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  • 添加物や器具の規制を、どこまで信頼できるか

    添加物や器具の規制を、どこまで信頼できるか

    1999年度の調査で、市販の弁当からフタル酸エステル(DEHP)が平均4,420 ng/g検出されました1。

    由来を辿ると、DEHPを可塑剤とした塩化ビニル製の手袋でした。2000年6月14日、厚生省が食品用途への使用を避けるよう通知を出しています1。

    翌年度、177製品を調べ直した結果は平均198 ng/g。約22分の1になっていました1。

    入口が1つに絞られた、数少ない例

    弁当からDEHPが出たとき、最初に分かったのは「出ている」ことだけでした。そこから、どうやって手袋にたどり着いたか。

    調査では、トレーから弁当を取り出す際に、トレーに接触する部分でDEHPの溶出量が大きくなることが確認されました。さらに、塩化ビニル製手袋を使用した場合にDEHP含有量が高いことが判明し、手袋が供給源であると認識されました1。

    そして2000年度の調査で、DEHPを含むPVC製品が脂肪性食品に接触すると、DEHPが容易に食品へ移行することが明らかになりました。

    市販弁当のDEHP濃度が平均4420ng/gから198ng/gへ約22分の1に減ったことを示す図
    平成11年度と平成12年度の市販弁当の調査結果。手袋の使用に関する通知をはさんで、平均値が約22分の1になりました1。

    脂に溶けやすい物質が、脂に接すると移る。この一点が分かれば、止める場所が決まります。

    止まったことが、数字で確認されている

    市販弁当のDEHP濃度1
    年度 範囲 平均
    平成11年度(1999) 803〜8,930 ng/g 4,420 ng/g
    平成12年度(2000、177製品) 45〜517 ng/g 198 ng/g

    この間にあったのは、2000年6月14日の通知1本です。

    ここが重要です。「体に入ってくるもの」の話は、たいてい入口が特定できないまま終わります。マイクロプラスチックは、いまも定義も測り方も揃っていません。BPAは、日本の耐容量そのものが決まっていません。

    この件は違いました。検出された → 由来が1つに絞られた → 止めた → 減ったことが確認された。全部の段階が数字で追えます。

    2025年6月、制度そのものが変わった

    その後、規制の形が根本的に変わりました。

    2002年8月、食品・添加物等の規格基準で、油脂または脂肪性食品を含有する食品に接触する器具・容器包装について、PVCを主成分とする合成樹脂におけるDEHPの使用が原則禁止されました2。

    そして2018年の食品衛生法改正で、食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度の導入が決まります。2020年6月1日に施行、2025年6月1日に完全施行となりました2。

    2つの方式の違い
    考え方
    これまで(ネガティブリスト) 使ってはいけないものを決める。決まっていないものは使える
    いま(ポジティブリスト) 使ってよいものを列挙する。載っていないものは使えない

    これは、答えが出ていない物質の扱い方が逆になったということです。評価が終わっていないものは、使えない側に入ります。

    いま、リストに何が載っているか

    2023年11月30日と2024年9月27日に再整理されたポジティブリストには、フタル酸エステル6物質のうちDBP(フタル酸ジブチル)を除く5物質が掲載されています2。

    6物質の扱いと、食品安全委員会が示したTDI2
    物質 リスト TDI(mg/kg体重/日)
    DBP 掲載なし=合成樹脂の原材料として使用不可 0.005
    DEHP 掲載あり(材質区分ごとに使用制限) 0.03
    DINP 掲載あり 0.15
    DIDP 掲載あり 0.15
    BBP 掲載あり。油脂・脂肪性食品に接触する部分に使用してはならない(溶出・浸出のおそれのないよう加工されている場合を除く) 0.2
    DNOP 掲載あり 0.37

    TDIは6物質それぞれに設定されています。2013年2月から2016年7月にかけて、食品安全委員会が食品健康影響評価によって示したものです2。

    BPAには日本のTDIがないのと、対照的です。

    対TDI比の数字を、どう読むか

    国立医薬品食品衛生研究所が、ポジティブリスト制度を踏まえた曝露量を検討しています。PVCモデル試料の溶出試験の結果とシミュレーションから、食事中濃度と推定一日摂取量を求め、TDIと比較したものです2。

    結果は対TDI比0.008〜1.09。いちばん高いDIDPのシミュレーション値が1.09で、TDIを超えています。

    ここで前提を読まないと、意味を取り違えます。資料自身がこう注記しています。

    食事中濃度およびEDIは、フタル酸エステル類がポジティブリストにおいて使用可能な範囲のすべての合成樹脂製品に使用された場合を想定した保守的な値。市場に流通している合成樹脂製品では、フタル酸エステルの使用は一部の製品(1%未満)に限られると推定される2

    つまり「使える上限まで全部に使ったら」という計算です。実際の使用は1%未満と推定されているので、実際の摂取量はこれよりはるかに低い、というのが資料の結論です。

    数字を見るときは、分母と前提を一緒に見ます。同じ「対TDI比」でも、カドミウムの35%は実際の摂取量から出した値、こちらは最大使用を仮定した値です。並べて比較できる数字ではありません。

    この検討を受けて、消費者庁は「ポジティブリストにおける使用制限が遵守されれば、ばく露量がTDIを超えることはないと考えられることから、個別の溶出規格等の設定は行わない」としています2。

    今日、確認できること

    制度の側が動いているので、個人が細かく確認する必要は多くありません。そのうえで、この件が残した原則は使えます。

    脂に溶けやすい物質は、脂に接すると移ります。だから規制も「油脂または脂肪性食品に接触する部分」という書き方をしています。

    この原則から出てくること
    場面 効く理由
    油ものを、ラップや容器に熱いまま密着させない 温度が上がるほど移行しやすい
    使い捨て手袋で油ものを長時間扱わない この件の発端がここ
    容器の耐熱温度表示を見る ポジティブリストの使用制限も、耐熱温度150℃以上/未満で区分が分かれている

    そしてプラスチック由来の物質のうち、マイクロプラスチックのほうは、まだ測り方が揃っていません。同じ「プラスチック容器」という入口の中に、答えが出ているものと、出ていないものが混ざっています。

    入口は、特定できることがある

    この記事の要点は、フタル酸そのものより、経緯のほうにあります。

    弁当から出た。トレーとの接触部分で高い。手袋を使うと高い。脂に接すると移る。4つの観察で、入口が1つに絞られました。そして止めたら、翌年度には22分の1になっていました。

    蓄積の入口には、閉じられるものと閉じられないものがあります。主食から入るカドミウムは閉じられません。けれど、閉じられるものは実際に閉じられてきました。

    「体に悪いものが入ってくる」で止まらずに、何がどこから入っているかまで辿ると、止める場所が見つかることがあります。この件は、その実例です。

    参考文献・参考資料

    1. 厚生労働省「器具及び容器包装並びにおもちゃの規格基準の改正に関する薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会報告について」平成14年6月 https://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/06/s0611-5.html
    2. 消費者庁 食品衛生基準審査課「フタル酸エステルの取扱いについて」令和7年6月26日 器具・容器包装部会 資料2 https://www.caa.go.jp/policies/council/fssc/meeting_materials/assets/fssc_cms101_250626_05.pdf

    本記事は公的資料の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の製品の安全性や危険性を示すものでも、使用を勧めるものでも、中止を勧めるものでもありません。ポジティブリストの内容は改正されることがあります。

  • 浄水器を選ぶとき、表示のどこを見るか

    浄水器を選ぶとき、表示のどこを見るか

    浄水器のパッケージにある「除去物質 13物質」という表示は、家庭用品品質表示法で義務づけられたものです1。メーカーが自分で決めた数字ではありません。

    そして、その12項目の法定物質のなかに「溶解性鉛」と「総トリハロメタン」が入っています。検査の説明資料が水道水の入口として挙げているのは、まさにこの2つです。

    見る場所は決まっています。パッケージの「除去物質」の欄と、「総ろ過水量」の数字。

    「除去物質12」が、何を除いてくれるのか

    家庭用品品質表示法(昭和37年法律第104号)は、家庭用品の品質表示を適正化して消費者の利益を保護することを目的とした法律です。浄水器は、その対象品目に指定されています1。

    表示すべき内容は、雑貨工業品品質表示規程で決まっています。除去対象物質の用語も、そこに定められています。

    法定の除去対象物質(12項目)
    物質 何か
    遊離残留塩素 消毒のために水道水に残されているもの
    濁り 微粒子
    クロロホルム 塩素と有機物が反応してできる消毒副生成物(トリハロメタン類)
    ブロモジクロロメタン
    ジブロモクロロメタン
    ブロモホルム
    総トリハロメタン 上の4つの合計
    テトラクロロエチレン 工業用の溶剤。地下水汚染で問題になってきた
    トリクロロエチレン
    CAT 農薬(シマジン)
    2-MIB カビ臭の原因物質
    溶解性鉛 水に溶けた鉛。古い給水管に由来する

    このほかに、JIS S 3201 で定められた任意の項目(1,2-DCE、ベンゼン、陰イオン界面活性剤、フェノール類、ジェオスミン)や、業界の自主規格による項目(鉄、アルミニウム)があります。「13物質」「15物質」といった数の違いは、任意項目を何個足したかの違いです。

    規制されている物質が、規格から消えた話

    2020年10月1日に、この規程が改正されました。除去対象物質から1,1,1-トリクロロエタンが削除されています。

    理由が具体的です。この物質は、国際的な環境課題を議論するモントリオール議定書によって製造及び輸入が規制されており、国内市場に流通していないことから、試験の対象から消除する改正が行われた1。

    水から消えたのではなく、そもそも作られなくなったので、試験する意味がなくなったということです。

    規格の項目数は、危険の順位ではありません。何が測られているかは、そのときの状況で決まっています。

    いちばん見落とされているのは「総ろ過水量」

    ここが、この記事でいちばん実務的な部分です。

    浄水器のパッケージには、除去物質のほかに総ろ過水量が書かれています。「約900L」「約200L」といった数字です。カートリッジの交換目安として案内されています。

    この数字の定義が、規程にあります。

    ろ過流量が50%に低下するまでの期間と、除去率が80%に低下するまでの期間とを比較し、いずれか早い方の総ろ過水量を表示させる1

    総ろ過水量は、ろ過流量が50%に落ちるまでと除去率が80%に落ちるまでの、早いほうで決まることを示す図
    2つの線のうち、先に来たほうが総ろ過水量になります1。

    ここが重要です。2つの条件のうち、先に来たほうで決まっています。

    そして2020年の改正で、この規定は連続式だけでなくすべての浄水器に適用されるようになりました1。

    つまり、水の出が悪くなっていなくても、除去率のほうが先に落ちている場合があります。逆に、除去率は保たれているのに出が悪くなることもあります。どちらが先に来るかは製品によって違い、その早いほうが数字になっています。

    だから交換の目安は、味でも、出の勢いでもありません。使った水量です。

    数えられる形にする

    とはいえ、使った水量を正確に数えるのは難しい話です。

    実用的なのは、1日に使うおよその量で割ることです。総ろ過水量900Lの製品で、1日3L使うなら300日。1日6L使うなら150日。

    多くの製品が「3か月」のような期間で案内していますが、これは標準的な使用量を前提にした換算です。使う量が多ければ、期間は短くなります。

    そして記録が効くのはここでも同じで、交換した日をどこかに書いておくだけで、次の判断が決まります。

    水道水そのものは、基準内で運用されている

    前提として、日本の水道水には水質基準があります。鉛及びその化合物は0.01mg/L以下、総トリハロメタンは0.1mg/L以下と定められています2。

    つまり浄水器は、基準を満たしていない水を基準内にするための装置ではありません。基準内の水から、さらに減らすためのものです。

    そのうえで、鉛については配管の側の事情があります。皮膚科が金属制限食を指導するときの項目に「水道水は流し始めの5分間は使用しないこと」が入っているのは、止まっていた水が管に長く接していたぶんを避けるためです。

    この2つは、やっていることが違います。最初の水を流すのは、管の中に溜まっていた分を捨てること。浄水器は、通る水から成分を減らすこと。

    入口の一覧の中で、どこにいるか

    検査の説明資料は、蓄積の入口の1つとして水道水を挙げ、トリハロメタン類(クロロホルムなど)、鉛を具体名で書いています。そして「浄水処理副生成物として基準値内ながら検出」と添えています3。

    この記述は正確です。そして、入口の一覧の中でこの項目が珍しいのは、対策側にも法定の表示があるという点です。

    水道水という入口の、特徴
    状況
    水の側の基準 ある。鉛0.01mg/L以下、総トリハロメタン0.1mg/L以下
    対策側の表示 ある。家庭用品品質表示法で、除去対象物質と総ろ過水量の表示が義務
    今日できること 最初の数分を流す/パッケージの除去物質と総ろ過水量を見る

    缶のBPAには、そもそも日本の耐容量がありません。マイクロプラスチックには、評価そのものがありません。水道水は、入る側にも対策側にも数字がある、数少ない入口です。

    だから、ここは判断ができます。買うか買わないかではなく、買うなら何が書いてあるものを買い、いつ交換するかまで、表示から決められます。

    参考文献・参考資料

    1. 消費者庁表示対策課「雑貨工業品品質表示規程の一部を改正する告示について(概要)」令和2年10月1日 https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/household_goods/law/kaisei/assets/kaisei_201001_0002.pdf 除去対象物質の区分は、家庭用品品質表示法の法定物質・JIS S 3201の任意物質・業界自主規格による項目に分かれます。
    2. 水質基準に関する省令(平成15年厚生労働省令第101号)。鉛及びその化合物 0.01mg/L以下、総トリハロメタン 0.1mg/L以下 https://laws.e-gov.go.jp/law/415M60000100101/
    3. RESONA-LAB 検査結果報告書(人用・試供品サンプル)の記載による。報告書の見本は公式サイトで公開されています https://resona-lab.com/humans

    本記事は法令・公的告示の整理であり、特定の製品の効果を示すものでも、購入を勧めるものでもありません。個別の診断・治療に代わるものでもありません。表示の内容は製品ごとに異なります。実際の交換時期は、各製品の取扱説明書の指示が優先されます。

  • 汗で出すことに、どこまで期待できるか

    汗で出すことに、どこまで期待できるか

    汗に金属が出ることは、複数の研究で観察されています。ヒ素、カドミウム、鉛、水銀は皮膚を通じてかなりの量が排泄されうる。排泄速度は24時間で尿からの排泄に匹敵するか、上回ると報告された——2012年の系統的レビューの記述です1。

    ただし同じレビューが、その汗の出どころについても書いています。「汗には、血漿由来の金属だけでなく、明らかに皮膚の層に由来するものも含まれる」1。

    つまり汗に出た金属の一部は、体の中から出てきたものではありません。肌に付いていたものです。だから、汗をかいたら洗い流すことに意味があります。

    レビューが実際に見つけたこと

    カナダの研究グループが、ヒ素・カドミウム・鉛・水銀の汗中濃度を報告した研究を系統的に集めました。122件の記録から24件が統合の対象になっています1。

    金属ごとの報告1
    金属 報告されていること
    ヒ素 曝露のある人では、皮膚からの排泄が非曝露の対照より数倍高かった
    カドミウム 血漿より汗のほうが濃度が高かった
    鉛 汗中の鉛は高分子量の分子と結合していた。持久的な運動のほうが、強度の高い運動より高い値だった
    水銀 サウナを繰り返した症例報告で、値が正常化した

    鉛の1/3から1/2が高分子量の分子と結合していたという観察について、著者らは再現が必要だとしています1。

    いちばん効くのは、腎臓が弱っている場合

    レビューが、この結果の意味をどこに置いているかが重要です。

    「これは、腎機能の低下が有害元素の尿中排泄を制限している場合に、特に関心が持たれる」1。

    出口が2つあって、片方が細くなっているとき、もう片方の意味が増す——という構造です。腎臓は1日に200リットルを濾過して、1%未満を尿として出しています。そこが働いているなら、皮膚は3番目の出口という位置づけになります。

    尿と便という2つの主要な出口に対して、皮膚は補助です。そして経口で入った金属の90〜99%は、そもそも吸収されずに便として通過します。汗が担当できるのは、吸収された残りの側です。

    汗の金属は、どこから来たのか

    ここが、この記事でいちばん使える部分です。

    レビューはこう書いています。「汗には、血漿由来の金属だけでなく、明らかに皮膚の層に由来するものも含まれる。溶接、精錬、電池製造の労働者のように、皮膚曝露が大きい場合は特にそうである」1。

    汗の中の金属には、血液から出てきたものと、皮膚に付いていたものの2つの出どころがあることを示す図
    汗に金属が検出されても、それが体内から出てきた分なのか、肌に付いていた分なのかは、採取方法では分けられません1。

    これは測定の話であると同時に、行動の話でもあります。

    皮膚に付いた金属は、そこにとどまっているわけではありません。同じレビューは、鉛が、そしておそらく他の有害元素も、皮膚から吸収されうることを指摘し、職場でシャワーを浴びることを支持すると書いています1。

    汗をかいて出したものを、肌の上に残したままにしない。経皮という経路は、物質によっては実際に通ります。

    まだ測れていないこと

    レビュー自身が、限界をはっきり書いています。

    著者らが挙げている限界1
    記述
    研究の古さ 同定された研究の大半は20年以上前のもの
    採取方法 大きく異なっていた
    濃度の妥当性 研究環境で測定された汗中濃度は十分に妥当性が検証されていない
    変動 体の部位、採取方法、水分状態などによって日ごとに変動した

    そして、ばらつきの大きさについて、著者らはこう分析しています。測定値の大きなばらつきは、分析方法の限界から予想される範囲をはるかに超えていた。体内蓄積量の幅、解毒効率に影響する遺伝的多型、生理的状態の違いによるものだろう、と1。

    測り方が揃っていないと、研究をまたいで足し合わせられません。マイクロプラスチックで起きていることと、同じ構造がここにもあります。

    著者らが求めているもの

    結論部分で、著者らは2つのことを書いています。

    1つは、「発汗は可能性を持ち、体から有害元素を除去する助けとして検討に値する」。もう1つは、「臨床アウトカムを評価できる規模の、頑健な試験が明確に必要である。そこから治療プロトコルが導かれる」1。

    つまり「有望だが、手順はまだ決まっていない」という位置です。「効果がない」でも「効果がある」でもありません。

    なお著者らは利益相反がないことを宣言していて、資金はカナダの公的研究機関から出ています1。資金の出どころは、結論の是非とは別に確かめておく情報です。

    検査結果に「運動で汗をかく」と書いてあったら

    RESONA-LABの結果報告書は、蓄積を防ぐ方法として4つを挙げています。肝機能を高める食事/適度な運動で汗をかく/水分をしっかり摂る/摂取量を意識する2。

    この記事で見たとおり、2つめについて分かっているのはここまでです。汗に出ること自体は観察されている。体全体の量を意味のある程度まで下げられるかは、まだ試験されていない。

    そのうえで、運動をやめる理由にはなりません。運動には、金属とは関係のない根拠が別にあります。汗の量を目的にする必要がない、というだけです。

    そして3つめの「水分をしっかり摂る」は、2つめとつながっています。汗をかけば水分と電解質が出ます。日本に水の目安量はなく、見るのは渇きと尿の色です。

    いま確実にできるのは、汗をかいたら洗い流すことと、入口を1つ選んで閉じることです。前者には皮膚吸収という根拠があり、後者には物質ごとの数字があります。

    参考文献・参考資料

    1. Sears ME, Kerr KJ, Bray RI. Arsenic, cadmium, lead, and mercury in sweat: a systematic review. Journal of Environmental and Public Health. 2012;2012:184745. doi:10.1155/2012/184745(著者らは利益相反がないことを宣言。カナダ保健研究機構およびカナダ社会科学・人文科学研究会議の助成による) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3312275/
    2. RESONA-LAB 検査結果報告書(人用・試供品サンプル)の記載による。報告書の見本は公式サイトで公開されています https://resona-lab.com/humans

    本記事は公開された研究の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の施術・設備・運動法の効果を示すものでも、実施を勧めるものでもありません。発汗によって有害元素の体内量が臨床的に意味のある程度まで減少するかどうかについて、十分な検証はなされていません。心疾患のある方、妊娠中の方、服薬中の方のサウナ・高強度運動の可否は、個別に決められています。

  • たばこの煙が、体に入る経路から考える

    たばこの煙が、体に入る経路から考える

    吸って入ったものには、肝臓を通らないという特徴があります。

    食品安全委員会のカドミウム健康リスク評価ワーキンググループの報告に、吸入曝露についてこう書かれています。「粉塵や煙として直接体内に入る。肝臓の解毒を経由しないので、腎障害が起こりやすい」1。

    口から入ったものは、腸で吸収されたあと肝臓を経由します。そこで第I相・第II相の作り変えを受けます。吸入では、その段階が飛ばされます。

    同じ物質でも、入口で扱いが変わる

    体が異物を処理する仕組みは、入口によって働き方が変わります。

    入口ごとの、肝臓の位置
    入口 通る順番 肝臓の作り変え
    経口(食べる・飲む) 腸 → 門脈 → 肝臓 → 全身 全身へ回る前に通る
    吸入(吸う) 肺 → 全身 通らない
    経皮(塗る) 皮膚 → 全身 通らない。ただし角層で止まる物質が多い

    経口で入ったものは、全身の血液に回る前に肝臓を通ります。ここで水に溶ける形へ作り変えられ、尿から出せるものは尿へ、出せないものは胆汁に乗って便へ向かいます。

    吸入では、この段階がありません。肺から入ったものは、そのまま全身の循環に乗ります。

    そして、経口で入った金属の90〜99%は、そもそも吸収されずに便として通過します。吸入では、この「通過するだけ」の分もありません。

    たばこのカドミウムには、数字がある

    食品安全委員会のワーキンググループ報告は、具体的な数値を挙げています1。

    紙巻たばこのカドミウム
    量
    1本あたりの含有量 1.8〜2.8µg(欧州・メキシコの紙巻たばこの報告)
    主流煙に吸入される割合 10〜20%
    副流煙に移行する割合 50%
    20本あたりの吸入量 2〜4µg

    同じ報告は、「タバコ煙の中のカドミウムは高く、喫煙者の血中、尿中カドミウム濃度は同年代の個人より高い」としています1。

    経口では腸から肝臓を通って全身へ向かうのに対し、吸入では肺から直接全身へ向かうことを示す図
    経口には肝臓という段が入ります。吸入には入りません1。

    食事から入る量と比べると

    比較できる数字があります。日本人の食品からのカドミウム摂取量は、1日あたり体重1kgにつき0.32µg。体重60kgなら、1日約19µgです。

    20本吸って吸入されるのが2〜4µg。量としては、食事から入る分の1〜2割にあたります。

    ただし、ここで量だけを比べると読み違えます。2つの点で条件が違います。

    同じµgでも、条件が違う
    食事から たばこから
    肝臓を通るか 通る 通らない
    選べるか 主食なので、選べない 選べる

    入口の一覧の中で、これは珍しい位置にいます。数字があって、経路がはっきりしていて、しかも減らす選択肢がある。

    カドミウムは、水銀のようには減らない

    もう1つ、押さえておく違いがあります。物質によって、体から減る速さが違います。

    水銀については、厚生労働省が「体内に取り込まれた量が半分にまで減少する期間は約2ヶ月」と書いています。入口を変えれば、その速さで減っていきます。

    カドミウムは違います。同じワーキンググループ報告は、「半減期の長いカドミウムは徐々に蓄積していき、腎機能が極端に低下しない限り、腎臓皮質の蓄積量に比例して尿中に排泄される」と書いています1。

    溜まる側の物質です。だから、入口を1つ閉じることの効き方も違ってきます。水銀なら2ヶ月で結果が動く。カドミウムは、これから入る量が変わるという形で効きます。

    加熱式たばこについて、いま言えること

    日本は加熱式たばこの使用率が高い国です。2018年の国民健康・栄養調査では、習慣的に喫煙している人のうち加熱式たばこを使っている割合は男性30.6%、女性23.6%でした2。

    では、金属はどうなのか。2026年7月に発表された系統的レビューが、21件の研究を集めています3。

    結果はこうです。調べられている金属はカドミウム、鉛、ニッケル、水銀。報告されている濃度は概して低く、検出限界または定量限界に近いことが多い。カドミウムと鉛が定量限界未満だったとする報告もあれば、分析の感度や採取方法によって微量に検出されたとする報告もあります3。

    ただし著者らは、吸煙のパターン、機器の世代、エアロゾールの採取システム、分析手法、報告単位について、既存の文献のあいだに相当な異質性があると書いています3。直接の比較が難しい状態です。

    結論はこうです。「IQOSのエアロゾールは、化学組成において従来の紙巻たばこの煙とは実質的に異なり、燃焼に関連する多くの有害物質のレベルは概して低い。しかし、生物学的に活性な化合物を含む、化学的に複雑な混合物であることに変わりはない」3。

    この状態は、マイクロプラスチックの評価が測り方の不統一で進んでいないのと、同じ形です。「低い」と「比べられる形で測れている」は別です。

    数えられる入口である、ということ

    蓄積の入口の中で、この項目には他にない特徴があります。

    主食は選べません。空気中のマイクロプラスチックも閉じきれません。缶のBPAは、そもそも国が耐容量を決めていません。

    たばこは、本数で数えられます。1本あたりの含有量も、吸入される割合も、数字があります。この1週間に何本吸ったかは、思い出す話ではなく数える話です。

    そして、減らした分がそのまま吸入量に反映されます。入口の一覧の中で、いちばん計算が単純な項目がここです。

    なお、副流煙に50%が移行するという数字がある以上、これは吸っている本人だけの話ではありません。同じ空間にいる人にも、同じ経路が開いています。

    参考文献・参考資料

    1. 香山不二雄ほか「カドミウムの健康リスク評価ワーキンググループ報告」内閣府食品安全委員会 https://www.fsc.go.jp/fsciis/
    2. 厚生労働省「平成30年 国民健康・栄養調査」。習慣的に喫煙している者のうち加熱式たばこを使用している者の割合 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/tobacco/index.html
    3. Matei RI, Baroi AM, Fistos T, Fierascu I, Fierascu RC. Beyond the WHO Priority Toxicants: A Systematic Review of Harmful and Potentially Harmful Constituents in IQOS Aerosols. Toxics. 2026;14(7):614.(21件の研究を対象とした系統的レビュー) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC13417897/

    本記事は公的機関の資料と公開された研究の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の製品の安全性や危険性を示すものでも、使用を勧めるものでも、中止を勧めるものでもありません。喫煙の健康影響は金属の曝露に限られるものではなく、この記事はその全体を扱ったものではありません。禁煙については、保険適用の治療があります。

  • 缶の飲食品を、どこまで気にするか

    缶の飲食品を、どこまで気にするか

    日本の缶は、法令の規格よりはるかに低いところで運用されています。ポリカーボネート製の器具・容器包装の溶出規格は2.5 ppm以下。これに対し国内で製造される缶詰容器は、業界の自主的な取り組みで飲料缶0.005 ppm以下、食品缶0.01 ppm以下とされ、2008年7月に業界ガイドラインが制定されています1。

    規格の1/250から1/500にあたる水準です。

    ただし、もう一方ではっきりしていないことがあります。日本には、BPAの耐容一日摂取量(TDI)がありません。2010年に「設定することは困難」とされて以降、評価は再開されていません2。

    同じ物質を、13の機関が評価してきた

    BPAは、ポリカーボネートと、金属の防錆塗装に使うエポキシ樹脂の原料です2。缶の内面コーティングに使われてきたのは、後者です。

    この物質は、1988年から各国の機関が繰り返し評価してきました。内閣府食品安全委員会の令和7年度調査報告書に、その一覧があります2。

    各機関が示してきた健康に基づく指標値(HBGV)2
    年 機関 値(体重1kgあたり1日)
    1988 米国EPA RfD 0.05 mg=50,000,000 ng
    2002 欧州委員会(SCF) TDI 0.01 mg=10,000,000 ng
    2006 EFSA TDI 0.05 mg=50,000,000 ng
    2012 スウェーデンKEMI 暫定TDI 25 µg=25,000 ng
    2013 フランスANSES 0.0025〜0.01 µg=2.5〜10 ng
    2015 EFSA 暫定TDI 4 µg=4,000 ng
    2023 EFSA TDI 0.2 ng
    2023 ドイツBfR TDI 0.2 µg=200 ng
    2024 英国COT BfRの評価に同意(0.2 µg)
    2025 韓国NIFDS 現行TDI 20 µgを維持
    — 日本 設定なし

    並べると、37年で5桁以上動いています。そして直近の2023年、EFSAとBfRが同じ年に出した数字は1,000倍違います。

    なぜ1,000倍ずれたのか

    ずれたのは、結論ではなくどの実験のどの所見を出発点に置いたかです。

    2023年の2つの評価の、出発点2
    採用した所見 不確実係数
    EFSA 2023 マウスの出生児で免疫細胞(Th17細胞)が増加したという報告。ヒト等価用量 8.2 ng/kg/日 50
    BfR 2023 ラットの反復投与試験での精子数減少。BMDL10 = 26 µg/kg/日 確率的不確実性評価

    見ている影響が違います。免疫細胞の割合の変化を出発点に置けば、はるかに低い用量が問題になる。精子数を出発点に置けば、そうはならない。

    そしてEFSAは2015年に、腎臓の相対重量の変化を出発点に4 µgとしていました。同じ機関が、8年で出発点を変えて2万分の1にしています。

    これは「エビデンスがある」の中身が問われる典型的な場面です。どちらも評価をした。どちらも根拠の文献がある。それでも1,000倍違う。「専門機関が評価した」は、一つの答えが出たことを意味しません。

    BPAの耐容一日摂取量。2023年のEFSAは0.2ng、同じ年のドイツBfRは200ngで1000倍の開き
    2023年に出た2つの数字。対数目盛りにしないと、同じ図に載りません2。

    日本が「設定困難」とした理由

    日本の経緯は、こうです。

    2008年(平成20年)、厚生労働省が食品安全委員会にリスク評価を依頼しました。きっかけは、それまで有害とされていた量より低い用量で影響が出たとする報告が相次いだことです。

    2010年(平成22年)7月、生殖発生毒性等に関するワーキンググループが「中間とりまとめ」を報告します。結論は、その時点の知見からは耐容一日摂取量を設定することは困難であり、低用量影響に関する新たな科学的知見が得られた時点で最終的な評価をとりまとめるというものでした2。

    その後、2021年に米国のCLARITY-BPAプログラム(ラット2年間慢性毒性試験)の最終報告書が公表され、2023年にEFSAとBfR、2024年に英国COTが評価を出しました。これを受けて、日本はリスク評価の再開に向けた基礎資料を集めている段階にあります2。

    「まだ決めていない」のであって、「安全だと決めた」でも「危険だと決めた」でもありません。この3つを区別しないと、判断の方向が変わります。

    では、いま何が言えるか

    数字がそろっている部分と、そろっていない部分を分けます。

    缶のBPAについて、分かっていること
    状況
    溶出の規格 ある。ポリカーボネート製器具・容器包装で2.5 ppm以下1
    缶詰容器の実際 ある。業界自主基準で飲料缶0.005 ppm以下、食品缶0.01 ppm以下1
    日本人の摂取量の推定 消費者庁は「極めて微量」としています。数値の公表はありません1
    耐容一日摂取量 ない。評価は再開に向けた段階

    つまり「どれだけ入っているか」の側には数字があり、「どこまでなら大丈夫か」の側に数字がない状態です。

    この形は、他の物質と比べるとはっきりします。カドミウムには耐容週間摂取量があり、日本人の摂取量も推定されていて、対比で35%と出ています。PFASには日本のTDIが1つあります。マイクロプラスチックには、どちらもありません。

    BPAは、その中間にいます。入口の側だけ数字がある。

    公的に示されている行動は、1つだけ

    消費者庁のQ&Aは、妊婦に対してこう書いています。

    偏った食事を避け、毎食缶詰を中心とするような食生活にならないよう、いろいろな食品をバランスよく摂るように心がけることが大切1

    哺乳瓶については、「ポリカーボネート製のほ乳びんを使用することが心配ならば、他にも多くの材質のものが販売されていて、代替えが可能」としています1。

    公的に書かれているのは、ここまでです。缶をやめるようにも、特定の製品を選ぶようにも書かれていません。

    そして、これは入口の一覧の中で、いちばん「閉じやすい」側に入ります。缶飲料や缶詰の頻度は、思い出すのではなく、この1週間の本数として数えられます。数えたうえで、毎食の中心になっていなければ、公的に示されている条件は満たしています。

    数字が動いたことが、何を意味するか

    EFSAが2万分の1にしたことを、「危険だと分かった」と読むこともできます。逆にBfRやCOTの立場に立てば、「その引き下げには同意できない」となります。

    どちらが正しいかは、ここでは決められません。決められないことを決めたふりをしないほうが、次に情報が出たときに動けます。

    いま起きているのは、評価の途中で、機関ごとに結論が分かれている状態です。数字の桁が動くとき、動いているのは物質の性質ではなく、どの影響を出発点に置くかという判断のほうでした。

    そして日本は、その判断をまだしていません。再開に向けて資料を集めている——それが2026年3月時点の現在地です2。

    参考文献・参考資料

    1. 消費者庁「ビスフェノールAについてのQ&A」 https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/appliance/bisphenol_a/
    2. 内閣府食品安全委員会「令和7年度 食品安全確保総合調査 ビスフェノールAに係る国際機関等の評価及び科学的知見の情報収集並びに整理 調査報告書」令和8年3月(表4-2「国際機関等のBPA評価書におけるエンドポイントとHBGV等」) https://www.fsc.go.jp/fsciis/

    本記事は公的機関の資料の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の製品・容器の安全性や危険性を示すものでも、使用を勧めるものでも、中止を勧めるものでもありません。ビスフェノールAの健康影響評価は日本で再開に向けた段階にあり、記載の内容は今後変わる可能性があります。妊娠中の方、乳幼児の食事については、個別の指示が優先されます。

  • 日焼け止めを、成分で選び分ける

    日焼け止めを、成分で選び分ける

    日焼け止めの成分は、種類によって体への入り方が逆です。

    酸化チタン・酸化亜鉛(紫外線散乱剤)は、健康な皮膚でも傷んだ皮膚でも、角層の外層より奥へは到達せず、全身の循環にも達しなかった——これが、ヒトと動物の研究の大半が示している結果です1。

    一方、紫外線吸収剤は血中に出ます。米国FDAの試験で、オキシベンゾンの最大血漿中濃度は258.1 ng/mL。FDAが基準に置いている0.5 ng/mLの、500倍を超えています2。

    だから確かめる場所は決まっています。パッケージの成分表示の、どちらが書いてあるか。

    0.5 ng/mL は、「危険の線」ではない

    先に、この数字の意味をはっきりさせます。0.5 ng/mLを超えたことは、害があるという意味ではありません。

    FDAがこの値を置いた理由は、単回投与後の血漿中濃度がこれ以下であれば、おおよその発がんリスクが10万人に1人未満であることを示す基準として選ばれたからです。これを下回れば、追加の安全性試験の一部を免除できる可能性がある——そういう線です2。

    つまり超えたことが意味するのは、「追加の安全性試験が必要になる」ということです。危険だと分かったのではありません。調べる必要がある状態と、調べて問題が見つかった状態は別です。

    FDAが実際にやった試験

    2019年1月から2月に、48人の健康な成人を対象に行われた無作為化試験です2。

    試験の条件
    内容
    参加者 48人(平均38.7歳、女性24人)。44人が完了
    製剤 ローション/エアロゾールスプレー/非エアロゾールスプレー/ポンプスプレーの4種
    塗布量 2 mg/cm²を体表面積の75%に
    回数 1日目に1回、2〜4日目に2時間おきに4回
    採血 21日間で34回

    結果です。6成分すべての最大血漿中濃度が0.5 ng/mLを超え、しかも1日目の1回の塗布ですでに超えていました2。

    日焼け止めの有効成分の最大血漿中濃度。オキシベンゾン258.1 ng/mLに対し、FDAの閾値は0.5 ng/mL
    ローション使用時の最大血漿中濃度(幾何平均)。オキシベンゾンだけが桁違いに高くなっています2。
    最大血漿中濃度(幾何平均、ng/mL)2
    成分 ローション エアロゾール ポンプ
    オキシベンゾン 258.1 180.1 —
    ホモサレート — 23.1 13.9
    オクトクリレン 7.8 6.6 —
    オクチノキサート — — 5.2
    アボベンゾン 7.1 3.5 3.3
    オクチサレート — 5.1 4.6

    オキシベンゾンだけが、桁が違います。他の5成分が数ng/mLから23ng/mLの範囲にあるのに対し、258.1。

    なお、最も多かった有害事象は発疹で、14人に出ています2。

    散乱剤のほうは、逆の結果が出ている

    酸化チタンについては、まとまったレビューがあります1。

    結論はこうです。ヒトまたは動物で行われた研究の大半が、ナノ酸化チタンは角層の外層より奥の生きた細胞まで浸透せず、全身の循環にも達しなかったことを示している。健康な皮膚でも、傷んだ皮膚でも同じだった。

    そしてEUの消費者安全科学委員会(SCCS)は、ナノ酸化チタンを皮膚感作性なし、刺激性は軽度またはなしとし、経皮曝露後の発がん性・変異原性・生殖毒性を示す根拠はないと結論しています。日焼け止めに25%までの濃度で使う場合、皮膚に塗る限り健康リスクはないとされています1。

    リップクリームに含まれる分を口から摂ってしまう場合についても、経口曝露後の吸収と毒性は限定的で、健康影響は予想されないとされています1。

    ただし、このレビューには利益相反があります。著者の1人は化粧品企業の所属で、資金提供も同社から出ています。誰が資金を出したかは、結論の是非とは別に、確かめておく情報です。SCCSの判断そのものは、独立した規制機関のものです。

    ただし、皮膚ではなく肺の話が残る

    SCCSが1つだけ、はっきりと推奨していないことがあります。

    「消費者の肺が吸入により曝露されうる製剤(スプレー製品およびパウダー)へのナノ酸化チタンの使用を推奨しない」1。動物で肺の炎症が報告されているためです。EUの化粧品規則は2016年に、肺への曝露につながりうる製品を除いてナノ酸化チタンをUVフィルターとして認可しました1。

    ここは、皮膚から入るかどうかとは別の経路の話です。塗るぶんには問題ないとされているものが、吸い込む形になると評価が変わる。

    この構造は金属の入口を見るときと同じです。同じ物質でも、経口・経皮・経気道で扱いが分かれます。

    成分表示の、どこを見るか

    日本の化粧品は全成分表示が義務づけられているので、見れば分かります。

    表示名称と、どちらか
    表示名称 種類
    酸化チタン、酸化亜鉛 散乱剤(無機)
    オキシベンゾン-3 吸収剤(有機)
    メトキシケイヒ酸エチルヘキシル 吸収剤(=オクチノキサート)
    t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン 吸収剤(=アボベンゾン)
    オクトクリレン、サリチル酸エチルヘキシル、ホモサレート 吸収剤

    「ノンケミカル」「紫外線吸収剤不使用」と書かれているものは、散乱剤だけで作られています。

    そしてスプレータイプを選ぶなら、散乱剤ではなく吸収剤のほうに理由があります。SCCSの推奨がナノ酸化チタンのスプレーに向けられているためです。逆に塗るタイプなら、散乱剤の側に浸透の報告がありません。

    日焼け止めをやめる、という選択肢はあるか

    ここははっきり書いておきます。FDAの論文自身が、結論の最後にこう書いています。

    These findings do not indicate that individuals should refrain from the use of sunscreen.
    (これらの知見は、個人が日焼け止めの使用を控えるべきであることを示すものではない)2

    紫外線が皮膚がんと日焼けを起こすことは確立していて、酸化チタンのUVフィルターとしての有効性もそこで評価されています1。入る量をゼロにするために塗らない、という判断は、別のリスクを取る判断です。

    数字を見るときは、何と比べているかを一緒に見ます。ここで比べる相手は「塗らなかった場合」であって、「何も起きない状態」ではありません。

    入口の中で、この項目がどこにいるか

    検査の蓄積の欄には、入口の1つとして化粧品・日焼け止めが挙げられています。ここまでを踏まえると、位置づけがはっきりします。

    入口としての位置
    分かっていること
    散乱剤(酸化チタン・酸化亜鉛) 塗る形では、角層より奥へ入ったという報告が大半ではない
    吸収剤(オキシベンゾンほか) 血中に出る。量も測られている。追加の安全性試験は進行中
    スプレー・パウダー 肺への吸入という別経路。EUは推奨していない

    つまり「化粧品から金属が入る」という懸念の向きと、実際に体内で測られている成分は、一致していません。入っていることが数字で確かめられているのは、金属ではなく有機の吸収剤のほうです。

    これは入口ごとに、公的な基準や調査の細かさがまったく違うという話の、もう1つの例になります。心配の総量を、入口に等分に配る理由はありません。

    参考文献・参考資料

    1. Dréno B, Alexis A, Chuberre B, Marinovich M. Safety of titanium dioxide nanoparticles in cosmetics. Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology. 2019;33(Suppl 7):34-46. doi:10.1111/jdv.15943(著者の1人は化粧品企業に所属し、同社から資金提供を受けています。引用した欧州消費者安全科学委員会(SCCS)の判断は、独立した規制機関によるものです) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31588611/
    2. Matta MK, Florian J, Zusterzeel R, et al. Effect of Sunscreen Application on Plasma Concentration of Sunscreen Active Ingredients: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2020;323(3):256-267. doi:10.1001/jama.2019.20747(米国FDA 医薬品評価研究センターによる試験。ClinicalTrials.gov: NCT03582215) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31961417/

    本記事は公開された研究と規制機関の判断の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の製品の効果・安全性を示すものでも、使用を勧めるものでも、中止を勧めるものでもありません。血漿中濃度が測定されたことは、健康影響が確認されたことを意味しません。皮膚の疾患で治療中の方、乳幼児に使用する場合は、個別の指示が優先されます。

  • 銀歯が気になったとき、何が分かっているか

    銀歯が気になったとき、何が分かっているか

    日本の保険診療で使われてきた銀歯は、金銀パラジウム合金です。金12%以上、パラジウム20%以上、銀40%以上。JIS規格で決まっています1。銀ではありません。

    検査の蓄積の欄にパラジウム・銀・金が並んでいる理由は、ここにあります。日本皮膚科学会のガイドラインも「歯科金属はパラジウム、金、水銀、錫などを含有することが多い」と書いています2。

    今日できることは1つです。口の中に金属が入っているか、鏡で見る。入れた年と部位は、かかった歯科医院のカルテに残っています。

    「銀歯」の中身は、規格で決まっている

    歯科鋳造用金銀パラジウム合金は、1956年にJIS T 6106として規格化されました。当初は金とパラジウムの合計が30%以上という規定でしたが、1974年に現在の「金12%以上、パラジウム20%以上」に変わっています3。

    現行のJIS T 6106:2011は、化学成分として金12%以上、パラジウム20%以上、銀40%以上を規定しています1。実際に流通している製品は、金12%・パラジウム20%・銀40〜50%に集約されています3。

    金銀パラジウム合金の組成(JIS T 6106)
    金属 規格上の下限 検査項目にあるか
    金 12%以上 あり
    パラジウム 20%以上 あり
    銀 40%以上 あり
    銅ほか 残余 なし

    この合金は保険適用の材料で、価格も厚生労働省が告示しています。金・パラジウム・銀の地金相場が告示価格の±5%を超えて動いた場合、診療報酬改定の年以外にも4月と10月に価格が見直される仕組みがあります4。相場で値段が動くほど、中身は本物の貴金属です。

    つまり「銀歯」という呼び名は、色から来ています。中身は3種類の貴金属の合金です。

    口の中の金属は、体内に入る経路である

    ここからが、蓄積の欄と関係する部分です。

    日本皮膚科学会の『接触皮膚炎診療ガイドライン2020』は、金属アレルギーを2つに分けています。接触した部位に皮膚炎が出る「金属接触アレルギー」と、金属が「生体内に吸収されることにより」全身に症状が出る「全身型金属アレルギー」です2。

    後者の入口として、ガイドラインは食品と歯科金属を挙げています。金属は経皮・経粘膜・経腸管・経気道で吸収され、汗・乳汁・涙・尿・糞便として排泄されます5。歯科金属によるものは「歯科金属疹」と呼ばれることもあります。

    そして、日本の陽性率の数字があります。日本皮膚免疫・アレルギー学会は1994年度から毎年約2,000名の規模でパッチテストの陽性率を集計していて、2016年度の上位10項目のうち5つが金属でした5。

    2016年度のスタンダードパッチテストシリーズ陽性率(上位10項目中の金属)5
    金属 陽性率
    ニッケル 24.8%
    金 23.2%
    コバルト 7.9%
    水銀 5.3%
    クロム 2.3%

    ニッケルと金の陽性率は女性に有意に高く、年々上昇しています。上昇の原因はピアスなどのアクセサリーの普及によるとされています5。

    注意したいのは、パッチテスト陽性は「感作されている」ということで、症状があることとは別だという点です。ガイドラインは「パッチテスト陽性を示す症例のうち、全身型金属アレルギーを示す症例は一部のみ」と明記しています5。

    金属の主な出口は、便である

    ここが、この記事でいちばん使える部分です。

    ニッケルについて、学会誌に体内代謝の図が載っています。経口摂取量は1日0.3〜0.6mg。そのうち腸から吸収されるのは1〜10%で、90〜99%は糞便として出ていきます5。吸収された分は、尿・汗・乳汁から排泄されます。

    ニッケルの経口摂取のうち腸から吸収されるのは1〜10%で、90〜99%は便として出ていくことを示す図
    経口で入った金属の大部分は、吸収されずに便として通過します。吸収された分だけが、尿・汗の側へ回ります5。

    金属は、水に溶ける形へ作り変えて尿から出す、という経路だけではありません。大部分は、そもそも吸収されずに通過します。だから通過が滞れば、留まる時間が延びます。

    これは、胆汁が重金属を便側へ送り出す経路であるという話と、同じ出口を指しています。そして出口が先で、上流があとという順番が成り立つ理由も、ここにあります。食物繊維の摂取量が目標より10g近く少ないというのは、この通過の話です。

    もう一つの歯科金属、アマルガムは2034年に終わる

    古い治療では、アマルガムという水銀を含む合金が使われていました。日本皮膚科学会のガイドラインが「歯科金属はパラジウム、金、水銀、錫などを含有することが多い」と書いているのは、これを含みます2。

    この材料について、2025年11月に国際的な決定がありました。

    水銀に関する水俣条約の第6回締約国会議(COP6、ジュネーブ、2025年11月)で、2034年を世界的な廃止年とすることが合意されました。それ以降、歯科用アマルガムの製造・輸入・輸出は認められなくなります6。

    COP6で決まったこと6
    内容
    廃止年 2034年。当初案は2030年で、4年延長された
    例外 「患者の必要性にもとづき、歯科医師が必要と判断した場合」は、廃止後も使用できる
    猶予 締約国には9年の準備期間
    条約の状況 2017年8月発効。2025年9月時点で153の締約国

    なお、日本では歯科用アマルガムはすでに保険診療で使われていないと報じられています。報道によれば2016年4月に保険適用から除外されました。この点について、厚生労働省の一次資料では確認できていません。

    ただし、口の中にある古い詰め物については、話が別です。日本歯科医師会や日本歯科保存学会は、支障なく使われているアマルガムについて、削り取る際の粉塵や、削る熱による水銀の気化を考慮する必要があるという見解を示しています。

    この順番は、ガイドラインの推奨とも一致しています。除去は、診断がついてから、歯科医師と相談して決めるものです。自分の判断で外しに行く手順は、どこにも書かれていません。

    皮膚科が実際にとっている順番

    「銀歯が原因かもしれない」と考えたとき、いきなり歯科へ行くのは、学会が示している手順と逆です。

    兵庫県立加古川医療センター皮膚科の報告によれば、まず食事中にも含まれるニッケル・コバルト・クロムのパッチテストが陽性の場合、金属制限食を2ヶ月程度行い、それで軽快しない場合にのみ歯科金属の関連を考慮します5。

    理由があります。保険診療でよく使われる金パラジウム合金に含まれるパラジウムは、ニッケルと交差反応が強い。パラジウムのパッチテストが陽性でも、ニッケル制限食のみで軽快する場合があります5。

    歯科金属の除去について、ガイドラインの推奨はこうです。「患者がパッチテスト陽性を示した金属が歯科金属中に明らかに含有されている症例では、その歯科金属を除去すると有効な場合がある」——推奨の強さC1、エビデンスレベルV2。

    C1は「行ってもよいが、十分な根拠がない」水準です。レベルVは症例報告や専門家の意見にあたります。学会が対応表まで作っている問題ですが、除去の効果は症例報告の水準だ、というのが現在地です。

    そのガイドラインは、アレルゲンとなる金属ごとに使用可能な歯科材料を示した対応表を載せていて、そこに「金銀パラジウム合金」がそのまま項目として並んでいます2。

    なお2016年4月から、医師の金属アレルギーの診断書があれば、それまで小臼歯に限られていたCAD/CAM冠が大臼歯にも保険適用になりました5。金属を使わない選択肢が保険の中にあります。

    金属制限食には、期限と上限がある

    金属を食事から減らす方法については、実務的な指導内容が公表されています。

    金属制限食の指導(学会誌記載)5
    項目 内容
    水道水 流し始めの5分間は使用しない
    缶 缶詰食品・缶詰飲料を摂取しない
    調理器具 ステンレス製品・メッキ製品を避ける
    実施条件 必須金属も含まれるため、必ず医師の指導のもとで行う
    期限 2ヶ月続けて無効なら、速やかに中止する

    2つ、はっきり書かれています。厳格すぎる金属制限食は微量元素欠乏症をきたす可能性があるため避けるべきこと。そして2ヶ月で区切ること5。

    ニッケル・コバルト・クロムは、豆類、木の実、穀類、チョコレート、ココア、紅茶、貝類、レバー、胚芽に多く含まれます5。そのまま鉄・亜鉛・銅の供給源でもあります。だから期限が要ります。

    これは食品不耐性の欄に該当が出たときと、まったく同じ構造です。減らす対象が、そのまま栄養の供給源になっている。だから全部やめない、期間を決める、1つずつ戻す。

    口の中を、今日見る

    蓄積の欄にパラジウム・銀・金が並んでいたとき、確かめられることは具体的です。

    鏡で口の中を見る。銀色の詰め物やかぶせ物があるか。何本あるか。前から数えて何番目か。

    そして、いつ入れたか。入れた歯科医院のカルテに、使った材料名が記録されています。保険診療なら、金銀パラジウム合金である可能性が高い。古い治療でアマルガム(水銀を含む合金)が使われていた時期もあります。

    これは思い出す作業ではなく、見れば分かる作業です。入口の表の中で、自分で確認するのがいちばん簡単な項目がここです。

    そのうえで、皮膚の症状が続いているなら、順番は皮膚科です。手のひらや足の裏の水疱、繰り返す湿疹、口の中のただれ。金属の入口は9種類それぞれ違うので、口の中だけを見て決める話ではありません。

    そして、入ったもののうち9割以上は便から出ていきます。入口を数えたあとに見る場所は、そちらです。

    参考文献・参考資料

    1. JIS T 6106:2011「歯科鋳造用金銀パラジウム合金」日本産業規格 https://webdesk.jsa.or.jp/books/W11M0090/
    2. 日本皮膚科学会接触皮膚炎診療ガイドライン改定委員会「接触皮膚炎診療ガイドライン2020」日本皮膚科学会雑誌 2020;130(4):523-567.(全身型金属アレルギー、付表5「アレルゲン金属と使用可能な歯科金属との対応表」) https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/130_523contact_dermatitis2020.pdf
    3. YAMAKIN株式会社「保険適用貴金属合金の歯科市場(金パラ編)」歯科材料メーカーによる解説 https://www.yamakin-gold.co.jp/yn/ym145_auagpd/
    4. 厚生労働省「歯科用貴金属価格の随時改定について」 https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000334422.pdf
    5. 足立厚子「金属アレルギーの対処法〜全身型金属アレルギーを中心に〜」アレルギー 2020;69(3):169-173.(図1「ニッケルの体内代謝」、表1「金属とその感作源一覧表」、表2「金属制限食指導表」) https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/69/3/69_169/_pdf
    6. FDI World Dental Federation「COP6 decision on dental amalgam secures an equity-focused, patient-centred approach」2025年11月7日(ジュネーブ)。世界歯科連盟と国際歯科研究学会による共同声明 https://www.fdiworlddental.org/cop6-decision-dental-amalgam-secures-equity-focused-patient-centred-approach

    本記事は規格と学会ガイドラインの整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。金属アレルギーの診断はパッチテストなどにより医療機関で行われるもので、検査結果がその診断に代わることはありません。歯科金属の除去・交換は、診断にもとづいて歯科医師と相談して決められるものです。金属制限食は必須金属の不足を招く可能性があるため、自己判断で長期に行わないでください。特定の製品・治療の効果を示すものでも、実施を勧めるものでもありません。

  • 解毒を高めるなら、どこから手をつけるか

    解毒を高めるなら、どこから手をつけるか

    「解毒を高めたい」と思ったとき、先に動かすのは出口のほうです。肝臓ではありません。

    理由は単純です。肝臓が処理して胆汁に出したものは、腸を通って便から出ていきます。出口が滞っていれば、上流をいくら動かしても行き場がありません。

    順番があります。そして順番を逆にすると、逆に働くことがあります。

    上流から動かすと、どこへ行くのか

    体が不要なものを外へ出す経路は、2つあります。

    水に溶ける形になったものは、腎臓から尿として出ます。問題は、もう一方です。

    医学の教科書は胆汁を「腎臓でろ過または排泄できない、潜在的に有害な脂溶性物質の主要排泄経路」とし、そこへ出されるものに重金属を名指しで挙げています1。肝細胞は1日600〜1000mLの胆汁を分泌しています1。

    上流の肝臓から胆汁に出されたものが腸に置かれ、出口が詰まっていると行き場がないことを示す図
    胆汁に出されたものは、いったん腸に置かれます。そこから先が動いていなければ、上流だけを速めても出ていきません。

    胆汁は腸へ出ます。つまり、肝臓の処理を速めたところで、そのあと腸を通って便として出なければ、体の外には出ていません。

    しかも、腸を通るのは胆汁に出された分だけではありません。ニッケルの場合、経口で入った量のうち腸から吸収されるのは1〜10%で、90〜99%は吸収されずにそのまま便として出ていきます3。

    つまり出口としての腸には、2つの流れが来ています。吸収されずに通過する分と、いったん吸収されて肝臓で処理され、胆汁で戻される分。前者のほうが、量としては圧倒的に多い。口から入る金属について言えば、9割以上がこちら側です。

    そして胆汁酸の場合、95%は回腸で再吸収されて肝臓へ戻ります1。腸に置かれたものが、そのまま全部出ていくわけではない、ということです。

    順番を逆にすると、逆に働く

    もう一つ、同じ構造が肝臓の内部にもあります。

    異物の処理は二段階です。第I相で分子に手をかけて反応しやすい部分を作り、第II相で別の分子をくっつけて水に溶かす。

    ここで、第I相でできる中間代謝物は、元の物質より反応しやすくなっています2。

    つまり一段階目だけ速まって、二段階目が追いつかなければ、反応しやすい状態のものが溜まります。「解毒力を高める」という言い方が実際には分かりにくいのは、どちらを速めるかで意味が逆になりうるからです。

    出口についても、同じことが言えます。上流だけ動かして下流が動いていなければ、途中に溜まる。

    では、出口が動いているかをどう確かめるか

    ここが、自分でできる部分です。

    便通について、国際的な診断基準は6項目で見ています。回数はそのうちの1つにすぎず、線引きは「週3回未満」。残りの5つは、いきみ、硬い便、残便感、詰まった感じ、用手的な排便介助です。

    出口の側で、自分で確かめられること
    見るもの 手がかり
    便通 回数だけでなく、いきみ・硬さ・残便感。6項目のうち2つ以上が診断の基準
    食物繊維 目標量は30〜64歳で男性22g・女性18g。実際の摂取量は12.45gと11.5g
    水分 固定の数字ではなく、渇きと尿の色
    お酒 日本人の4割強は処理能力が低い側。処理の順番を占有します

    どれも、特別な道具は要りません。そして、どれも上流ではなく出口の側です。

    上流の側は、材料で決まる

    出口が動いているなら、次は上流です。

    第II相でくっつけるものの正体を辿ると、すべて糖とアミノ酸に行き着きます。グルクロン酸はグルコースから、メチル基はメチオニンから、硫酸は含硫アミノ酸から。特別な物質は一つも出てきません。

    つまり上流の側は、材料を消費する反応です。足りなければ滞る。

    ただし線があります。「特定の栄養素を足せば処理が速くなる」とは、まだ言えません。足りていない状態から足したときと、足りている状態から足したときでは、起きることが違うためです。足すかどうかの前に、足りているかどうか。順番はここでも同じです。

    「出す」は、鍛えるものではない

    「解毒力を上げる」という言い方には、鍛えれば強くなるという含みがあります。

    ここまで見た構造は、そうなっていません。止めたり再開したりする器官ではなく、常時動いている工程です。肝臓は血漿タンパク質を作り続け、腎臓は再吸収を続けています。

    だから断食で「臓器を休ませる」という発想が据わりが悪いのは、休めないからというだけでなく、材料まで一緒に減るからです。

    できるのは、落とさないことと、詰まらせないことです。

    自分の出す側が、いまどうなっているか

    ここまでの話には、まだ空いているところがあります。

    出口が動いているかは、便通と食事から見当がつきます。上流の材料が足りているかは、栄養素によって確かめ方が違います。血液の数値で線が引けるものと、食べている量から見るものがあります。

    ただし、「いま自分の出す側がどうなっているか」を一つの形で見る手段は、一般の医療の中にありません。健康診断の肝機能・腎機能の項目は、いまの機能が落ちていないかを調べるもので、答えている問いが違います。

    RESONA-LABの結果に解毒機能の欄があるのは、そこを見るためです。入れる側だけでは、体に残る量が決まらないからです。

    今日できるのは、出口の側から1つ数えることです。上流の材料を足す前に、そこが動いているかで結果が変わります。

    出口の側で、今週数えられるもの
    見るもの 目安
    便が出た回数 国際基準の線引きは週3回未満
    水分の量 渇きと尿の色で見る。日本に目安量はない
    食物繊維 米・パン・麺・いも・果物が主な供給源

    3つとも、今日から数えられます。材料の話はそのあとです。

    入口と出口の両方については入ってくるものと、出す力に一覧で並べています。

    参考文献・参考資料

    1. Dave HD, Shumway KR, Al Obaidi NM. Physiology, Biliary. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 最終更新 2022年12月15日. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK537107/
    2. Phang-Lyn S, Llerena VA. Biochemistry, Biotransformation. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 最終更新 2023年8月14日. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK544353/
    3. 足立厚子「金属アレルギーの対処法〜全身型金属アレルギーを中心に〜」アレルギー 2020;69(3):169-173. https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/69/3/69_169/_pdf

    本記事は生理学と公的な基準の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の食品・サプリメント・製品・施術の効果を示すものでも、使用を勧めるものでもありません。特定の栄養素の摂取や食事法が生体内変換・排泄の速度を変えるかどうかについて、十分な検証はなされていません。消化器の疾患で治療中の方、食事制限を受けている方は、内容が個別に決められています。この記事の範囲の外です。

  • 主食から入るカドミウムと、どう付き合うか

    主食から入るカドミウムと、どう付き合うか

    日本人が許容量にいちばん近づいている物質は、主食から入ってきます。

    カドミウムの耐容週間摂取量は体重1kgあたり7µg。日本人の実際の摂取量は、平均でその35%、95パーセンタイルで67%です1。20人に1人は、線の3分の2まで来ています。

    そして摂取量の7割以上が、米・小麦・大豆の3品目から来ています1。避けにくい入口です。

    線がどこにあるか

    カドミウムについては、日本に耐容週間摂取量(TWI)が設定されています。食品安全委員会が2008年7月3日に、体重1kgあたり週7µgと定めました1。

    週単位で設定されているのは、体内に蓄積して長い時間残る性質があるためです。食品添加物のように1日単位で見る物質とは、扱い方が違います。

    実際の摂取量は、どのあたりか

    農林水産省は、平成21〜26年度の調査結果として、日本人の食品からのカドミウム摂取量を1日あたり体重1kgにつき0.32µgとしています。週にすると2.24µgです1。

    カドミウムの耐容週間摂取量に対する日本人の摂取量。平均35%、95パーセンタイル67%
    耐容週間摂取量に対する割合1。平均で35%、95パーセンタイルで67%です。

    ここで効いてくるのが、平均だけを見ないことです。

    平均は35%ですが、95パーセンタイルでは67%になります1。摂取量の多いほうから20人に1人は、耐容量の3分の2の位置にいるということです。

    平均に一致する人が目の前にどれだけいるかは、別の話でした。この物質では、その差が実際の距離として表れています。

    他の物質と比べると

    「体に入ってくるもの」とひとまとめにすると、この差が見えなくなります。

    上限の数字に対して、日本人の摂取量はどこにいるか
    物質 上限に対する割合
    カドミウム 平均35%/95パーセンタイル67%
    残留農薬(48農薬等) 0.000〜2.954%
    食品添加物 調査で最も高かったものでADIの17.2%
    PFAS 2024年にTDI設定。実際の摂取量データはこれから
    マイクロプラスチック 上限そのものがない

    カドミウムだけ、桁が違います。不安の総量ではなく、実際の距離で並べると、手を打つ場所の優先順位が変わります。

    入口を選べない

    ここが、この物質の難しいところです。

    農林水産省は、日本人のカドミウム摂取量について米・小麦・大豆の3品目から7割以上と説明しています1。

    特定の嗜好品や加工食品ではありません。主食です。

    カドミウムは日本の土壌に由来するもので、火山国であることや鉱山活動の歴史が背景にあります。「この商品を避ければいい」という構造になっていません。

    国の側では、米のカドミウム濃度に基準値が設けられ、産地での対策も行われています。ただし個人の選択で減らせる幅は、他の物質より狭いことになります。

    ただし、主食のほかにもう1つ、この金属には入口があります。たばこです。

    紙巻たばこ1本に含まれるカドミウムは1.8〜2.8µgで、うち10〜20%が主流煙に吸入されます。20本で2〜4µg。食事から入る量(体重60kgで1日約19µg)の1〜2割にあたります。皮膚科の金属制限食の指導表でも、ニッケルを多く含むものの欄に「タバコ」が挙げられています2。

    そして経路が違います。吸入で入ったものは、肝臓での作り変えを経由せずに全身へ回ります。同じµgでも、扱われ方が同じではありません。

    つまり入口は2つあって、片方は選べません。もう片方は選べます。米・小麦・大豆をやめる選択肢は現実的ではなく、栄養面でも勧められません。減らせる側が、そちらではないということです。

    減るのを待てる時間ではない

    もう1つ、この金属には時間の問題があります。

    食品安全委員会の評価書は、カドミウムは近位尿細管で再吸収されて腎皮質に蓄積し、腎皮質での生物学的半減期は20〜50年と推定されるとしています。体内負荷量の1/3が腎皮質、1/4が肝臓や筋肉に蓄積し、脳・脂肪組織・骨への蓄積は非常に少ないとも書かれています。

    水銀なら、体内の量が半分になるまで約2ヶ月です。この金属は、その時間では動きません。効くのは、これから入る量のほうだけです。

    入口が選べないときに、残るもの

    ここまでを並べると、この物質は次の条件を満たしています。

    上限の数字がある。実際の摂取量も測られている。そして、線までの距離が他より近い。さらに、入口が主食なので選べない。

    この状態で体に残る量を決めているのは、入る量と出る量の差のほうです。

    体の出口は尿と便の2つあります。医学の教科書は、胆汁を「腎臓でろ過または排泄できない、潜在的に有害な脂溶性物質の主要排泄経路」と書いていて、そこへ出されるものとして重金属を名指しで挙げています。

    そしてその前段にある変換は、第I相と第II相の二段階で、第II相ではグルクロン酸や硫酸、アミノ酸をくっつけます。物質名まで分かっている反応です。

    入口を減らせないぶん、出口が働いているかどうかが効いてきます。そして胆汁を介した経路の終点は便で、その通過に関わる食物繊維は、日本人がすでに目標量に届いていない項目でした。

    数えるべきは、不安ではなく距離

    「体に悪いものが入ってくる」という言い方は、どの物質にも同じ重さを与えてしまいます。

    実際には、上限の数字があるものとないもの、実測されているものとされていないもの、そして線まで遠いものと近いものがあります。

    日本人がいちばん近づいているのは、毎日食べている主食から入るものでした。避ける選択肢が乏しいからこそ、出す側の話になります。

    参考文献・参考資料

    1. 農林水産省「我が国における食品からのカドミウムの摂取量」(平成30年10月1日更新) https://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/kome/k_cd/jitai_sesyu/02_int.html 耐容週間摂取量は内閣府食品安全委員会「食品から摂取されるカドミウムの健康影響評価」(2008年7月3日) 評価書(PDF)
    2. 足立厚子「金属アレルギーの対処法〜全身型金属アレルギーを中心に〜」アレルギー 2020;69(3):169-173. https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/69/3/69_169/_pdf

    本記事は公的機関の調査結果の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の食品・産地・製品の優劣を示すものでも、選択を勧めるものでもありません。記載の数値は集団の推計であり、個人の摂取量がそのまま当てはまるわけではありません。食品中のカドミウムには基準値が設けられ、流通品はその範囲で管理されています。

  • お酒の付き合い方を、体質から決める

    お酒の付き合い方を、体質から決める

    日本人の4割強は、アルコールの処理能力が生まれつき低い側にいます。両方の遺伝子が弱いホモ欠損型が1割弱、片方が弱いヘテロ欠損型が3割強です1。

    ヘテロ欠損型の酵素活性は、活性型の約16分の1しかありません1。

    そして重要なのはここです。「鍛えられて飲めるようになった」のは、処理が速くなったからではありません。

    処理の順番と、詰まる場所

    アルコールは、そのまま体から出ていくわけではありません。二段階で作り変えられます。

    アルコールがアセトアルデヒドを経て酢酸になる二段階と、ALDH2の働きが弱いと中間で滞ることを示す図
    アセトアルデヒドは中間の物質です。ALDH2の働きが弱いと、ここで滞ります1。

    アルコール → アセトアルデヒド → 酢酸。この真ん中の物質が、顔の赤み、吐き気、頭痛、眠気を起こします。

    これは体が異物を処理するときの構造と同じです。第I相で反応しやすい形に変え、次の段階で処理する。一段階目だけ進んで二段階目が追いつかないと、中間の物質が溜まります。

    ALDH2が担っているのが、その二段階目です。

    日本人の内訳

    厚生労働省のe-ヘルスネットは、日本・中国・韓国などの東アジアの人では、遺伝子の点突然変異により酵素の働きが弱い人が多くみられると説明しています1。

    ALDH2の型と、日本人での割合
    型 日本人での割合 起きること
    ホモ欠損型(2本とも弱い) 1割弱 少量の飲酒で血中アセトアルデヒド濃度が急激に増加。激しいフラッシング反応(顔面紅潮、嘔気、頭痛、眠気)
    ヘテロ欠損型(1本が弱い) 3割強 活性型の約1/16の酵素活性。フラッシング反応が起こる
    ホモ活性型(2本とも強い) 残り

    地域差もあります。e-ヘルスネットは、日本列島の中心部ほどALDH2欠損の頻度が若干高い傾向があるとしています1。

    「飲めるようになった」は、強くなったのか

    ここが、この記事でいちばん持ち帰ってほしい部分です。

    e-ヘルスネットは、ヘテロ欠損者についてこう書いています。職場やサークルで飲酒を鍛えられて、耐性によりフラッシング反応が弱まり、大酒家になるひとも少なくない1。

    変わったのは反応のほうです。酵素の活性が16分の1であることは変わりません。赤くならなくなっても、アセトアルデヒドが速く処理されるようになったわけではない。

    数字にも表れています。1970年代はアルコール依存症患者の3%がヘテロ欠損者でしたが、現在では13%以上が該当します1。

    そしてe-ヘルスネットは、ALDH2欠損者では飲酒による食道や咽頭の発癌リスクが高まると記しています1。

    不耐性が、遺伝子で決まっている例

    「同じものを口にしても、人によって起きることが違う」。これは感覚の話ではありません。

    ALDH2は、その最もはっきりした例です。処理する酵素の働きが、生まれつき16倍違う。同じ量を飲んでも、体の中に残るアセトアルデヒドの量が違います。

    乳糖不耐症も同じ構造で、大人になってラクターゼを作り続けるかどうかがDNAの一箇所で決まっています。

    そして同じ食品への反応が人によって違う理由には、量、消化吸収、腸内細菌、感じ方という複数の要素があります。ALDH2と乳糖は、そのうち消化吸収の部分がはっきり分かっている例にあたります。

    自分がどちら側かを確かめる

    遺伝子検査でも分かりますが、その前に手がかりがあります。

    飲み始めた頃に、顔が赤くなったかどうか。いま赤くならないかどうかではありません。耐性でフラッシング反応は弱まるので、現在の強さは体質を表しません。

    そしてお酒を飲んだ日の睡眠には、寝つきが早くなる一方でレム睡眠が乱れるという入れ替わりが起きています。カフェインの感受性にも大きな個人差があり、日本が上限の目安を示していない理由がそこにあります。

    処理能力に個人差がある物質は、「一般的な適量」が自分に当てはまるとは限りません。

    入る量より、処理できる量

    同じことが、酵素の側全般に言えます。薬物代謝酵素にも、日本人と欧米人で頻度が大きく違う型があります。CYP2C19の働きが弱い型は、欧米で2〜5%、東アジアで13〜23%です。

    こうした差がどこから来たのかについては、食文化と身体の関係をまとめています。牛乳やデンプンでも、同じ構造が確かめられています。

    この構造は、アルコールだけのものではありません。

    異物の処理も、二段階です。第I相で反応しやすい形にして、第II相で別の分子をくっつけて水に溶かす。そして第I相でできる中間代謝物は、元の物質より反応しやすくなっています。アセトアルデヒドと同じ位置にあるものです。

    だから「処理を速める」という言い方が実際には分かりにくいのは、どちらの段を速めるかで意味が逆になるからです。ALDH2の話は、その構造がいちばんはっきり見える例になっています。

    アルコールについて語られるのは、たいてい「どれだけ飲むか」です。

    ただ、体に残るアセトアルデヒドの量を決めているのは、飲んだ量だけではありません。飲んだ量と、処理できる速さの関係です。同じ量でも、酵素活性が16分の1なら、残る量も残る時間も違います。

    これは入れる側と出す側を一緒に見るという話の、いちばん分かりやすい実例です。入る量だけを数えても、体の中で何が起きるかは決まりません。

    参考文献・参考資料

    1. 厚生労働省 e-ヘルスネット「2型アルデヒド脱水素酵素」 https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/alcohol/ya-007.html

    本記事は公的資料の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の検査・製品の効果を示すものでも、使用を勧めるものでもありません。遺伝子型の頻度は集団の推計であり、個人の型を示すものではありません。飲酒量については、体質にかかわらず少ないほど健康リスクは小さくなります。アルコール依存の状態は、意志や体質の問題ではなく、治療の対象として確立した病態です。