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  • 「不足」と出た栄養素を、少ない手数で埋める

    「不足」と出た栄養素を、少ない手数で埋める

    「不足」と出た栄養素は、出す側にも効いています。足りない分を補うだけの話ではありません。

    体が不要なものを処理して外へ出すとき、第II相で別の分子をくっつけて水に溶ける形に変えます。そのくっつけるものは、グルクロン酸ならグルコース、メチル基ならメチオニン、硫酸なら含硫アミノ酸。すべて糖とアミノ酸から作られます。

    つまり足りなければ、処理が滞ります。「不足」の欄は、入れる側の話に見えて、出す側の材料の話でもあります。

    なぜ、測っても分からないのか

    カルシウムとマグネシウムは、血液検査で測れます。それでも、その値からは足りているかが分かりません。理由は、体の作りにあります。

    カルシウムの99%は骨と歯にあり、血液中は約1%。血中が下がると骨から溶け出して元に戻るため、血液の値は保たれる
    『日本人の食事摂取基準(2025年版)』は、カルシウムの99%が骨及び歯に存在し、血中濃度が低下すると副甲状腺ホルモンの分泌が増えて主に骨から溶け出し、元の濃度に戻ると記しています1。

    血液中のカルシウム濃度は8.5〜10.4 mg/dLという狭い範囲に保たれています。下がりそうになると、骨から補われて元に戻ります。つまり血液の値は、蓄えが減っていても正常のままでいられます。

    マグネシウムも同じ構造です。体内には約25gあり、その50〜60%が骨に存在します。血清濃度が低下すると、腎臓での再吸収が増えると同時に、骨からマグネシウムが遊離して使われます1。

    だから食事摂取基準は、これらの必要量を血液検査からではなく、体内蓄積量・尿中排泄量・経皮的損失量を積み上げる方法や、摂った量と出た量の差を測る出納試験から算出しています1。

    報告書はマグネシウムについて、「マグネシウムの不足や欠乏を招く摂取量を推定することは難しい」とはっきり書いています1。

    この3つは、測れば答えが出る

    血液の値が蓄えをよく反映する栄養素もあります。こちらには、学会が定めた判定の基準まであります。

    ビタミンD

    血中25(OH)D濃度を測ると、足りているかどうかが数値で分かります。30 ng/mL以上で充足、20 ng/mL未満で欠乏。日本内分泌学会と日本骨代謝学会が2017年に公表した判定指針の線引きです2。

    亜鉛

    日本臨床栄養学会の『亜鉛欠乏症の診療指針2024』は、血清亜鉛値について60 µg/dL未満を亜鉛欠乏症、60〜80 µg/dL未満を潜在性亜鉛欠乏としています3。測定は早朝空腹時が望ましいとされています。時間帯や食事で値が動くためです。

    鉄

    鉄には二段構えの指標があります。ヘモグロビンが貧血の有無を、フェリチンが貯蔵鉄の量を反映します。ヘモグロビンが正常でも貯蔵鉄が減っている状態はありうるため、この二つは別に見ます。

    ただしフェリチンは炎症や感染で上がるため、一点の数値だけでは読めません。読める人と一緒に見る意味がある検査です。

    葉酸

    葉酸も血液で測れますが、何を測るかで意味が変わります。食事摂取基準は、体内の葉酸の栄養状態を表す指標として「短期的な指標である血清中葉酸ではなく、中長期的な指標である赤血球中葉酸濃度」に関する報告を基に検討した、と記しています4。

    直前に食べたものが血清の値を動かします。習慣的に足りているかを見るなら、赤血球のほうです。

    一覧にすると、こうなる

    栄養素ごとの、医療機関での確かめ方
    栄養素 血液の値で足りているか分かるか 測る項目・注意
    ビタミンD 分かる 血中25(OH)D。学会の判定指針あり
    亜鉛 分かる 血清亜鉛。早朝空腹時。診療指針あり
    鉄 分かる ヘモグロビンとフェリチン。炎症で上がる
    葉酸 条件つき 血清は短期、赤血球は中長期の指標
    銅 条件つき 血清銅、セルロプラスミン
    カルシウム 分からない 血中は狭い範囲に保たれ、骨から補われる
    マグネシウム 分からない 同じく、腎での再吸収と骨からの遊離で保たれる
    カリウム・ナトリウム 分からない 血液の値は調節の結果。摂取量は尿から推定する
    ビタミンA・C・E — 一般の診療で測ることは多くない

    ナトリウムについては、確かめる方法が別にあります。食事摂取基準は、24時間尿中ナトリウム排泄量からナトリウム摂取量を推定することができると記しています1。血液ではなく尿を見る、という切り替えです。

    カルシウムとマグネシウムは、確かめようがない

    ここは、はっきりさせておいたほうがいい部分です。

    血液では分かりません。では食事記録ではどうか。こちらも、個人が自分でやって足りているかを判定できる精度にはなりません。食事摂取基準そのものが、これらの必要量を血液検査からではなく、体内蓄積量・尿中排泄量・経皮的損失量を積み上げる方法や出納試験から算出しています1。研究の設備で行う方法です。

    報告書はマグネシウムについて、「マグネシウムの不足や欠乏を招く摂取量を推定することは難しい」とはっきり書いています1。

    できるのは1つだけです。骨の状態が気になるなら、骨密度を測る。血液のカルシウム値ではなく、骨そのものを見る検査で、数値が出ます。

    測れないものは、入れる側から見る

    カルシウムとマグネシウムのように、血液で足りているかが分からない栄養素があります。そこで止まると、できることがなくなります。

    確かめられないなら、入れる側を決めるほうが早い。栄養素ごとに、主な供給源は決まっています。

    12の栄養素と、主な供給源5
    栄養素 主な食品
    ビタミンA にんじん、かぼちゃ、レバー
    ビタミンC 柑橘類、ピーマン、ブロッコリー
    ビタミンD 魚(鮭・いわし)、卵黄、きのこ類
    ビタミンE ナッツ、植物油、アボカド
    葉酸 緑黄色野菜、豆類、レバー
    カルシウム 乳製品、小魚、大豆製品
    マグネシウム ナッツ、海藻、豆類
    カリウム 果物(バナナ・メロン)、いも類、豆類
    ナトリウム 食塩、味噌、漬物
    鉄 赤身肉、レバー、ほうれん草
    亜鉛 牡蠣、肉、ナッツ
    銅 レバー、ナッツ、シーフード

    並べると、同じ食品が何度も出てきます。レバー、ナッツ、豆類、魚、海藻。数えると、この5つで12のうち10に関わっています。関わっていないのは、ビタミンC(柑橘類・ピーマン・ブロッコリー)とナトリウムだけです。

    重なっている食品と、関わる栄養素
    食品 関わる栄養素
    レバー ビタミンA、葉酸、鉄、銅
    ナッツ ビタミンE、マグネシウム、亜鉛、銅
    豆類 葉酸、カルシウム(大豆製品)、マグネシウム、カリウム
    魚 ビタミンD、カルシウム(小魚)
    海藻 マグネシウム

    埋める対象が12あるのではなく、重なっている5つを先に置くほうが早いということになります。血液で確かめられるかどうかに関係なく、入れる側は同じです。

    注意点が1つ。ナトリウムは日本人の場合、足りないより多い側にあるのが通常です。ここだけは増やす対象になりません。

    全部をどうにかしようとしない

    「不足」の欄に複数の栄養素が並んでいると、全部を埋めたくなります。

    そこは止めたほうがいい理由があります。結果に添えられた「不足するとこうなる」という症状の一覧は、ありふれた症状を並べたもので、たいていの人に当てはまります。当てはまったことは、原因がそれだと示していません。

    そして足すかどうかの前に、足りているかどうかという順番があります。並んだ項目を上から埋めても、どれが効いたのかは分かりません。一度に一つだけ変えるのは、ここでも同じです。

    「不足」と「出す力」は、同じ材料の話

    ここまでで、栄養素ごとの事情は分かれました。血液に反映されるもの、骨から補われて反映されないもの、尿から推定するもの。

    ただ、体の中での使われ方には共通するところがあります。

    不要なものを処理して外へ出すとき、くっつける材料は糖とアミノ酸から作られます。特別な物質は一つも出てきません。つまり「不足」の欄と「解毒機能」の欄は、同じ材料を見ています。

    そして出す側には順番があります。上流の材料が足りていても、出口が滞っていれば行き場がない。逆に出口が動いていても、材料が足りなければ処理が進まない。

    「不足」は、足りない分を補う話であると同時に、出す力の話でもあります。結果の4つの欄が別々の採点ではないのは、こういうところです。

    12個を1つずつ埋めない

    ここから先は、実際に何を見るかです。12の栄養素を1つずつ埋めようとすると、サプリメントが12本必要になります。そうはなりません。上の表のとおり、供給源が重なっているからです。

    「不足」の欄に4つ5つ並んでいても、動かす場所は1つか2つで足りることが多いということです。

    今日できるのは、「不足」に並んだ名前を、重なっている食品の表に当てることです。レバー・ナッツ・豆類・魚・海藻のうち、自分の「不足」にいちばん多く関わっている行が1つ見つかります。そこが、いちばん少ない手数で動く場所です。

    参考文献・参考資料

    1. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 各論 ミネラル(多量ミネラル) https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316468.pdf(ナトリウム、カルシウム pp.255-256、マグネシウム pp.261-262)
    2. 日本内分泌学会・日本骨代謝学会・厚生労働省難治性疾患克服研究事業ホルモン受容機構異常に関する調査研究班. ビタミンD不足・欠乏の判定指針. 日本内分泌学会雑誌. 2017;93(Suppl):1-10. https://jsbmr.umin.jp/guide/pdf/vitaminDmanual2017.pdf J-STAGE
    3. 日本臨床栄養学会編『亜鉛欠乏症の診療指針2024』 https://www.jscn.gr.jp/pdf/aen2024.pdf
    4. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 各論 ビタミン(水溶性ビタミン)葉酸 p.208 https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316467.pdf
    5. RESONA-LAB 検査結果報告書(人用・試供品サンプル)の記載による。報告書の見本は公式サイトで公開されています https://resona-lab.com/humans

    本記事は栄養素の指標と検査項目の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の検査・製品・サプリメントの効果を示すものでも、実施や使用を勧めるものでもありません。どの検査が必要かは症状と状況によって異なります。

  • 合わない食品が何十品目も出ても、全部やめてはいけない

    合わない食品が何十品目も出ても、全部やめてはいけない

    合わない食品が何十品目も出ても、すべてを一度にやめてはいけません。やめること自体に、栄養・生活・再開のしやすさという三方向のコストがあるためです。

    とくに三つめが知られていません。食べない期間が長引くほど、再開のハードルは上がります。

    やることは逆で、1品目ずつ、やめて、戻して確かめる。手順は単純です。

    この記事は食品の欄だけを扱います。結果全体をどう受け取るかは、別の記事で整理しました。

    「不耐性」は、アレルギーとは別のもの

    食べ物で起きる不調は、免疫が関わるものと、関わらないものに分かれます。この分かれ方は別の記事で整理しました。

    命に関わる反応が起きるのは、免疫が関わる側です。じんましん、唇や喉の腫れ、息苦しさ、繰り返す嘔吐。これらは不耐性ではなく、免疫が関わる側の反応です。この記事の「やめて、戻して確かめる」手順は、そこには使えません。少量から試すという方法そのものが危険になります。

    やめることには、コストがある

    「合わないなら、やめておけば安全」と考えたくなります。ただ、除去には三方向のコストがあります。

    栄養。野菜・果物・魚・肉・穀物にまたがって除くと、そこから摂っていたものが同時に抜けます。何十品目を一度に外すと、残る選択肢はかなり狭くなります。

    生活。外食、会食、家族と同じ食卓、旅行。食べられないものが増えるほど、日常の選択肢が減ります。検査値には出ませんが、毎日効いてきます。

    戻しにくくなること。食べない期間が長引くほど、再開のハードルは上がります。

    確かめられているのはアレルギーの領域で、不耐性そのものではありません。それでも、避け続けることの向きを示す結果ではあります。ピーナッツアレルギーのリスクが高い乳児640名を、生後11か月未満から「食べる群」と「避ける群」に無作為に分けた試験では、5歳時点のアレルギー発症率は避けた群のほうが高くなりました1。

    これは乳児のアレルギー発症を防ぐ話で、大人が食品を外して戻す話ではありません。そのまま当てはめることはできません。ただ、避けることが自動的に安全側とは限らない、という考え方が医療の中にあることは知っておく価値があります。

    診療の側は「全部やめない」方向へ動いている

    もう一つ、除去を実際に運用している診療科の手順があります。金属アレルギーの金属制限食です。

    皮膚科では、金属アレルギーが疑われる患者にニッケル・コバルト・クロムを減らした食事を指導することがあります。その運用に、3つの条件が書かれています6。

    金属制限食に置かれている条件
    条件 理由
    2ヶ月続けて無効なら、速やかに中止する 効かない除去を続ける理由がない
    厳格すぎる制限は避ける 微量元素欠乏症をきたす可能性がある
    必ず医師の指導のもとで行う 制限する対象に必須金属が含まれるため

    ここに「期限」があることに注目してください。始めるときに、やめる条件が決まっています。

    制限の対象になるのは、豆類、木の実、穀類、チョコレート、ココア、紅茶、貝類、レバー、胚芽6。そのまま鉄・亜鉛・銅の供給源です。減らす対象が、そのまま栄養の供給源になっている。だから期限が要ります。

    不耐性の欄に何十品目も並んだときも、構造は同じです。金属の側でも、この順番が決まっています——先に食事を2ヶ月、それで動かなければ次を考える。先に全部を外す、という手順はどこにも出てきません。

    日本小児アレルギー学会の『食物アレルギー診療ガイドライン2021』は、食物経口負荷試験によって完全除去を回避することを推奨度1として示しています2。食物経口負荷試験とは、医療機関で少量から実際に食べてみて、どこまでなら症状が出ないかを確かめる検査です。

    そこで使われるのは、食べるか食べないかの二択ではなく、量の段階です。

    食物経口負荷試験で使われる量の段階。少量・中等量・日常摂取量の三段階で確かめる
    「食物経口負荷試験の手引き2020」による総負荷量の例。牛乳なら少量1〜3mL、中等量10〜50mL、日常摂取量100〜200mLと段階が置かれています2。

    診断がついたアレルギーですら、いま目指されているのは「全部やめない」ことです。

    これは不耐性についての推奨ではありません。ただ、確かめる手段があって診断もついている側でさえ完全除去を避ける方向にあるなら、診断のついていない「合わない」に対して、いきなり完全除去から入る理由は見当たりません。

    自分の感覚だけでは、犯人を決められない

    「この食品で不調になる」という自覚が、実際にその食品によるものかどうか。ここは、思っているより難しいところです。

    英国で成人20,000人に尋ねた調査では、食物不耐性を自覚していた人は約20%でした。そのうち希望者に対して、本人にも研究者にも中身が分からない状態で確かめたところ、実際に再現性のある反応が出たのは1.4〜1.8%でした3。

    グルテンでも同じことが起きています。自分でグルテンが合わないと考えている人を対象にした試験で、グルテンに特異的な反応が確認できたのは8%でした4。この構造は別の記事で詳しく扱いました。

    症状は実際に起きています。難しいのは、そこから原因を一つに名指しするところです。

    だから、確かめる手順が要ります。思い当たった食品をそのまま犯人と決めて除去を広げると、症状は残ったまま、食べられるものだけが減ります。

    結果に並んだ品目も同じです。そのまま除去リストとして使うのではなく、どれから確かめるかの順番を決める手がかりとして使うほうが、外れが少なくなります。

    では、どう確かめるか

    この手順には、診療ガイドラインに載っている形があります。低FODMAP食は、続ける食事ではなく、合わないものを見つけるための手順です。期間を決めて減らし、1つずつ戻して比べます。

    手順は単純です。

    1. いま実際に困っている症状があるか

    ここから始めます。症状がなく日常生活で困っていない場合は、結果だけを理由に食生活を一度に大きく変える必要はありません。検査結果に項目が並んでいることと、症状があることは別です。

    2. 心当たりのある1〜2品目に絞る

    結果に並んだ順ではなく、自分の実感で選びます。同時に複数を変えると、何が効いたのか分からなくなります(一度に一つだけ変える)。

    3. やめて、戻して、比べる

    外して記録し、そのあと戻して記録します。1回では偶然と区別がつきません。可能なら、もう一度繰り返します。

    外す期間に決まった正解はありません。日をまたいで出る症状なら2週間ほどが実務的な目安になりますが、大事なのは長さより、戻したときに症状が返ってくるかどうかまで見ることです。やめて楽になっただけでは、その食品のせいだと決められません。

    見るのは三つです。量(少しなら平気か、たくさんだと出るか)、時間差(食べてすぐか、翌日か)、再現性(毎回同じことが起きるか)。この三つが揃うと、対応関係の確からしさが上がります。

    4. 記録は日付と時刻で残す

    「なんとなく調子が悪い」では比べられません。何を、いつ、どれだけ食べて、いつ、どんな症状が出たか。検査値が動いていないとき、記録できるのは症状のほうだけです。

    自分で試さないほうがいい場合

    次に当てはまる場合は、この手順を自分で行わないでください。

    自己判断で除去・再開を行わないほうがよい場合
    状況 理由
    じんましん、唇や喉の腫れ、息苦しさ、繰り返す嘔吐がある 免疫が関わる反応の可能性。再開時に強い反応が出ることがある
    子どもの食事 除去が成長と栄養に影響しうる。医師・管理栄養士と決める
    妊娠中・授乳中 必要量が変わる時期にあたる
    すでに食べられる食品が少ない さらに外すと栄養の幅が確保できない
    体重が意図せず減っている、発熱が続く、血便がある 食品とは別の原因を先に確かめる必要がある

    免疫が関わる側は、別の枠になる

    「合わない」の中身が免疫の側なら、確かめ方も対応も変わります。検査ごとに答えている問いが違うのは、ここでも同じです。

    食品との関係を確かめる主な方法
    調べたいこと 方法
    免疫が関わるアレルギーか 特異的IgE検査、皮膚プリックテスト
    どこまでなら食べられるか 食物経口負荷試験
    乳糖を分解できているか 呼気水素試験
    セリアック病か 血液の抗体検査、内視鏡

    一方、食物に対するIgG抗体を測る検査を見かけることがありますが、欧州アレルギー・臨床免疫学会のタスクフォースは2008年、これを食物アレルギーの診断ツールとして推奨しないという立場を示しています5。IgGは、その食品を食べていることを反映する正常な反応でもあるためです。

    減らすのではなく、絞る

    検査結果に多くの品目が並ぶと、選択肢が減ったように感じます。ただ、そこに書かれているのは「食べてはいけないもの」の一覧ではありません。

    実際に困っている症状があるなら、確かめる対象は1つか2つで足ります。症状がなければ、結果だけを理由に食生活を一度に大きく変える必要はありません。乳糖不耐症のように機序がはっきりしている例でも、量によって出方が変わります。

    食べられるものを減らす方向ではなく、対象を絞る方向へ。結果の使い方としては、そちらのほうが手戻りがありません。

    参考文献・参考資料

    1. Du Toit G, Roberts G, Sayre PH, et al. Randomized trial of peanut consumption in infants at risk for peanut allergy. New England Journal of Medicine. 2015;372(9):803-813. doi:10.1056/NEJMoa1414850 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25705822/
    2. 海老澤元宏. ガイドラインのワンポイント解説「食物アレルギー診療ガイドライン2021 小児〜成人まで」. アレルギー. 2022;71(10):1195-1200. https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/71/10/71_1195/_pdf/-char/ja ガイドライン本体:日本小児アレルギー学会『食物アレルギー診療ガイドライン2021』協和企画, 2021年(Minds)
    3. Young E, Stoneham MD, Petruckevitch A, Barton J, Rona R. A population study of food intolerance. Lancet. 1994;343(8906):1127-1130. doi:10.1016/s0140-6736(94)90234-8 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7910231/
    4. Biesiekierski JR, Peters SL, Newnham ED, Rosella O, Muir JG, Gibson PR. No effects of gluten in patients with self-reported non-celiac gluten sensitivity after dietary reduction of fermentable, poorly absorbed, short-chain carbohydrates. Gastroenterology. 2013;145(2):320-328.e3. doi:10.1053/j.gastro.2013.04.051 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23648697/
    5. Stapel SO, Asero R, Ballmer-Weber BK, et al. Testing for IgG4 against foods is not recommended as a diagnostic tool: EAACI Task Force Report. Allergy. 2008;63(7):793-796. doi:10.1111/j.1398-9995.2008.01705.x https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18489614/
    6. 足立厚子「金属アレルギーの対処法〜全身型金属アレルギーを中心に〜」アレルギー 2020;69(3):169-173. https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/69/3/69_169/_pdf

    本記事は検査結果の扱い方と、確かめ方の手順を整理したものであり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の製品・サプリメントの効果を示すものでもありません。

  • 検査結果を受け取ったら、まず何から手をつけるか

    検査結果を受け取ったら、まず何から手をつけるか

    レポートは4つの欄に分かれていますが、答えている問いは1つです。報告書の最後に、こう書かれています。

    検査で測るビタミン・ミネラルは、排出経路の鍵を握る栄養素。つまり、「何が溜まっているか」だけでなく、出す力(排出力)が足りているかまでわかります。1

    入ってくるものと、出す力。4つの欄は、この2つを別々の角度から見たものです。だから「不足栄養素」と「解毒機能」は、別々の採点ではありません。

    入ってくるものと、処理して出す力の両方で体に残る量が決まることを示す図
    同じものを同じだけ食べても、体に残る量は人によって変わります。入れた量だけを数えても、いま自分の中にどれだけあるかは決まりません。

    欄ごとに、どこまで数字があるか

    4つの欄は、公的な基準や調査がどこまで存在するかが、それぞれ違います。同じ「該当あり」でも、次に何ができるかが変わります。

    欄ごとの、外にある数字
    欄 外にある公的な数字
    食品不耐性(消化難) 診療ガイドラインは完全除去を回避することを推奨度1で示している
    体内蓄積(重金属) 魚種ごとの摂食目安、水質基準、耐容週間摂取量。水銀は体内の量が半分になるまで約2ヶ月
    体内蓄積(添加物) 一日摂取許容量。日本人の実際の摂取量は、最も高いものでその17.2%
    体内蓄積(プラスチック) ない。報告書の欄も「準備中・・・」
    解毒機能 生理学として経路が確立。胆汁が重金属の主要排泄経路
    不足ビタミン・ミネラル 食事摂取基準。ただし血液で確かめられるものと、できないものがある

    欄ごとの詳しい記事は、この記事の最後にまとめています。

    並べると、プラスチックの欄だけが空いていることが見えます。これは体の側ではなく、測る技術の側の話です。

    解毒機能は、3つに分かれている

    解毒機能の欄には、総合評価のほかに腸・肝臓・腎臓それぞれのA〜Eがあります1。3つが同じとは限りません。

    この3つは、担当している出口が違います。腎臓は尿、腸は便。そして肝臓は、尿から出せないものを胆汁に乗せて腸へ送り出す側です。

    だから順番があります。肝臓が送り出しても、腸の通過が滞っていれば出ていきません。3つの評価が違うときは、出口に近いほうから見ます。

    「不足」の欄は、出す力の欄でもある

    報告書は、各栄養素について「解毒への関与」という欄を設けています1。12の栄養素すべてにあります。

    つまり不足の欄と解毒機能の欄は、同じものの両側です。処理して外へ出す反応には材料が要る。その材料が、測っている栄養素だということです。

    反応の中身は物質名まで分かっています。第I相はシトクロムP450による酸化、第II相でグルクロン酸や硫酸、アミノ酸をくっつけて水に溶ける形にする。特別な物質は一つも出てきません。糖とアミノ酸です。

    だから「不足」の欄は、12個を1つずつ埋めるものではありません。重なっている供給源を先に置くほうが早く届きます。

    報告書の「やること」を、数字に置き換える

    報告書には、欄ごとに「〜する方法」が書かれています。どれも方向だけで、数字はありません。その数字がどこにあるかを並べます。

    報告書の記述と、対応する数字
    報告書の記述 数字がある場所
    不足栄養素を補う 血液で線が引けるのはビタミンD・亜鉛・鉄・葉酸。カルシウムとマグネシウムは食品の側から
    不耐性食品を避けた食生活 全部やめない。1品目ずつ、やめて戻す。期限を先に決める
    蓄積が多いモノを避ける 入口は9種それぞれ違います。歯科金属、装身具、たばこ、缶、魚、水道
    水分をしっかり摂る 日本に水の目安量はない。見るのは渇きと尿の色。そして蛇口の最初の5分
    適度な運動で汗をかく 汗中の濃度は報告されている。ただし出どころが血液と皮膚の2つあり、分けられない
    肝機能を高める食事 上流だけ速めると中間代謝物が溜まります。出口が先です。人での試験があるものは限られます

    最後の2つは、はっきりさせておく価値があります。「汗で出す」と「肝機能を高める」は、方向としては挙げられていますが、どちらも人で確かめられた手順があるわけではありません。

    入口は、今日その場で数えられる

    結果を受け取ったあとに、いちばん早く動くのは蓄積の欄です。入口が分かっているからです。

    報告書の説明ページには、10の入口が挙げられています。水道水、大型の魚、化粧品・日焼け止め、プラスチック容器、缶、加工食品、撥水加工の生活用品、歯の治療、医療処置、喫煙1。

    このうち、思い出すのではなく、今日その場で確認できるものがあります。

    いま確認できる入口
    確認すること どこを見るか
    口の中に金属があるか 鏡。保険診療の銀歯は金12%・パラジウム20%・銀40%以上の合金
    肌に当たり続けている金属があるか 眼鏡フレーム、腕時計、バックル、ピアス
    缶の飲料を毎日飲むか この1週間の本数。公的に書かれているのは「毎食缶詰を中心にしない」まで
    大型の魚を週に何回食べるか 妊娠中は魚種ごとに目安があります。それ以外の人への制限はありません
    たばこを吸うか この1週間の本数。1本1.8〜2.8µg。吸入は肝臓を通らない
    日焼け止めが散乱剤か吸収剤か 成分表示。血中に出ることが測られているのは吸収剤のほう

    そして変えたら、2ヶ月です。厚生労働省が水銀について書いている体内半減期がその長さで、1週間で見ようとすると何も起きていないように見えます。

    ただしこの速さは物質によって100倍以上違います。カドミウムは腎皮質での半減期が20〜50年です。すでに溜まった分より、これから入る量のほうが動かせます。

    症状の一覧が当てはまったとき、どう受け取るか

    報告書には、欄ごとに「〜が悪いと?」「不足すると」という症状の一覧が添えられています。疲労感、集中力の低下、肌荒れ、眠気。

    これらは、一般の人の9割が週に何個か経験している症状です。調査では、過去7日間に症状がまったくなかった人は10.6%、経験した数の中央値は5個でした。

    実際、報告書の4つの欄は、ほとんど同じ症状を挙げています。1つの欄に当てはまったのではなく、4つ全部に当てはまります。だから当てはまったことからは、どの欄が該当するかは決まりません。

    決まるのは、上の入口の表のほうです。口の中に金属があるかどうかは、当てはまる・当てはまらないではなく、あるかないかです。

    項目ごとに、詳しく

    入口と出口の全体像は、入ってくるものと、出す力にまとめています。

    安全のための補足

    服用中の薬を、自分の判断で減らしたりやめたりしないでください。中止したときに何が起きるかまで含めて、処方した側が判断するものです。

    症状が続いている、悪化している、日常生活に支障が出ている。そういうときは、この結果を読んでいる場合ではありません。体重が意図せず減っている、発熱が続いているときも同じです。検査の結果より、いま起きていることのほうが先です。

    そして自己判断の「排出」は行わないでください。金属を出す薬は中毒と診断がついた場合の治療薬で、診断のないまま使われて死亡した例が報告されています。

    今日、決めること

    4つの欄を同時に動かそうとすると、どれも中途半端になります。今月変えるものを、1つだけ選びます。

    欄ごとの、最初の1つ
    気になった欄 今月の1つ
    食品不耐性 印の付いた中から1〜2品目だけ外して、2週間後に戻す
    体内蓄積 入口の表から、自分に当てはまるものを1つ閉じる
    解毒機能 腸・肝臓・腎臓のうち低かった1つを1週間記録する
    不足栄養素 重なっている供給源を先に置く。12個を1つずつ埋めない

    どれを選んでも構いません。選ばないことだけが、何も変わらない選択です。

    そして結果は、いまの状態の記録です。水銀なら体内の量が半分になるまで約2ヶ月。今月変えたことは、来月以降の数字の側にあります。

    参考文献・参考資料

    1. RESONA-LAB 検査結果報告書(人用・試供品サンプル)の記載による。報告書の見本は公式サイトで公開されています https://resona-lab.com/humans

    本記事は検査結果報告書の記載事項の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。検査は疾病の診断や治療を目的とするものではなく、健康管理の参考情報を提供するものです。特定の製品・サプリメントの効果を示すものでも、使用を勧めるものでもありません。

  • 「頭痛薬をよく飲む」の“よく”は、月に何日からか

    「頭痛薬をよく飲む」の“よく”は、月に何日からか

    線は月10日です。トリプタンや複合鎮痛薬なら月10日、アセトアミノフェンやイブプロフェンのような単独成分なら月15日。国際的な診断基準に、数字で書かれています。

    そして引かれているのは飲んだ量ではなく、飲んだ日数です。1日に何錠飲んでも、1日と数えます。市販薬の説明書に「何日から」と書かれていないため、この線はほとんど知られていません。

    線は、薬によって違う

    基準は薬の種類ごとに置かれていて、位置が二つに分かれます。

    頭痛薬の服用日数の基準。単純鎮痛薬は月15日以上、トリプタンと複合鎮痛薬は月10日以上
    国際頭痛分類 第3版(ICHD-3)の「薬剤の使用過多による頭痛」の基準。いずれも「3ヵ月を超えて」定期的に続いた場合です。エルゴタミン・オピオイドも10日側に入ります1。

    アセトアミノフェンやイブプロフェンのような単独成分の鎮痛薬は、月15日が線です。片頭痛の薬であるトリプタンは、月10日。

    そして、注意が必要なのが複合鎮痛薬です。こちらも10日側に入ります。

    複合鎮痛薬とは、2種類以上の系統の薬、あるいはカフェインのような補助成分を組み合わせた製剤を指します1。市販の鎮痛薬には無水カフェインなどを含むものが少なくありません。成分表示を見ないと、自分がどちら側の線にいるのか分かりません。

    別の薬に変えても、足される

    ここがいちばん知られていない部分です。

    アセトアミノフェンを月8日、NSAIDを月8日で合計16日となり、15日の基準を超える
    ICHD-3 は「本分類の目的においては、すべての非オピオイド鎮痛薬を一つのクラスとみなす」と明記しています。アセトアミノフェンとNSAIDを使い分けても、日数は合算されます1。

    「同じ薬を続けないように、別のものと交互に使っている」という飲み方は、この基準では回避になりません。

    さらに、どの薬も単独では基準に届かない場合でも、合計で月10日以上になれば該当しうる区分が別に用意されています1。数えるべきは薬ごとの日数ではなく、頭痛のために何か飲んだ日の総数です。

    なぜ日数で線を引くのか

    この基準は「薬が体に悪いから」ではなく、痛み止めを飲む日が多いほど頭痛の日も増える現象があるために引かれています。「薬剤の使用過多による頭痛」と呼ばれます。

    頭痛が月15日以上ある人のうち、半分以上がこの状態にあたると ICHD-3 は記しています1。頻繁な頭痛の背景として、珍しいものではありません。

    日本での頻度については、正直に書いておきます。『頭痛の診療ガイドライン2021』は「わが国における大規模疫学調査は存在しない」と明記しています2。「日本人の何%」という数字は、まだ誰も持っていません。調べられていないことと、頻度が低いことは別です。海外の一般人口を対象とした系統的レビューでも、有病率の推計は0.5〜7.2%と大きく開いています3。

    それでも「やめましょう」とは書けない

    ここまで読むと、自分で薬を止めるという結論に向かいそうになります。この記事はそれを勧めません。理由が三つあります。

    一つ目は、薬によって止め方が違うことです。ガイドラインは、トリプタン・エルゴタミン・NSAIDs・複合鎮痛薬・単純鎮痛薬は重い離脱症状を起こさないため即時中止でよいとする一方、バルビツール、ベンゾジアゼピン、オピオイドを含むものは漸減が最善としています2。市販薬にも鎮静成分を含む製剤があり、自分の飲んでいるものがどちらかを成分表示だけで判断するのは簡単ではありません。

    二つ目は、止めた後に頭痛が来ることです。離脱に伴う頭痛・悪心・嘔吐・睡眠障害などは、通常2〜10日続くとされています2。何も知らずに止めれば、そこで耐えきれず再開することになります。

    三つ目が、構造として最も大きい点です。ガイドラインが挙げる治療の原則は、①原因薬剤の中止、②中止後に起こる頭痛への対処、③予防薬の投与の三つで一組です2。

    薬を飲む日数が増えているとき、その前提には抑えきれていない元の頭痛があります。診断基準自体が「もともと頭痛疾患をもつ患者において」と定めているとおりです1。②と③を用意せずに①だけを実行するのは、原因を残したまま対処だけを取り上げることになります。

    見通しとしては悪い話ではありません。ガイドラインは、離脱により1〜6ヵ月で約70%が改善する一方、4〜6年の追跡で約30%が再発し、その多くは1年以内としています2。7割は良くなり、3割は戻る。一度で終わる話ではありません。

    したがって、この記事が勧めるのは止めることではなく、数えることです。月に何日飲んでいるか。それが分かって初めて、次の判断ができます。

    記録に、もう一つ足すもの

    日数と並べて役に立つのが、自分の頭痛がどういう頭痛なのかという情報です。というのも、線の位置(10日か15日か)は、飲んでいる薬で決まり、飲む薬は頭痛の型で決まるからです。

    医師が片頭痛と緊張型頭痛を分けるとき、意外な項目が使われています。

    痛みの強さではなく、動いたときにどうなるか。これが両者を分ける項目の一つとして、診断基準に書かれています。

    この違いは対処にも表れます。片頭痛について、ガイドラインは発作中の対処として「静かな暗い場所で休む、痛む箇所を冷却する、入浴を控える」を挙げています2。一方、緊張型頭痛では運動プログラムが有効な可能性があるとして、頭痛体操が弱い推奨とされています2。

    片頭痛は発作中に動くと悪化し、緊張型頭痛は体を動かすことが治療の側に入ります。ただし片頭痛でも、発作中と発作のない期間は別です。予防としての有酸素運動は否定されていません2。

    そして重要な前提として、これは自己判定の道具ではありません。診断基準は4項目中2項目以上で満たされる構造で、両者が併存することもガイドラインに記されています2。動作で悪化するかどうかだけでは、分かれません。

    数えている場合ではないとき

    ここまでは、頭痛が続いている場合の話です。次に挙げるものが当てはまるときは、日数を数える段階にありません。

    二次性頭痛を疑うべき所見をまとめた「SNNOOP10」という一覧があります4。発熱を伴う、がんの既往がある、神経症状がある、突然発症した、50歳以降に始まった、頭痛のパターンが変わった、姿勢で変化する、咳やくしゃみで誘発される、進行している、妊娠中・産褥期である、外傷後に始まった、といった項目が並びます。

    そして一覧の最後、15項目目に置かれているのが「鎮痛薬使用過多」です4。頭痛薬を飲む日数が多いこと自体が、二次性頭痛を疑って診てもらうべき状況として挙げられています。

    特に、今まで経験したことがない突然の激しい頭痛は、くも膜下出血の典型的な症状として、ガイドラインに強い推奨・エビデンスの確実性Aで記されています2。頭部CTでの診断率は発症6時間以内なら100%ですが、3日後には85%、7日後には50%まで下がります2。時間が経ってからでは分からなくなります。

    数えるところから始まる

    数えられるものは、思っているより限られています。

    症状の一覧に当てはまるかどうかは、数えたことになりません。9割の人が当てはまるからです。対して「今月、薬を飲んだ日数」は、当てはまる・当てはまらないではなく、日数です。

    同じ形のものがいくつかあります。便通の6項目。家庭血圧の14回分の平均。睡眠休養感。どれも、感覚を数に変える手続きが決まっています。

    頭痛は、受診されにくい症状です。日本の全国調査では、片頭痛のある人の69.4%が頭痛について医師に相談したことがなく、自分の頭痛が片頭痛だと認識していた人は11.6%でした5。1997年の調査ですが、2022年の健保組合を対象とした調査でも受診なしが81.0%と報告されており、構造は大きくは変わっていません6。

    その一方で、ガイドラインは薬剤の使用過多による頭痛は予防可能だとしています2。予防できるのは、線がどこにあるかを知っている場合だけです。

    今日からできるのは、血圧を記録するのと同じように、頭痛のために薬を飲んだ日にしるしをつけることです。飲んだ量ではなく、日にちの数。

    それが月10日を超える月が3ヵ月以上続いているなら、自分で急に止めるのがいちばん危ない選択です。離脱には反跳頭痛が伴うため、いきなり止めると数日は悪化します。その記録があるかどうかで、始め方が変わります。

    参考文献・参考資料

    1. Headache Classification Committee of the International Headache Society (IHS). The International Classification of Headache Disorders, 3rd edition. Cephalalgia. 2018;38(1):1-211. doi:10.1177/0333102417738202 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29368949/ 日本語版(日本頭痛学会):https://www.jhsnet.net/kokusai_new_2019.html
    2. 日本神経学会・日本頭痛学会・日本神経治療学会 監修、「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会 編『頭痛の診療ガイドライン2021』医学書院, 2021年. https://www.jhsnet.net/pdf/guideline_2021.pdf(CQ I-14, CQ II-2-2, CQ III-2, CQ III-7, CQ VI-2, CQ VI-3, CQ VIII-4)
    3. Westergaard ML, Hansen EH, Glümer C, Olesen J, Jensen RH. Definitions of medication-overuse headache in population-based studies and their implications on prevalence estimates: a systematic review. Cephalalgia. 2014;34(6):409-425. doi:10.1177/0333102413512033 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24293089/
    4. Do TP, Remmers A, Schytz HW, et al. Red and orange flags for secondary headaches in clinical practice: SNNOOP10 list. Neurology. 2019;92(3):134-144. doi:10.1212/WNL.0000000000006697 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30587518/
    5. Sakai F, Igarashi H. Prevalence of migraine in Japan: a nationwide survey. Cephalalgia. 1997;17(1):15-22. doi:10.1046/j.1468-2982.1997.1701015.x https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9051330/
    6. Sakai F, Hirata K, Igarashi H, et al. A study to investigate the prevalence of headache disorders and migraine among people registered in a health insurance association in Japan. The Journal of Headache and Pain. 2022;23(1):70. doi:10.1186/s10194-022-01439-3 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35733104/ ※本論文には正誤表があります(doi:10.1186/s10194-022-01529-2)。また著者らは後続論文で、質問票による片頭痛の分類に誤分類があったと報告しています(doi:10.1186/s12883-024-03675-3)

    本記事は診断基準とガイドラインの整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の医薬品・製品の効果や優劣を示すものでもなく、使用を勧めるものでもありません。頭痛の診断と治療方針は医師の判断によります。服用中の薬を自己判断で中止・変更しないでください。

  • 家庭の血圧計を、どう使えば意味があるか

    家庭の血圧計を、どう使えば意味があるか

    診察室では正常なのに、家で測ると高い。この仮面高血圧が18%に見つかっています。診察室でしか測っていない人は、一生見つかりません。

    もう一つあります。家庭血圧の基準は135/85で、診察室の140/90より5低く設定されています。家で138なら、それは高血圧の範囲です。「140を超えていないから大丈夫」は、家の数値には当てはまりません。

    家庭用の血圧計は、朝は128、夜は141、翌朝は133と、測るたびに違う値を出します。どれも本当の値です。見るのは1回の値ではなく、7日分の平均ひとつだけです。

    測り直すと、これくらい動く

    同じ人を繰り返し測ったときに値がどれくらいばらつくかは、実際に測定されています。

    同じ人を測り直したときの収縮期血圧のばらつき。診察室で1回は11.0mmHg、家庭で2日ぶんは6.9mmHg
    未治療の高血圧者133名で、診察室血圧(5回)・家庭血圧(6日)・24時間自由行動下血圧(2回)の再現性を比較した研究。数値は反復測定差の標準偏差です1。

    診察室で1回測った値は、測り直すと標準偏差で11mmHgほど動きます。128と141の差は、この範囲に収まります。

    家庭血圧のほうがばらつきが小さいのは、環境が一定で、回数を重ねられるからです。

    診察室と家庭では、基準が違う

    ここは知られていないことが多い部分です。

    同じ「138」でも、診察室なら高血圧ではなく、家庭なら高血圧の範囲に入ります。数値を見るときは、どちらで測ったものかを分ける必要があります。

    そして判定が分かれたとき、ガイドラインは家庭血圧による診断を優先するとしています2。診察室血圧が無意味という意味ではなく、リスクの評価には引き続き使われます。

    ずれには、二つの型がある

    診察室と家庭で値がずれること自体に、名前がついています。

    診察室血圧と家庭血圧のずれ
    型 診察室 家庭
    白衣高血圧 高い 正常
    仮面高血圧 正常 高い

    問題になりやすいのは後者です。仮面高血圧は、診察室でしか測っていなければ見つかりません。26研究129,061名を統合した解析では、18%にみられたと報告されています3。

    白衣高血圧のほうも「問題なし」ではありません。11研究をまとめた解析によれば、そのまま高血圧へ進む人が2.85倍多くなっていました4。

    ただしこれは相対的な比較で、元の頻度が示されていません。何%が何%になるのかまでは、この数字からは分かりません。

    共通しているのは、どちらの型も片方だけを測っていると見つからないということです。診察室と家庭の両方があって、初めてずれが見えます。

    何回測れば十分なのか

    この問いには、少し意外な答えが出ています。

    地域住民1,491名を平均10.6年追跡した研究では、家庭血圧から脳卒中の起こりやすさをどれだけ言い当てられるかは、測る回数を増やすほど上がり続け、ここで打ち切ってよいという回数は見つかりませんでした5。初回1回だけの値でも診察室血圧より予測はよく、全測定の平均(平均25回)で最もよくなりました。

    「何回で十分か」ではなく「多いほどよい」というのが、この研究の答えです。

    ガイドラインは実務的な線を引いていて、朝晩それぞれ7日間(最低5日間)の平均で判定するとしています2。

    測り方の条件

    ばらつきを減らすには、条件をそろえることが効きます。ガイドラインが示している条件はこうです2。

    家庭血圧の測定条件
    条件
    朝 起床後1時間以内/排尿後/服薬前/朝食前/座位1〜2分の安静後
    晩 就床時/座位1〜2分の安静後
    回数 原則1機会2回測り、2回の平均をとる
    機器 上腕にカフを巻くタイプ
    姿勢 背もたれのある椅子、脚を組まない、カフは心臓の高さ
    記録 すべての測定値を記録する

    機器について、ガイドラインは上腕式を使うとしています。手首式は、心臓との高さの差の補正が難しく、手首の構造上、動脈を完全に圧迫しにくいため、値が不正確になりやすいと説明されています2。

    「すべての測定値を記録する」も条件に入っています。高い日だけ、あるいは低い日だけを覚えておくと、平均が動いてしまうからです。

    この条件を実際の手つきで見ておくと、自分の測り方のどこがずれているか分かります。


    高い日があっても、その1回では決まらない

    ガイドラインは、高血圧の診断は異なる複数の機会の測定に基づいて行うとしています2。1日高い値が出たことと、高血圧であることは別です。

    だから、1回の数値で決めずに、続けて測ります。朝と晩、同じ条件で記録を残す。それが判断に使える形になります。

    日本では、高血圧のある人のうち相当数が自覚していないと推計されています2。仮面高血圧が家庭でしか見つからないことを考えると、測って記録することは、見つけるための手段でもあります。

    やることは、14回分の平均を出すだけ

    この形——決まった条件で測り、決まった回数を平均し、決まった線と比べる——は、健康の話のなかでは例外的にはっきりしています。

    比べてみると分かります。カルシウムやマグネシウムが足りているかは、血液の数値では判定できません。「免疫力」という一つの数値は、医療の中に存在しません。マイクロプラスチックは、比べられる形で測れていません。

    測れるものは、少ないほうです。だから測れるものについては、測って記録する価値があります。

    朝、起きて1時間以内。トイレを済ませて、朝食と薬の前に、座って1〜2分待ってから2回測る。晩、寝る前に座って2回測る。これを7日。

    その14回の平均が135/85を超えていれば、家庭血圧としては高血圧の範囲です。診察室で何と言われていたかとは別に、この数字は存在します。そして判定が分かれたとき、ガイドラインが優先するのはこちらでした。

    健診の数値は年に一度きりですが、この14回は今週から自分で作れます。1回の値に意味はありません。意味があるのは平均ひとつです。

    参考文献・参考資料

    1. Stergiou GS, Baibas NM, Gantzarou AP, et al. Reproducibility of home, ambulatory, and clinic blood pressure: implications for the design of trials for the assessment of antihypertensive drug efficacy. American Journal of Hypertension. 2002;15(2 Pt 1):101-104. doi:10.1016/s0895-7061(01)02324-x https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11863243/
    2. Ohya Y, Arakawa K, Arata N, et al. The Japanese Society of Hypertension Guidelines for the management of elevated blood pressure and hypertension 2025 (JSH2025). Hypertension Research. 2026;49(1):9-235. doi:10.1038/s41440-025-02462-y https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41476123/ 学会案内:https://www.jpnsh.jp/guideline.html
    3. Zhu H, Li J, Li L, et al. Prevalence and Cardio-Renal Comorbidities of Masked Hypertension: A Meta-Analysis. Journal of Evidence-Based Medicine. 2024;17(4):833-842. doi:10.1111/jebm.12672 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39722158/
    4. Fujiwara T, Matsumoto C, Asayama K, Ohkubo T, Hoshide S. Are the cardiovascular outcomes of participants with white-coat hypertension poor compared to those of participants with normotension? A systemic review and meta-analysis. Hypertension Research. 2019;42(6):825-833. doi:10.1038/s41440-019-0254-2 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30971805/
    5. Ohkubo T, Asayama K, Kikuya M, et al. How many times should blood pressure be measured at home for better prediction of stroke risk? Ten-year follow-up results from the Ohasama study. Journal of Hypertension. 2004;22(6):1099-1104. doi:10.1097/00004872-200406000-00009 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15167443/

    本記事はガイドラインと研究状況の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の製品の効果を示すものでもありません。高血圧の診断、治療の要否と方針は医師の判断によります。降圧薬を服用中の方は、自己判断で中止・変更しないでください。

  • 同じ「LDL 140」が、人によって目標内にも目標超えにもなる

    同じ「LDL 140」が、人によって目標内にも目標超えにもなる

    健康診断で「LDLコレステロールが高い」と言われた。ただ、同じ140でも、人によって目標内にも目標超えにもなります。その分かれ目を整理します。

    ただ、日本動脈硬化学会のガイドラインを見ると、管理目標値は一律ではありません。同じ140でも、ある人には目標内、別の人には目標超えになります。

    目標値が3つある

    『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』では、まだ心筋梗塞や脳梗塞を起こしていない人(一次予防)について、リスク区分ごとに目標値を分けています1。

    一次予防でのLDLコレステロール管理目標値。低リスク160未満、中リスク140未満、高リスク120未満
    糖尿病があり末梢動脈疾患や細小血管症を合併している場合、または喫煙している場合は100未満とされています。既に心筋梗塞などを起こした人(二次予防)は100未満、条件によっては70未満です1。

    健診結果に印刷されている「140以上」という線は、脂質異常症を拾い上げるためのスクリーニング値です。ガイドラインはこれとは別に、区分ごとの目標値を置いています。

    何で区分が決まるのか

    区分を決めるのに使われているのが、久山町研究のデータから作られたスコアです。入力するのは6つ1。

    リスク区分の判定に使われる項目
    項目 内容
    性別 男性のほうが点数が高い
    収縮期血圧 5段階
    糖代謝異常 糖尿病そのものは別扱い
    LDLコレステロール 4段階
    HDLコレステロール 3段階
    喫煙 現在喫煙しているか

    出てくるのは10年間で動脈硬化性疾患を発症する確率です。2%未満なら低リスク、2%以上10%未満なら中リスク、10%以上なら高リスクとされています1。

    LDLは6つのうちの1つです。健診の数値が一つ範囲を外れたことと、リスクが高いことは、同じではありません。

    なぜ一律にできないのか

    理由は、薬でLDLを下げたときの効果の出方にあります。

    スタチンの臨床試験90,056名分を統合した解析によれば、LDLを1mmol/L(約39mg/dL)下げると、主要な血管イベントは約2割減ります。ここまでは、もともとのリスクが高い人でも低い人でも、ほぼ同じ割合です2。

    違うのは、その2割が何人分かのほうです。

    LDLを1mmol/L下げたとき、1,000人あたりの主要血管イベント減少数。冠動脈疾患の既往ありで48人、既往なしで25人
    5年間で1,000人あたり、冠動脈疾患の既往がある人では48人(95%信頼区間 39〜57)、既往がない人では25人(19〜31)の減少2。

    同じ「2割減」でも、実際に減る人数は倍違います。これは相対リスクと絶対リスクの違いです。目標値を一律にできないのは、割合が同じでも、得られるものの大きさが人によって違うからです。

    「低ければ低いほどよい」はどこまでか

    「低ければ低いほどよい」という言い方を、ガイドラインは場面ごとに使い分けています。

    二次予防、つまり既に心筋梗塞などを起こした人については「the lower, the better であることが示唆される」と書かれています1。

    一方で一次予防の目標値は、低リスクで160未満、中リスクで140未満です。低いほどよいという方針にはなっていません。ガイドラインは、低・中リスクではLDLの低下率20〜30%も目標になりうるとしています1。

    日本人のデータについても留保があります。LDLの上昇は脳梗塞に対して正の関係が示される一方、出血性脳卒中に対しては負の関係が報告されています1。低い側にも目を配る必要がある、ということです。

    食事のコレステロールは、どこまで気にするか

    ここも誤解が定着している部分です。

    食事摂取基準2025年版は、コレステロールの目標量(上限)を設定していません。ただし理由の書き方が重要で、こう続きます。

    これは、許容されるコレステロール摂取量に上限が存在しないことを保証するものではないことに強く注意すべきである3。

    そして同じ報告書は、脂質異常症の重症化予防の目的では、コレステロールの摂取量を200mg/日未満に留めることが望ましいとしています3。

    油の種類そのものについては、5種類を脂肪酸組成とエビデンスで並べています。飽和脂肪酸を植物油に置き換えること自体には、心血管上の利点が示されています。

    健常な集団に一律の上限は置かないが、既にLDLが高い人には制限が推奨されています。対象が違うので、この2つは矛盾していません。「食事のコレステロールは関係ない」という単純化は、どちらの資料も支持していません。

    結果を持って、何を話すか

    ちなみに区分に使う項目のうち、血圧は自分で測れます。測り方と、診察室との基準の違いには注意がいります。

    健診で数値を指摘されたとき、確かめられるのは次のあたりです。

    血圧、喫煙、糖代謝、HDL。区分はLDL単独では決まりません。過去の結果と並べて動きを見ることも、一点の値では分からないことを補います。

    そのうえで、区分の判定と治療の要否は医師の判断です。学会は一般向けのリスク計算ツールを公開しています。これは診断ではなく、診察室で同じ数字を見ながら話すためのものです。

    ガイドラインは、いずれの区分でもLDLが180以上の場合は薬物治療を考慮するとしています1。この記事は、治療方針について判断するためのものではありません。

    数値の意味は、その人の中で決まる

    この考え方は、LDLに限りません。

    基準範囲は、健康な人の値の真ん中95%を切り取った線であって、正常・異常を区別する値ではないと、学会のガイドラインが明記しています。そして数字の大きさは、何と比べるかで見え方が変わります。

    どの数値についても、確かめることは3つです。何を測ったか。何と比べた数字か。自分の他の条件と合わせてどうか。

    「LDL 145」という数値だけでは、良いも悪いも決まりません。同じ145が、低リスクの人では目標の範囲内で、高リスクの人では目標を超えています。

    そして薬で下げたときに得られるものの大きさも、もともとのリスクによって倍違いました。

    健診の紙に印刷された線は、拾い上げのための線です。その先は、線を超えたかどうかではなく、自分がどの区分にいるかの話になります。

    区分を出すのに要る項目は、上の表のとおりです。性別、収縮期血圧、糖代謝異常の有無、LDL、HDL、喫煙。健診の結果票に、ほとんど載っています。

    足りないとすれば血圧です。健診の値は年1回の1点なので、家庭で朝晩1週間測った平均のほうが、自分の値に近くなります。結果票を出してきて、6つのうち埋まっていないものを確かめるところからです。

    参考文献・参考資料

    1. 日本動脈硬化学会編『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』2022年(第3版 2023年2月) https://www.j-athero.org/jp/jas_gl2022/
    2. Baigent C, Keech A, Kearney PM, et al. Efficacy and safety of cholesterol-lowering treatment: prospective meta-analysis of data from 90,056 participants in 14 randomised trials of statins. The Lancet. 2005;366(9493):1267-1278. doi:10.1016/S0140-6736(05)67394-1 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16214597/(訂正記事:Lancet 2005;366(9494):1358、Lancet 2008;371(9630):2084)
    3. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 脂質 https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316463.pdf
    4. 厚生労働省「令和6年国民健康・栄養調査結果の概要」 https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001603146.pdf
    5. 厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」III 世帯員の健康状況 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/dl/04.pdf

    本記事はガイドラインと公的統計の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の製品・サービスの効果を説明するものでもありません。リスク区分の判定、および治療の要否と方針は医師の判断によります。

  • 疲労の原因が貧血だったのは2.8%。ただし貧血がなくても鉄は減る

    疲労の原因が貧血だったのは2.8%。ただし貧血がなくても鉄は減る

    疲労を主訴に受診した人のうち、原因が貧血だったのは2.8%でした。いちばん多いのは睡眠障害とうつ病です。

    ただし逆のことも起きています。ヘモグロビンの基準をクリアした400mL献血者を調べた研究では、初回・再開の女性献血者のおよそ3分の1に鉄欠乏が見つかりました。「貧血なし」は「鉄が足りている」ではありません。

    疲れと鉄は、両側から外れます。そして厚生労働省は、自己判断での鉄サプリメントの利用を控えるようはっきり書いています。

    まず、疲労の原因の内訳

    疲労を主訴に受診した人を調べた総説によれば、原因の分布はこうなっています1。

    鉄から入るより先に、睡眠のほうを確かめるほうが当たりやすい、ということになります。飲酒の習慣も、ここに含まれます。

    そのうえで、鉄の話に入ります。

    ヘモグロビンが正常でも、貯蔵鉄は別

    健康診断で見る貧血の指標はヘモグロビンです。一方、体に蓄えられている鉄の量を反映するのがフェリチンで、これは通常の健診項目には入っていません。

    この差が実際にどれくらいあるのか。日本赤十字社が400mL全血献血者2,659名を調べた研究では、初回・再開の女性献血者のおよそ3分の1に鉄欠乏が見られました2。

    献血者は、ヘモグロビンの基準をクリアした人たちです。それでも貯蔵鉄のほうは減っていることがある。「異常なし」が答えている問いは狭いのは、ここでも同じです。

    ただし、フェリチンには読み方がある

    ではフェリチンを測れば分かるのか、というと、ここに落とし穴があります。

    日本鉄バイオサイエンス学会の診療指針は、こう書いています。

    血清フェリチンは悪性腫瘍,肝障害,感染症,炎症などの存在下では貯蔵鉄量とは無関係に上昇するため,血清フェリチンが正常範囲であっても鉄欠乏が除外できない3。

    WHOも同じ問題に対応していて、感染や炎症が広がっている地域では、フェリチンと同時にCRPなどの炎症マーカーを測るべきだとしています4。

    つまりフェリチンは、一点の数値だけでは読めない検査です。低ければ鉄欠乏の可能性が高いのは確かですが、正常だからといって鉄欠乏がないとは言えません。

    鉄を補うと、何が変わるのか

    貧血がない鉄欠乏の人が鉄を補うと、自覚する疲労は減りました。ただし、運動で測る持久力は変わりませんでした。18件の試験(計1,170名)を集めた系統的レビューの結果です5。

    プライマリケアで疲労を主訴とした人の原因の内訳。うつ病18.5%、重篤な身体疾患4.3%、貧血2.8%
    疲労はプライマリケア受診理由の10〜20%を占めます。最も多い原因は睡眠障害・睡眠関連呼吸障害、うつ病、過度の心理社会的ストレスとされています1。

    変わったのは自覚のほうで、走れる距離や持てる重さは変わっていません。

    なお、これらの試験で使われたのは医療用の鉄剤(元素鉄80mg/日など)や静注鉄で、市販の栄養機能食品とは量も剤形も違います。栄養機能食品として鉄を表示できる上限は1日10mgです6。研究の結果をそのまま当てはめることはできません。

    厚生労働省が明記していること

    ここが、この記事で最もはっきりしている部分です。食事摂取基準2025年版には、こう書かれています。

    鉄欠乏でない人が鉄の摂取量を増やしても貧血の予防にはつながらない。鉄欠乏又は鉄欠乏性貧血の場合の鉄補給は必要であるが、医師の指示に従って実施するものであり、個人の判断でサプリメント等を用いて鉄補給を行うことは控えるべきである7。

    2025年版では鉄の耐容上限量の設定が見合わせられました。同じ報告書が、その理由も書いています。定量的な関係が明確でないため設定を見合わせた、そのうえで推奨量を大きく超える摂取は控えるべきだ、と7。

    食事だけでは埋まらない場合

    月経の量が多い場合は、食事だけでは埋まりません。月経の変化そのものが気になっているなら、確かめる順番は別にあります。食事摂取基準はこの点にも触れていて、過多月経の人については推定必要量が大きく上がるため、医療機関を受診して基礎疾患の有無を確認したうえで鉄補給を受ける必要があるとしています7。

    そのほか、疲労が数週間以上続く、体重が減っている、息切れや動悸がある、便が黒い。これらは鉄だけで説明がつく組み合わせではありません。鉄を足して様子を見ると、別の原因が隠れたままになります。

    順番を間違えないこと

    もう1つ、鉄には酸素運搬以外の役割が挙げられています。RESONA-LABの結果報告書は、鉄の「解毒への関与」として「肝臓の代謝酵素の補因子」と記しています9。異物を処理する第I相の中心はシトクロムP450という酵素群です。

    ただし、これは「解毒のために鉄を足す」理由にはなりません。この記事で見たとおり、疲労を主訴に受診した人のうち原因が貧血だったのは2.8%。順番は変わらず、足りているかを先に確かめるほうです。フェリチンには読み方があり、炎症で上がります。

    鉄が足りていない人は、実際にいます。問題は、確かめる前に足してしまうことです。

    日本人女性の鉄摂取量は20〜40代で1日6.3〜6.6mg、推奨量は月経がある場合で10.0〜10.5mgでした87。ただしこれは集団の平均であって、自分の話ではありません。

    「疲れやすい=鉄が足りない」と直行すると、確率の高いほうを飛ばすことになります。疲労の原因として最も多いのは睡眠とうつ病で、貧血は2.8%でした。睡眠の側は、検査の指標と本人の感覚がずれることが分かっています。

    そのうえで鉄を疑う理由があるなら、次は自分で買うことではなく測ることです。ただしフェリチンは一点では読めず、正常値でも鉄欠乏を除外できません。検査はそれぞれ違う問いに答えているので、何を知りたいかを先に決めるところからです。炎症の有無と並べて初めて読める数値なので、数字を1つ持つだけでは足りません。

    参考文献・参考資料

    1. Maisel P, Baum E, Donner-Banzhoff N. Fatigue as the Chief Complaint—Epidemiology, Causes, Diagnosis, and Treatment. Deutsches Ärzteblatt International. 2021;118(33-34):566-576. doi:10.3238/arztebl.m2021.0192 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34196270/
    2. Odajima T, Tsuno NH, Ishimaru F, et al. Iron deficiency among Japanese whole-blood donors measured by serum ferritin. Vox Sanguinis. 2024;119(9):912-920. doi:10.1111/vox.13688 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38872445/
    3. 日本鉄バイオサイエンス学会「鉄欠乏性貧血の診療指針【第1版】」2024年7月 https://jbis.bio/pdf/public_comment.pdf
    4. World Health Organization. WHO guideline on use of ferritin concentrations to assess iron status in individuals and populations. Geneva: WHO; 2020. https://www.who.int/publications/i/item/9789240000124
    5. Houston BL, Hurrie D, Graham J, et al. Efficacy of iron supplementation on fatigue and physical capacity in non-anaemic iron-deficient adults: a systematic review of randomised controlled trials. BMJ Open. 2018;8(4):e019240. doi:10.1136/bmjopen-2017-019240 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29626044/
    6. 食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)別表第十一 e-Gov法令検索
    7. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 ミネラル(微量ミネラル)鉄 https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316469.pdf
    8. 厚生労働省「令和6年国民健康・栄養調査結果の概要」 https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001603146.pdf
    9. RESONA-LAB 検査結果報告書(人用・試供品サンプル)の記載による。報告書の見本は公式サイトで公開されています https://resona-lab.com/humans

    本記事は公的な基準と研究状況の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の商品の効果を示すものでもありません。食事摂取基準は、鉄欠乏の場合の補給を医師の指示のもとで行うものとしています。

  • 寝酒をやめるか迷ったときの判断材料

    寝酒をやめるか迷ったときの判断材料

    飲んだ日は、よく眠れた気がする。その実感は、まちがってはいません。ただし当てはまるのは、一晩の前半だけです。

    ただ、厚生労働省の睡眠ガイドは、寝酒についてはっきりと書いています。睡眠前半では深い睡眠が増えるが、後半の質は顕著に悪化すると1。一晩のうち、前半と後半で逆のことが起きています。

    前半と後半で、逆のことが起きている

    「健康づくりのための睡眠ガイド2023」には、こう書かれています。

    アルコール(エタノール)は一時的には寝つきを促進し、睡眠前半では深い睡眠を増加させます。しかし、睡眠後半の眠りの質は顕著に悪化し、飲酒量が増加するにつれて中途覚醒回数が増加することが報告されています1。

    寝つきが早くなったことも、前半に深く眠ったことも、本人の実感としては正しい。ずれているのは、そこで一晩の評価を終えてしまうところです。

    朝の疲労感は、検査上の睡眠指標ではあまり説明がつかないことが分かっています。飲酒はここに、もう一つの説明を足します。前半だけを覚えていて、後半を覚えていない。

    「寝つきが早くなる」は、量による

    寝つきが早くなったのは、かなり飲んだときだけでした。体重1kgあたり0.85g以上、標準的な飲酒でおよそ5杯相当です2。健常成人を対象にした27研究をまとめた結果です。

    1〜2杯で「寝つきがよくなった」と感じているなら、それは量による効果ではありません。

    レム睡眠の乱れは2杯ほどから、寝つきの短縮は5杯ほどから起きることを示す比較図
    健常成人を対象とした27研究をまとめた解析。レム睡眠の乱れは体重1kgあたり0.50g以下(およそ2杯相当)から生じ、寝つくまでの時間が短くなるのは0.85g以上(およそ5杯相当)のときだけでした2。

    つまり「少しだけなら大丈夫」という感覚は、この2つの順番を取り違えています。少量から乱れるほうが先で、寝つきが良くなるのは後です。

    体が休んでいない、という別の証拠

    眠りの構造とは別に、循環の側でも変化が測られています。

    健常成人26名を対象に、低用量・高用量・プラセボの3晩を比較した実験では、飲酒した夜は心拍数が上がり、体が活動側へ傾いていました(心拍のゆらぎが小さくなり、交感神経の活動が増えていました)3。著者らは「中等量であっても顕著な影響がある」と述べています。

    眠っているあいだ、体は休息の側に切り替わるはずのものです。そこが切り替わりきらない夜がある、ということになります。

    いびきを指摘されたことがあるなら

    いびきや睡眠時無呼吸の素因がある人では、飲酒した夜に呼吸が止まる回数が増えます。量とは別の軸です。

    いびきや睡眠時無呼吸の素因がある人を対象にした13研究・279名のメタ解析では、飲酒により睡眠中に呼吸が止まる・浅くなる回数が1時間あたり3.98回増え、血中の酸素がいちばん下がったときの値も2.72%低くなっていました4。

    これは素因のある人での数字で、全員に同じことが起きるわけではありません。ただし、いびきを指摘されたことがある人では、飲酒量が睡眠時無呼吸の重さを左右します。

    睡眠ガイドも、無呼吸の治療をしていない場合の飲酒は「基本的には使用しない方がよい」としています1。

    日本人には、もうひとつ条件がある

    アルコールは体内でアセトアルデヒドに変わり、アルデヒド脱水素酵素(ALDH)で分解されます。この酵素の活性には個人差があり、睡眠ガイドはこう書いています。

    日本人を含むアジア人は西欧人やアフリカ系の人より活性が低い人が多いことが知られています。ALDHの活性が低い人は、アルコール摂取量が少量でも影響を強く受けやすいのでより一層注意が必要です1。

    飲むと顔が赤くなりやすい人は、この活性が低い側にあたります。同じ量でも、起きることは人によって違います。海外の研究の「標準的な1杯」は、そのまま自分には当てはまりません。

    飲んだ日と飲まなかった日を、記録で比べる

    飲んだ日と飲まなかった日で、自分に何が違うのか。これは記録すれば分かります。

    ただし、比べるのは「寝つき」ではありません。前半は良くなるからです。見るのは夜中に目が覚めた回数と、朝の感覚のほう。

    そして一度に一つだけ変えること。飲んだ量、飲んだ時刻、就寝時刻。同時に動かすと、何が効いたのか分からなくなります。

    寝る前のカフェインについては、コーヒー1杯でも睡眠に影響しうる量に届きます。ウェアラブル端末の数字を見ているなら、機器が推定する睡眠段階は検査で測るものとは別です。数字より、翌朝の実感のほうが直接的です。

    相談したほうがいい場合

    眠るために飲むことが習慣になっている。飲まないと寝つけない。量が増えている。こうした場合、起きているのは睡眠の問題だけではありません。睡眠ガイドは、寝酒の連用で依存と耐性が形成されることに触れています1。

    また、いびきを指摘された、睡眠中に呼吸が止まっていると言われた、日中の眠気が強い。この場合は飲酒とは別に、医療機関で確認したほうがいい領域です。

    前半の記憶で、一晩を評価しない

    もう1つ、その晩の外側に効いていることがあります。

    アルコールの処理は二段階で、日本人の4割強は二段目の働きが低い側にいます。ヘテロ欠損型では活性が約1/16。中間にできるアセトアルデヒドが滞る時間が、その分だけ長くなります。

    そして肝臓は、アルコールだけを処理しているわけではありません。薬や環境中の物質も、同じ酵素群で処理されています。飲んだ晩は、その処理の順番を占有していることになります。

    寝酒が「効く」と感じられるのは、前半だけを体験しているからです。寝つきの良さは覚えていても、明け方の浅い眠りは記憶に残りにくい。

    そして順番は逆でした。少量から乱れるのがレム睡眠で、寝つきが良くなるのは多く飲んだときです。

    睡眠の長さは、感染のしやすさにも関わっています。同じウイルスを投与した実験で、睡眠時間による差が出ています。

    そして同じ量を飲んでも、体の中に残るものの量は人によって違います。日本人の4割強は、アセトアルデヒドを分解する酵素の働きが生まれつき低い側で、ヘテロ欠損型の活性は約16分の1でした。

    飲むかどうかを決めるのは本人ですが、「よく眠るために飲む」という理由づけだけは、根拠が逆を向いています。

    参考文献・参考資料

    1. 厚生労働省 健康づくりのための睡眠指針の改訂に関する検討会「健康づくりのための睡眠ガイド2023」令和6年2月 https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf
    2. Gardiner C, Weakley J, Burke LM, et al. The effect of alcohol on subsequent sleep in healthy adults: A systematic review and meta-analysis. Sleep Medicine Reviews. 2025;80:102030. doi:10.1016/j.smrv.2024.102030 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39631226/
    3. de Zambotti M, Forouzanfar M, Javitz H, et al. Impact of evening alcohol consumption on nocturnal autonomic and cardiovascular function in adult men and women: a dose-response laboratory investigation. Sleep. 2021;44(1):zsaa135. doi:10.1093/sleep/zsaa135 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32663278/
    4. Burgos-Sanchez C, Jones NN, Avillion M, et al. Impact of Alcohol Consumption on Snoring and Sleep Apnea: A Systematic Review and Meta-analysis. Otolaryngology–Head and Neck Surgery. 2020;163(6):1078-1086. doi:10.1177/0194599820931087 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32513091/

    本記事は公的な指針と研究状況の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。飲酒量の判断は体質や健康状態によって異なります。妊娠中の方、治療中の方、服薬中の方の飲酒可否は個別に決まるもので、この記事の範囲には入りません。

  • 「体にいい」表示を、棚の前で読み分ける

    「体にいい」表示を、棚の前で読み分ける

    機能性表示食品は、その商品を人で試していなくても表示できます。含まれる成分について過去に行われた研究をまとめれば、届け出られるからです。

    そして消費者庁は「トクホと異なり、国が審査を行いません」と明記しています。同じ棚に並んでいても、裏にあるものが違います。その違いは、パッケージのどこかに書いてあります。

    ただし書き方が制度ごとに違い、しかも2026年9月に表示ルールの経過措置が終わったばかりで、店頭には新旧のパッケージが混在しています。

    まず、3つしかない

    食品に健康に関する機能を表示できるのは、保健機能食品と呼ばれる3種類だけです。それ以外の食品に「特定の保健の目的が期待できる」と書くことは、食品表示基準第9条で禁じられています1。

    「国が審査していない」は、パッケージに書いてある

    機能性表示食品について、消費者庁はこう説明しています。事業者が科学的根拠などを販売前に届け出れば機能性を表示できる制度であり、「特定保健用食品(トクホ)と異なり、国が審査を行いませんので、事業者は自らの責任において、科学的根拠を基に適正な表示を行う必要があります」3。

    そしてこの趣旨は、パッケージへの記載が義務づけられています。食品表示基準が定める現行の文言はこうです1。

    本品は、特定保健用食品と異なり、機能性及び安全性について国による評価を受けたものではありません。届け出られた科学的根拠等の情報は消費者庁のウェブサイトで確認できます。

    トクホとの違いは、消費者庁自身が1分の動画にまとめています。


    この文言は改正されたもので、経過措置が終わって完全に適用されたのは2026年9月1日です4。それ以前の表示は「消費者庁長官による個別審査を受けたものではありません」という書き方でした。いま店頭にある商品には、両方が混在しています。

    なお「個別審査を受けたものではありません」という文言は、現在は栄養機能食品の表示として残っています1。同じ言い回しが別の制度を指すことになったので、ここは混同しやすいところです。

    届出の根拠は、その商品の試験とは限らない

    ここが、読み解きの実務で最も効く点です。

    消費者庁の「機能性表示食品の届出等に関する手引き」によれば、機能性の根拠として認められるのは、その商品を人で試した臨床試験だけではありません。過去の研究を決められた手順で集めて総合する方法も認められています。システマティックレビューと呼ばれるもので、しかも対象は「その商品について」と「含まれている成分について」の二通りが認められています5。

    3つ目は、その商品を人で試していなくても届け出られるということです。含まれる成分について過去に行われた研究をまとめれば足ります。

    実際の内訳が調べられています6。

    機能性表示食品の根拠の内訳。システマティックレビュー87%、メタ解析10%、臨床試験3%。さらにそのレビューの39%は組み入れ論文が1本だけ
    2022年4〜8月の届出398製品・611の機能性表示を分析したもの6。制度はその後改正され、2025年4月からは、研究の集め方を国際的な手順に沿って報告することが求められています。

    システマティックレビューは本来、研究の中でも確実性の高い位置にあります。ただしそれは、集めた研究が十分にあり、方法が適切であることが前提です。組み入れ論文が1本のレビューは、実質的にその1本の研究と同じ重みしか持ちません。

    なお、これは2022年時点のデータです。制度はその後改正され、2025年4月からは、研究の集め方と選び方を国際的な手順に沿って報告することが求められるようになりました7。

    「国が認めた」と書いてあったら、それは違反である

    制度が禁じている表現も、はっきりしています。

    食品表示基準第9条は、機能性表示食品について「疾病の治療効果又は予防効果を標榜する用語」と「消費者庁長官の評価、許可等を受けたものと誤認させるような用語」の表示を禁じています1。

    そして実際に、これを理由とする処分があります。2023年11月、消費者庁はある機能性表示食品について景品表示法に基づく措置命令を出しました。認定された不当表示には、効果の裏づけ不足に加えて、次のものが含まれています8。

    「消費者庁が認定した機能性表示食品です。」
    「国が痩せると認めたサプリ」

    命令書には「実際には、消費者庁又は国が本件商品に……効果が得られることについて、認めた事実はない」と記されています8。

    消費者庁自身も、この件を代表例として「公表されている届出内容を超えた広告を鵜呑みにしないよう御注意いただきますようお願いします」と注意喚起しています3。

    根拠がひとつ崩れると、88件が連鎖した

    届出制がどう機能するかを示した出来事があります。

    2023年6月、別の事業者の機能性表示食品2商品に措置命令が出されました。消費者庁は表示の裏づけとなる資料の提出を求めましたが、提出された資料は合理的な根拠を示すものとは認められませんでした9。

    注目すべきはその後です。消費者庁は、この2商品と同一成分で科学的根拠が同一だった他の88件の届出について、疑義を指摘し回答を求めました。結果は、科学的根拠があると主張したもの0件、撤回の申出88件でした3。

    ひとつの根拠が多数の商品で共有されていた、ということでもあります。パッケージが違っても、後ろにある研究が同じことはありえます。

    制度は「一つの成分に、一つの機能」しか扱えない

    ここまでの話には、前提として置かれている構造があります。

    届出には機能性関与成分を特定できることが必要で、表示できるのは「特定の保健の目的」です。この制度に載せるには、あらかじめ「どの成分が、どの指標に、どう働くか」の形に整理されていなければなりません。

    これは制度の欠陥ではありません。検証可能にするには、そう切り分けるほかないからです。

    ただし、読む側にとっては意味があります。表示されているのは、その成分がその指標に対して示した結果であって、その人の体調全体についての主張ではありません。「脂肪の吸収を抑える」は、脂肪の吸収という一点についての届出であり、体重や体調がどうなるかは別の話です。

    体調は多くの場合、食事・睡眠・活動量・ストレス・服薬などが同時に関わって動きます。制度上表示できる形になった時点で、その複数性は落とされています。だから表示を読むときは、何が測られたのかと、自分が変えたいことが同じかどうかを分けて見ることになります。

    棚の前で、確かめられること

    先に1つ。「無添加」を根拠にした健康や安全の主張は、書けなくなりました。2022年のガイドラインが、不使用表示を健康・安全と関連付ける表示を類型の1つに挙げています。理由は「事業者が独自に健康及び安全について科学的な検証を行い、それらの用語と関連付けることは困難」だからです。

    ここまでを踏まえると、確認できることは絞られます。

    表示から読み取れること
    見る場所 分かること
    「機能性表示食品」「特定保健用食品」「栄養機能食品」の別 国が審査したのか、事業者が届け出たのか
    届出番号 消費者庁のデータベースで根拠を辿れる
    届出情報の「機能性の科学的根拠」欄 臨床試験か、システマティックレビューか。後者なら何本の論文を組み入れたか
    表示されている機能性の文言 届出された範囲を超えた広告になっていないか

    届出情報は消費者庁のサイトで誰でも検索できます。組み入れられた論文の本数まで書かれています。

    そのうえで実際に足すかどうかを決めるなら、その前に片づく問いがいくつかあります。

    「根拠がある」の中身が、制度ごとに違う

    最後に、制度の外側があることを書いておきます。

    「デトックス」「解毒」「毒素を出す」という表示には、機能性表示食品のような届出制度が対応していません。何という物質が、どれだけ減ったのかを示さないため、そもそも届出の形式に乗りません。

    2015年の総説は、市販のデトックス食について「これを支持する臨床的な根拠はきわめて乏しい」とし、有効性を評価した無作為化比較試験は行われていないと書いています。

    棚の前で確かめられることは、ここでも同じです。何が、どれだけ変わると書いてあるか。物質名も数字もないとき、それは根拠の水準が低いのではなく、確かめようがないということです。

    一方で、体が不要なものを外へ出す経路そのものは、生理学の教科書に物質名まで書かれています。仕組みが実在することと、ある商品がその仕組みを高めることは、別の主張です。

    この制度は、機能性の表示を可能にすると同時に、その根拠を公開させる仕組みでもあります。パッケージの一文だけを見ると差が見えませんが、後ろにあるものは大きく違います。

    国が個別に審査したのか。事業者が届け出たのか。届け出たとして、その商品を人で試したのか、成分についての過去の研究をまとめたのか。まとめたとして、何本あったのか。

    「根拠がある」は、ここまで分解できます。分解しないまま受け取ると、根拠の強さの差が消えます。

    参考文献・参考資料

    1. 食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)第9条ほか。e-Gov法令検索
    2. 消費者庁 食品表示課「機能性表示食品の今後について」令和6年9月(数値は令和6年8月2日時点) PDF
    3. 消費者庁「機能性表示食品について」 https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_function_claims/
    4. 消費者庁「食品表示基準の一部改正の施行に関するタイムスケジュール」(公布 令和6年8月23日/施行 令和7年4月1日/適用 令和8年9月1日) PDF
    5. 消費者庁「機能性表示食品の届出等に関する手引き」(制定 令和7年3月25日 消食表第273号/一部改正 令和7年10月1日 消食表第711号) PDF
    6. 鈴木郁功, 千葉 剛, 吉松嘉代, 竹林 純. 機能性表示食品の届出情報における機能性の科学的根拠に関する調査. 食品衛生学雑誌. 2024;65(2):31-39. doi:10.3358/shokueishi.65.31 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38658345/
    7. 消費者庁「機能性表示食品の届出情報検索」(令和7年4月1日からPRISMA声明2020準拠) https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_function_claims/search/
    8. 消費者庁「株式会社アリュールに対する景品表示法に基づく措置命令について」令和5年12月5日公表 https://www.caa.go.jp/notice/entry/035547/index.html
    9. 消費者庁「さくらフォレスト株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令について」令和5年6月30日 https://www.caa.go.jp/notice/entry/033865/

    本記事は表示制度と公表情報の整理であり、特定の商品の評価や推奨を目的としたものではありません。また、疾病の診断・治療・予防に関する情報を提供するものでもありません。制度は改正されることがあるため、最新の内容は消費者庁の公表資料をご確認ください。

  • サプリを買う前に、片づけておきたい問い

    サプリを買う前に、片づけておきたい問い

    「どれにするか」から始めると、選択肢は無数にあって決まりません。「足りていないのか」から始めると、多くの場合、候補は数個に絞られます。

    そして栄養素によって、足りているかの確かめ方が違います。血液の数値で線が引けるもの、食べている量から見るもの、尿から推定するもの。順番は、確かめ方を選ぶところからです。

    1. そもそも足りていないのか

    サプリメントは、足りないものを補うための手段です。だとすれば、最初の問いは「自分に足りていないのか」になります。

    日本の状況は、公的な調査で数字が出ています12。

    20〜40代女性のカルシウム・鉄・ビタミンDの摂取量が、いずれも食事摂取基準の推奨量/目安量を下回っていることを示す棒グラフ
    20〜40代女性の1日あたり摂取量と、食事摂取基準2025年版が示す量12。調査と基準で年齢区分が異なり、ビタミンDは推奨量ではなく目安量です。

    ただし、ここには注意がいります。この調査は1日の食事記録に基づいています1。

    足りているかどうかは、栄養素によって事情が違います。骨から補われて値が動かないものもあり、体の中での使われ方も栄養素ごとに分かれます。順番の2番目が効いてくるのは、ここです。

    鉄については、フェリチンは炎症で上がるため、一点の数値だけでは読めません。

    2. 足りている人が足したら、どうなるのか

    ここが、順番として2番目に来る理由になります。

    欠乏のない成人を対象にした試験を集めた系統的レビュー(84研究、739,803人)は、ビタミン・ミネラルの補充について「がん・心血管疾患・死亡の予防に、ほとんどまたはまったく利益がない」と結論しています3。

    「効果がない」と言い切っているのではありません。βカロテンとビタミンEについては推奨しないとし、マルチビタミンについては判断できるだけの材料がないとしています。この二つは違います。「エビデンスがない」が意味することの整理は、ここでそのまま効いてきます。

    3. 増やすと不利になる場合がある

    足りている人が足すことの問題は、「無駄になる」だけではありません。

    フィンランドで行われたATBC試験は、50〜69歳の男性喫煙者29,133人にβカロテンを投与しました。想定は肺がんの予防です。結果は逆で、βカロテン群では肺がんの罹患が18%(95%信頼区間 3〜36%)多くなりました4。

    米国のCARET試験も同じ方向を示し、予定より21か月早く中止されています5。

    高用量のビタミンEについては、35,533人を対象にした試験で、前立腺がんが17%多く起きたと報告されました6。対象は健康な男性です。

    いずれも特定の集団・特定の用量での結果であり、すべてのサプリメントに一般化できるものではありません。ただ、「体にいいものだから多いほどいい」という前提が成り立たないことは示しています。

    4. 日本の基準も、同じことを書いている

    この点について、厚生労働省の食事摂取基準2025年版に、かなり踏み込んだ記述があります。

    貧血でない妊婦・授乳婦についても、鉄サプリメントの利用は控えるべきだと書かれています7。

    逆に言えば、鉄欠乏や鉄欠乏性貧血がある場合の補給は必要であり、それは医師の指示に従って行うもの、という整理になります。不足しているかどうかで、答えが正反対になります。だから1番目の問いが最初に来ます。

    5. いま飲んでいる薬はあるか

    ここは順番というより、該当する人には最優先の確認事項です。

    2000年、厚生省はセント・ジョーンズ・ワート(セイヨウオトギリソウ)と医薬品の相互作用について報道発表を行っています。薬物代謝酵素であるチトクロームP450、特にCYP3A4とCYP1A2が誘導されることが理由です8。

    報告された影響は具体的で、抗HIV薬インジナビルの血中濃度の指標が平均43%低下、強心薬ジゴキシンが平均25%低下。免疫抑制薬シクロスポリンでは、心移植後の患者で急性拒絶反応が生じた例が報告されています8。

    この発表では、該当する医薬品として28成分が挙げられ、添付文書の改訂が指示されました。ワルファリン、経口避妊薬、抗てんかん薬、抗不整脈薬などが含まれます8。

    薬を服用中の方は、サプリメントを追加する前に処方医または薬剤師にご確認ください。また、すでに併用している場合、自己判断で急にやめることにも注意が必要とされています。

    6. 順番に並べると、こうなる

    ここまでの順番を並べると、こうなります。

    サプリを足すか迷ったときの、判断の順番
    順 問い 手がかり
    1 薬を飲んでいるか 該当するなら、まず処方医・薬剤師に相談
    2 本当に足りていないのか 1日の食事記録では判定できない。検査値や食習慣の傾向を見る
    3 足りている人で効果は示されているか 栄養素ごとに違う。「不十分」と「推奨しない」を区別する
    4 増やしたときの上限はあるか 耐容上限量が設定されているものと、されていないものがある
    5 何が変わったら、やめると決めるか 始める前に決めておく

    3番目については、パッケージの表示からも辿れます。「体にいい」と書かれているとき、その根拠がどこまで確かめられているかは、制度によって大きく違います。

    5番目が抜けやすいところです。何をもって「効いた」とするかを決めずに始めると、やめる理由も見つからないまま続くことになります。

    期限の置き方には、実例があります。皮膚科が金属制限食を指導するときは「2ヶ月続けて無効であれば速やかに中止する」と決められています。始めるときに、やめる条件を一緒に決めるやり方です。足す側でも、同じ形が使えます。

    そして、栄養素には「不足を埋める」以外の役割もあります。不要なものを処理して外へ出す反応は、材料を消費します。足りなければ滞る。ただしここでも順番は同じで、足りていない状態から足したときと、足りている状態から足したときでは、起きることが違います。「解毒のために足す」も、1番目の問いから外れません。

    そして、判断の材料は「エビデンスがある」という一言の中身によって変わります。同じ「研究で示された」でも、対象が誰で、何と比べて、どれくらいの差だったのかで、意味はまったく違ってきます。

    順番が変わると、迷いの質が変わる

    「どれを選ぶか」から始めると、選択肢は無数にあって決まりません。

    「足りていないものはあるか」から始めると、多くの場合、候補は数個に絞られます。そして「足りていない」と確認できたなら、それは選ぶ根拠になります。確認できなければ、急いで足す理由もありません。

    なお、「免疫力を上げる」という訴求は、この順番に乗りません。「免疫力」という一つの指標が医療にないため、足りているかどうかを確かめる方法がありません。

    公的な基準ですら、鉄については「欠乏でない人が増やしても貧血の予防にはつながらない」と書いています。たんぱく質についても、推奨量以上の摂取で他の健康指標に有益な影響が得られる根拠は乏しいとしています。足すかどうかの前に、足りているかどうか。順番はそちらが先です。

    参考文献・参考資料

    1. 厚生労働省「令和6年国民健康・栄養調査報告」第1部 栄養摂取状況調査の結果 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/r6-houkoku_00001.html
    2. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html
    3. O’Connor EA, Evans CV, Ivlev I, et al. Vitamin and Mineral Supplements for the Primary Prevention of Cardiovascular Disease and Cancer: Updated Evidence Report and Systematic Review for the US Preventive Services Task Force. JAMA. 2022;327(23):2334-2347. doi:10.1001/jama.2021.15650 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35727272/ 勧告文:US Preventive Services Task Force. JAMA. 2022;327(23):2326-2333. doi:10.1001/jama.2022.8970 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35727271/
    4. The Alpha-Tocopherol, Beta Carotene Cancer Prevention Study Group. The effect of vitamin E and beta carotene on the incidence of lung cancer and other cancers in male smokers. New England Journal of Medicine. 1994;330(15):1029-1035. doi:10.1056/NEJM199404143301501 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8127329/
    5. Omenn GS, Goodman GE, Thornquist MD, et al. Effects of a combination of beta carotene and vitamin A on lung cancer and cardiovascular disease. New England Journal of Medicine. 1996;334(18):1150-1155. doi:10.1056/NEJM199605023341802 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8602180/
    6. Klein EA, Thompson IM, Tangen CM, et al. Vitamin E and the risk of prostate cancer: the Selenium and Vitamin E Cancer Prevention Trial (SELECT). JAMA. 2011;306(14):1549-1556. doi:10.1001/jama.2011.1437 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21990298/
    7. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 ミネラル(微量ミネラル)pp.297-298 https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316469.pdf
    8. 厚生省医薬安全局安全対策課・生活衛生局食品保健課「セント・ジョーンズ・ワート(セイヨウオトギリソウ)と医薬品の相互作用について」平成12年5月10日 https://www.mhlw.go.jp/www1/houdou/1205/h0510-1_15.html

    本記事は公的な基準と研究状況の整理であり、個別の診断・治療・栄養指導に代わるものではありません。特定の商品の効果を示すものでもありません。