにもなる

    同じ「LDL 140」が、人によって目標内にも目標超えにもなる

    健康診断で「LDLコレステロールが高い」と言われた。ただ、同じ140でも、人によって目標内にも目標超えにもなります。その分かれ目を整理します。

    ただ、日本動脈硬化学会のガイドラインを見ると、管理目標値は一律ではありません。同じ140でも、ある人には目標内、別の人には目標超えになります。

    目標値が3つある

    『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』では、まだ心筋梗塞や脳梗塞を起こしていない人(一次予防)について、リスク区分ごとに目標値を分けています1。

    一次予防でのLDLコレステロール管理目標値。低リスク160未満、中リスク140未満、高リスク120未満
    糖尿病があり末梢動脈疾患や細小血管症を合併している場合、または喫煙している場合は100未満とされています。既に心筋梗塞などを起こした人(二次予防)は100未満、条件によっては70未満です1。

    健診結果に印刷されている「140以上」という線は、脂質異常症を拾い上げるためのスクリーニング値です。ガイドラインはこれとは別に、区分ごとの目標値を置いています。

    何で区分が決まるのか

    区分を決めるのに使われているのが、久山町研究のデータから作られたスコアです。入力するのは6つ1。

    リスク区分の判定に使われる項目
    項目 内容
    性別 男性のほうが点数が高い
    収縮期血圧 5段階
    糖代謝異常 糖尿病そのものは別扱い
    LDLコレステロール 4段階
    HDLコレステロール 3段階
    喫煙 現在喫煙しているか

    出てくるのは10年間で動脈硬化性疾患を発症する確率です。2%未満なら低リスク、2%以上10%未満なら中リスク、10%以上なら高リスクとされています1。

    LDLは6つのうちの1つです。健診の数値が一つ範囲を外れたことと、リスクが高いことは、同じではありません。

    なぜ一律にできないのか

    理由は、薬でLDLを下げたときの効果の出方にあります。

    スタチンの臨床試験90,056名分を統合した解析によれば、LDLを1mmol/L(約39mg/dL)下げると、主要な血管イベントは約2割減ります。ここまでは、もともとのリスクが高い人でも低い人でも、ほぼ同じ割合です2。

    違うのは、その2割が何人分かのほうです。

    LDLを1mmol/L下げたとき、1,000人あたりの主要血管イベント減少数。冠動脈疾患の既往ありで48人、既往なしで25人
    5年間で1,000人あたり、冠動脈疾患の既往がある人では48人(95%信頼区間 39〜57)、既往がない人では25人(19〜31)の減少2。

    同じ「2割減」でも、実際に減る人数は倍違います。これは相対リスクと絶対リスクの違いです。目標値を一律にできないのは、割合が同じでも、得られるものの大きさが人によって違うからです。

    「低ければ低いほどよい」はどこまでか

    「低ければ低いほどよい」という言い方を、ガイドラインは場面ごとに使い分けています。

    二次予防、つまり既に心筋梗塞などを起こした人については「the lower, the better であることが示唆される」と書かれています1。

    一方で一次予防の目標値は、低リスクで160未満、中リスクで140未満です。低いほどよいという方針にはなっていません。ガイドラインは、低・中リスクではLDLの低下率20〜30%も目標になりうるとしています1。

    日本人のデータについても留保があります。LDLの上昇は脳梗塞に対して正の関係が示される一方、出血性脳卒中に対しては負の関係が報告されています1。低い側にも目を配る必要がある、ということです。

    食事のコレステロールは、どこまで気にするか

    ここも誤解が定着している部分です。

    食事摂取基準2025年版は、コレステロールの目標量(上限)を設定していません。ただし理由の書き方が重要で、こう続きます。

    これは、許容されるコレステロール摂取量に上限が存在しないことを保証するものではないことに強く注意すべきである3。

    そして同じ報告書は、脂質異常症の重症化予防の目的では、コレステロールの摂取量を200mg/日未満に留めることが望ましいとしています3。

    油の種類そのものについては、5種類を脂肪酸組成とエビデンスで並べています。飽和脂肪酸を植物油に置き換えること自体には、心血管上の利点が示されています。

    健常な集団に一律の上限は置かないが、既にLDLが高い人には制限が推奨されています。対象が違うので、この2つは矛盾していません。「食事のコレステロールは関係ない」という単純化は、どちらの資料も支持していません。

    結果を持って、何を話すか

    ちなみに区分に使う項目のうち、血圧は自分で測れます。測り方と、診察室との基準の違いには注意がいります。

    健診で数値を指摘されたとき、確かめられるのは次のあたりです。

    血圧、喫煙、糖代謝、HDL。区分はLDL単独では決まりません。過去の結果と並べて動きを見ることも、一点の値では分からないことを補います。

    そのうえで、区分の判定と治療の要否は医師の判断です。学会は一般向けのリスク計算ツールを公開しています。これは診断ではなく、診察室で同じ数字を見ながら話すためのものです。

    ガイドラインは、いずれの区分でもLDLが180以上の場合は薬物治療を考慮するとしています1。この記事は、治療方針について判断するためのものではありません。

    数値の意味は、その人の中で決まる

    この考え方は、LDLに限りません。

    基準範囲は、健康な人の値の真ん中95%を切り取った線であって、正常・異常を区別する値ではないと、学会のガイドラインが明記しています。そして数字の大きさは、何と比べるかで見え方が変わります。

    どの数値についても、確かめることは3つです。何を測ったか。何と比べた数字か。自分の他の条件と合わせてどうか。

    「LDL 145」という数値だけでは、良いも悪いも決まりません。同じ145が、低リスクの人では目標の範囲内で、高リスクの人では目標を超えています。

    そして薬で下げたときに得られるものの大きさも、もともとのリスクによって倍違いました。

    健診の紙に印刷された線は、拾い上げのための線です。その先は、線を超えたかどうかではなく、自分がどの区分にいるかの話になります。

    区分を出すのに要る項目は、上の表のとおりです。性別、収縮期血圧、糖代謝異常の有無、LDL、HDL、喫煙。健診の結果票に、ほとんど載っています。

    足りないとすれば血圧です。健診の値は年1回の1点なので、家庭で朝晩1週間測った平均のほうが、自分の値に近くなります。結果票を出してきて、6つのうち埋まっていないものを確かめるところからです。

    参考文献・参考資料

    1. 日本動脈硬化学会編『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』2022年(第3版 2023年2月) https://www.j-athero.org/jp/jas_gl2022/
    2. Baigent C, Keech A, Kearney PM, et al. Efficacy and safety of cholesterol-lowering treatment: prospective meta-analysis of data from 90,056 participants in 14 randomised trials of statins. The Lancet. 2005;366(9493):1267-1278. doi:10.1016/S0140-6736(05)67394-1 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16214597/(訂正記事:Lancet 2005;366(9494):1358、Lancet 2008;371(9630):2084)
    3. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 脂質 https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316463.pdf
    4. 厚生労働省「令和6年国民健康・栄養調査結果の概要」 https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001603146.pdf
    5. 厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」III 世帯員の健康状況 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/dl/04.pdf

    本記事はガイドラインと公的統計の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の製品・サービスの効果を説明するものでもありません。リスク区分の判定、および治療の要否と方針は医師の判断によります。