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  • マグネシウムを、食品とサプリのどちらから足すか

    マグネシウムを、食品とサプリのどちらから足すか

    マグネシウムの推奨量は30〜49歳で男性380mg、女性290mg。日本人の摂取量は20歳以上の平均で男性261mg、女性234mgです12。

    男性で約69%、女性で約81%。足りていません。

    そして、この栄養素の耐容上限量には変わった書き方がされています。「通常の食品以外からの摂取量の耐容上限量は、成人の場合350mg/日」。食品からの摂取については、上限を設定していません2。

    どれだけ足りていないか

    マグネシウムの推奨量に対し、男性は380mgに対し261mg、女性は290mgに対し234mg
    30〜49歳の推奨量と、20歳以上の摂取量の平均値12。
    マグネシウムの推奨量(mg/日)と、実際の摂取量
    男性 女性
    推奨量 18〜29歳 340 280
    推奨量 30〜49歳 380 290
    推奨量 50〜64歳 370 290
    実際(20歳以上の平均) 261 234
    実際(20〜29歳) 229 193
    耐容上限量 通常の食品以外から350mg/日(食品からは設定なし)

    「食品からは上限なし」という書き方

    ここが、この栄養素の特徴です。食事摂取基準の表の脚注に、こう書かれています。

    通常の食品以外からの摂取量の耐容上限量は、成人の場合350mg/日、小児では5mg/kg体重/日とした。それ以外の通常の食品からの摂取の場合、耐容上限量は設定しない2

    理由は、過剰摂取で最初に起きるのが下痢だからです。サプリメントや医薬品として一度に多く摂ると起きますが、食品として摂るぶんには、そこまで届く前に食べきれません。

    「増やすと不利になる場合がある」という話の、分かりやすい例です。同じ栄養素でも、入ってくる形で上限が変わります。

    足りているかは、血液で分からない

    食事摂取基準の報告書は、はっきり書いています。「マグネシウムの不足や欠乏を招く摂取量を推定することは難しい」2。

    必要量の算定も、血液検査からではなく出納試験(出入りを測る方法)から行われています2。研究の設備で行う方法です。

    血液で線が引けるのは、ビタミンD・亜鉛・鉄・葉酸。カルシウムとマグネシウムは、引けない側です。

    だから見るのは、食べた量のほうになります。

    どの食品に、どれだけ入っているか

    日本食品標準成分表(八訂)増補版の値です。可食部100gあたり3。

    マグネシウムの含有量(mg/100g)
    食品 100gあたり 1回分のめやす
    あおさ(素干し) 3,200 ひとつまみ2gで64mg
    ほしひじき(乾) 640 乾10gで64mg
    カットわかめ(乾) 460 乾2gで9mg
    ごま(いり) 360 大さじ1(9g)で32mg
    アーモンド(乾) 290 10粒15gで44mg
    大豆(国産、乾) 200 —
    糸引き納豆 100 1パック45gで45mg
    乾しいたけ(乾) 100 2枚6gで6mg
    木綿豆腐 57 1/2丁150gで86mg
    玄米ごはん 49 茶碗1杯150gで74mg
    そば(ゆで) 27 1食200gで54mg

    ここに出てくる食品を見て、気づくことがあります。海藻、種実、豆、玄米、そば。食物繊維の供給源と、ほとんど同じ顔ぶれです。

    そして12の栄養素の供給源を並べたときに重なっていた「ナッツ・豆類・海藻」が、ここでも上位に来ます。1つの食品を足すと、複数の栄養素が同時に動きます。

    玄米に替えると、どうなるか

    分かりやすい例を1つ。

    ごはん茶碗1杯(150g)の差
    マグネシウム
    玄米ごはん(100gあたり49mg) 74mg
    精白米ごはん(同7mg) 11mg

    1食で63mgの差です。1日3食なら189mg。足りない分(男性で約119mg、女性で約56mg)を上回ります。

    ただし玄米にはもう一方の話もあります。日本人のカドミウム摂取の7割以上が米・小麦・大豆から来ていて、精米すると外側の層は減ります。どちらを取るかは、この記事だけでは決められません。

    検査結果の「不足」欄にマグネシウムが出たら

    集団としては足りていません。特に20代女性は193mgで、推奨量280mgの69%です。

    RESONA-LABの結果報告書は、マグネシウムの「解毒への関与」として「肝臓酵素の働きを助け、毒素排出を促す」、腸については「腸の蠕動を整え、便通を促進」と記しています4。

    後者には、薬としての裏づけがあります。酸化マグネシウムは、便秘に対する薬として処方されています。ただしそれは医薬品としての用量の話で、食品から摂る量とは桁が違います。

    前者(肝臓酵素)については、「マグネシウムを増やせば処理が速くなる」と人で確かめられた手順は見当たりません。足りない分を埋める理由は、そちらではなく、300以上の酵素反応に関わるという基本的な役割のほうにあります。

    今日できること

    ナッツ・豆・海藻・玄米のどれかを、1日1回入れる。

    アーモンド10粒で44mg、納豆1パックで45mg、玄米ごはん1杯で74mg。1品で足りない分の半分から全部が埋まります。

    そして出す側の順番で言えば、これは「上流の材料」にあたります。出口が動いているかを先に見る、という順番は変わりません。

    今日決められるのは、食品から埋めるかサプリメントから埋めるかです。ここだけ、上限の扱いが違います。

    食品由来のマグネシウムに耐容上限量は設定されていません。一方でサプリメントなど通常の食品以外からの摂取には、成人で350mg/日という上限が置かれています。ナッツ・海藻・豆類を1品足すのと、錠剤を足すのとでは、確かめるべきことが変わります。

    参考文献・参考資料

    1. 厚生労働省「令和5年 国民健康・栄養調査結果の概要」表3・表4 栄養素等摂取量 https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001338334.pdf
    2. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 ミネラル(多量ミネラル)マグネシウムの食事摂取基準 https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316468.pdf
    3. 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補版」本表 https://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/mext_00001.html 1回分のめやすは、成分表の値から計算したものです。
    4. RESONA-LAB 検査結果報告書(人用・試供品サンプル)の記載による https://resona-lab.com/humans

    本記事は公的資料の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の食品・製品・サプリメントの効果を示すものでも、摂取を勧めるものでもありません。腎臓の機能が低下している方では、マグネシウムが排泄されにくくなります。酸化マグネシウム製剤を含む薬を使用中の方、食事制限を受けている方は、個別の指示が優先されます。

  • ビタミンDを、食べる以外からも足す

    ビタミンDを、食べる以外からも足す

    ビタミンDの目安量は18歳以上で9.0µg/日、日本人の摂取量は20歳以上の平均で男性6.9µg、女性6.2µgです12。

    男性で77%、女性で69%。足りていません。

    そしてこの栄養素には、他にない事情があります。食べる以外の入口があります。食事摂取基準の表そのものに、こう注記されています。

    日照により皮膚でビタミンDが産生されることを踏まえ、フレイル予防を図る者はもとより、全年齢区分を通じて、日常生活において可能な範囲内での適度な日光浴を心掛けるとともに、ビタミンDの摂取については、日照時間を考慮に入れることが重要である2

    どれだけ足りていないか

    ビタミンDの目安量9.0µgに対し、20歳以上の摂取量は男性6.9µg、女性6.2µg、20代はさらに低い
    目安量と、実際の摂取量の平均値12。
    ビタミンDの目安量(µg/日)と、実際の摂取量
    男性 女性
    目安量(18歳以上) 9.0 9.0
    実際(20歳以上の平均) 6.9 6.2
    実際(20〜29歳) 4.7 4.3
    実際(70〜79歳) 8.1 7.8
    耐容上限量(18歳以上) 100

    年齢が上がるほど、摂取量も上がっています。20代で4.7µgだったものが、70代では8.1µg。魚を食べる量の差です。

    なお目安量は2020年版の8.5µg/日から9.0µg/日に引き上げられました2。基準のほうが上がったぶん、差は広がっています。

    この栄養素は、血液で確かめられる

    栄養素には、血液の数値で足りているかが分かるものと、分からないものがあります。

    ビタミンDは分かる側です。血中の25-ヒドロキシビタミンD(25(OH)D)濃度で評価され、学会の判定指針があります。カルシウムのように骨から補われて血中の値が動かない、という構造にはなっていません。

    つまり、気になるなら測れます。この記事の数字は集団の平均で、自分がどこにいるかは別に確かめられる、ということです。

    入口は、魚に集中している

    日本食品標準成分表(八訂)増補版の値です。可食部100gあたり3。

    ビタミンDの含有量(µg/100g)
    食品 100gあたり 1回分のめやす
    しらす干し(半乾燥品) 61.0 大さじ1(5g)で3.1µg
    まいわし 丸干し 50.0 1尾30gで15.0µg
    べにざけ(生) 33.0 1切れ80gで26.4µg
    まいわし(生) 32.0 1尾60gで19.2µg
    うなぎ かば焼 19.0 1/2尾50gで9.5µg
    乾しいたけ(乾) 17.0 2枚6gで1.0µg
    さんま(皮つき、生) 16.0 1尾100gで16.0µg
    きくらげ(乾) 85.0 乾2gで1.7µg
    鶏卵(全卵、生) 3.8 1個50gで1.9µg

    魚の切り身1切れで、1日分を超えます。べにざけ80gで26.4µg、目安量9.0µgの約3倍です。

    一方、きのこは含有量が高くても、食べる量が少ないので届きません。乾しいたけ100gあたり17.0µgでも、2枚では1.0µgです。

    この栄養素は、食品の選び方で桁が変わります。魚を食べない週は、ほぼ入ってきません。

    日光の扱い

    食事摂取基準は、目安量の表に直接こう注記しています。ビタミンDの摂取については、日照時間を考慮に入れることが重要である2。

    他の栄養素の表に、こういう注記はありません。食べた量だけでは決まらない、と基準そのものが書いているのは、この栄養素だけです。

    ここで、もう1つの記事とつながります。日焼け止めについては、紫外線が皮膚がんと日焼けを起こすことが確立していて、FDAも「使用を控えるべきことを示すものではない」と書いています。

    2つは矛盾しません。基準が書いているのは「可能な範囲内での適度な日光浴」で、日焼け止めをやめることではありません。

    上限は、サプリメントでのみ届く

    耐容上限量は18歳以上で100µg/日です2。

    食事から届くかを計算すると、べにざけなら1日300g。毎日は現実的ではありません。

    届くのはサプリメントです。そして、この栄養素は脂溶性で、体に蓄えられます。同じ脂溶性のビタミンAでも、過剰摂取による健康障害が報告されているのはサプリメントを大量に摂った場合と動物の肝臓を大量に摂った場合とされています。

    足すかどうかの前に、足りているかどうか。この栄養素は血液で確かめられるので、順番を守りやすいほうです。

    検査結果の「不足」欄にビタミンDが出たら

    集団としては足りていません。特に20代です。個人の結果は、血中25(OH)Dで確かめられます。

    RESONA-LABの結果報告書は、ビタミンDの「解毒への関与」として「免疫細胞を活性化し、炎症コントロールを支援」と記しています4。

    免疫との関係については研究が続いている領域です。ただし「免疫力」という一つの数値は医療の中に存在しません。足りない分を埋める理由は、骨とカルシウムの吸収という、もっとはっきりした側にあります。

    今日できること

    この1週間で、魚を何回食べたかを数える。

    0回か1回なら、この栄養素はほぼ入ってきていません。切り身1切れで1日分を超えるので、週に2回で目安量に届く計算になります。

    そしてカルシウムも日本人は推奨量の3分の2程度しか摂れていません。この2つは、一緒に見る組み合わせです。片方だけ増やしても、吸収の側が足りなければ働きません。

    参考文献・参考資料

    1. 厚生労働省「令和5年 国民健康・栄養調査結果の概要」表3・表4 栄養素等摂取量 https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001338334.pdf
    2. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 ビタミン(脂溶性ビタミン)ビタミンDの食事摂取基準 https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316466.pdf
    3. 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補版」本表 https://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/mext_00001.html 1回分のめやすは、成分表の値から計算したものです。
    4. RESONA-LAB 検査結果報告書(人用・試供品サンプル)の記載による https://resona-lab.com/humans

    本記事は公的資料の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の食品・製品・サプリメントの効果を示すものでも、摂取を勧めるものでもありません。腎臓の疾患で治療中の方、カルシウム代謝に関わる薬やビタミンD製剤を使用中の方は、個別の指示が優先されます。

  • カルシウムを、どう埋めれば届くか

    カルシウムを、どう埋めれば届くか

    日本人のカルシウム摂取量は、20歳以上の平均で男性490mg、女性476mgです1。

    推奨量は30〜49歳で男性750mg、女性650mg2。男性で約65%、女性で約73%にとどまっています。

    そして血液検査では足りているか分かりません。骨から補われるので、血中の値は動かないためです。だから見るのは、食べた量のほうになります。

    どれだけ足りていないか

    令和5年の国民健康・栄養調査と、食事摂取基準(2025年版)を並べます。

    カルシウムの推奨量と実際の摂取量。男性は750mgに対し490mg、女性は650mgに対し476mg
    30〜49歳の推奨量と、20歳以上の摂取量の平均値12。
    カルシウムの推奨量(mg/日)と、実際の摂取量
    男性 女性
    推奨量 18〜29歳 800 650
    推奨量 30〜49歳 750 650
    推奨量 50〜64歳 750 650
    実際の摂取量(20歳以上の平均) 490 476
    耐容上限量(18歳以上) 2,500

    20〜29歳ではさらに低く、男性454mg、女性386mgです1。

    これは、この媒体で扱ってきた栄養素の中でも大きい差です。ビタミンEのように目安量を上回っているものもあれば、ここのように3分の1以上足りないものもあります。

    血液で確かめられない理由

    健康診断の血液検査にカルシウムの項目があることがあります。ただしその数値は、足りているかを表していません。

    血中のカルシウム濃度は、狭い範囲に厳しく保たれています。食事から足りなければ、骨から出して血中の濃度を維持します。だから足りていない人でも、血液の値は正常範囲に入ります。

    食事摂取基準も、カルシウムの必要量を血液検査からではなく、体内蓄積量・尿中排泄量・経皮的損失量を積み上げる方法(要因加算法)で算出しています2。

    血液で線が引ける栄養素と、引けない栄養素があります。カルシウムは後者です。

    骨の状態が気になるなら、見るのは骨密度のほうです。血中のカルシウム値ではなく、骨そのものを測る検査で数値が出ます。

    どの食品に、どれだけ入っているか

    日本食品標準成分表(八訂)増補版の値です。可食部100gあたり3。

    カルシウムの含有量(mg/100g)と、1回分のめやす
    食品 100gあたり 1回分のめやす
    ほしひじき(乾、ステンレス釜) 1,000 乾10gで100mg
    プロセスチーズ 630 1切れ20gで126mg
    しらす干し(微乾燥品) 280 大さじ1(5g)で14mg
    アーモンド(乾) 250 10粒15gで38mg
    こまつな(葉、生) 170 1食70gで119mg
    ヨーグルト(全脂無糖) 120 100gで120mg
    普通牛乳 110 コップ1杯200mlで約220mg
    木綿豆腐 93 1/2丁150gで140mg
    糸引き納豆 90 1パック45gで41mg

    100gあたりの数字と、実際に摂れる量は別です。ひじきは含有量が最も高いのに、乾10gでは100mgにしかなりません。牛乳は含有量では下のほうですが、200ml飲めば1回で220mg入ります。

    1つ補足があります。木綿豆腐の値は、凝固剤によって変わります。硫酸カルシウムを使ったものは150mg、塩化マグネシウム(にがり)を使ったものは40mgです3。同じ「木綿豆腐」でも4倍近く違います。

    差を埋めるとしたら

    足りない分は、男性で約260mg、女性で約174mgでした。

    1品足したときに入る量
    足すもの 入る量
    牛乳 コップ1杯(200ml) 約220mg
    ヨーグルト 1カップ(100g) 120mg
    プロセスチーズ 1切れ(20g) 126mg
    木綿豆腐 1/2丁(150g) 140mg
    こまつなのおひたし(70g) 119mg

    1日1品で、ほぼ埋まる幅です。この栄養素については、差が大きいわりに、埋め方は単純です。

    上限は、食事では届かない

    耐容上限量は18歳以上で2,500mg/日です2。

    実際の摂取量が490mgですから、食事から5倍にしないと届きません。現実的ではありません。

    届く可能性があるのは、サプリメントを使ったときです。足すかどうかの前に、足りているかどうかという順番は、ここでも同じです。そしてこの栄養素については、足りていないことが調査ではっきりしています。

    妊娠中・授乳中の付加量は、ゼロ

    意外に知られていない点です。食事摂取基準は、妊婦・授乳婦のカルシウムの付加量を+0としています2。

    妊娠中は腸からの吸収率が上がるため、付加量を設定しない、という考え方です。ただし、もともとの推奨量を満たしていることが前提です。実際の摂取量は推奨量を下回っています。

    検査結果の「不足」欄にカルシウムが出たら

    この記事の数字がそのまま答えになります。日本人の平均は推奨量の65〜73%です。個人の結果を待たなくても、集団として足りていません。

    RESONA-LABの結果報告書は、カルシウムの「解毒への関与」として「重金属の吸収を抑制」と記しています4。

    この記述の裏づけになる、人での試験は確認できませんでした。「カルシウムを増やせば重金属の吸収が減る」と言える手順は、いまのところ見当たりません。

    足りていない分を埋める理由は、そちらではなく骨のほうにあります。調査で3割以上足りていないことが分かっている、というだけで十分な理由です。

    そして蓄積した金属については、入口を閉じるほうが確実です。

    今日できること

    この1週間で、乳製品・小魚・大豆製品・青菜を何回食べたかを数える。

    思い出すのではなく、数える作業です。0回に近いなら、差は200mg以上あります。1日1品で埋まります。

    そしてビタミンDは、カルシウムの吸収を助ける栄養素で、こちらも日本人は目安量に届いていません。2つは別々の話ではありません。

    参考文献・参考資料

    1. 厚生労働省「令和5年 国民健康・栄養調査結果の概要」表3・表4 栄養素等摂取量(1歳以上、男女・年齢階級別) https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001338334.pdf
    2. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 ミネラル(多量ミネラル)カルシウムの食事摂取基準 https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316468.pdf
    3. 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補版」本表 https://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/mext_00001.html 1回分のめやすは、成分表の値から計算したものです。
    4. RESONA-LAB 検査結果報告書(人用・試供品サンプル)の記載による。報告書の見本は公式サイトで公開されています https://resona-lab.com/humans

    本記事は公的資料の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の食品・製品・サプリメントの効果を示すものでも、摂取を勧めるものでもありません。腎臓の疾患で治療中の方、カルシウム代謝に関わる薬を服用中の方、食事制限を受けている方は、個別の指示が優先されます。

  • お腹の張りを、減らす方向から考え直す

    お腹の張りを、減らす方向から考え直す

    小麦、タマネギ、ひよこ豆、レンズ豆、リンゴ、トウモロコシ、牛乳、ヨーグルト、はちみつ。

    この9つには共通点があります。小腸で分解・吸収されにくく、そのまま大腸に達して、腸内細菌にすばやく発酵・分解される糖を多く含みます1。

    結果として2つのことが起きます。水素ガスやメタンガスが発生すること。そして高浸透圧性によって、腸管内に水分を引き込むことです1。

    なぜ、この9つが一緒に挙がるのか

    小麦とタマネギとリンゴと牛乳は、食品としては何の関係もありません。共通しているのは含まれている糖の性質です。

    FODMAPは、次の4つの頭文字です1。

    FODMAPの中身1
    頭文字 内容
    F fermentable(発酵性)
    O oligosaccharides(オリゴ糖)
    D disaccharides(二糖類)
    M monosaccharides(単糖類)
    P polyols(糖アルコール)

    つまり「発酵しやすい短い糖」のまとまりです。食品の種類ではなく、糖の種類で束ねられています。

    小腸で吸収されなかった糖が大腸で発酵してガスを出し、浸透圧で水を引き込むことを示す図
    小腸で吸収されなかった分が大腸に届き、そこで2つのことが起きます1。

    この機序が分かると、お腹の張りが「食べた量が増えたから」だけでは説明できない理由も見えてきます。増えているのは、食べたものの体積ではなく、ガスと水分のほうです。

    そして乳糖不耐症は、この構造がいちばんはっきり分かっている例です。二糖類(D)にあたります。ガイドラインは、乳糖不耐症のIBS患者について、ラクトース制限食を6週間摂取することで症状が有意に改善したという報告を挙げています1。

    どこまで確かめられているか

    ガイドラインの記述を、そのまま引きます。

    IBS患者では、低FODMAP食の摂取により、一般の食事に比べ、IBS症状を軽減することが欧米を中心に複数の無作為比較試験より示されているが、本邦における低FODMAP食の受容性、有効性に関してはさらなる検討が必要である1

    2つのことが同時に書かれています。欧米では複数のRCTで示されている。日本ではこれから。

    「受容性」というのは、実行できるかどうかの話です。除去には栄養・生活・戻しにくさという三方向のコストがあります。小麦とタマネギと牛乳を同時に外す食事が、日本の食卓でどれだけ続けられるかは、別に確かめる必要があります。

    盲検にすると、犯人が変わる

    この分野には、印象的な試験があります。

    自分でグルテンが合わないと考えている人を対象に、本人にも研究者にも中身が分からない形で行われた試験です。

    盲検下で分かったこと
    試験 結果
    2013年 低FODMAP食にすると参加者全員の消化器症状が一貫して改善。その後グルテンを負荷しても、対照のホエイを負荷しても同じように悪化。グルテンに特異的な反応は8%だけ
    2018年 グルテン・フルクタン・プラセボを盲検で割り付けたところ、症状が最も強く出たのはフルクタン。グルテンとプラセボのあいだに差はなかった

    フルクタンは、FODMAPのO(オリゴ糖)にあたります。小麦とタマネギに多く含まれます。

    つまり「小麦が合わない」と感じていた人の多くで、実際に症状を出していたのはグルテン(たんぱく質)ではなく、フルクタン(糖)のほうだった、ということになります。

    自分の感覚だけでは、犯人を決められないという話の、いちばん明快な実例です。

    全員に共通することと、個別に決めること

    ガイドラインは、食事指導を2つに分けています。

    IBS患者に対する食事指導・食事療法に関しては、すべての患者に共通した有用な事項と個々に異なる対応事項とに分けて検討することが必要である。間食や欠食を慎み、規則的な食事習慣を心がけることはすべての患者に共通する項目である。一方、症状を助長させる食品や食事成分を認識し、制限することは患者ごとに対応するべき項目である1

    「まず規則的に食べる」が、全員共通の側にあります。個別の食品を外すのは、そのあとです。

    これは順番の話として、この媒体で何度か出てきた形と同じです。出口が先、上流があと。足すかどうかの前に、足りているかどうか。

    やるなら、どういう形になるか

    低FODMAP食は、ずっと続ける食事ではありません。合わないものを見つけるための手順です。

    形は、この媒体で繰り返し書いてきたものと同じになります。

    合わないものを見つける手順の形
    やること
    1 期間を決めて、対象を減らす
    2 1つずつ戻して、変化を比べる
    3 反応が出なかったものは、戻したままにする
    4 効かなかったら、期限で区切ってやめる

    4番目が抜けやすいところです。皮膚科が金属制限食を指導するときは「2ヶ月続けて無効であれば速やかに中止する」と決められています。同じ形です。

    そして、FODMAPを含む食品の多くは、食物繊維の供給源でもあります。小麦、豆類、タマネギ。日本人の食物繊維の摂取量は、目標量に10g近く足りていません。減らす対象が、そのまま栄養の供給源になっている——この構造は、ここでも同じです。

    だから期間を決めることに意味があります。

    自分でやる前に、確かめること

    1つ、はっきりさせておきます。ここで扱ったのは、診療ガイドラインに書かれている内容です。対象はIBSと診断された患者で、その食事指導の話です。

    そしてお腹の張りには、この記事で扱っていない原因もあります。体重が意図せず減っている、血が混じる、夜間に症状で目が覚める、発熱が続いている。こうしたことがあるなら、食事を変える前の段階です。

    それ以外の場合、この記事から持って帰れるのは2つです。

    1つめ。お腹の張りの機序は、かなりの部分まで分かっています。小腸で吸収されなかった糖が、大腸でガスと水分を作る。体質でも、気のせいでもありません。

    2つめ。犯人を決めるのは感覚ではなく、1つずつ戻して比べる手順です。盲検にすると答えが変わる、という実例がすでにあります。

    参考文献・参考資料

    1. 日本消化器病学会「機能性消化管疾患診療ガイドライン2020―過敏性腸症候群(IBS)(改訂第2版)」食事指導・食事療法の項 https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/guideline/pdf/IBSGL2020_.pdf

    本記事は診療ガイドラインの記載の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。引用した研究の対象は過敏性腸症候群と診断された患者です。特定の食品・食事法の効果を示すものでも、実施を勧めるものでもありません。食事制限は栄養素の不足を招く可能性があります。治療中の方、食事制限を受けている方、お子さま、妊娠中・授乳中の方は、個別の指示が優先されます。

  • 「溜まっている」より先に、これから入る量を見る

    「溜まっている」より先に、これから入る量を見る

    「溜まる」と言うとき、どこに溜まるかで、出ていく速さが100倍以上変わります。

    水銀は、体内の量が半分になるまで約2ヶ月1。カドミウムは、腎皮質での生物学的半減期が20〜50年と推定されています2。

    違いは、金属の毒性ではありません。体のどこに置かれるかです。

    同じ「蓄積」でも、時間の桁が違う

    検査の蓄積の欄には9つの金属が並びますが、この欄の中で、時間の性質がまったく違うものが混ざっています。

    水銀の半減期は約2ヶ月、鉛は血液で28〜36日、カドミウムは腎皮質で20〜50年と対数目盛りで示した図
    半減期を並べると、対数目盛りでないと同じ図に載りません123。
    物質ごとの、溜まる場所と半減期
    物質 主に溜まる場所 半減期
    水銀 — 体内の量が半分になるまで約2ヶ月1
    鉛 血液・軟部組織のあと、骨へ緩慢に再分布 血中・軟部組織で約28〜36日。骨ではずっと長い3
    カドミウム 腎皮質(体内負荷量の1/3)、肝臓・筋肉(1/4) 腎皮質で20〜50年2

    カドミウムについて、資料はさらにこう書いています。「脳、脂肪組織、骨への蓄積は、非常に少ない」2。行き先が、かなりはっきり決まっています。

    腎臓の「回収する」働きが、逆に出る

    カドミウムが腎皮質に留まる理由が、資料に書かれています。

    (カドミウムは)近位尿細管で再吸収されて腎皮質に蓄積。非常に微量のカドミウムが尿から少しづつ排泄される2

    腎臓は1日に200リットルを濾過して、そのほとんどを回収しています。尿として出ていくのは1%未満。この「回収する」働きが、カドミウムでは留まる方向に働きます。

    そしてカドミウムの耐容週間摂取量は、その腎皮質への影響を指標に設定されています。溜まる場所と、影響が出る場所が同じです。

    年齢で、数字が変わる

    この分野には、年齢によって値が変わるものがいくつかあります。

    年齢による違い
    物質 違い
    鉛 食事中の鉛の吸収率は成人で約10%、幼児・小児で50%。生体内に留まる比率も成人より小児で高い3
    カドミウム 日本人の腎皮質の蓄積量は50〜60歳をピークとし、それ以降は減少。一方、肝臓では年齢依存的に増加2
    アルミニウム 上限が体重あたりで決まるため、体重の軽い小児で比が上がる

    鉛の吸収率が成人の5倍というのは、大きな差です。同じ量が口に入っても、体に入る量が5倍違うということになります。

    一方でカドミウムについては、「胎盤をほとんど通過しないため、胎児や新生児の負荷量は無視できる」とされています2。物質ごとに、話が違います。

    入口によっても、入る量が違う

    もう1つ、経路ごとの差があります。

    経路と、入り方
    経路 分かっていること
    経口 鉛は成人で約10%、小児で50%が吸収される3。ニッケルは1〜10%で、90〜99%は便として通過
    経皮 鉛の経皮吸収はほとんどない3。酸化チタンも角層の外層より奥へは行かない
    吸入 肝臓の作り変えを経由せず、直接全身へ

    「体に入ってくる」は、経路と物質の組み合わせで、まったく違う話になります。

    だから、入口を閉じたときの効き方も違う

    ここが、この記事の実用的な結論です。

    入口を1つ選んで閉じるという手順は同じでも、結果が見えるまでの時間が物質によって違います。

    入口を閉じたときに、何が起きるか
    物質 起きること
    水銀 2ヶ月で、体内の量が半分に近づきます。厚労省が、妊娠に気づいた段階から摂取量をコントロールすることで「一定の効果が期待される」としているのはこのためです1
    鉛 血液の側は1ヶ月ほどで動きますが、骨に移った分は、その速さでは動きません
    カドミウム すでに溜まった分は、減るのを待てる時間ではありません。効くのは、これから入る量のほうです

    つまり「デトックス」で減らせるかどうか以前に、物質ごとに減る速さが決まっています。

    汗については、尿に匹敵する排泄が報告されている一方で、測り方が確立していません。食べもので排泄が動いた人の試験もありますが、測っているのは尿に出た量です。どちらも、この半減期の枠組みの中で意味を持ちます。

    「溜まっている」より、「これから入る量」

    結果に蓄積の欄があると、視線はすでに溜まっている量に向きます。

    ただ、ここまで見たとおり、すでに溜まった分に対してできることは、物質によってかなり限られています。カドミウムの20〜50年という数字は、そういう意味です。

    対して、これから入る量は、今日から変えられます。

    調理で9割減らせるものがあります。本数で数えられる入口があります。最初の数分を流すだけで変わるものがあります。鏡で見れば分かる入口があります。

    時間の向きが違います。溜まった分は過去の結果で、入る量はこれからの選択です。

    参考文献・参考資料

    1. 薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会乳肉水産食品部会「妊婦への魚介類の摂食と水銀に関する注意事項」Q&A(平成22年6月1日改訂) https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/suigin/dl/index-b.pdf
    2. 内閣府食品安全委員会「食品から摂取されるカドミウムの健康影響評価」(2008年7月3日)。ヒトにおけるカドミウムの動態 https://www.fsc.go.jp/hyouka/hy/hy-iinkai240-cadmium.pdf
    3. 厚生労働省 薬事・食品衛生審議会「鉛の毒性に関する知見について」資料12(平成18年6月13日) https://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/06/dl/s0613-7l.pdf

    本記事は公的資料の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の製品・食事法・施術の効果を示すものでも、実施を勧めるものでもありません。記載した半減期は推定値であり、条件によって異なります。

  • 「無添加」より確かな、表示の読み方

    「無添加」より確かな、表示の読み方

    原材料名の欄に、「/」(スラッシュ)が入っていることがあります。

    その右側が、食品添加物です。左側が原材料。「/」の代わりに改行で区切られていることも、別の欄になっていることもあります1。

    そして並び順にも意味があります。どちらも、重量の多い順です。

    「無添加」に、ルールができた

    2022年3月30日、消費者庁が「食品添加物の不使用表示に関するガイドライン」を策定しました。2年の経過措置を経て、2024年4月から本格的に適用されています2。

    ガイドラインは、注意が必要な不使用表示を10の類型に分けています2。

    10の類型2
    内容
    類型1 単なる「無添加」の表示
    類型2 食品表示基準に規定されていない用語を使用した表示
    類型3 食品添加物の使用が法令で認められていない食品への表示
    類型4 同一機能・類似機能を持つ食品添加物を使用した食品への表示
    類型5 同一機能・類似機能を持つ原材料を使用した食品への表示
    類型6 健康、安全と関連付ける表示
    類型7 健康、安全以外と関連付ける表示
    類型8 食品添加物の使用が予期されていない食品への表示
    類型9 加工助剤、キャリーオーバーとして使用されている(又は使用されていないことが確認できない)食品への表示
    類型10 過度に強調された表示

    「人工」も「化学」も、制度の用語ではなかった

    類型2の説明が、この記事でいちばん驚く部分かもしれません。

    ガイドラインは、こう書いています2。

    用語についての記述
    用語 記述
    人工・合成 食品表示基準における人工及び合成の用語は、令和2年7月に削除されている
    化学調味料 かつてJAS規格において使用されていたが、平成元年には削除されており、食品表示基準において使用されたことはない
    天然 食品添加物の表示において「天然」又はこれに類する表現の使用を認めていない

    前提として、食品衛生法において、食品添加物には化学的合成品も天然物も含まれており、いずれも使用が認められています。食品表示基準は、化学的合成品と天然物に差を設けず、原則としてすべて表示することにしています2。

    「人工」「合成」「化学」「天然」という区別は、日本の食品表示の制度には存在していません。それでも流通していたのが、この4語でした。

    「無添加だから体にいい」は書けない

    類型6は、はっきりしています。

    食品添加物は、安全性について評価を受け、人の健康を損なうおそれのない場合に限って国において使用を認めていることから、事業者が独自に健康及び安全について科学的な検証を行い、それらの用語と関連付けることは困難であり、実際のものより優良又は有利であると誤認させるおそれがある2

    例として挙げられているのは、「体に良いことの理由として無添加あるいは不使用を表示」「安全であることの理由として無添加あるいは不使用を表示」の2つです。

    これは「体にいい」と書かれているとき、その根拠がどこまで確かめられているかという話と、同じ場所にあります。

    言われてみれば、という類型

    残りの類型にも、実例がついています。

    ガイドラインが挙げている例2
    類型 例 なぜ問題か
    3 清涼飲料水に「ソルビン酸不使用」 清涼飲料水へのソルビン酸の使用は、そもそも使用基準違反
    4 日持ち向上目的で保存料以外の添加物を使いながら「保存料不使用」 同じ機能の別の添加物を使っている
    5 アミノ酸を含有する抽出物を使いながら、調味料を使っていない旨を表示 同じ機能の原材料で代替している
    8 ミネラルウォーターに「保存料不使用」「着色料不使用」 同種の製品で一般に使われておらず、消費者が使用を予期していない
    9 原材料の一部に保存料を使いながら、最終製品に「保存料不使用」 原材料の製造・加工の過程まで確認する必要がある

    類型3と8は、そもそも入っていないものを「入っていない」と書く表示です。

    では、何を見るか

    「無添加」が手がかりにならないなら、代わりの手がかりが要ります。それが一括表示です。

    原材料名欄でスラッシュの左が原材料、右が添加物で、それぞれ重量の多い順に並ぶことを示す図
    「/」の左が原材料、右が添加物。どちらも重量の多い順です1。

    消費者庁の資料に、表示例が載っています1。

    砂糖(国内製造)、濃縮果汁(ももを含む)、植物油脂/ゲル化剤(ペクチン)、酸味料、香料、着色料(紅麹)

    「/」の左が原材料、右が添加物。4つ入っていることが、数えれば分かります。

    実際のパッケージでどう見分けるかは、農林水産省の解説が4分でたどっています。


    用途名が併記されるもの

    次の8つの用途については、用途名が物質名と一緒に表示されます1。

    甘味料/着色料/保存料/増粘剤・安定剤・ゲル化剤・糊料/酸化防止剤/発色剤/漂白剤/防かび剤・防ばい剤

    上の例の「ゲル化剤(ペクチン)」「着色料(紅麹)」がこの形です。用途と物質名の両方が分かります。

    一括名で書かれるもの

    一方、次の14の用途については、物質名の代わりに一括名で表示できます1。

    イーストフード/ガムベース/かんすい/酵素/光沢剤/香料/酸味料/チューインガム軟化剤/調味料/豆腐用凝固剤/苦味料/乳化剤/水素イオン濃度調整剤/膨張剤

    こちらは中身の物質名が分かりません。複数の添加物の組み合わせで効果を発揮することが多いもの、食品中にも通常存在する成分と同じものが、この扱いになります。

    実例があります。アルミニウムの入口だったミョウバンは、「膨張剤」という一括名の中に入ります。表示から判別することはできません。だから制度の側で、2018年に使用基準が作られました。

    表示されないもの

    3つあります1。

    表示が不要な食品添加物
    理由
    加工助剤 最終的に食品に残っていない
    キャリーオーバー 残っていても量が少なく、効果が発揮されない
    栄養強化の目的で使用されるもの (一部の食品は表示が必要)

    つまり、表示を全部読んでも「入っているものが全部分かる」わけではありません。ガイドラインの類型9が、ここに対応しています。加工助剤やキャリーオーバーがある食品に「不使用」と書けば、誤認させるおそれがある、と。

    数える、という手がかり

    ここまでを踏まえると、表示から確実に分かるのは次のことです。

    一括表示から分かること、分からないこと
    分かる 表示対象の添加物がいくつ入っているか/重量の多い順/用途名併記の8種は物質名まで
    分からない 一括名14種の中身/加工助剤・キャリーオーバー/それぞれの量

    量が分からないのは、実は大きい点です。日本では添加物ごとに一日摂取許容量が設定され、日本人の実際の摂取量も推定されています。許容量に対する割合が最も高かったもので17.2%でした。その数字は、個別の商品の表示からは出てきません。

    だから、できることは「数を減らす」より「加工食品の頻度を記録する」ほうです。ただしそれを変えると、添加物以外(食塩・脂質・食物繊維)も同時に動きます。

    制度が変わった、ということの意味

    「無添加」という言葉は、長いあいだ買い物の手がかりでした。その言葉にルールができたことは、手がかりを1つ失ったようにも見えます。

    ただ、置き換わったものがあります。「/」の右側は、以前からそこにありました。

    そして、この件で起きたのは弁当のフタル酸やパン・菓子のアルミニウムと同じことです。問題が特定され、制度が動きました。

    ガイドラインは、消費者庁が2022年に出したものです。そこに書かれている「人工・合成の用語は2020年7月に削除されている」「化学調味料は食品表示基準で使われたことはない」は、調べれば誰でも確かめられる事実でした。使われ続けていたのは、誰も確かめなかったからです。

    参考文献・参考資料

    1. 消費者庁「食品表示の内容を正しく理解するための“食品添加物表示に関するマメ知識”」 https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_sanitation/food_additive/assets/food_labeling_cms204_210408_01.pdf
    2. 消費者庁「食品添加物の不使用表示に関するガイドライン」令和4年3月30日 https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms201_220330_25.pdf

    本記事は公的資料の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の食品・製品の安全性や危険性を示すものでも、購入を勧めるものでも、避けるよう勧めるものでもありません。表示の内容は製品ごとに異なります。

  • ひじきのゆでこぼしで、無機ヒ素は9割減る。鉄・カルシウム・食物繊維は7割以上残る

    ひじきのゆでこぼしで、無機ヒ素は9割減る。鉄・カルシウム・食物繊維は7割以上残る

    乾燥ヒジキをゆでこぼすと、無機ヒ素は9割程度減ります。そして鉄分・カルシウム・食物繊維は7割以上残ります1。

    農林水産省が家庭でできる調理法を調べた結果です。手順も具体的に示されています。30分水に浸す → 戻し水を捨てる → お湯に入れて沸騰後5分ゆでる → 水洗い。

    入口には、閉じられるものと閉じられないものがあります。ここには3つめがありました。減らせる入口です。

    同じ食品に、2つの結論が出た

    2004年7月28日、英国食品規格庁(FSA)がヒジキを食べないように英国民に勧告しました。理由は、FSAの調査で、発がんリスクが指摘されている無機ヒ素が多く含まれるという結果が得られたためです2。

    その2日後の7月30日、厚生労働省がQ&Aを公表します。結論が違いました。

    違いは、量を計算に入れたかどうかです。

    厚生労働省が示した計算2
    数値
    日本人の海藻摂取量 1日14.6g(平成14年度 国民栄養調査)
    そのうちヒジキの割合 約6.1%(生産・輸入・輸出量からの試算)
    ヒジキの推定摂取量 1日 約0.9g
    無機ヒ素のPTWI(WHO 1988年) 15µg/kg体重/週。体重50kgで107µg/日(750µg/週)
    FSAが測った最大濃度 水戻し後のヒジキで22.7mg/kg
    上限に届く量 毎日4.7g(週33g)以上を継続的に

    0.9gと4.7g。約5倍の差があります。

    日本人のヒジキ摂取量は1日約0.9gで、上限に届く4.7gまで約5倍の距離があることを示す図
    実際の摂取量と、上限に届く量。最も濃度の高いヒジキを想定した場合の試算です2。

    厚労省の結論はこうです。「ヒジキを極端に多く摂取するのではなく、バランスのよい食生活を心がければ健康上のリスクが高まることはないと思われます」。あわせて「海藻中に含まれるヒ素によるヒ素中毒の健康被害が起きたとの報告はありません」とも書いています2。

    そして「ヒジキは食物繊維を豊富に含み、必須ミネラルも含んでいます」という一文が続きます2。魚の水銀について、同じ厚労省が「魚介類を全く食べない集団では、高度不飽和脂肪酸が欠乏し、小児の知能低下や成人の心臓病のリスクが上昇する」と書いているのと、同じ形です。

    やめることの代償を、一緒に計算しています。

    ほかの海藻は、別の話

    1つ、混ざりやすい点があります。

    Q&Aは「ヒ素は自然界に存在するため、他の海藻中にも含まれていますが、ヒジキとは異なり、毒性の低い有機ヒ素として存在しているとされています」と書いています2。

    問題になるのは無機ヒ素のほうです。海苔、昆布、わかめが同じ扱いになるわけではありません。

    また、ヒジキ中のヒ素に関する国際的な基準は設定されていません2。基準がないこと自体は、他の物質でも起きています。

    調理で、どれだけ減るか

    ここからが、実際に手が動く部分です。

    農林水産省は2014年度に、家庭でできる調理法ごとの無機ヒ素の減り方を調べました1。

    調理法と、無機ヒ素の減り方1
    方法 手順 減り方
    水戻し 30分水に浸す → 水洗い 5割程度減
    ゆで戻し 水に入れてゆでる。沸騰後5分間ゆでる → 水洗い 8割程度減
    ゆでこぼし 30分水に浸す → 戻し水を捨てる → お湯に入れてゆでる。沸騰後5分間ゆでる → 水洗い 9割程度減

    理由は単純です。無機ヒ素は水に溶け出すため、水洗い・水戻し・ゆでこぼしの工程で減ります1。

    そして、いちばん大事なのがこの一行です。

    ヒジキに含まれる鉄分、カルシウム、食物繊維は、「水戻し」、「ゆで戻し」、「ゆでこぼし」をしても、7割以上残ります1

    減らしたいものが9割減って、残したいものが7割以上残る。こういう結果は、めったに出ません。

    除去食では、減らす対象がそのまま栄養の供給源になっていました。金属制限食でも、制限する対象に鉄・亜鉛・銅が含まれていました。だから期限が要ります。

    ここでは、その衝突が起きていません。方法が分かれているからです。

    入口には、3つ目の扱い方がある

    蓄積の入口を整理すると、これまで2つに分けてきました。

    入口の扱い方
    例
    閉じられる たばこ、缶飲料、装身具
    閉じられない 主食のカドミウム、空気中のマイクロプラスチック
    減らせる ヒジキの無機ヒ素(調理で9割減)、水道水の鉛(流し始めを捨てる)

    3つめは、やめなくていいという点で決定的に違います。食べ続けながら減らせる。

    そして「解毒にいい食べ物」で人の試験があるものは限られていましたが、こちらは入る量を実測で減らす話です。何割減るかが、調理法ごとに出ています。

    今日やること

    乾燥ヒジキを使うとき、戻し水を捨てる。

    それだけで、水戻しの5割減がゆでこぼしの9割減に近づきます。手順が増えるのは、戻し水を捨てて、5分ゆでる、という部分だけです。

    そして、ヒジキをやめる必要はありません。日本人の摂取量は上限に届く量の約5分の1で、厚労省も農水省も「食べるな」とは書いていません。農水省の資料の見出しは「より安全に食べるために」です1。

    資料はこうも書いています。「食品を通じて摂取したヒ素による健康影響は認められておりませんが、ヒジキをより安全に食べるためには……」1。順番がはっきりしています。

    参考文献・参考資料

    1. 農林水産省 消費・安全局 畜水産安全管理課「より安全に食べるために 家庭でできるヒジキの調理法」平成27年10月 https://www.maff.go.jp/j/syouan/tikusui/gyokai/g_kenko/busitu/pdf/hijiki02.pdf 関連ページ:ヒジキに含まれるヒ素の低減に向けた取組
    2. 厚生労働省「ヒジキ中のヒ素に関するQ&A」平成16年7月30日 https://www.mhlw.go.jp/topics/2004/07/tp0730-1.html

    本記事は公的資料の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の食品の摂取を勧めるものでも、避けるよう勧めるものでもありません。食事制限を受けている方は、個別の指示が優先されます。

  • 「解毒にいい食べ物」に、どこまで根拠があるか

    「解毒にいい食べ物」に、どこまで根拠があるか

    「解毒にいい食べ物」の大半は、人で確かめられていません。市販のデトックス食については、有効性を評価した無作為化比較試験が行われていないと2015年の総説が書いています。

    ただし、例外はあります。大気汚染の大きい地域で291人を対象に行われた12週間の無作為化試験で、ブロッコリースプラウト飲料を飲んだ群は、ベンゼン由来の代謝物の尿中排泄が61%、アクロレイン由来が23%増えました(いずれもP≤0.01)1。

    そして、ここを読み違えないことが大事です。増えたのは「尿に出た量」です。病気が減ったかどうかは、この試験では測っていません。

    どこで、誰に、何をした試験か

    ジョンズ・ホプキンス大学などのグループが、中国・江蘇省啓東市の農村部で行った試験です。大気汚染物質への曝露が大きいことで知られる地域で、291人が参加しました1。

    試験の条件1
    内容
    参加者 291人(中国・啓東市 He-He鎮)
    期間 12週間
    設計 無作為化、プラセボ対照
    介入 ブロッコリースプラウト由来の飲料。1日あたりグルコラファニン600µmol、スルフォラファン40µmol
    測ったもの ベンゼン、アクロレイン、クロトンアルデヒドの尿中のメルカプツール酸(液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析)

    メルカプツール酸というのは、第II相でくっつけて水に溶ける形にしたあと、尿から出ていく形の1つです。つまりこの試験は、処理して出す工程が実際に動いたかどうかを、出てきた物質の量で測っています。

    結果

    ブロッコリースプラウト飲料でベンゼン由来代謝物の尿中排泄が61%、アクロレイン由来が23%増えたことを示す図
    プラセボ群と比べた、尿中排泄量の増加。クロトンアルデヒドでは統計的に有意な増加は見られませんでした1。
    尿中排泄量の変化(プラセボ群との比較)1
    物質 結果
    ベンゼン 61%増(P≤0.01)
    アクロレイン 23%増(P≤0.01)
    クロトンアルデヒド 有意な増加は見られなかった

    3つ測って、2つで動き、1つでは動きませんでした。物質によって結果が違う、というところまで出ています。

    そして12週間の投与期間を通じて、スルフォラファン代謝物の生物学的利用能は低下しませんでした1。続けても効きが落ちなかった、という意味です。

    遺伝子型で、差が出た

    この試験には、もう1つ観察があります。

    ベンゼン由来のメルカプツール酸の排泄は、GSTT1という遺伝子を持っている人のほうが、持っていない人より高くなりました。しかもこれは、試験群かプラセボ群かに関係なく見られました1。

    GSTというのは、第II相でグルタチオンをくっつける反応を担う酵素群です。この酵素の遺伝子を持っているかどうかで、同じ曝露でも出ていく量が違ったということになります。

    「同じものを食べても人によって違う」が、この試験の中でも観察されています。

    読み違えやすいところ

    この結果は、いくつかの点で慎重に扱う必要があります。

    この試験が言っていること、言っていないこと
    内容
    言っている 特定の飲料を12週間飲むと、一部の物質の尿中排泄が増える
    言っていない それによって病気が減るか、症状が良くなるか
    言っていない 体内に残っている量が減ったか(測ったのは出てきた量)
    言っていない 日常的に食べるブロッコリーで同じことが起きるか

    特に4つめです。試験で使われたのは1日グルコラファニン600µmolという定量された飲料でした。スーパーで買うブロッコリーを食べることと、同じ条件ではありません。

    著者らの結論も、その範囲で書かれています。「ブロッコリースプラウトによる介入は、一部の大気汚染物質の解毒を高め、それに伴う長期的な健康リスクを軽減する質素な手段を提供しうる」1。「提供しうる(may provide)」です。

    それでも、この試験には意味がある

    ここまで限定をつけたうえで、この試験が示していることは重要です。

    「処理して出す工程は、外から動かせることがある」——それが人で、無作為化試験で、確かめられました。

    「デトックス」という言葉が使いにくいのは、物質名が書かれず、出たかどうかを誰も確かめられないからでした。この試験は逆です。物質名(ベンゼン、アクロレイン、クロトンアルデヒド)があり、測り方があり、比較対象があり、動かなかったものまで報告されています。

    確かめられる形にすれば、ここまで確かめられます。弁当のフタル酸が、入口の特定から通知を経て22分の1になったのと、同じ種類の話です。

    では、今日の食事をどうするか

    この記事から出てくる行動は、控えめです。

    アブラナ科の野菜を食べる理由が1つ増えた、というところまでです。ブロッコリー、キャベツ、大根、芽キャベツ。ビタミンCの供給源としても、これらは上位に来ます。

    飲料と同じ量を食べようとする必要はありません。試験の用量は、日常の食事から狙って摂る水準ではありません。

    そして、順番は変わりません。出口が動いているかを先に見る。食物繊維は目標量に10g近く足りていません。入口は9種それぞれ違い、閉じられるものがあります。

    特定の食品を足すことは、この順番の中では最後のほうにあります。それでも、人で確かめられた試験があるものと、ないものは、区別しておく価値があります。

    参考文献・参考資料

    1. Egner PA, Chen JG, Zarth AT, et al. Rapid and sustainable detoxication of airborne pollutants by broccoli sprout beverage: results of a randomized clinical trial in China. Cancer Prevention Research. 2014;7(8):813-823. doi:10.1158/1940-6207.CAPR-14-0103 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24913818/
    2. Klein AV, Kiat H. Detox diets for toxin elimination and weight management: a critical review of the evidence. Journal of Human Nutrition and Dietetics. 2015;28(6):675-686. doi:10.1111/jhn.12286 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25522674/

    本記事は公開された研究の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の食品・製品・サプリメントの効果を示すものでも、摂取を勧めるものでもありません。引用した試験が測定したのは尿中代謝物の排泄量であり、健康アウトカムの改善を示したものではありません。試験で用いられた用量は、通常の食事から摂取される量とは異なります。

  • 同じものを食べても差が出る理由を、酵素から知る

    同じものを食べても差が出る理由を、酵素から知る

    日本人1,003人の5つの薬物代謝酵素の遺伝子型を調べた研究があります。理論上の組み合わせは483通り。実際に見つかったのは139通りでした1。

    異物を処理する第I相の中心にあるのが、このシトクロムP450という酵素群です。酸化して、反応しやすい部分を作る段階を担っています。

    その働きの強さは、人によって違います。同じものを同じだけ口にしても、処理の速さは同じになりません。

    「人によって違う」が、どれくらいの幅なのか

    健康の話では「個人差があります」で終わることが多くあります。それ自体は正しいのですが、そこで止まると何も決まりません。

    異物の処理については、個人差の中身が物質名と数字まで分かっている部分があります。

    薬学部の研究グループが、日本人1,003人についてCYP1A2、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP3A5の5つの遺伝子型を調べました。組み合わせは理論上483通り。実際に見つかったのは139通りでした1。

    日本人1003人で、5つの薬物代謝酵素の遺伝子型の組み合わせが139通り見つかったことを示す図
    5つの酵素だけで139通り。これは薬物代謝酵素を対象にした研究です1。

    著者らの結論は、臨床の話です。「我々の結果によれば、被験者の大部分が臨床治療の際に用量調整を必要とするようにみえる」1。

    日本人で、特に差が出ている酵素

    CYP2C19という酵素については、集団ごとの頻度が古くから調べられています。

    この酵素の働きが弱い型をpoor metabolizer(PM)と呼びます。1997年の研究によれば、PMの頻度は欧米人で2〜5%、東アジアの集団で13〜23%。同じ研究で、日本人53人のうち15%がPMでした2。

    CYP2C19のpoor metabolizerの頻度2
    集団 頻度
    欧米人 2〜5%
    東アジアの集団 13〜23%
    日本人(53人の調査) 15%
    サウジアラビア人(97人) 2人のみ

    この研究では、遺伝子型と実際の代謝の型(表現型)が完全に一致していました2。予測できる、ということです。

    同じ構造が、お酒でも起きています。ALDH2という酵素は、日本人の1割弱が完全に働かず、3割強が働きの弱いヘテロ型で、その活性は約1/16です。欧米人には、ほとんど見られません。

    どこまで言えて、どこから言えないか

    ここをはっきりさせておきます。

    確立している範囲
    状況
    薬の代謝 確立している。用量調整の根拠として使われ、添付文書に記載のある薬もある
    アルコール 確立している。ALDH2の型と、飲酒後の反応の関係
    食品・環境中の物質 同じようには言えない。研究の場で仮説として持ち出される段階

    3つめについて、実例があります。汗中の金属の系統的レビューは、研究間で測定値のばらつきが極めて大きかった理由を考察する中で、「解毒効率に影響する遺伝的多型」を候補の1つに挙げています3。

    これは「そうだった」ではなく「そうかもしれない」の水準です。ばらつきの説明として持ち出されているだけで、確かめられてはいません。

    だから「自分は解毒が弱い体質だから」という説明を、いま買うことはできません。薬について確立していることを、食品や環境物質にそのまま横滑りさせるのは、動物のデータを人に当てはめるときと同じ種類の飛躍です。

    個人差があるのは「速さ」のほう

    ここが実際に効いてくる部分です。

    P450の多型が変えているのは、第I相の酸化の速さです。処理の経路そのものが変わるわけではありません。

    そして第II相でくっつける材料は、すべて糖とアミノ酸に行き着きます。グルクロン酸はグルコースから、メチル基はメチオニンから、硫酸は含硫アミノ酸から。この材料が要ることは、遺伝子型に関係なく同じです。

    むしろ、第I相が速くて第II相が追いつかないと、反応しやすい中間代謝物のほうが溜まります。速いことが、そのまま有利とは限りません。

    個人差が関わる場所と、関わらない場所
    個人差
    第I相の酸化の速さ ある。遺伝子型で予測できる部分がある
    第II相でくっつける材料 誰でも糖とアミノ酸から作られる
    出口(尿・便) 経路は同じ。胆汁が脂溶性物質の主要排泄経路であることも同じ
    腸の通過 速さは人によって違うが、見る項目は共通(6項目)

    では、自分について何ができるか

    遺伝子型を調べれば、薬の用量の判断材料にはなります。遺伝子検査が答えているのは「生まれ持った傾向」で、生涯変わりません。

    ただ、この記事で見たとおり、食品や環境中の物質について、それを使って何かを決められる段階にはありません。

    いまできるのは、こちらです。

    一度に一つだけ変えて、記録する。集団の平均が自分に当てはまるかどうかを確かめる方法は、いまのところこれしかありません。そして期限を先に決めておくと、効かなかったときに戻せます。

    個人差があると分かっていることは、「だから確かめる意味がある」という向きに効きます。平均の話が自分に当てはまらないことは、実際にあります。

    「体質」で片づけずに、何が言えるか

    最後に、言葉の整理です。

    「体質だから」は、話を終わらせる言い方になりがちです。けれどこの記事で見たものは、物質名と酵素名と頻度がある話でした。CYP2C19、ALDH2、poor metabolizer、15%。

    「毒素」という言葉が使いにくいのは、物質名が書かれないからでした。「体質」も同じ構造にあります。何の酵素の、どの型の話か。そこまで書かれていれば、確かめられます。書かれていなければ、確かめようがありません。

    そして書かれていたとしても、薬の話なのか、食品の話なのかは分けて読む必要があります。いま確立しているのは前者です。

    参考文献・参考資料

    1. Ota T, Kamada Y, Hayashida M, Iwao-Koizumi K, Murata S, Kinoshita K. Combination analysis in genetic polymorphisms of drug-metabolizing enzymes CYP1A2, CYP2C9, CYP2C19, CYP2D6 and CYP3A5 in the Japanese population. International Journal of Medical Sciences. 2015;12(1):78-82. doi:10.7150/ijms.10263 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25552922/
    2. Goldstein JA, Ishizaki T, Chiba K, et al. Frequencies of the defective CYP2C19 alleles responsible for the mephenytoin poor metabolizer phenotype in various Oriental, Caucasian, Saudi Arabian and American black populations. Pharmacogenetics. 1997;7(1):59-64. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9110363/
    3. Sears ME, Kerr KJ, Bray RI. Arsenic, cadmium, lead, and mercury in sweat: a systematic review. Journal of Environmental and Public Health. 2012;2012:184745. doi:10.1155/2012/184745 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3312275/

    本記事は公開された研究の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の検査・製品の効果を示すものでも、実施や使用を勧めるものでもありません。薬物代謝酵素の遺伝子多型に関する知見は薬物療法の文脈で確立したものであり、食品や環境中の物質の処理速度に同様に当てはまるかどうかは十分に検証されていません。服用中の薬について、遺伝子型を理由に自己判断で用量を変えないでください。

  • 子どもの食事で、アルミニウムをどう見るか

    子どもの食事で、アルミニウムをどう見るか

    アルミニウムの摂取量が上限に近づくのは、体重の軽い子どもです。

    厚生労働省のマーケットバスケット調査(平成23〜24年度)で、暫定耐容週間摂取量(PTWI)に対する比が最も大きかったのは小児(1〜6歳)で約43%でした1。

    そして、ここからが実際に動いた部分です。小児の95パーセンタイル値以上で、PTWI比は100%を超えていました。学童・青年・成人では、99パーセンタイル値でも超えませんでした1。

    これを受けて2018年11月30日、菓子・生菓子・パンに使用基準が新設されました。1kgにつきアルミニウムとして0.1g以下です2。

    上限そのものが、3回動いている

    アルミニウムの上限は、FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)が設定しています。

    暫定耐容週間摂取量(PTWI)の変遷1
    年 PTWI 変えた理由
    1988年 7 mg/kg体重/週 —
    2006年(第67回) 1 mg/kg体重/週 従来のPTWI以下の用量で、生殖系および神経発達に影響を与える可能性を示唆する知見があった
    2011年(第74回) 2 mg/kg体重/週 再度議論を行い変更

    7分の1に下げて、そのあと2倍に戻しています。同じことがBPAでも起きていて、そちらは2023年にEFSAとドイツBfRが1,000倍違う数字を出しました。

    上限の数字は、その時点で何が分かっているかを表しています。物質の性質が変わったわけではありません。

    日本人の摂取量を、実際に測った

    日本では平成23〜24年度に、加工食品と未加工食品からのアルミニウム摂取量がマーケットバスケット方式で調べられました。食品添加物や残留農薬でも使われている方法で、実際に売られている食品を買ってきて、調理して、測ります1。

    アルミニウムの対PTWI比。小児1-6歳の平均は43%だが、95パーセンタイル以上で100%を超える
    年齢層ごとの対PTWI比。平均はどの年代もPTWIを下回りましたが、小児(1-6歳)の95パーセンタイル値以上で100%を超えました1。
    年齢層ごとの結果1
    年齢層 結果
    小児(1〜6歳) 平均で対PTWI比 約43%。95パーセンタイル値以上で100%を超えた
    学童(7〜14歳) 99パーセンタイル値でも100%を超えなかった
    青年(15〜19歳)
    成人(20歳以上)

    寄与が大きかった食品群は、「穀類」と「砂糖類、菓子類」でした1。

    カドミウムで見たのと同じで、平均だけを見ると、上位のほうが見えません。この件では、平均43%と95パーセンタイル100%超のあいだに、対応が必要かどうかの分かれ目がありました。

    なぜ菓子パンに入っているのか

    入口は、ミョウバンです。硫酸アルミニウムカリウム(カリウムミョウバン)と硫酸アルミニウムアンモニウム(アンモニウムミョウバン)。

    資料には、なぜ使われるかまで書かれています。

    膨脹剤の一種で、重曹(炭酸水素ナトリウム)に酸剤であるミョウバン等を配合したもの。重曹は、水分がある状態で加熱されると炭酸ガスが発生し、生地を膨らませる作用を持つが、苦みのあるアルカリ性物質(炭酸ナトリウム)が生成する。これを改良するためにベーキングパウダーには酸剤が配合されており、ミョウバンは酸剤の一種である1

    味のためです。重曹だけだと苦くなる。それを中和するための酸剤の1つが、ミョウバンでした。

    アルミニウムを含む添加物の用途と、対象食品1
    用途 主な対象食品
    膨脹剤(ベーキングパウダー等) 一部の菓子パン(メロンパン等)、焼菓子(スポンジケーキ等)、揚げ菓子(ドーナツ等)、蒸し菓子(小麦饅頭、蒸しパン)
    色止め剤 漬物(ナスの漬物、シソの実漬)
    形状安定剤(煮崩れ防止) たこ、いか、くらげ、うになどの魚介類
    品質安定剤 栗、芋、豆、ごぼう、れんこんなどの煮物
    着色料(アルミニウムレーキ) 食品全般

    なお資料は、「大部分のパンは、パン生地を膨脹させるためにパン酵母を使用している」とも注記しています1。食パンのような酵母で膨らませるパンは、この話の対象ではありません。

    基準ができるまで

    調査結果を受けた対応が、段階的に進みました。

    経緯
    時期 内容
    平成25年6月 審議会が、パン・菓子類へのミョウバンの使用基準改正を検討。あわせて業界に自主的な低減化を通知で依頼1
    平成29年3月 厚生労働省が食品安全委員会にリスク評価を要請
    平成30年11月30日 官報告示。菓子、生菓子及びパンに新たな基準値。1kgにつきアルミニウムとして0.1g以下2

    審議会の資料は、対応の理由をこう書いています。PTWIを超過するおそれがあるのは一部の場合のみだが、①汚染物質では多量摂取者も安全が確保できるよう基準値設定等を行っていること、②コーデックス委員会や諸外国でも見直しが進められていることを踏まえた、と1。

    「平均が下回っているから対応しない」とはしなかったということです。

    これは弁当のフタル酸で起きたことと、同じ形です。測る → 上位の層で上限に届いていると分かる → 入口を特定する → 基準を作る。

    いま、何を見るか

    大人については、この記事の数字がそのまま答えになっています。99パーセンタイル値でも上限を超えませんでした。気にする対象ではありません。

    小さい子どもについては、見る場所が1つあります。原材料表示の「ミョウバン」という文字です。

    膨脹剤には、ミョウバンを使うものと使わないものがあります。表示は「膨脹剤」だけの場合もあれば、「膨脹剤(ミョウバン)」と書かれる場合もあります。

    「膨脹剤」は一括名で表示できる14の用途の1つなので、中身の物質名までは表示されないことがあります。表示から判別しきれないからこそ、制度の側で基準が作られたという順番です。

    そして2018年の基準ができているので、いま売られている菓子・生菓子・パンは、1kgあたり0.1g以下の範囲にあります。調査当時とは条件が違います。

    できることは単純です。菓子パンと焼き菓子が毎日の中心になっていないかを見る。これは添加物全般について言えることと同じで、変えると添加物以外(砂糖、脂質、食物繊維)も同時に動きます。

    9種の金属の中で、この項目がどこにいるか

    検査の蓄積の欄には、アルミニウムが項目として入っています。他の8種と並べると、位置がはっきりします。

    アルミニウムという項目の特徴
    状況
    上限の数字 ある。PTWI 2 mg/kg体重/週
    日本人の摂取量 ある。年齢層別・パーセンタイル別まで
    入口 特定されている。ミョウバン(膨脹剤・色止め・形状安定・着色)
    規制 ある。2018年に菓子・生菓子・パンへ基準値
    皮膚からの入口 日本皮膚科学会のガイドラインは、感作源として化粧品、歯磨き、ベーキングパウダー、医薬品を挙げています3

    9種のなかで、いちばん材料がそろっている項目のひとつです。上限も、摂取量も、入口も、規制もあります。そのどれもないものと比べると、位置づけが違います。

    そして今回の経緯が示しているのは、平均で見ると見えないものが、体重の軽い層では見えるということでした。同じ食品を食べていても、体重で割ると数字が変わります。

    参考文献・参考資料

    1. 薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会添加物部会「アルミニウムを含有する添加物への対応について」平成25年6月21日 資料2-1(消費者庁「アルミニウムに関する情報」に掲載) https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/food_additives/aluminium/assets/0000140250.pdf
    2. 硫酸アルミニウムアンモニウム及び硫酸アルミニウムカリウムの使用基準改正(平成30年11月30日官報告示)。菓子、生菓子及びパンについて、1kgにつきアルミニウムとして0.1g以下 https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/food_additives/aluminium
    3. 日本皮膚科学会接触皮膚炎診療ガイドライン改定委員会「接触皮膚炎診療ガイドライン2020」日本皮膚科学会雑誌 2020;130(4):523-567. 表12「種々の金属による病型・症状とその感作源」 https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/130_523contact_dermatitis2020.pdf

    本記事は公的資料の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の食品の安全性や危険性を示すものでも、摂取を勧めるものでも、避けるよう勧めるものでもありません。乳幼児の食事については、個別の指示が優先されます。